相棒を探そう!
「はぁ……仲間になってくれる魔物、いるかなぁ」
あれから俺は、さすがに心得だけではあんまりだとグラン師匠に泣きを入れつつ説明を求め、何とかモンスターテイマーについて詳しい内容を聞くと、一度宿に戻って昼食を弁当に詰めて貰い、街の外へとやってきていた。
そうそう、これはあまり関係ない話だがこの街の名前も判明した。
どうやらここはローウリィンの街と呼ばれる場所で、最近開拓された街らしく、周りにはまだたくさんの未開拓地が広がっている。
このあたりの情報は、街の外へ出る際に門番さんが教えてくれた。
ちなみに出るとき身分証を求められたのだが、持っていたギルドカードを見せると通行料も免除になった。
現金なもので登録した当初は少し後悔したものだが、今では便利なカードだという認識に変わっている。
さて、それで俺がわざわざ魔物のいる外に出たのは勿論魔物と契約するためである。
グラン師匠の話によると、魔物をテイムして従魔……つまり仲間の魔物とするには2つの方法があるらしい。
1つ目は、相手を屈服させて完全に心を圧し折ると、絶対服従させる事が出来るらしい。
だがこの方法は絶対するなと釘をさされている。まぁ復唱した心構えを聞いていたから、「何でですか?」なんてやぶ蛇な質問は回避できた。
そして2つ目だが、相手に懐かれる事らしい。
餌付けをして徐々に慣らしていくなどの方法もあるみたいだが、フェンリルをテイムしたときのことを聞いてみたところ、あまり要領を得なかった。
なんでも「見た瞬間わかる」だとか、「一目ぼれに近い感覚」だとか少女漫画みたいな事を言っていたのだ。
それを聞いた俺は、とりあえず話し半分に聞き流して銀貨1枚分の餌付け用の肉を購入した後に、とりあえず魔物でも見てみようと街の外へ出てきたというわけだ。
そんなこんなで、今は短剣片手に歩き回っている。
「けど、魔物かぁ……前の世界で言う、ライオンとかの肉食獣がたくさんいるって感じだろうか」
それだと恐いな……と考えながら歩いていると、遠くに金属音が鳴るような音が聞こえてきた。
何だろう、とりあえず音がする方へ言ってみるか。
俺は音がする方へ誘われるまま言ってみると、そこでは他の冒険者らしき人達が1匹の魔物を4人掛かりで襲っていた。いや、襲われていたといった方が正しいのか? うぅむ、思考が少し、魔物よりになってしまってるかもしれない。
その魔物は10歳くらいの子供くらいの大きさで、緑色の肌に角が生えた変な生物だった。昔やったRPGで言えば、さしずめゴブリンと言った所か。
「っく、やっぱり魔物の討伐はキツいな!」
「何を言ってんだ、相手は10級指定のゴブリン1匹だけだぞ? 囲めばやれる!」
どうやら本当にゴブリンだったようだ。
ちなみに戦っている冒険者だが、皆今の俺と同じくらいの年齢で、大体12~15歳くらいに見える。この世界では子供も戦わなければならないようだ。世知辛いね……。
そうして見ていると、先ほど叫ぶように言っていた男の子の言葉通り、囲みながら武器で殴ったり刺したりを続けていると、徐々にゴブリンの動きが鈍り始め、それから大体10分くらいで動かなくなった。
「ふーん、あれで10級かぁ。俺、倒せる気しないな……」
ギルドカードを作るとき、変に見えを張って剣士とかにしないで良かったよ。
自慢じゃないが、俺ならあの半分の時間でやられる自信がある。やはり俺にはモンスターテイマーが合っているようだな。
「そうと決まれば、早速仲間になってくれそうな魔物を探さないと」
俺はそう呟くと、その場を後にした。
「これは、ダメそう……」
俺はあれからしばらく彷徨っていたが、見つかる魔物はゴブリンばかりで、他の魔物が見つからなかった。
それならゴブリンを従魔にすれば良いと言われそうだが、それは無理だ。
だってあいつら、見た目が恐い上に戦闘になればまず勝ち目が無い。
一度だけ姿を見せてしまったが、その時は急に手に持った武器を振り上げて追っかけてきたので、そりゃもう全力で逃げさせて貰いましたよ。
それ以降、こそこそ動いて遠めに見るだけに留めている。
だがグラン師匠が言っていたような一目惚れ現象(勝手に名前付けてみた)は起こらず、俺自身もあんまりビビっと感じない。
もしかしたら俺、モンスターテイマーも向いていないのかもしれない……。
「……はぁ」
俺がそうして肩を落としつつ歩いていると、目の端に洞窟のようなものが映った。
今は場所を移動して少し森の深くまで来ていたのだが、自然に出来た洞窟なんて初めて見るので、落ちていたテンションが少しだけ上がる。
「ちょっと疲れたし、あの中で休もうかな」
俺は入ってみたいという誘惑を誰にいうでもない言い訳で隠しつつ、駆け足で洞窟の中へと入っていった。
「ふむ、当然だけどちょっと暗いな」
やはり洞窟というだけあって、光源になるものは全く無く、入り口から差す光のみだ。なので当然奥へ行けば行くほどに足元が見えなくなってくる。
今はまだ足元が見える明るさはあるので、もう少しだけ足を進めてみようか。宝箱があるかもしれないしね!
