女教師から女子高生バージョンにチェンジ
マンション十五階の自分の部屋に戻ると、ドアの前で誰かがうろうろしていた。
「おろ?」
九郎の見たところ、濃紺のブレザーが目立つ制服姿の少女――だと思ったのだが、なんとよくよく確認すれば、ユウキその人である。
スーツ姿はやめたらしい。
ユウキは……まだ九郎が確認している間にこちらに気付き、それこそダッシュですっ飛んできた。
「ご無事でしたか、我が君!」
「わっ」
まさか抱きついてくるとは思わず、九郎は不覚にも、よろけそうになってしまった。
だいたい、見た目からして九郎の身長と遜色ないのに、いきなり胸に飛び込んでくるとビビる。豪勢な感触を確かめるどころではない。
まあどのみち、ちゃんと抱き留める前に、麗があっさりユウキを引き離した。
「無礼なっ。離れなさい!」
「なにするのっ」
「抱きつく前に、九郎さまに謝罪することがあるんじゃないかしら!?」
「……くっ。おまえには関係ないでしょっ」
「あるに決まってるわ!」
「ま、まあまあっ」
想像以上に仲が悪いらしい二人に驚き、九郎は慌てて間に入った。
下手をすると、今にもとっくみあいになりそうに見えたほどだ。
「味方同士でいがみ合いはやめよう……他の住人にも聞こえるし」
そこで、なぜかユウキが眉をひそめて麗を見た。
「まだ、ご説明してないの?」
「今します!」
ぴしゃりと言ってのけ、麗は九郎に向き直って低頭した。
「九郎さま、このマンションの十五階フロアは、全て麗が買い取っていますわ。既に元の住人達には穏便に出て行ってもらいましたし、少々騒いでもどこへも聞こえません」
「ちなみに下の十四階は、麗の姑息な行動に気付いたユウキが、急いで買い取りましたっ」
口々に報告する二人に、九郎は唖然となった。
……君らはアレか? 日本版のトランプか?
「なんでそんなに金もってんだ……二人とも」
途端に、二人は同時に口を開いたが、九郎は慌てて手を振った。
「いやっ、聞きたくない。なぜか、俺は詳細を知らない方がいいような気がするっ。なんでもいいから、とにかく部屋へっ」
ごまかすように大声を出し、九郎は二人を引き連れて部屋へ戻った。
リビングに三人揃ったところで、麗とユウキが険悪そうに睨み合っているのは変わらない。
喧嘩を始めないように、九郎はソファーに座るなり尋ねた。
「いろいろと事情を訊く前にだ……ユウキ、その格好はなに? 女子高生に化けたのか?」
「ば、化けたのではなくっ。私はもう、女子高生として過ごすつもりです、我が君」
ユウキは熱心に身を乗り出した。
ちなみに右側に麗が座り、左側にユウキが座っていて、二人揃ってぴったりくっついている。
一方は、妖精にも似た可憐な肢体の麗で、もう一方はコーラの瓶みたいに完成されたスタイルのユウキである。
九郎としては頭がくらくらする思いだが、ここで鼻の下を伸ばしているわけにもいかない。
「でも、学校の方はどうするんだ?」
「あの学校のことなら、どのみち無期限休校となりました」
「えーーっ」
思わず声を上げたものの……言われてみれば、事なかれ主義の教師達なら、そういう判断を下しても不思議はないかもしれない。
学校内でテロリストが暴れたりすると、責任のとりようもあるまい。
「なるほど……ならそちらはユウキの自由として、新宿であの騒ぎを起こしてた理由は?」
「それは――」
途端に、項垂れるユウキである。
自分でも、まずいことをやった自覚はあるらしい……有り難いことに。