雑居ビルに集う者達
都内、山手線の駅前に建つそのビルは、一見、普通の雑居ビルに見える。
事実、そこら中にあるその手のビルと同じく、壁にはサラ金の看板があり、窓には聞いたこともない社名が書かれていたりして、人目を引くようなところは皆無である。
おかしなところといえば、一階部分は全てシャッターが降りていて、唯一の入り口以外は、どこからも人が入れないところだろうか。
その最上階の七階広間で、一人の少女……に見える女性が、十数名を前に報告を聞いていた。
着ている服は女性用の青いスーツだが、見た目が金髪碧眼であり、日本人ではないとわかる。
それどころか、実はここに集う男女は、全員が日本人などではなかった。
フォートランドと呼ばれる異世界の大陸からやってきた、いわば侵略者なのである。
「――以上のように、作戦の第一段階は極めて順調に推移しています。この分なら、遠からず次の段階に移れるでしょう」
こちらもスーツ姿の男性が一人だけ集団の前に出て、畏まった口調で報告を終えた。
カーテンは全て閉めきられている上に、明かりも最低限しか灯されていない。従って、部屋の中は薄暗かったが、空調は十分効いている。
にも関わらず、報告している厳つい顔の男性は、額に汗をかいていた。
誰の目にも、眼前の女性に怯えきっているように見えた。
「なるほど」
その女性――部下達には「ナナキ将軍」と呼ばれる彼女は、ゆっくりと頷いた。
「順調だと言うのなら、ポゼッションの後に作戦を遂行した兵士達も、当然、全員が健在なのでしょうね、ゲイツ陸士長?」
「は……いえ。一人……いえ、三名ほど、未だ成功報告がありませんが、おそらくなんらかの事情で報告が遅れているものかと」
しどろもどろで言いかけたゲイツと呼ばれた男を、ナナキはあっさり遮った。
「貴方はどうやら、敵国の情報を収集するという手段を、一つも思いつかないらしい。少し考えれば、幾らでもあるでしょうに」
むしろ穏やかとも言える声だったのに、ごつい身体をしたゲイツはびくっと肩を震わせた。
「貴方が指摘した『報告のない三名』は、おそらくもう死んでいます。私が、この国のニュースを録画していますから、ご覧なさい」
手に持っていたテレビのリモコンを、壁際に向けた。
そこに掛けられた大画面テレビが明るくなり、録画のニュースが流れ始めた。
いきなり、デスクに座ったニュースキャスターが興奮気味に述べた。
『先程から何度も申し上げているように、都内同時多発テロの犠牲者は、増える一方です。現状、捕らえられた犯人は一人もいませんが、テロリストと思われる犯人達のうち、三名の死亡が確認されています! そのうち一人はつい先程、地下鉄の駅構内で、無残にも肉体に激しい損傷を負って倒れているのが見つかりましたが――』
そこでキャスターは、臨場感たっぷりに一拍置いた。
『ご覧下さい、これは新宿で偶然撮られた映像ですが、信じ難いものが映っています』
途端に画面が切り替わり、広間に集う彼らですら、驚きに息を呑む光景が映った。