表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/96

ちょっと脱いで


 綺麗だなぁと思わず声に出しかけ、九郎は辛うじて我慢した。


 元々が霧夜麗のファンだっただけに、のめり込むと危ない……自重しなければならない。それに、まだ訊きたいことが残っている。


「その……ファルナス王国の王女様が、なんで魔王と知り合いに?」

「よくぞ、訊いてくださいました」


 なぜか麗は、もの凄く嬉しそうな表情を見せた。

 しかも、いつの間にか腕を組まれている。二の腕の辺りが胸に当たったりして、九郎はにわかに緊張してきた。


「麗――いえ、当時の名はレイフィールでしたが、かつてのファルナス王国は、国境線を接していた二つの大国から攻め込まれたのでございます。わずかな抵抗はまさに鎧袖一触がいしゅういっしょくの有様で撃退され、兵士達は次々と死に、もはや麗も自決する他ないかと思いました。しかし……麗は死ぬ前に最後の手段として、当時、魔界を統一したばかりの魔王陛下に親書を送ったのでございます」


「……それは、援軍要請したってことかな?」

「左様でございます」


 潤んだ碧眼が九郎を見上げた。


「他の人間達と違って、当時から麗は、即位した貴方さまに悪い感情は持っていませんでした。しかし、その感情がはっきりと愛情に変わったのは、この時でございましょう」


 きらきらした碧眼で「愛情に変わった」などと言われると、九郎としては居たたまれない。

 気付いた様子もなく、麗は続ける。


「麗の親書に対し、魔王陛下は最大限の誠意を持って応えてくださいました。まだ魔界内で警戒を要する時期でしたのに、あのお方は我が親書を受け取るなり、すぐに御自ら我が国へ救援に訪れてくださったのです。……その時、我が国は既に王宮が囲まれる事態となっていましたが、魔王陛下自らの奮闘により、賊軍に等しい軍勢は逃げ散りました。転生した今は、記憶もかなり薄れていますが、それでも麗の生涯で、あれほど感動したことはなかったですわ!」


「……もしかして、魔王は一人で救援に来た?」

「その通りです」


 当たり前のようにコクコク頷く麗である。


「当時は魔界もまだ、反乱分子が残っていましたので。……にもかかわらず、魔王陛下は『助けを請う者に、無下むげな返事はできぬ』と仰せで、自ら来てくださったのです!」

「へ、へぇええ」


 聞いていた九郎は……なんというか、通俗的な魔王のイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていく気がした。

 魔王=悪というのは普通の考え方だと思うし、その異世界でもそういう概念はあったようだが……話を聞くと、やっていることは全然違うではないか。


 それはむしろ、勇者の方の役割ではないのか。


 本当なら「はははっ。冗談だよな?」と言いたいところだが、夢見る少女そのものの顔で吐息などつく麗を見ると、とても今の話が捏造だとは思えない。

 あと、胸に片手を当てて吐息などつかれると、思わずドレスの胸元に注目してしまうのでやめて欲しい。


 それは置いて――まず最初に疑うべきは転生の話だろうが、しかしそんな大嘘を、単なる中学生に吹き込むだろうか。

 しかも本人は、大売れ中のスーパーアイドルなのに? よって、これもデマ扱いはしにくいが……一つだけ、可能性は残る。

 つまり、これまでの彼女の態度とファンタジー話は、ろくでもないテレビ局が企画した、一種の「娯楽番組」的なものある、という可能性だ。


 全ては事前に作られたシナリオであり、九郎がすっかり信じ込んだ途端――適当なところでカメラが出てきて、お茶の間の皆さん大爆笑! という寸法である。

(冗談じゃないぞ!)


 マスコミ嫌いの身からすると、いかにもありそうな話に思え、九郎は思わず戦慄した。ヤツらは視聴率のためなら、それくらいやりかねんっ。

 だいたい、大昔には実際にそんな番組もあったと聞く。


「……お疑いでございましょうか?」


 九郎の表情を窺い、麗が哀しそうに言う。

 しかし、九郎は心を鬼にして述べた。


「話は変わるけど、信奉者なら、俺のお願いは聞いてくれるのかな?」

「なんでも仰ってください!」


 勢いよく麗が頷く。

 そこで九郎は、隠しマイクがあっても拾えないような囁き声で、麗の耳元に囁いた。


「ちょっと……脱いで欲しいんだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