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触れ合う事は恐くない2

 

 頭に置いた手で優しく撫で続けること数分、未だリアは呆然とした様子で俯いたまま、されるがままになっている。

 

 ……そんな彼女に対し、俺は内心で焦りを感じていた。

 自分でも悪い事だとは思ってるが、俺ってなんと言うか、こう、その時の衝動や気持ちで行動してしまっているよな。以前も気づいたらリーフェさんにアイアンクローとか食らわせてたし。

 

 何でそんな事を思い返しているのかといえば、今も同じだからだ。

 リアの話を聞いてどうしても彼女に触れてあげたいと思ったんだけど、それって別にリアから望まれてやったわけじゃないんだよな。

 ……というかむしろ、彼女のトラウマをいたずらに刺激しただけかもしれない。触る直前に本気で怯えられてたし、冷静に考えるとすごく申し訳ない気分になってきた。

 

「あの……リア?」

「はっ! ……って、え、何? 私撫でられて?」

 

 俺が声をかけるとようやく状況を飲み込み始めたようで、こちらを見上げてきた。

 

「……」

 

 だが目が合ってもリアは何も言わず、黙って見続けてくる。

 

 うう、沈黙が恐い。と思ってたら、今度は顔を俯けて小刻みに震え始めた。

 ……いきなりこんな事されて怒ってるのかな。それとも逆に、恐い人だと思われてしまったのかも。

 確かによくよく考えてみれば、もっと時間をかけてトラウマを和らげてあげる手段もあったはずだ。そうでなくても、事前に触れても大丈夫だって説明くらいはすべきだった。……だ、だめだ。考えれば考えるほど俺に落ち度がありすぎる。自分の気持ちばかりで、リアへの配慮が欠け過ぎていた。

 

「その、リア……」

 

 これはもうあれだな、謝るしかない。

 彼女からすれば突然酷い事をされたと感じているだろうから、そう簡単には許してもらえないかもしれないが……それでも謝り続けるしかないだろう。

 

 そう思って言葉を続けようとすると、小さくか細い声が聞こえてきた。

 

「……によ、これで……つもり、なの?」

「へ?」

 

 どうやらリアが何か呟いたようだ。しかしあまりにも小さかったので、何を言ったのか聞き取れない。

 

「えっと、よく聞こえなかったんだけど……」

「っ、だから! こうやって触れて、私の魔法が弱いと言ってるつもりなのかって聞いたのよ! ――うっ」

「……へ?」

 

 俺が聞きなおすと、リアは顔を真っ赤にして怒鳴るようにそう言ってきた……が、なんだか少し様子がおかしい。

 怒ってるのかと思ったけど目が合った瞬間すぐに逸らされたし、それになにより、撫でている手を払う様子が無い。いや、撫で続けてる俺もどうかとは思うけど。

 

「ご、ごめん……やっぱり嫌だった?」

「はぁ!? なによそれ? ……べ、別に撫でられるくらい、何てことないわよ!」

 

 あれ、これはもしかして、怒ってない?

 表情は俯いていて見えないけど、ちゃんと返事を返してくれるあたり、嫌われてはなさそうだ。

 

「……じゃあもう少し、このままでも良い?」

「好きにすれば良いじゃない!」

 

 良かった。やり方に反省すべき点はあるものの、彼女に対しては悪いようにはならなかったらしい。

 そうひとまず安堵した俺は、そのまましばらくリアの頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

「はぁ~~、もうびっくりした! あの話を聞いた後だったから、とっても心配したんだよ?」

「ん」

「……う、ごめん」

「あ、いや私が勝手に心配しちゃっただけだから……でもセツカちゃん、よくおにーさんのしようとしてる事わかったね」

「ん?」

「う……そんな、なんで分からないの? みたいな目で見ないで欲しいな」

 

 リアを撫で終えて一段落すると、見守ってくれていた雪華とマカちゃんも会話に合流してきたので、まずは素直に謝る。

 雪華はすぐに分かってくれたみたいだが、普通はマカちゃんのように心配して止めようとするだろう。とは言え雪華も心配してなかったわけではないようで、俺に視線を向けるたびに少し頬を膨らませていた。

 

 ちなみにリアは現在、手を頭から離したにも関わらず、のぼせたような表情でぼーっと虚空を見つめている。……誰も突っ込まないけどこれ、大丈夫なんだろうか? 

