九郎の決断
やがて、画面がいきなりブラックアウトし、紋切り型の「しばらくお待ちください」という素っ気ないメッセージが出たままになると、九郎はようやく息を吐いた。
知らず知らずのうちに緊迫して見ていたらしい。
内容からして、当然ではあるが。
むしろ、自分でも意外だったが、基本的に冷静ではあった。
「連中の狙いが、だいぶ読めた気がする」
ぽつっと呟くと、すかさず麗が反応した。
「同朋への信頼度の低下、それに政府への不信感を植え付ける、さらにはパニックを煽ること……でしょうか?」
「うん、そんなところかなと。でも多分、俺が気付いてないようなことも、後に控えている気がするけどね」
九郎は上の空で答えた後、一拍置いて明確に宣言した。
「こいつらは、俺達が止めないと。まだ混乱中の政府任せだと、まずい事態になる気がする」
「仰せのままに!」
「ご命令、承りました」
なぜか麗とユウキが同時に答え、九郎は逆に驚いた。
「俺自身にもまだ考えがまとまってないのに、即答かっ」
「九郎さまがご命令を発した以上、臣下の者は従うのが当然ですわ」
麗は至極当然のように言い、ユウキも狼形態のまま頷く。
「癪に障りますが、こればかりは麗の言う通りでございます。我が君が方針を決めた以上、我らに否やはございません。……して、手始めになにかご指示はありますか? 特にないようでしたら、私は独自に敵を探して、各個に殲滅していきますが」
「いや、ちょっ、ちょっと待って!」
今にも、自分の言った行動指針を実行しそうなユウキに、九郎は慌てて手を振った。
まさかとは思うが、彼女は既に辻斬りに等しいテロ行為をやらかしていたヤツを、倒しているのだ。
本気なのは疑い得ない。
「各個撃破もいいけど、効率が悪すぎると思う。せめて、連中の拠点を見つけないとな……どうせ、日本に来てる時点で、どっかに司令部みたいなのがあるだろうし」
ちらっと二人を見たが、これについては即答はなかった。
当然、まだそこまでは――ということだろう。
「時間をかければ、見つけることはできると思いますが」
麗がためらいがちに言う。
「おそらく敵の拠点には、魔力を持つ者が集中しているでしょうから、そこを探せばいいわけです」
そこでなぜか麗は、ちらっと上目遣いで九郎を見た……何かを期待するように。
「問題は、都内のどこかにあると仮定しても、探す範囲が広すぎることでしょうか」
ユウキが悔しそうに補足した。
「それなら、もっと上手い手があるな」
別に自信はなかったが、九郎はためらいがちに言った。
「今度、どこかで連中が騒ぎを起こしたら、俺達が出向いて敵をとっ捕まえるんだ。拠点の場所はそいつに訊けばいい」
「よきお考えかと思います、九郎さま。さすがですわ!」
両手を合わせて、麗が讃美するように褒め讃える。
「どうせ麗も、それくらいは思いついただろうに」
さっきの謎の視線を思い出し、九郎は苦笑した。
この子はどうも、徹底して九郎に花を持たせようとしている節がある。
「いえ……まさか」
否定はしたものの、その表情を見て九郎は自分の推測が正しかったのを悟った。
ユウキは嫉妬したような目つきで麗を睨んでいたが……とにかく、当面の方針は決まった。
しかし……九郎達三名も、まさか敵の方から彼らに迫りつつあるとは、まだこの時点では思ってもいなかった。