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ドラゴンと仲良くなろう!3

 

「リューヤ、リューヤ」

「ん……」

 

 何だ何だ? 俺が気持ちよく眠っていると、何だか耳元から可愛い女の子の声がしてきた気がする。

 ゆさゆさと身体をゆすられる感じが心地良くて、耳通しの良い声と併せて快適にもう一眠り出来そうだ。

 

「リューヤ?」

「う……?」

 

 ん、そういえば頭の下が妙に柔らかくて暖かい。だがそれとは別に、ちょっと息が苦しい気もする。

 俺ははっきりしない思考のまま、ぼんやりと目を開けてみた。

 

「ん、おはよ」

「へ? おふぁおう?」

 

 目を開くと同時に、一瞬で頭に掛かっていた靄は消え去り、代わりに今の状況に変な汗が出てきた。

 

 この状況は……もしかして、伝説のひざまくら……?

 目の前には幼女――雪華の顔がどあっぷであり、片手は俺の頭を支えているようだったが、もう片方の手ではなぜか俺の口に指を入れている。軽く舐めとると鉄の味がした。

 

 って!? ちょ、何をしているんですか雪華さん!?

 

「ん、リューヤ、死に掛け……ん」

 

 俺も口を開こうとするが、口に入れられたままの指が邪魔だったので舌で押し出そうとすと、雪華は少し目を細めて小さくうめき、ビクっとする。

 え、なにその見た目の年齢にそぐわぬ色気……幼女趣味はないはずなのに、俺まで少し恥ずかしい気がしてきた。と、それはともかく!

 

「っぷは――それで俺、どうして寝てたんだ?」

「ん……ごめん」

 

 俺の質問に、なぜか雪華は目を逸らしながらそう答える。

 えぇと、俺がこうなる前に何かあったっけ? …………確か雪華の名前を決めた後、彼女がこっちに来てよりかかってきてくれた所までは覚えている。

 あ、もしかして俺、幸せすぎて気絶したとか?

 

「えーと、記憶違いなら悪いんだけど、もしかして雪華が俺に寄りかかった時に気を失ってしまった?」

「ん、セツカはドラゴン、重い」

「え?」

 

 どうやら雪華の言葉ではきっかけは同じでも、考えていた原因とは別の所にあったみたいだ。

 とりあえず雪華の言った事を確かめるため、俺は目の前の雪華を抱えて見ようとするが……。

 

「確かに重いね」

「……ん」

 

 全力で抱っこしようとするのだが、ピクリとも宙に上がらない。あのドラゴンの大きさを考えればこの重量も頷けるか。でもこの見た目でこんなに重いのは、少し納得いかないような……決してこの子を抱っことか色々したくてそう思うわけではない。そう、あくまで見た目と違いすぎる事に納得がいかないのだ。本当だ。

 俺がそう一人で考えていると、雪華は少し悲しそうな表情で俺の手から抜け、地面にペタンと座り込んでしまった。

 

「急にどうしたの?」

「ん、セツカ、リューヤ潰した」

 

 どうやら俺を気絶させた事に責任を感じているようだ。そして言葉が直接的すぎる……まぁ確かに圧死しかけて気絶したみたいだが。

 けど彼女に悪気があったわけでないのは見て分かる。それにこんな愛らしい子が悲しそうな顔をしてみるのも見ていられないので、気にしていない事が伝わるよう軽い口調で慰める。

 

「でもその後、雪華が助けてくれたんだよね?」

「……ん」

「だったら大丈夫だよ」

 

 俺はそういって、少し俯き気味な雪華の頭を撫でてやる。

 うわっ! この髪の毛すごいさらさらしてて気持ち良い……梳く指もすーっと通って、癖になりそうだ。

 

「そういえば雪華は、何でこんな所にいるの?」

「ん、護ってる」

「何を?」

「……アレ」

 

 俺が雪華の頭を撫でながらそう聞くと、彼女はある一点を指で示した。

 そこには水晶の台座が設置されており、その真ん中には剣のようなものが見える。洞窟の奥でドラゴンが護る剣か……なんか伝説の武器って感じがするなぁ。

 