 そうリアを心配していると、ぷくっと頬を膨らませていた雪華が、ずんずんと無言で俺の目の前までやってきた。

 

「えと、雪華?」

「……まえ、怪我危ない、言った」

「う……」

「セツカ、言った、違う?」

「ご、ごめんなさい」

 

 た、大変お怒りになられてらっしゃる……。

 以前はすぐに許してくれたけど、今は珍しく怒ってるのを見えるようわざわざポーズを取っている事から、その本気具合が伺える。

 

「色々と反省してるから、その……機嫌を直してほしいな。ほら、おいで」

「むぅ…………ん、リューヤ?」

 

 何とかいつもの抱っこで宥めようと両手を伸ばすと、雪華はその手を見た途端小さな両手で掴みとり、眉を寄せながら俺に視線を戻した。

 えなに、どうしたの?

 

「……これ」

 

 そうして俺に見えるように手の中指をこちらに向けてきて……あ、指先からちょっとだけ血が出てる。

 うぅむ、やっぱりまだ制御が甘いか。会話しながら時間をかけ『害撃拒絶(リジェクション)』で掌を覆ったつもりだったが、そんなにすぐ出来るものではなかったようだ。

 

 ただこれは少し不味い。リアに気づかれる前に何とかしないと。

 

「ん、しょうがない……あむ」

 

 そう思っていると、雪華は何を思ったのか突然俺の指を咥えはじめた。

 

「ほぁっ!? せ、雪華?」

「ちょ!? ちょっと、セツカちゃん! 何してるのかな!?」

「へ、何!? ……って、本当に何してるのよ」

「ん……」

 

 にゅるっと口の中に入った感触に思わず口を開くと、一部始終を見ていたマカちゃんが大きな声で反応して、その声でぼけーっとしてたリアにまで気づかれてしまった。

 ど、どうしよう……これでもし俺が怪我した事を知られれば、リアは今度こそトラウマを加速させてしまう。何とかしないと……うひゃっ!?

 

 小さなお口の中で指先を舐め取られ、変な声が出そうになったのをぐっと堪える。

 その間も暖かくて柔らかな舌が何度も傷口をなぞり、痛くすぐった気持ち良い……けど、何やってるんだろう? 傷口にばい菌が入らないようにってしてくれてるのかな。

 

「ん、あむ……んん」

 

 一所懸命に指を咥えてる雪華を見てると、何だかそんな場合じゃないのに和んでくる。……はぁ、可愛い。

 

「……ん」

 

 やがて満足したのか、雪華の口からようやく指が開放されると……あれ、治ってる?

 

 ……今ので治してくれたのか?

 でもこれ、魔法で治癒したってわけじゃないよな。舐めてただけだし。確かに雪華の行動は1つ1つに癒し効果があると言っても過言じゃないけど、こう物理的に修復まで出来るとは思わなかった。いやもしかすると精神的な癒しが、ついに物理的な効果までもったと考えるべきか?

 

 とにかく雪華さん、まじすげぇ!

 

「雪華、ありがとう! …………と、心配させちゃってごめんね」

 

 思わず感激のあまり雪華を抱き上げ、ぎゅーっとしてしまっていた。

 ……いけないけない、俺はさっきまで怒られてたんだった。ちゃんと反省してる態度にならないと。

 

「ん、怪我、だめ」

 

 そう思って謝罪の言葉も併せて伝えると、少し照れた様子で雪華から釘を刺され、再び胸を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。

 ちょ、可愛いすぎる……まだ怒ってるんだから! という態度を取ろうと嬉しい気持ちを前面に出すのを我慢して、上目遣いでそうお願いしてくる雪華は破壊力高すぎる。何だか興奮してきて鼻血が出そうだ。

 

「うん、わかったよ雪華、だから機嫌直してくれないかな?」

「ん……」

「良かった、ありがとう!」

 

 俺の言葉に、渋々といった態度を無理やり繕って頷いてくれたので、再びぎゅ~~っと抱きしめる。

 やば、顔が緩みっぱなしだ。けど今は雪華にも見えて無いし、表情筋には後で仕事をして貰おう。

 

「ねぇ、いきなり始まったあの茶番は何なの? わけがわからないのだけど」

「あはは、おにーさんはセツカちゃん大好きだからね。いつもの事だよ」

「……そう、アナタも大変そうね」

 

 雪華の感触を一杯に感じ、至福の時を味わっていると、完全に蚊帳の外となっているリアとマカちゃんの話している声が聞こえてきた。

 その声に視線を向けてみれば、若干苦笑気味のマカちゃんと、じっとこちらを眺めているリアが見える。

 

「……けど、ちょっと羨ましいわ」

「? ごめんリアちゃん、何か言った?」

「な、なんでも無いわよ! ふんっ」

「え、あれ? よくわかんないけどごめん……?」

 

 不思議そうな表情で謝るマカちゃんに、恥ずかしそうにそっぽを向いているリアを視界におさめつつ、早く魔法を上手く扱えるようになろうと強く決意して、俺は雪華を抱きしめる腕に力を入れた。

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