他人事ではない
「しかし、ファンタジー世界の武器で、現代の兵器に勝てるものですか? じゃなくて、勝てるのかな?」
「向こうの方が劣っているとは、残念ながら言えませんね」
ユウキは明確に首を振った。
「逆に向こうには、こちらの世界には存在しないような兵器もあります。たとえば、魔導の術で空を飛べる、巨大戦艦とか」
九郎が口を半開きにしたのに気付き、ユウキはより詳しく教えてくれた。
「フォートランドの人間世界は、魔法と機械文明が融合した形に進化しつつありますし、それに、向こうの世界とこの世界とでは、共通項も多いのです。だからこそ、異世界転移などという術が発見されたのでしょうけれど。全面的に似ているとは言いませんが、たとえばフォートランド大陸の南方には、かつての日本の、戦国時代のような歴史を経た国もあります。事実、そこの国名自体が『日の本』と言いますし。他にも、この世界の国と似た歴史を辿った国が、幾つかありましたね」
「うわぁ」
九郎は思わず唸った。
「戦国時代の武将やら、FFに出てくる空中戦艦やらが存在する世界って、ちょっと想像できないな」
「いえっ。今の日の本は、確かに武家が政権をとっていますが、でもさすがに国自体は近代化されていますよ」
いや、武門が政権握ってる時点で、もはや想像の範疇を超えている。
言ってみればそれは、徳川幕府が存続したような世界ではないか。
「まあ、日の本は小国ですし、中立でもあります。今回の話とはあまり関係ありません」
脱線することを嫌ったのか、ユウキが素早く話を戻した。
「一番の問題は、大陸内で数カ国を併呑して、破竹の勢いで領土を広げつつある、ハイランドという名の帝国です。かの国は魔族とも年中争っていまして……ここ数年、魔界は敗北続きです」
ファミリアの立場でも悔しいものなのか、ユウキは無念そうに述べた。
「しかも、彼らがこの世界の存在に気付いたのは魔族の次に早く、最近は驚くほど大勢の間諜――つまり、帝国のスパイが各国に潜り込んでいるようです。魔界からの情報ですが、実際はもっと事態は深刻かもしれません。……というのも」
そこでなぜか、ユウキは九郎をじっと見つめた。
「……一度ならず、我が君のマンションのそばを通りかかった、ルーンマスター……つまり、魔法使いを見かけました。彼らもまた、帝国の関係者の気が致します」
「はあっ!?」
俺には関係ないなぁ的な、ある意味で英語版のBBCニュースを見るような話題だったはずなのに、いきなり話が身近になり、九郎は仰け反りそうになった。
「失礼致しました、今のは説明不足でしたね」
驚く九郎を見て、ユウキが慌てて補足した。
「私は、元々が我が君によって創造された魔法生物なので、魔力の高い者は容易に見つけられるのです。ですから、ルーンマスターだと判別がついたのですわ」
「いや、俺が驚いたのはそこじゃなくてっ!」
確かに、よく考えればそこも疑問に思ったかもしれないが、九郎からすれば「より大きな問題があるだろっ」と思うのだ。
つまり――
「そ、そいつらがうちの近所をうろうろしてたって……偶然……なのかな? たまたま、あの辺の駅近物件に住んでました、みたいな?」
「いえ、まさか!」
無情にも、ユウキはあっさり断言してくれた。
「帝国からこの世界に侵入した者達が、なぜかたまたま、我が君のお住まいの近所を行き来したなんて、そのような偶然、私は全く信じません」
一拍置き、微かに身を乗り出した。
「敵は、もはや我が君の存在を察知したのかもしれません。仮にまだそこまでの確信がなくとも、少なくとも気付きかけている……私はそう見ています」
九郎は今度こそ、声もなくユウキを見返した。
気のせいかもしれないが――心配そうに見つめるユウキの瞳が、 明日には売られる予定の食用牛を見るような目つきに見えた。