戦線の影 -1-
今日も三人で食料探し...ではなく情報集めをしていた。今の寝床に行きついて早一か月半。早い時ならばもう戦線が移動してもいいころだ。もちろん自分たちとは逆方向に移動している可能性もあるのでそこも含めて情報を集める必要がある。自分たちとは逆に戦線が移動していてもまたすぐにこちらに移動する可能性も高い。でなきゃこんなに長くここが激戦地であり続けるはずがない。でも戦況がころころ変わるからと言って情報集めをおろそかにできるはずもない。しっかりと戦線を見極めてできるだけ安全な寝床を確保しなければならない。かといってがむしゃらに聞いて回っても情報は得られない。そもそもここの奴らはみんな俺らと同じで戦いから逃げてきたやつらなのだ。だから俺たちはしかるべき人物を訪ねる。
「よー、おっさん情報はなんか入ったかー?」
コハクが偉そうに尋ねているのは、まぁ申し訳ないがおっさんというのが一番正しいだろう中年の男だ。名前や経歴は知らないが持っている情報はどういうわけかかなり正確だ。おまけにほかの情報屋が値段を吹っかけてくるのに対してこのおっさんは良心的だ。そんなわけで俺たちはかなりの頻度でこの男のもとを訪れる。
「おいおい少年、こちとら年上なうえに情報まで売ってやるんだ。ちっとは敬意を持ったらどうだ。」
「ただでもらうならまだしも金は払うんだ。敬意を払う必要はないね。」
「コハク...それでそれでほんとに情報くれなくて困るのはこっちなんだからほどほどにしてくれよ...」
「うっせ。レンは気を使いすぎなんだよ。」
「はいはいケンカしないー。で、おじさん、何かありませんか。」
レイナが完璧に営業だろうという声と表情で聞く。
「おぉー。やっぱレイナちゃんはいい子だなー。かわいいし三人の中で一番しっかりしてる。」
「「アホいえ」」
二人同時につぶやいた。
「いやーレイナちゃんはほんと美人さんだし、こんなところにいるのがもったいないね!」
「おいジジイ。ロリコン発言はそこまでにしていいかげん情報はないのか。」
「んだとコハク、俺は父親的目線で言ってるだけでけしてそういう目で見てるわけじゃないぞ。」
「どうだか」
「レンまでそんなこと言うか⁉」
「ねぇおじさん、そんなことより情報。」
「おー。レイナちゃんの頼みならしょうがない。...そうだな少し前まで停滞していたがそのあと北に激戦区が移動してそこからまた西へ押し戻されたそうだ。」
「なら南東方向へ向かって戦線と入れ違いになるのがベストか。」
「うーんとりあえずはこのあたりにいてもいいと思うが、すぐに動く準備はしとくべきだな。」
「今回はそんなに撤退が遅いのか?」
「国のプライドというやつだ。厳しくても早々に撤退するわけにはいかん。」
「ふーん。じゃあ今回はやばくなったら南方向でいいのか?」
「断定はできんがな。最終的には自分らで決めるんだな。」
「そうか、じゃまたどこかで会えたら。」
「おい待ていくらなんでもただで情報をくれてやるわけがないだろう。」
「レイナの顔見れたんだ感謝しろよロリコン。」
「だからそんなのじゃねぇっつてるだろうが!おいレン!お前はなんだかんだこういうのは払うよな!」
「レイナの顔見れたんだからいいんじゃないんですか。」
「お前もか!」
叫びながらおっさんはレイナのほうを見る。するとレイナも
「えーおじさん負けてくれないの?」
...完璧な甘え声だよ。おい。
「な...!レイナちゃんまでそんなこと言うのか!おいお前ら!レイナちゃんにどんな教育してやがる!」
「どんなも何もこいつはもとからこんなだよ。」
「嘘つけ!」
「じゃあ払うからちょっと負けて!」
レイナが頼む
「う...ぐ...しゃあねえ負けてやりゃあいいんだろ!」
「やった!」
ちょろいなこのおやじ。
まぁとにかく俺たちはこうして(主にレイナのおかげで)情報を安く仕入れた。
「だいぶ遅くなったな」
この後もいくつかの情報屋を回った帰り道。コハクがつぶやいた。確かにいつもよりやや遅い。まだ夕暮れ時だが、熱心な強盗なんかは動き出すころだ。
というところに
「...!」
「おい、レン!何ぼっとしてる!」
「待て!」
その熱心な強盗に遭遇した。奪われたのは少額のいわば捨て物だが、だからと言って逃していいわけじゃない。俺たちは三人で強盗を追う。
「待てゴルァ!」
コハクが叫ぶがもちろん止まるわけもなく、どんどん路地の方へと逃げていく。
かなり入り組んだ路地の曲がり角を曲がったとき、
「よおしつこいな」
どうやら今回の奴らはチームプレーらしい。俺とコハクが臨戦態勢に入り、レイナが脇を駆け抜けていく。
「なっ...!」
「気にすんな!女のガキ一人だ!」
「ほい油断。」
コハクが一人を殴り飛ばす。そのすきを狙ったやつを今度は俺が殴り飛ばす。もちろんそれだけで倒せないので続けて攻撃を仕掛けていく。
「くそ、意外と時間かかった」
一、二分後ゴロツキどもを片づた後コハクがぼやく
「レイナはどこまで追ったんだろうね。」
「こればっかはひたすら探すしかねぇ。行くぞ。」
「言われなくても!」
数分後、レイナを見つけると
「...こんなところまで来ていいのかな。この町の夜は危ないぜ?」
絶賛絡まれ中だった。
「お金、返してもらいましょうか。」
「やれるんならな。」
ゴロツキがレイナの腕をつかむと...
きれいにゴロツキの体が回転した。
「お金、返してもらいましたよ。」
レイナが奪い返した袋を手に言う
「やろ...!」
レイナがパンチを軽々かわす。
「...!」
もう一度殴りかかろうとしたゴロツキの後頭部を俺が蹴り飛ばす。
「おじさーん、女の子襲うときは少しは周り見ようねー。」
「おいおいレンよ。無駄話をしてんな。」
コハクがやってきてゴロツキをさらに痛めつける。
ゴロツキをノックアウトしてから
「レイナ、お疲れ。大丈夫だった?」
「途中見失いかけましたが何とか。絡まれた時のことを言っているなら途中でレンとコハクが見えたので問題なかったです。」
「そう。ならよかった。」
「さてじゃあ戻るぞ。」
コハクが歩き始めながら言う
「にしてもあいつ油断しすぎだろ。」
「だねぇ」
まったくその通りだ。仮にもこんな街で過ごしているのだ。レイナぐらいの女の子でも護身術ぐらい勝手に身につく。あんな男一人ならまず負けない。たぶん俺たちが間に合っていなくても余裕で倒せていただろう。
「まぁもうそんなことはいいじゃないの!早く帰ろう!」
「うん。そだね。」
レイナの声に答えて歩く。
こうして俺たちは家に帰り寝た。
—最前線―
「隊長!これ以上は!」
「馬鹿を言うな!ここまで押し込んだのだ!そう簡単に下がれるか!」
「しかし!」
「...っ!ならば部隊を分けろ!」
「は!?」
「部隊を分けて一つは北から強襲をかけろ!その間残りで別部隊が移動完了するまで凌ぎきる!」
「イ、イエスサー!」
結果この作戦はある程度の効果を発揮し、戦線は再び南下していった。