「あの剣を取られないように護ってるの?」

「ん」

「もし取られてしまったら?」

「泣く」

 

 それは大変だ。

 うーん、でもそうなると難しいかな。あわよくば雪華も一緒に連れて脱出したいと考えていたのだが、あの剣がここにある以上は雪華も離れられないだろう。そして雪華に来て貰えない以上は、俺も一人で脱出するのも無理がある。どうするか。

 そうやって悩んでいると、雪華が続けて口を開く。

 

「……ずっと独り、護ってた」

「え? ここで?」

「ん、たまに魔物や人来る……でも皆セツカ攻撃する。喋ったの、リューヤが初めて」

 

 なるほど、初対面なのに妙に懐いてくれていたのはそれが理由か。

 確かにこんな場所に独りでずっといるのはさびしすぎる。

 

 うーん、彼女には情が移ってしまうどころか、既に好意も抱いてしまっているので、出来るならなんとかしてやりたいな。――そうだ!

 

「ねぇ雪華……もし仮に、俺があの剣を抜いたとする」

「……?」

「それを持って外に出たら、雪華はどうする?」

「ついてく」

「え? 良いの?」

 

 あ、あれ? 俺の予想では、剣を抜こうとするだけでも襲われるかと思ったんだが、そうでもないのか。

 じゃあ何のために雪華はここにいるんだろう?

 

「あの剣も、セツカ。抜けない人、倒す。抜ける人いたら、セツカが護る」

「ん? でも雪華はキミだよね? 剣も雪華ってどういう……?」

「ん、身体はこっち、命はあっち。ドラゴンは皆、殺されても死なない」

「へぇ……」

 

 なるほど、この世界でドラゴンは不死身らしい。その理由が、自分の魂を別の武器といった形で残してるので、体が滅んでも復活出来るというわけか。

 加えて武器を護ってるのも、自分の命を預けられる相手を待っている……という事だろうか。それなら本人が認めてさえいれば、実力は関係なく抜けるのかもしれないな。

 

「雪華は外に出たいんだよね?」

「ん……でも、剣を護る」

「よし、なら俺が抜こう」

「え?」

 

 俺はそういうと、雪華を撫でていた手を離して立ち上がる。

 ここまでの触れ合いで、彼女が俺を主人だと認めてくれている可能性は低いだろう。……潰されかけるくらいだし。

 だが、洞窟から脱出出来ない俺にはもとより、この可能性に掛けるしかない。もし抜く事が出来なくても、きっと雪華ならすぐに俺を襲ったりはしない筈だ。それくらいの信頼関係は築けていると思いたい。

 

「ふー……よし!」

 

 覚悟を決めると、俺は台座へと足を進める。

 水晶で出来た台座は透き通っており、妖しい光をぼんやりと放ち続けている。次いで剣の刀身を見てみると、これまた水晶で出来ているのか、台座と一体化しているような感じで透き通っていた。

 

 心を落ち着けつつ剣へと手を伸ばそうとすると、無意識に雪華が目に入った。

 

「ん、リューヤ、お願い……セツカ、リューヤといたい」

「っ!」

 

 "お願い"――雪華の言葉が、頭の中でリピートする。

 やばい……単純なもので、急に今なら何だって出来そうな気がしてきた! こんな剣を抜くなんて、出来なければおかしいとすら思えてくる。

 俺は剣をしっかり握りこみ、力を入れる前に心配そうな表情の雪華を見て答えてやる。

 

「任せろ!」

 

 俺がそう言った途端、水晶の台座は音もなく消失した。

 抜く……というよりは台座自体が勝手に消えてしまったので、なんて言えば良いのだろうか。

 

 えっと、これって有効……なのかな? 引き抜いた感覚は全然無いんだけど。

 俺は少し呆気にとられつつも、抜いた剣を軽く振って刀身を目の前に持ってくる。

 

 ふむ、驚くくらいに手に馴染む。俺自身こんな物を持った事無かったのだが、まるで使い慣れてきた道具の様に、久しぶりに手に取ったような感覚がした。

 相変わらず刀身は透明で妖しい光を放っているのだが、何となく雪華と同じような儚さを感じた。

 

「リューヤ!」

「え? ちょっと待っ――!?」

 

 俺がそう抜いた剣を観察していると、いつの間にか雪華は駆け寄ってきており、その勢いのまま俺に向かってダイブを――って、今度こそ死ぬって!?

