あえて迂遠な方法を
唖然として言葉もない二人を無視し、九郎は一人で頷く。
「まあ、実は俺にせよユウキにせよ、普通に飛べたりもするんだが……こういうのは、誰か対策を見つけた人間がやってるように見せた方がいいだろ? 空に浮かんでる謎の男じゃ、みんな怪しむだろうし」
はははっと軽やかに笑う。
「だから、俺がやろうとしていることは、案外このテレビ局にとっては悪いことじゃないかもな。花を持たせるという意味でも」
「なにを言ってるんだ、一体!?」
二人のうち、年嵩の方の警備員が喚き、「とにかく、一緒に」と言いつつ、九郎に手を伸ばしかけた――が。
目を合わせた途端、濁った瞳から感情が抜け落ちた。
「佐々木さん、どうし」
不審に思った若者の方も、九郎の目を見た途端、同じく大人しくなってしまう。
「はい、質問」
ここぞとばかりに九郎は尋ねた。
「ヘリの操縦士はどこにいる?」
若い方は答えなかったが、佐々木と呼ばれた中年の方はぼそりと答えた。
「……交代制で、常に25階に待機しています」
「ありがとう」
微笑して頷く。
「君らは、仕事に戻っていい。俺達二人は、二十五階に用事のあった、重要な客人だった。覚えているのはそれだけ……いいな? 回れ右して、五歩進んだら正気に戻ってよし」
『はい』
二人同時に答えると、これまた同時に綺麗に回れ右して、去った。
そこへちょうどエレベーターが下りてきて開き、九郎とユウキはさっさとケージに乗り込んだ。
「さすがでございます、我が君。イビルアイ(邪眼)を得意とするヴァンパイアですら、ここまで完璧な効果は望めますまい」
二十五階を押すと同時に、ユウキが会心の笑みを洩らす。
「しかし、一つだけご質問があるのですが……」
「俺のやり方が、いささか迂遠ではないか、だろ?」
九郎が悪戯っぽく笑うと、恐縮したようにユウキが低頭した。
「さすがに、ご慧眼ですわ。至らぬユウキを、どうかご指導ください……今後のためにも」
「いや、そんな難しい話じゃないさ。俺はただ――」
思わぬスピードでエレベーターが二十五階に到着し、九郎達はケージを降りた。
フロアの中は想像以上に広く、それぞれパーティションで区切られたデスクや、別室になっている区画もあったが、まだ誰もこちらに気付いていない。
そこで九郎は、ユウキに簡単に説明してやった。
「遥か昔、魔族達にも似たことを言ったが――危機が起こる度に、ごく少数の者達が全てを解決するような世界に、どんな意味がある? ましてや俺は、元々異世界の魔人だしな。手助けは喜んでするが、それ以上は余計なお世話ってもんだと思うね」
「――おや、君達は?」
ようやく二人に気付いたのか、こんどはスーツ姿の男性がこっちを見た。
まだティーンにしか見えない九郎と、やり手のOL風のユウキの二人を見て、奇妙に思うのは当然だろう。
「操縦士は、俺が見つけて連れていく」
九郎はユウキの肩にそっと触れた。
「ユウキは、先にヘリポートへ上がってくれ。マジックボックスから例のリングを出して、ヘリに移しておいてくれると助かる」
「御意にございます!」
一礼して、再びエレベーターケージに戻るユウキを見送った後、九郎は近付いてきた男性に微笑みかけた。
「やあ? ここに、ヘリの操縦士が待機していると聞いたけど?」