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酔っ払いと模擬戦をしよう!

 

「ローウリィンが見えてきたよ!」

「死ぬかと思ったけど、何とか生きて戻れたな」

「1日ぶりなのに、どっと疲れた……」

 

 マカちゃんの言葉に続き、ショーくんとバズくんがそう続ける。

 俺はどうだろうか。洞窟内で気を失ったのもあって、何日街へ戻っていないのか良く分からない。

 

 でもそう考えるともっと疲労困憊になってたり、空腹を感じてそうなものなのだが、これもこの謎の身体機能向上で耐えられているのだろうか? まぁ何が理由であれ、便利な体になったものだ。

 

 俺達はそのまま何事も無く街へと入り、一緒に冒険者ギルドへ行くことにした。

 

 

 

 

 冒険者ギルドに入ると、冒険者だと思われる人たちがまばらにいるのが見える。中にはこんな真っ昼間から酒盛りをしている冒険者達もいるようだ。

 

 それはそうと、さっきから雪華が歩くたびにギシっ、ギシっと足元から鳴る音が気になる。

 ここの床は木造のようで、見た目と違って重たい雪華の体重では、床が抜けないかが非常に心配だ。もし雪華が飛んだり跳ねたりでもしようものなら、一瞬にして穴が開いてしまうだろう。大丈夫だとは思うけど、暴れないようにとりあえず抱っこしておくか。

 

「レインさーん」

「マカさんですか、パーティでの討伐はどうでしたか?」

「あはは……ちょっと危なかったかも」

 

 俺が雪華を抱え上げて慎重に歩いていると、マカちゃんは既に受付をしているようだ。

 遅れて受付までやってきて気づいたが、どうやら話をしているのは以前俺の登録をやってくれたお姉さんだった。

 レインという名前なのか。俺も知らない人ではないので、一声かけておくか。

 

「レインさん、先日はありがとうございました」

「あ、リューヤさんですね。あの時は随分と慌てて出て行かれましたので、少しびっくりしましたよ」

「……すみません」

 

 どうやら向こうも俺の事を覚えていてくれたようだ。

 ってそれもそうか、あんだけ不審な行動を繰り返す人物など普通はいないのだろう。あんまり変な印象をもたれてないと良いけど。

 

「はい、これ討伐証明ね……と、そうそう! さっきの危なかったって話だけど、このリューヤさんに助けてもらったんだよ!」

「あら、そうだったんですか。ということはリューヤさんも外へ?」

「えぇ、モンスターテイマーなので従魔を作ろうかと思いまして」

「凄いんだよ? モンスターテイマーって普通本人は戦わないのに、リューヤさんは自分から戦う上にすっごい強かったんだから!」

 

 マカちゃんが凄い俺を持ち上げてくれるが、ちょっと大げさすぎる気がする。確かにゴブリン程度ならもう負ける気はしないが、あれ10級らしいしなぁ。

 というかモンスターテイマーって普通は本人が戦う事はないのか。え、じゃあ俺の場合は雪華を前面に出して戦って貰うって事? それはちょっと絵的に情けなさ過ぎるだろ……。

 

「こう、ささーっと動いてズバっとやっちゃう感じで、おにーさんがいればどんな魔物や盗賊が襲ってきても安心だね!」

「いやいや大げさですよ。ゴブリン相手だったので何とかなっただけで」

「へぇ、そうなのですか。ところでその子は――」

「ほほう! 誰が強いって?」

 

 そうやって俺達が話していると一人の男が割り込んできた。酒の匂いがするな……酒場にいた冒険者だろうか。

 男の後ろにはその仲間だろうか、2人の男がジョッキを持って近寄ってくる。

 

「おい、どうしたジョニー」

「あん? こいつらがよ、強い冒険者がいるって話しててな」

「ほーう、って全員ガキじゃねぇか。しかも一人は子連れかよ! 冒険者舐めてんのか? あぁん!?」

 

 え、ナンスカこれ……。

 もしかして俺、酔っ払いに絡まれてる状況なのだろうか? でも何か3人ともガタイが良いし、恐いんですけど。

 おいギルドに酒場なんて作ったヤツ誰だよ。責任者出せ! 早くしないと俺が泣くぞ!

 

「おいお前そんなに強いならよ、俺とちょっと模擬戦してみねぇか?」

「は、はぁ……」

「あの、お待ちください。この方は最近登録したばかりで、10級の新人さんなのですよ」

 

 俺が気の無い返事でそう答えていると、受付嬢さん――レインさんはそう言って割って入り庇ってくれた。

 当人同士の問題だからといって放っておいても良さそうなのに、本当に良い人だなぁ。

 

「あ、私この人知ってる。確か最近7級冒険者に昇格したジョニーさんだ」

「あぁ! それで昇級祝いを兼ねて今日は祝杯をあげてんだよ! ガハハハ!」

「……私ずっと受付をしておりますが、かれこれもう5日くらい毎日やってませんでしたか?」

「おう間違えた、今日も、か! ガハハハ!」

 

 へぇ、7級冒険者なのか。見た目だけで見れば強そうなのに、冒険者の等級で言えばまだまだ下の方となると、昇級するのは考えていた以上に難しいのかもしれない。

 そういえば少し前、マカちゃんに5級冒険者くらいだと勘違いしたって言われてたが、そうなると彼らよりも強さで言えば上って事か?

