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崩壊

 「レイナ...?」


—ちょっと前まで元気だった人間が生きている様子もなく、倒れていた—



爆発音と銃声がより近くに聞こえてきた。

目の前の光景に思考が追い付かない。それでも体は半ば反射的に行動を開始した。

最小限の荷物だけ素早く回収して走り出す。まるでそこに残したものは、人は、いないかのように。コハクが何か言っている気がしたが聞こえない。頭が回らない。

とにかく走った。戦いから、命のやり取りから逃げるために。先ほどの現実から逃げるように。



自分がどこにいるかわからない。

とにかく逃げ回って、ようやく安全なところまで来たんだろう。記憶がそこだけすっぽり抜けたみたいだ。わからない。何からどのようにどこへどのくらいの時間をかけて逃げたのか。なぜあそこで戦いが起こったのか、なぜあそこまで冷酷に見捨てたのか、なぜ、なぜレイナは、


—死んでいたのか―


あぁ、少し考えればわかるじゃないか。俺たちは情報の選択と行動を誤って最前線のすぐ近くまで行ってしまって、そこでレイナは死んだ。それだけじゃないか。今までだって何回かあっただろう。選択を誤って、顔なじみのやつを放って行ったことぐらい。なのに、なのになぜ今回はこんなに嫌な気分なんだ。なんでここまで思考が回らない。すべてを失ったかのように何もしようとできない。なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで。あぁ、くそ。なんでレイナは倒れていた。なんで俺は。俺はレイナを、あれだけ簡単に見捨てた。...正しい判断だからだ。自分が生き残るためにはあれが最適だった。あぁ、なのに、なんでこんなになんというか、しっくりこない。こんなに心が虚ろなんだ。


「なぁレン」

あぁ、コハク、いたのか。まるで気付かなかった。だめだ。思考どころか感覚も鈍って視野も狭い。

「おい、レン!」

「なんだ!コハク!」

思った以上に大きな声が出た。イライラする。何に対してかわからないイライラが急にせりあがってくる。

「ぼっとするなよ。これからを考えなくちゃいけない」

聞いた瞬間コハクの胸倉をつかみあげていた。

「おまえ...!」

「やめろよ。レンまで冷静さを失わないでくれ。頼むから...!でないとあれがどんどん現実味を帯びてくるじゃないか...!」

泣きそうな顔をしていた。コハクが、普段とは全く違う顔をしていた。胸倉をつかんでいた手から力が抜ける

「なんだよ。それは、こっちが言いてぇよ...!」

「なんだよ、レンもかよ...」

この時、急に、改めて、認識した。レイナは、死んだんだ。

重い、重い沈黙がおりてきた。


どれだけ時間がたっただろう。唐突にコハクが言った

「なぁ、レン。俺、ここまで大切なのを目の前で失くしたのは初めてだ...」

その言葉で俺は理解した。


あ、そうか俺は生まれて初めて大切な人を、家族を目の前で亡くしたんだ。


だからこんなにやり切れないのか。初めて大切な人を失って、しかもよりにもよって殺されたんだ。何も関係ない戦いに巻き込まれて殺されたんだ。


よくわからない、暗い、冷たい感情が込み上げてきた。

「なぁコハク」

「なんだ」

「物語の主人公なんかがさ、親友や親の仇で戦いに身を置くのが俺は理解できない。死んだ人間の仇をとっても生き返るわけでもなく、自分だって死ぬかもしれないのに、生きているのに死んだ人間のためにすべてを投げうつとか、死ぬのは怖くないとか馬鹿じゃないのかって」

「...」

「でもさ、どうやら俺はその馬鹿な主人公のようにならないわけにはいかないらしい。どうも俺の世界はついさっき滅んだみたいだ。だから、復讐のために戦わざるをえないらしい」

自分のとは思えない、低く、暗い声だった。でも自然と躊躇なく出てきた言葉だ。

「おいレン、どうやら俺もその口らしい」

「はは、そうか。じゃあ一緒にやるか」

「ああ」




こうして俺たちは今まで興味もなかった現実とやらと戦うと決めた。

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