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ドラゴンと仲良くなろう!2

 

「な、なな……な……」

「……ん」

「何がどうなってドラゴンが幼女に!?」

「っ!」

 

 気が付くと俺は叫んでいた。

 俺が突然大きな声を出したからか、こちらに近づこうとしてきてた幼女は足を止めてしまった。

 とりあえず俺は冷静になろうと、突然現れて立ち止まった小さな幼女を観察してみる。

 

 腰まである真っ白な長い髪が揺れるさまはとても綺麗で、顔は愛らしく整っている。だが常に眠たげな眼に表情も乏しいので、少し感情を読みづらい。

 だがよくよく見てみると、その子の目じりには僅かばかりの涙が溜まって――って泣いてる!?

 

「あっ、ごめんね? 急に大きな声出してびっくりしちゃったかな?」

「……ん」

 

 幼女は俺の言葉に頷くと、止めていた足を進めてゆっくりと近づいてきた。そうして俺の目の前まで来ると、その場に腰を下ろそうとする。

 あ、このゴツゴツとした地面だと、彼女のぽよっとした柔らかそうなお尻が傷ついてしまう。俺は着ていた上着を慌てて脱ぐと、彼女のお尻の下に敷こうとして――ちょっと待て。

 

「……ねぇ、何で服着てないの?」

「?」

「うん、とりあえずこれ着てください」

「ん」

 

 いや、途中から少し変だなーとは思っていたんだ。

 お尻以外にもチラチラと見えてはいけないものが見えてるなー。と感じてはいたんだが、突然予想外な事が起こると思考が止まってしまうようだ。

 さすがに欲情まではしていないが、なんとなくこの無垢な瞳と目を合わせ辛くなってしまった。

 

 そうして俺の上着をかぶせてやると、腕のところが結構な長さを余してしまったので、手がちょこんと出るまで丁寧に折ってやる。

 あとは前のボタンも閉じて……おぉ、これはなかなか。

 

 でもこの子、何で急にこの姿になったのだろうか?

 あ、もしかしてさっき体の大きさについて俺が言ったから……だね、多分。結構な頻度で俺の手元をチラチラと見てるので、よほどこの肉チップを味わいたかったのだろう。

 

「えぇと……そうだ、これ食べますか?」

「ん、食べる」

 

 俺は彼女の答えを聞いてから、残っていた肉チップを1枚取って彼女の小さな手に乗せてやると、そのままもきゅもきゅと咥えて食べ始めた。

 

 小さなお口で一所懸命に食べる姿……なんだか小動物的何かを連想させられて、すごく可愛いなぁ。心和むわー。

 

「それで、キミ……さっきのドラゴンですよね?」

「ほわいとどらごん」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「ん」

「はいはい」

 

 彼女は食べ終わると、またすぐに手を広げてきたので肉チップを載せてやる。

 

 さて、そろそろ思考を切り替えよう。

 彼女がコミュニケーションを取れるという事は、俺の生き残れる可能性が上がったように思う。

 こうして見ても全然敵って感じしないし……というかむしろ可愛いし、ほっぺたふにふにとかしてみたいし……ってそうじゃなくて。

 

 話を戻して、俺はまだこの得体の知れない洞窟の中で、依然として絶望的な状況だ。

 出来ればこの子――ドラゴンに脱出を手伝って貰いたい。

 

「えっと、ホワイトドラゴンさん……俺は神童竜也しんどうりゅうやって言います」

「シンドリュー?」

「竜也です」

「ん、リューヤ」

 

 うん、1回目の名乗りで少し分かってたけど、もうこの世界で苗字を名乗るのは止めようと思う。毎回訂正しないといけない未来しか見えない。

 

「……それで、出来ればこの洞窟から外に出たいのですが」

「ぇ、リューヤ、行っちゃう?」

 

 俺がそう続けると、それまで感情の篭らない淡々とした声に、悲しそうな感情が混じる。俺は大いにうろたえた。

 

 いかん、俺自身これまで幼女と触れ合いなんて無かったから、こういうときどうすれば良いか全く分からん!

 ……いや待て、今は確かに見た目が幼女だが、これって中身はあのドラゴンだよな? だったら幼女を相手にしていると考えるより、あのドラゴンを相手にしてると思えば――

 

「うぅ……」

 

 ――うん、無理。

 本当の姿がどうこうの前に、今目にしている姿を見れば俺じゃなくたって無理だろう。

 あぁもう本当にどうしようか。こんなの脱出の話をする以前の問題だし、何か別の事で気を紛らわさせて……えぇと、ええと

 

「そうだ! ホワイトドラゴンさんって名前はあるんですか?」

「……ん、名前?」

「うん」

 

 っほ、良かった。咄嗟に出た質問だったが、なんとか気をそらせたようだ。

 俺は幼女の悲しそうな顔が元に戻った事に安堵する。基本的に無表情で分かりにくいが、目元や口の動き、声の高さで何となく分かる。

 

 あとどうでも良いか、俺の口調が安定しない。

 皆も経験無いだろうか? 突然子供と触れ合う事になったとき、何となく気恥ずかしくて敬語を使ってしまうとか。でもそれもちょっとおかしいなって思って、わざと慣れないような口調を使ってみては、言った後に悶えてしまったりだとか。

 

「ほわいとどらごん?」

「……それ、多分ドラゴンって種族の名じゃないかな? ほら、俺でいう人間みたいな」

「ん……」

 

 俺がそう訂正を入れると、幼女は小首を傾げ考える素振りを見せる。何だろう、しぐさのひとつひとつが可愛すぎやしないだろうか。

 

「名前、無い……リューヤ、付けて?」

「え? 俺がつけるのか?」

「ん」

 

 こくん、とうなずくとその眠たげな目でじっと俺を見つめてきた。

 名前、名前か……というか結構軽い調子で言ってきているが、これって責任重大じゃないだろうか? 適当な名前をつけるわけにもいかないし、何か彼女に似合うもので……うーん、悩む。

 

 俺は悩みつつ、改めて彼女を見てみる。

 真っ白な長髪に、透き通るように綺麗な肌。ドラゴン形態の時も儚く美しい印象を受けていたが、幼女形態でもその印象は損なわれず、むしろか弱そうな見た目でその印象が増幅しているような気がする。

 白くて、儚くて、綺麗なもの……。

 

「雪……なら、雪華せつかはどう?」

「ん、セツカ?」

「そう、この世界にはあるのかな? 寒い日に降る白い雪をイメージしたんだが……あと綺麗に咲くお花の字をつけて、雪華だ」

「セツカ……ん、良い」

 

 幼女――雪華はそう言うと、口元を少しだけ綻ばせる。良かった、どうやら気に入ってくれたみたいだ。

 そして名前を付けたからだろうか、先ほどまでも愛らしく感じていた雪華だが、より一層可愛く見えて仕方が無い。彼女の様子を見てるだけで頬が緩みっぱなしだ。

 

 前の世界では結婚はおろか彼女すらいなかった俺に育児の経験は無いが、もし子供がいたらこんな感覚なのかもしれない。

 

 俺は頭の中でそんな事を思っていると、雪華は何を思ったか徐に立ち上がり、さらに俺に向かって歩いてきた。

 そのまま文字通り目の前にくると、くるっと反転して俺の足の間に座り込む。もしかしてさっきの話で、俺がどこかに行かないように近くまで来たんだろうか? あぁもう可愛いなぁ。

 

 そしてゆっくりと俺の方へ体重を預けて――

 

「ははっ、雪華は甘えんぼあぅぐはぁっ!!?」

 

 その見た目から想像も付かない重さに、俺は奇声を上げて失神してしまった。

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