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お目汚しでございました


「よくわかったよ。危ないし、そろそろ降りよう」


 手を差し伸べると、麗は切れ長の目を細めてはにかんだように微笑んだ。


「ご心配を頂き、ありがとうございます。では……これを最後に」


 言下に、ふわっと麗が跳んだ。


「うわっ」


 九郎はたまらず声を上げたが、華麗に舞い上がった彼女は美しいフォームで一回転し、数センチしかない足場の上にふわりと降り立つ。

 オリンピックの体操選手でも、なかなかこうはいかない気がする。


「お目汚しでございました」


 ようやく満足したのか、九郎の手を取ってブリッジの上に降りてきた。


「おおっ!?」


 最後に一礼して、まだ握っていた九郎のてのひらに軽く口付けなどしてくれた……やることにいちいち意表をつかれ、驚いてしまう。


「どうして――」


 手を離すのが惜しくなり、九郎は掠れた声で尋ねた。


「引退宣言なんか?」

「引退というか……ただ、今後は少しお仕事を控えるという会見でしたのに」


 小首を傾げ、麗が苦笑する。


「なぜかテレビの方達が、あのような発表を」

「ああ、なるほど」


 そういえば、『――引退宣言か?』っという書き方であり、キャプションはあくまで疑問系だったな気もする。


「でもまあ、引退と受け止められても仕方ないと思う。なんでまた?」

「もちろん、今後は九郎さまの護衛に集中するからでございます」


 麗は――おわかりになりませんの? とでも言いたそうな拗ねた顔を見せた。


「それでなくても、最近はお住まいの周囲をうろつくやからが絶えません。もはや、のんびりアイドル活動などしている場合ではありませんし」

「いやでもっ」


 それはもったいなさすぎるっと九郎が言いかけた途端、麗はすかさず先を続けた。


「それに、元々麗がアイドル活動を始めたのは、今の九郎さまに、麗のことを受け入れて頂けるかどうか、自信がなかったからです。……でも、昨日お会いしたことで、麗は吹っ切れました。余計なことを考えず、これまで通り、陰ながらお仕えするのみでございます」


 一気に語った後、なぜかもじもじと九郎を見上げた。

 長いまつげが少し震えていた。


「それくらいは……構いませんわよね? それとも、九郎さまは麗を遠ざけるおつもりでしょうか?」

「本気で言ってるのかな、それ? ファンだったんだから、嫌いなわけないだろうに」


 まだ手を握ったままなのに気付き、九郎は鉄の意志で手を離した。

 少し哀しそうな顔をされたが、自分の理性に自信が持てない以上、自制は必要だ。

 俺のことだから、調子に乗ってとことん行く恐れがある!

 だいたい今だって、隙あらば、この子の胸やらお尻やら見ているていたらくなのだ。服を着てても、妖精じみた肢体に惹かれ、つい見てしまうのである。


 下半身なんか、長い両足の九割は全開で見えているわけで……驚くほど真っ白な肌で、下手すると目を逸らすのに、相応の気力がいるほどだ。


 ピンク色の霧を晴らすつもりで、九郎は首を振った。




「その……敵がうろついている話は、あのユウキからも聞いたけど、俺自身は気付いたことないんだよなぁ」


 ごまかすつもりでそう述べた途端、麗がはっきりと顔をしかめた。


「あの女……もう九郎さまの変化に気付きましたか」


 声が1オクターブほど下がった気がして、九郎は目を瞬いた。


「あ~……ユウキは嫌い?」

「正直に申し上げる無礼を、どうかお許しください」


 わざわざ断りを入れ、麗は静かに答えた。


「あまり仲良くしたいとは思えません。むしろ、九郎さまのファミリアだと知らなければ、とうに麗自身の手で殺していたことでしょう」


 その言い方を聞いて、九郎はユウキの時と同じく戦慄した。

 こいつら、仲が悪すぎだろっ。

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