 さきほどは寄りかかられるだけで気絶したのに、これを受ければヤバいなんて話では済まないだろう。数瞬、避けるかどうか思案したが、雪華の俺を信頼しきっている目を見てその気が失せた。こんな可愛い幼女の抱擁を避けるなんて、ありえない!

 

 俺は先ほど剣を抜くとき以上の覚悟を決めると、飛び込んでくる線上から剣を避け、片手で受け止める準備をする。そのまま衝撃に備えて腰を軽く沈ませ、なるべく笑顔を作って迎えてやる。

 

 そして俺は、雪華を優しく抱きとめた・・・・・

 

「リューヤ!」

「あ、あれ?」

「これでセツカ、一緒にお外出れる!」

「あ、あぁそうだね」

 

 雪華の嬉しそうな声にそう返すが、内心ではかなり混乱していた。

 これはどういう事だ? さっき抱っこしようとしても全く持ち上がらなかった筈だ。だが今は多少の重さを感じるものの、無理をするほどでもない。

 

 もしかして雪華が気を利かせて軽くなったか? とも考えたが、それが出来るなら最初からしているだろう。それに俺の腕の中で雪華がはしゃぐたび、俺の足元からピシっ、ピシっという音と共に地面に亀裂が入っていくのが見えた。

 となるとなぜだ? 重量もそのままなのに俺が持てているという事は……この剣のお陰か?

 

「雪華、何か力が強くなったみたいなんだけど、この剣のお陰かな?」

「ん? ……ん」

 

 俺がそう聞くと、雪華は喜色に染まっていた表情から一気に血の気の引いたような顔へと変わり、慌てて俺の腕から飛び降りた。

 

「ごめん……でも、無事?」

「え? あぁ、だからこの剣のお陰かなって――」

「違う」

 

 食い気味に否定された。よく見れば雪華の眠そうな目が少し見開かれていて、驚いている様だ。

 うーん、でもそうか違うのか。だったら理由は……まぁそんな事は良いか。何だか分からないけど、雪華を抱っこ出来るなら俺も嬉しいし、悪いことではないだろう。

 

 さて、剣も抜けたしこれで雪華も外に出られるようになった。後はここから脱出するだけだ。

 

「それじゃ、一緒に出よっか」

「ん」

 

 俺は雪華に声をかけつつ、外につながりそうな道を探そうと辺りを見渡す。

 目の高さにはおおよそ通路はなさそうだ。そのまま目線を上に上げていくと、一箇所だけポカリと穴が開いた場所があった。……結構な高さがあるが、あそこから落ちたのだろうか?

 

「……んしょ」

「?」

 

 何か下の方から声が聞こえてくると思ったら、雪華が俺の右手からよじ登ろうとしているのが見えた。何しているんだろう?

 その一所懸命な所が可愛いくて、つい彼女の脇の下に手を入れて、抱かかえ上げてしまった。

 

「どうしたの?」

「ん、本当に、大丈夫?」

「あぁ、さっきも死にかけたし、心配してくれてたのか」

「ん……」

 

 俺がそこまで気にしなかったこの力だが、彼女には半信半疑だったらしい。それで本当に大丈夫なのか、ゆっくりと体重をかけてみて確認を取ろうとしていたようだ。

 あぁもう、可愛い上に気も利いて、性格も健気で凄く良い子の様だ。

 

 これならグラン師匠が言ってた「一目惚れ現象」も理解出来る――と、ちょっと待て。

 

「もしかして……雪華が俺の従魔になってる?」

「ん、セツカはリューヤの剣。護る」

「ごめん雪華、ちょっと身体見せてくれないかな?」

「……ん」

 

 これは勿論ただ幼女の裸が見たいというわけでなく、ちゃんと意味があって言っている。と頭の中で言い訳めいた事を言ってみたが、当人の雪華はあんまり気にしていないみたいで、前で留めてあるボタンを外して前をガバっと開く。

 うん、いくら言い繕った所で目の前で幼女に服を脱ぐようお願いしているこの状況では、もはやなにを言われても言い返せない気がする。

 

 ……さて、それで本題だが、確か従魔になると主人と従魔の身体の一部に同じ模様が浮き上がると聞いている。聞いた相手はグラン師匠で、実際に見せても貰った。

 それを思い出して雪華に着させていた上着を脱いでもらうと、やや控えめに主張している可愛らしい胸が……って違う違う、今は見るべきところはそこじゃなくて――あった!

