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異世界魔王、日本に転生して侵略者を迎え撃つ  作者: 遠野空
第四章 蘇った魔王、全面対決を決意する
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どちらが本物の麗か?


 知名度というのは、こういう時には有り難いものね。


 ……某スタジオの控え室で時間を待ちつつ、霧夜麗きりや れいは思う。

 しばらく休むと宣言したにもかかわらず、ふいにマネージャーを通じて「不安そうな都民の皆さんを励ますため、歌いたいです」と様子伺いしてみたところ、「ぜひうちで!」と申し出てくる局が引きも切らなかった。


 そのうち、タイミングよく今日この時間に出演可能な番組を持つ局となると、かなり候補が減ってしまったが――都内全域をカバーする、アニメ枠の多い民放局が、辛うじて条件が一致したのである。

 宣伝は全然間に合わなかったのにもかかわらず、ネットの掲示板各所で「アイドル霧夜麗が、都民のために歌う!」というスレが立ちまくったため、緊急出演にもかかわらず、認知度はかなり高い。


 そこで麗も、以前のごとくばっちりフル装備のゴシックドレスで決め、出演を待っているわけだ。

 コルセット装備の薄青いドレスに加え、いつものヘアバンドの代わりに、きらびやかな宝石が散ったヘッドドレスが銀髪を飾っている。


 ドレスの胸元も、以前より少し開放気味で、微かに胸の谷間が見えるほどだが――。

 あいにく、年齢的にまださほど胸のボリュームがないので、せいぜい嫌みにならない程度にしている。


(まあ……そのうち成長する……でしょう)


 少し服の上から胸を触ってみて、麗は自分を慰めた。

 十三歳になったばかりの肉体で、これ以上を望むのは無理だろう。今だって、同年代の少女達よりは、少し大きい方だと思う。


 やがてノックの音がして、女性マネージャーが顔を出した。






「――あらあらっ!」


 化粧台を立った麗を見て、吐息のような声を洩らす。


「今日は……一段と綺麗よ。まるで本物の王女様みたい」


 感嘆の声に、思わず苦笑しかけた麗である。

 かつては――いや今だって、身分的には本当に王女なのだけど。故国においての最終的な身分は、今もかつてと変わらないはず。

 もちろん、そんな思いはおくびにも出さず、にこっと微笑む。


「そうですかぁ? ありがとうございます! 麗、嬉しいですっ」


 いつもの自分とは似ても似つかない、明るい声で礼を述べておいた。

 普段の麗しか知らないユウキなどが聞いたら、「なによ、その寒気のするぶりっこ声はっ」と罵ること、請け合いである。


 アイドルとしての自分は、あくまでわざと作ったイメージだが、別に嫌いではない。

 いや、始めた当初は嫌いだったが、九郎が好んでいるのを知ってから、麗自身も気に入るようになった。

 本物の、至って物静かな方の麗より、九郎が「アイドルの麗の方がいいな」と言うのなら、麗としては、もうずっとこのキャラクターで通してもいいほどだ。


 問題は、どちらが本物の霧夜麗か? などではない。


 重要なのは、そんなことではないのだ。

 九郎が好む方の霧夜麗こそが、本物の……あるべき自分の姿である。


(今度、どちらがお好みか、九郎さまにお尋ねしてみましょう。あと、髪は長い方が好きか、短い方が好きか、そちらもお尋ねしないと)


 麗は心の中のメモ帳に、そっとメモしておく。


「麗ちゃん、そろそろ……?」

「あ、そうですねっ」


 しばし考え込んでいた麗は、慌てて笑顔を取り戻し、頷いた。


「麗、今日もがんばりますねっ!」


 輝く美貌と明るい笑顔を全開にし、麗はマネージャーの後に続いて控え室を出た。


(九郎さま、テレビでご覧になってくださるかしら) 

 


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