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アイドル活動は控えます(引退宣言?)


 結城先生……いや、ユウキと九郎の面談は、結論として「さらに警戒して様子を見ましょう」というところに落ち着いた。


 ユウキはファミリアという立場のせいか、基本的には九郎の意見を実行するのが自分の役目と考えている節がある。

 その肝心の九郎が現状維持を望むのだから、結論がそうなるのは当然だったかもしれない。

 そういう意味ではあの霧夜麗もやや似ていて、「軍師役というポジションは、必要不可欠なのだなぁ」と、九郎は痛感した。

 今の自分に必要なのは、まさに孔明のごとく、ばしっと的確な助言を与えてくれる存在ではなかろうか?


 まさか、中三にしてそんなことをしみじみ考えるとは、我ながら思いもしなかったが。

 前世の魔王は、一人で一切合切を決めて突き進むタイプだったらしく、その意味では確かに英雄だったのだろう。

 ……今の自分からすれば、信じ難い話だけど。


 ちなみに、昨日今日と二日にわたって人生三回分くらいの衝撃に見舞われた九郎は、もはや真面目に授業受ける気も失せて、面談の後で速攻で早退している。

 すぐに帰る気にもなれず、今は秋葉原の駅付近をうろうろしている最中だった。




 気付けば時刻は昼前に近く、「ひとまず、メシでも食って落ち着くかー」と思い、秋葉原UDX(複合オフィスビル)の方へ向かうアキバブリッジ(歩行者デッキ)のエスカレーターに乗った。

 上がりきったその向こうにはUDXのビルがあり、あそこのレストラン街へ行くつもりだった――が。ちょうど、九郎が今歩いているアキバブリッジから、UDXビルの南側に設置された540インチの通称UDXビジョンと呼ばれる大画面が見える。


 通常そこでは、イベントの告知やCMなどを流しているのだが……タイミングよくと言うべきか、ちょうど霧夜麗きりや れいが大写しになっていた。


 これは特に珍しいことではなく、彼女は新曲を発表する度に、あのUDXビジョンで、ジャンジャン告知CMやら歌う姿を流されている。





「……おっ」


 またしても新曲かな、と思って九郎も立ち止まったが、どうも様子がおかしい。

 だいたい平日の昼間だというのに、周囲にかなりの人だかりがあり、みんな食い入るようにして大画面を見上げている。


「なんだなんだなんだっ」


 九郎自身も画面に注目して、ようやく異常に気付いた。

 あれは、単なる新曲の告知などではない……全然違う。

 画面下出ている、真っ赤なキャプションに曰く。



「売れっ子アイドル霧夜麗、突然の引退宣言か!?」



「げっ」


 思わず声が洩れたが、さらに驚いたことに、画面の中に集まる記者連中からどよめきが起こり、

霧夜麗本人がしつらえた壇上に上がった。

 なにかのイベントの後なのか前なのか……ビスチェに近い上衣と、ひらひらの純白スカート姿であり、衣装全体に薔薇の花びらが散る模様があった。


 いつもと違うおもむきの衣装だが、間違いなく彼女本人である。





「皆様、お集まり頂きまして、ありがとうございます」


 マイクを持ってお辞儀をする姿に、いつもの「作られた明るいアイドルキャラ」は、すっかり消えている。

 もはや九郎の知る、しっとりと落ち着いた、本来の彼女の物腰になっていた。


「これまでの皆さんの応援には感謝しておりますわ。……でも、麗は思うところあって、今後はアイドル活動は控えようと――」


 そこまで話した途端、たちまちにして周囲の記者が質問の雨を降らせ、もはや麗がなにを言おうと、聞こえなくなっていた。

 場所柄もあるだろうが、九郎の周囲ですら呻き声や悲壮な声が次々に起こり、若干十三歳のアイドルがいかに人気者だったかが窺えた。


(どういうことだ!? なんで急に引退?)


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