 

 右胸の上、そして鎖骨のやや下の方に、ドラゴンの頭を影絵にしたような模様が出来ている。何となく無垢なる新雪を、俺が土足で穢したような背徳的な気分になりそうだ。

 と、個人的な罪悪感は後にして、俺も同じ模様が出ている筈なんだが……どこだ?

 

「ん」

「え?」

 

 俺が自分の身体をまさぐっていると、雪華は俺の喉にその細い指を当てる。

 

「同じのある、お揃い」

 

 そう言った雪華は嬉しそうに自分の胸元を見せ付けてきた。

 う……嬉しいんだけど、女の子なんだからちょっと恥じらいを持って欲しい。けど元がドラゴンなので、その感覚は無いのだろう。

 俺は軽い頭痛を覚えながらも上着を改めて着せなおしてやると、再び抱えて抱っこする。

 

「ありがとう。でも他の人の前では、絶対に脱いで見せちゃだめだよ?」

「……ん?」

「人の女の子は、肌を見せるのは恥ずかしいと思うものなんだ」

「ん、分かった」

「よし、良い子だね」

 

 うーん、本当に分かってるのかな? まぁこれからは一緒なので、おいおい教えてあげれば良いか。雪華が俺の従魔なら、もう相棒で恋人で家族なんだ。俺がしっかりと護って、不自由させないよう養わないと。

 

 まずこの世界での当面の目標はこれだな。テイムした子達を養う程度の甲斐性を身につける。

 じゃないとせっかく一緒に居てくれる子達もかわいそうだもんね。

 

 よし、この世界にきてようやく行動指針も定まった事だし、そろそろ現状の打開策を考えて見るか。

 

 ……とは言ってみても、あの出口と思わしき穴までは、目算で4mくらいの高さがある。

 ドラゴン形態の雪華が空を飛べるとすれば簡単にたどり着くだろうとは思うが、出口の穴が人3人分くらいの大きさしかないので雪華が出られない。

 

 となれば、雪華を抱えて俺が壁を駆け上がる、という人外染みた方法ではどうだろう。

 あまり実感は湧かないのだが、なぜか雪華を抱えても問題ないくらい強化されているので、この身体能力を使えばいけそうな気がする。……ちょっと試してみようか。

 

「雪華、ちょっと待っててね。少し身体を動かしてみるよ」

「ん」

 

 抱えていた雪華を名残惜しくも下ろし、俺は軽くストレッチをした後、簡単に自分の力を量ってみる。

 

 握力、水晶を握りつぶせた。

 脚力、短距離走で体感車以上の速度が出てる気がする。

 垂直飛び、軽く飛んで2mを余裕で超えた。

 

 おいおいおい、何だこれ。

 今の状況下では非常に都合が良いが、これもう人間の枠を軽く超えている気がする……。うん、あんまり考えないようにしよっと。

 ひとまず、これなら身体能力は申し分なさそうだ。あと欲を言えば、片手が持っている剣で塞がっているので、出来れば鞘などに入れて両手とも自由にしたい。

 そう思っていると、いつの間にかすすすと擦り寄ってきていた雪華が俺を見上げていた。

 

「邪魔?」

「……ん? いやまさか! ただちょっと、この剣を仕舞う鞘とかあればなぁなんて思っててね」

「わかった、作る」

「え?」

 

 雪華は特に表情も変える事無くそう言うと、とててーっと走って行く。

 慌てて追いかけるが、ちょうど水晶で遮られて見えなくなった所でひょいと顔を出し、出来るまできちゃダメと言われてしまった。

 

 俺は肩を落としつつも、初めて雪華から貰えるプレゼントに少しワクワクして、再び声が掛かるのを大人しく待つ事にした。

 

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