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ドラゴンと仲良くなろう!4

 

「リューヤ、良いよ」

「お、待ってました!」

 

 俺は雪華が鞘を作ってくれている間、剣を地面に置いて両手を開け、壁伝いに出口まで駆け上る練習をしていた。

 何度か施行回数を繰り返し、急に上がった身体能力にも慣れてきて、一人だけなら既にほぼ100%で行けるようになっている。

 

 俺は雪華の言葉に内心ウキウキさせながら、出口からひとっとびで飛び降りた。

 どうやら単純な筋力だけでなく頑丈さも増えたようなので、この高さから落ちても問題ないのだ。……ちょっと自分でも人間なのか疑わしくなってきたが、一旦それは頭の隅に追いやっておこう。

 さぁどれどれ、雪華はどんなのを作ってくれたのかな。

 

「……これ」

「凄いね! これ雪華が作ったの?」

「ん」

 

 俺は鞘を受け取りつつ褒めてやると、少し誇らしげな表情で返してくれる。

 でも本当に凄い。特に飾りや掘り込みなどはないのだが、まるで雪華のドラゴン形態時の鱗の様に真っ白で、見た者を虜にしてしまいそうな魅力がある。

 

「何だか雪華の鱗みたいな色だね」

「ん、余り」

 

 俺がそう言うと、雪華は奥の方から真っ白で巨大なものを持ってきた。

 余り……ってまさか、見たまんま竜鱗だったのか!?

 

「え、これもしかして、雪華の身体についてたものじゃ」

「ん、そう。剥がすの、頑張った」

 

 そういう彼女の目元をよくよく見てみると、うっすら涙の跡が見えた。

 俺は反射的に怒鳴りそうになるのをぐっと堪え、両手を広げて雪華を迎える。

 

「剥がすの、痛かった?」

「……ん」

「よしよし。けどもうこんな事しちゃだめだよ? 雪華が痛いと、俺も悲しいんだ」

「……平気、でも大事にして」

「あぁ、雪華の次に大事にするよ」

「ん」

 

 全く、俺もかなり雪華の事を気に入っている自覚はあるが、この子も大概だろう。まさか身を削いでまで俺の為に頑張ってくれていたとは……。

 でも雪華が痛い思いをするのは俺も本意で無いし、そんな事をする前に言ってほしかったのだが、それで雪華を怒鳴るのは筋違いだろう。これからその辺りもゆっくりと分かって貰おう。

 

 さて! 用意も出来たし気持ちも切り替えて、さっさとこんな場所からは脱出してしまおう。

 荷物を纏めるついでに、辺りにある水晶と余った竜鱗を鞄に入るほど入れておく。そして俺は貰った鞘に剣をしまって、そのまま腰の短剣が差してある横に固定、最後に雪華を抱えると肩車をしてやる。

 

 よっし、準備OK

 

「いくよ雪華!」

「ん」

 

 雪華からの返事を確認すると、跳躍するために腰を深く落とす。

 一人で飛ぶよりも重量が数倍違うので、それを加味して篭める力を調整。そしてジャンプ!

 

 流石にこの状態で4mの高さは飛べ無かったので、出口とは反対側の壁を目指し、ぶつかる直前で思いっきり逆側へ蹴る。そのまま出口の方へと跳躍すると、無事辿り着く事が出来た。

 

「結構気合入れて臨んだ割りに、あんまり苦労しなかったな……」

「ん」

「あ、降りるの? んじゃ手を繋いでいこっか」

 

 そういえば、雪華と出会ってすぐは話し方が安定しなかったのだが、結構慣れってあるものだな。何かもう意識しなくても、違和感なく自然に接する事が出来ている。

 雪華を下ろしながらそんな事を考えていると、ちょうど下ろし終わって手を繋いだタイミングで、奥から足音が聞こえてきた。

 

 ……ふむ、そういえば入り口にアレがいたっけ?

