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異世界魔王、日本に転生して侵略者を迎え撃つ  作者: 遠野空
第三章 侵略を阻止したい(希望)
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高貴なる薔薇のとげ


 その頃、歯を磨くために洗面所に向かった九郎は――


 隅に置かれた洗濯機の上に、きちんと脱いだ女物スーツ一式を見つけ、「そういやユウキは、狼姿のままで戻ったな」と眠い頭で思い出していた。

 さすがに自室に戻ってから服を忘れたことに気付いたろうが、こういうのは、自分の方から返しに行くべきだろうか……。


 悩みつつ、九郎は衝動に任せて、畳んだスーツをそっと持ち上げて見る。

 ……上着とスカートの間に、きっちりブラとパンティーが挟まっていて、思わず固まってしまった。ちなみに、光沢のあるブラックだった。


(せ、青少年の育成に毒だろうがっ、あの元担任はあっ)


 手に取りたい衝動に駆られたが、さすがにそれはいろいろ駄目すぎる気がして、元に戻しておく。

 なんだかすっかり目が覚めてしまい、首を振りながら歯ブラシを取ろうと手を伸ばした――が。


 ――そこで九郎は、鏡の中に見たこともない男の姿を見つけた。



「――っ!」


 九郎自身の顔とは似ても似つかないし、そもそも黒髪とはいえ洋風の顔立ちだったが……貴族的かつ上品な容貌で、どこか記憶の奥底を刺激された。

 男のくせに長髪でもある。


 そいつは、いつまで経っても消えずに九郎を見つめていたが、やがて口を開いた……九郎の顔を見つめながら。


「そろそろ、暴れる頃合いかもしれぬ……そうは思わぬか、敷島九郎よ?」


   





 ハイランドの潜入兵士達のうち、半数は西から、もう半数は東からマンションに接近し、まずは周囲を確認するということになった。

 そのうち、西を担当した半数が陸橋下の歩道を通過しようとした、その時である。

 この深夜に徒歩で前からやってくる少女を見つけ、先頭を切っていた一人が手を上げた。


「ちょっと速度を落とせ!」


 ……こういう場合、前方から来るのが普通の通行人だった場合、彼らも特に何もしない。

 大事な任務の最中であるし、構っている場合ではないからだ。

 どうせ向こうはこちらの正体など知らないだろうし、この国で言う「ガイジンさん」が、なぜか大勢私服で歩いているのを見ても、怪しみことすれ、通報まではしないはず。


 しかし、今回の相手はどうも、勝手が違ったらしい。

 相手も自分達と同じく異国の民らしく、黒髪ではなく、銀髪なのだ。

 それでも一応、歩道の隅へ避けた彼らを嘲笑うように、彼女はわざわざ歩道の真ん中に立ち止まった。



「今夜は人数が多いですこと。どうやら、余計なことに気付いたらしいですね?」



「誰だっ」


 先頭の……まだ若い一等陸士が荒っぽい口調で尋ねる。

 その間、一等陸士の背後にいる全員がさっと散開し、大勢で相手を囲むような位置に立った。


「霧夜麗と言いますが、覚えなくていいですよ。どうせもう、貴方達はここでおしまいですし」


 長い銀髪を背中の方へうるさそうに払い、彼女は侮蔑を込めて告げる。


「貴様っ」


 一等陸士が激しい口調で罵り、懐に手を入れた。


「注意しろっ、こいつは敵だ!」


 魔導弾を装填した銃を抜いて呼びかけたが、返事がない。


「おい返事を――うっ」


 振り向いた彼は見た……引き連れてきた部下達が、全員ハリネズミのようになって倒れ伏しているのを。一言の悲鳴も聞こえなかったのに、一瞬で事切れていた。

 しかも……いつの間にか周囲を濃い霧が覆い始め、視界まで利かなくなっている!



「ノーブル・ローズ・ソーン《高貴なる薔薇のとげ》と言います……ふふふ……お気に召しました?」



 少女の笑い声が、彼には死神の哄笑のように聞こえた。


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