「真っ暗だな、全然見えん」
興味に駆られるがままに足を進めていると、気づけば本当に何も見えなくなる所まできてしまった。
一応壁に手をつきながら歩いているので、引き返そうと思えばいつでも引き返せる。
……さて、これ以上進むのは危険かな。
何となくついつい楽しくなって足を進めていたが、さすがにこれは危機意識が低すぎるだろう。というか、それに気づくのも遅すぎだろ俺。
「はぁ、全く……俺も見た目はともかく、中は大人なんだから少しは考えて行動しないと……」
「グルルルルル……」
「わっ! な、なんだ!?」
俺がそう自分を戒めていると何かの呻き声が聞こえてきた。、
その突然の声に驚いてしまい、つい壁から手を離してしまった。
「やばっ、命綱が! って、ちょ、おいおいおいおい! 壁どこだ!?」」
咄嗟に壁へと手を伸ばそうとするが、光源の無い所で正確な方向など分かるはずも無く、俺の伸ばす手は悉く虚空を切る。
「グルルルルゥゥ……」
「どうする、どうする、どうする!」
俺は焦る心を必死に落ち着けようと、無意識に言葉を繰り返す。
だが思考は空回りするだけでまともな考えなど思い浮かばない。その事がさらに焦燥感へと拍車を掛ける。
「グルルゥゥゥ!」
「ひっ!?」
心なしか、このうめき声の主が近づいてきているような気がする。
このままここにいてはまずい! 早く逃げ出さないと!
どっちだ? どっちに逃げればよい?
「グルルルルゥゥ……!」
「あぁもう!」
俺はその声に追い立てられるかのようにして、あてずっぽうに走り出す。
恐い、恐い、恐い!!
俺は一心不乱に出口目指して走り続ける。
そうして走っていると、目に見えて明るくなってきた。
「良し! こっちで合って――」
そのまま出口へと進もうとしたとき、出口の前から2つの影が差し込む。
その人型の姿に一瞬安堵するが、すぐに違和感を感じて急停止する。
冒険者にしては、小さすぎる。
そう思ったときには、すぐさま逆方向へと走り出していた。
「くっ! ゴブリンに見られてたのか! それで出口に張り付かれて……あぁもう! どうすれば!」
ゴブリン1匹にも勝てない俺は、このまま逃げ回るしかないだろう。
洞窟の中は真っ暗なので、やつらも入る事に躊躇しているはずだ。あとはさっき聞こえた呻き声の主をやり過ごせれば、きっとなんとかなる!
俺はそう自分に言い聞かせると、必死に足を動かす。だが自分でいくらそう思おうとも、じわじわと恐怖心は募っていく。
もし出会ったら? ゴブリン達に追いつかれたら?
だめだだめだだめだ! 考えてしまえば、頭がおかしくなりそうだ。
なるべくその考えを頭から振り切ろうと、走る事によって気を紛らわす。
「――なっ!?」
だが、それがいけなかったのだろう。
走っている途中、前に出した足の先に地面の感触が返ってこず、俺はそれを不審に感じる前に、全身で浮遊感を感じた。