 

「雪華、ちょっと危ないかもしれないから下がっててね」

「……ん、セツカはドラゴン」

「あー、そうだよね」

 

 幼女姿を見慣れたせいで、ホワイトドラゴンだった事をすっかり忘れていた。そういえば、俺なんかよりもずっと強いんだったね。完全に保護対象だと考えてたよ。

 

「えっと、戦いたい?」

「……そんなに」

「じゃ、ここは任せて」

「ん」

 

 雪華の返答を聞いて安心する。モンスターテイマーの肩書きを持つ者として、主人が従魔を危険な目に遭わせるなんてとんでもないよね。

 

 俺は雪華の命である剣を抜き放ち、そのまま足音が聞こえる方へと歩き出す。ここは少し薄暗い程度(・・・・・)なので、多少雪華と距離が空いてもはぐれる心配は無さそうだ。

 そんな事を考えながら、少し進んですぐに足を止める。

 

「……もう逃げてるばかりの俺じゃないぞ」

「グギャギャ!」

「ギギィ……」

 

 ふむ、やっぱゴブリンか。俺があの穴に落ちる前に、入り口で待ち伏せしていたヤツかどうかまでは分からないが、何となく同じな気がする。

 

 ここに来る前までの俺なら一目散で逃げていただろうが、今は力もあるし、何より後ろに雪華が待機しているのであまり格好悪いところは見せられない。

 多少の恐怖は感じるが、身体強化で強くなっているので勝てるようにも思える。

 

「……はぁ」

 

 相手はゴブリ2匹。

 

 緊張する……でもそれは当たり前か。

 生まれてこの方、剣を使って人外と戦うなんざした事ないのだ。命のやり取り――そう思うだけで、剣を持つ手が汗ばんでいくのを感じる。

 

「グギャギャギャ!!」

 

 何とか心を落ち着けようとしているが、向かいあっているゴブリン達は待ってはくれない。だが俺にはそれがある意味ありがたかった。

 いざという場にならなければ、多分俺はいつまでも尻込みして重い腰を上げられなかっただろう。だからこそ、こういった相手が練習台として丁度良い。

 

 ゴブリンはまっすぐ俺のいる場所まで来ると、手に持っていた錆びている剣を振り下ろしてくる。本来の身体能力を使えば余裕でかわせる速度に見えるのだが、緊張で身体が固まってしまっているようでうまく動かせない。

 

「……っふ」

 

 何とか無理やり身体を動かし軌跡から外れると、カウンターとして手に持った剣を横薙ぎに払う。すると必要以上に力が入ってしまったのか、ゴブリンは真っ二つになり大量の血が噴出した。

 うげぇぇ……気持ち悪い。斬った感触もそうだが、切り口から色々なものが見えてげんなりする。

 

「ギギっ! ギギャギャ!」

「うぷっ……そういえばもう1匹いたな」

 

 俺はふらつくのを我慢しつつ、今度は失敗しないようにと相手を見据える。

 ゴブリンの基本戦術に個体差はないようで、こいつも武器を振り上げながら突っ込んできた。

 

 先ほどよりも少し硬さの取れた身体で構えると、一旦わざとゴブリンに攻撃をさせる。それを軽く横へと避けると、武器を振り切ったゴブリンの首目掛けて剣を突き立て、抜く。

 ゴブリンは切りかかった勢いで数歩だけ歩き、そのまま崩れ落ちて動かなくなった。

 

「……ふぅ、やっぱキツいな」

 

 正直日本人の感覚から言えば、たとえ魔物だろうと自らの手で殺すのは忌避感があった。

 一度その一線を越えれば楽になるかと思ったのだが、流石に1回や2回では多少薄まるだけのようだ。

 

「もう少し、数を重ねないと危ないな……さて、雪華ー!」

 

 俺は雪華に声をかけながら剣を軽く払って血を飛ばすと、刀身が綺麗になった事をしっかりと確認した上で鞘へと戻す。貰ったばかりの物をさっそく汚したくなかったので、結構念入りに払ったのは言うまでもない。

 剣を仕舞い終えると、とてとてと歩いてくる雪華が見えて安堵の息を漏らす。そして笑顔で手を繋ぎなおすが、雪華は繋いだ俺の手を見ながら不思議そうな表情をした。

 

「ん、震えてる?」

「……あはは、ちょっと寒いかな」

 

 俺がそうごまかすように言うと、雪華はじっと俺を見つめてきた。そして何かに納得したように「ん」と言って、俺の腕を取り全身でぎゅっと抱きしめてくれた。

 

「セツカ、暖める」

「……ありがとう、とっても暖かいよ」

 

 俺はそう返すのがやっとで、顔を伏しながら今の表情を見られないようにと祈りつつ、心の中で改めてお礼を言った。

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