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担任から駆け落ちの提案

「い、今更、中坊になった俺を見つけたって、しょうがないと思うけど?」


 九郎は辛うじて反論したが、ユウキは激しく首を振った。


「この世界では未だ夢物語とされているようですが、フォートランド世界では転生は時折見られる現象です。そして、転生した者の中には、前世の記憶と技能を引き継ぐケースもあります。英雄となると、さらにその可能性は跳ね上がります。さすがに、我が君のように異世界に転生したという事例は聞いたことがございませんが、敵が警戒しても当然でございましょう」


「仮に、ユウキの言うことが全て正しいとして」


 ようやく九郎も深刻になってきて、声を低めた。


「向こうの世界の敵とやらは、俺を見つけたらどうするつもりだ? 殺すわけか?」

「殺そうと試みるのは間違いないかと……ただその」


 実に言いにくそうにユウキは口ごもった。

 しかも、どうもまだ言い足りないような様子なのだ。


「もう思い切って、全部教えてくれ。死ぬより悪いことがあるとは思えないけど、自分のことだから、聞いておきたい」

「わかりました……我が君がそう仰せなら」


 ユウキは居住まいを正し、ひそひそと説明してくれた。


「帝国の皇帝を僭称せんしょうするバルバロスという男は、我が君の威光も実力も知らない世代だけに、不埒ふらちにも、次のように公言しています。『万一、魔王ヴェルゲンの転生者を見つけようものなら、裸に剥いて四肢を切断した上、たっぷり時間をかけて嬲り殺しにする』と」





「――っ!」


 口をぱくぱくさせるだけで、九郎はろくに言葉すら出てこなかった。

 なんだその、度を超えた拷問っ。とてもじゃないが、文明人のやることとは思えんっ。

 あと、裸に剥かれるのがめちゃくちゃ嫌だっ。なんで裸にするのか!


「じょ、冗談じゃないぞっ」


 なまじ、ユウキが本気で心配そうな表情なだけに、余計に心臓に悪い。


「とてつもなく、逃げたくなってきたっ」


 自分のファミリアの前で言うことではないが、思わず九郎は泣き言を洩らした。


「そのうち、我が君の記憶が戻り、連中などは羽虫のように叩きつぶせるはずですわっ」


 焦った様子で、ユウキが慰めてくれた。


「仮にすぐに記憶が戻らずとも、このユウキがおりますっ」


 豊かな胸に手を当て、身を乗り出す。


「我が君を守るために、死力を尽くしますから」 


 宣言した後で、ふと思いついたように付け足した。


「もちろん、我が君がどうしても一時撤退したいと仰せなら、使い魔たる私に否やはありません。ええ、当然ですね」


 ふいに早口になった後、なぜか上目遣いの目で囁く。


「……ふ、二人でどこか遠くへ避難されますか? 私はどこまでもついていきます」


「えっ」


 仮にも、一時間前まで担任の先生だった女性に駆け落ち的なことを持ち出され、九郎は一時的に恐怖心が吹っ飛んだ。

 しかも、顔を見れば彼女が本気だとよくわかるのだ。


「いや、しかし本当に俺がかつて魔王だったなら、一時的な撤退とはいえ、コソコソ逃げるのもちょっと」


 実際に捕まってザクザク刻まれたら、とてもそんな風には思えないだろうが、九郎にもプライドはある。そのプライドがついそう言わせてしまった。


「そう……ですか」


 そう仰るだろうと思っていました、と言わんばかりの顔でため息をつき、ユウキは頷いた。


「では、これまで以上に警備を厳重にして、様子をみましょう」


 ようやく、少し笑みを見せた。


「幸い、私の部屋は我が君の部屋の真下ですから、いつでも駆けつけられますし」

「はあっ!?」


 あんた、うちの下に住んでたのかっ。

 九郎は驚愕したが、ユウキはまるで気付かず、やや嬉しそうに続けた。


「そうだっ。我が君がお許しなら、同じ部屋にお邪魔させて頂ければ! 昔のように、我が君のお世話がしとうございます」

「い、いや、ちょっと待って」


 九郎はたじたじとなって手を上げた。

 とりあえず、のしかかる勢いで迫るのをやめてくれっ。



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