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異世界魔王、日本に転生して侵略者を迎え撃つ  作者: 遠野空
第三章 侵略を阻止したい(希望)
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水着イベントの誘惑


 公園で二人して存分に気恥ずかしい思いを味わった後、九郎と麗は一旦、家に戻ることにした――のだが。


 途中、量販店のショーウィンドウ前で麗が立ち止まり、「ああっ」となにやら責めるような声を上げた。

 身に覚えはないものの、なんとなく九郎が緊張すると、麗がウィンドウの中の商品――つまり大画面テレビを指差し、「ご覧下さい、九郎さま」と不満そうに言った。


 見た瞬間、九郎は確信を持って「素人動画だなあ」と呟いてしまった。


 なにしろ、映っていたのが車道を逆走する巨大な犬……または狼モドキである。

 おまけにそいつが、金髪の誰かを前足でぶちのめして殺してしまう場面なのだ。YouTubeにあるような、フェイク動画に決まっている。


 だいたい映像がブレブレで、見にくくて仕方ないではないか。





「ユウキのばか……新宿くんだりまで、なにしに出たの」

「は? ユウキ!?」


 ここで、さすがの九郎も嫌な予感がした。

 その上、画面の中で場面が切り替わり、ニュースキャスターが出てくるにつけ、ようやく「もしかして、本物の映像かっ」と疑い始めた。


「その名前っ。まさか、学校の結城先生……いや、元結城先生じゃないよな? 実は、ユウキという名のファミリアだと聞いてはいるけど」

「……申し上げにくいことですが、ところがアレは真実、そのユウキなのです」


 気の毒そうというか、「あいつ、殺しませんか!」とでも言いたそうな顔で、麗は教えてくれた。


「あの女は、ああいう獣にも変化できるということです……もちろん、我が君がお与えになった力なのですけど」

「お、俺かあっ」


 さっきまで他人事全開で、「うわ、なんだこの素人丸出しのインチキ動画っ」とか思っていたばかりである。

 九郎も、そこで自分の名前が出てくるとは思わなかった。

 まあ、ユウキ自身も自分の主人は九郎だとほのめかしていたが。


「そう聞くと、急に今の殺人動画に責任感じたりして……いや、よくよく考えたら、撥ね飛ばされてるのは敵のような気がするけど」

「テロリスト扱いされている敵ですね」


 麗も頷いた。


「当然、九郎さまに責任などありませんが……今、ご自宅に戻ると、あの女も戻っているかもしれません」


 麗が実に嫌そうな顔で言った。

 その後で、名案を思いついたようにぱっと顔を輝かせた。


「この際、二人で遠くへ避難しますか?」

「避難!? まさか、麗と?」

「はい、ええ……はいっ」


 麗は感激したように何度も頷く。


「幸い、麗は用心のために、都内に何軒か隠れ家を持っています。場所をお教えしますから、九郎さまのお気に召す隠れ家をお選びください。プールのある広い隠れ家もございますよ。もちろん、二人きりですわ」


 さりげなく腕を絡めてきた麗が、そんなことを囁く。

 なんという甘美な申し出だろうかっ。

 九郎は一瞬にして、水着姿の彼女と戯れる自分を想像してしまったが……さすがに二つ返事で頷くのは堪えた。


「いや……有り難い話だけど、まず帰宅しよう。どういう事情だったのか、先生――いや、ユウキに尋ねないと。放り出して逃げた後、あの姿で暴走されたらたまらんし」

「既に暴走していますが……そうですか、では後日の機会に」


 諦めきれない様子で、麗がため息をつく。

 画面の中で繰り返される録画映像を、恨めしそうに睨んでいた。


「帰宅してかち合っても、喧嘩しちゃ駄目だぜ?」


 九郎は思わず、麗に念押しをした。

 ……あの体躯だから、巨大狼に麗が勝てるとは思えないのが普通だが、なぜか九郎は、そうとも限らない気がしている。

 今や、この子も相当な実力を持つ戦士だと確信していた。


 だがいずれにしても、自分の味方二人が殺し合うところなど、見たくないに決まっている。


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