 

 いやいや、落ち着けよ俺。マカちゃんもきっと社交辞令で言ってくれただけだろうし、何真に受けてるんだよ恥ずかしい……。

 

「で、坊主。この先輩ジョニー様がいっちょ揉んでやろうって言ってんだが、どうするよ」

「はぁ……そうですね」

  

 うーん、どうしようか。本当はギルドに報告してから食事して、あとはグラン師匠に報告してからゆっすり休もうと思ってたんだけど……でも自分の今の強さも気になるんだよね。

 この人も最初の印象は少し恐かったが、話をしている感じからそこまで悪い人じゃなさそうだし、受けちゃおうかな。

 まだ冒険者の強さってのも分かって無いので、勝てないまでもこれからの異世界生活の上で良い経験になるだろう。

 

「分かりました。それではジョニー先輩、ご指導お願いします」

「良いねぇ良いねぇ! じゃ嬢ちゃん、ちょっと訓練所の一画借りるわ」

「はぁ、もう仕方がないですね。では私が監督しますので、お互いあまり怪我をするような事しないで下さいよ?」

「ガハハハ! ちょっと新人に冒険者ってやつを教えるだけだぜ!」

「ご迷惑おかけします……」

 

 そうして話がまとまると、俺達はギルド内の訓練所へと向かう事となった。

 

 

 

 

 訓練所に着くと地面が土だったので、俺は安心して抱えてた雪華をおろしながら軽く頭を撫でてやる。

 

「雪華、ここでちょっと待っててくれる?」

「ん」

「マカちゃんもごめん、雪華と一緒に見ててね」

「はーい……けどこっちこそごめんね? 私がおにーさんの事を言わなければ、こんな面倒に巻き込まれなかったのに」

「大丈夫だよ、気にしないで」

 

 ここには俺と雪華は勿論だが、監督すると言った受付嬢さんのレインさん、そしてマカちゃんまでもわざわざ一緒来ていた。

 ちなみに他の3人の子達は、既に報酬も受け取り解散となっている。

 

 その中でもマカちゃんは俺を騒動に巻き込んだ原因を作っしまったと考え、責任を感じてここまでついてきてくれたようだ。

 そう考えてくれるのは嫌いじゃないけど、模擬戦を受けると返事したのは俺なので、彼女には責任を感じて欲しくないところだ。

 

 とりあえず彼女の負担が減るようにとマカちゃんの頭にも手を乗せ、雪華と二人優しく撫でてやる。

 ……ここでマカちゃんだけでなく雪華もずっと撫で続けているのは、そうしないと彼女が不機嫌になるからだ。俺だってこれまでの行動でちゃんと学習できる。

 

「ん」

「……うぅ」

 

 優しく髪を傷めないよう気をつけつつ、手触りを楽しむ。

 二人ともそれぞれ触り心地は違うが、どちらも癖になりそうだ。

 雪華はすーっと指が通る感覚が気持ち良くて、マカちゃんのはほわほわとした軽い弾力があり心地良い。

 

 はぁ、癒される……。

 

「おいこら新人! 何してんだ、早く用意しろよ!」

「はっ! す、すみません……と、じゃあ二人とも、ちょっと行ってくるね」

「ん」

「は、はいぃ……」

 

 やばいやばい、あの感触は時間を忘れてしまう魔力を秘めているようだ。気をつけないと。

 俺は二人に慌ててそう告げると、待たせてしまっていたジョニーさんの元へとすぐに駆け寄る。

 

「てめぇが子供好きなのは分かったからよ、さっさと武器を持ってくれねぇか?」

「あはは……」

 

 そういうつもりはないんだが、それで待たせてしまってた以上言い訳も出来ないので、とりあえず笑って誤魔化しておく。

 

 それはそうと、武器か。

 ジョニーさんを見れば木刀のようなものを持って、肩の上をトントンと叩いている。あれで殴られるのは痛そうだなぁ……。

 

「あの、出来ればそれと同じものが良いのですが……」

「あぁん? そう思うならとってこいよ。ほれ、あそこに武器あるだろ?」

 

 ジョニーさんが視線を向けた先には、訓練用の武器っぽいのが一杯に並んでいた。

 俺はこれ以上待たせないよう走ってそこへ行くと、同じ木刀を持って彼の前に戻る。

 

「すみません、ここに来るのも初めてなもので……」

「構わねーよ。よし、そんじゃいっちょやるか! ギャラリーも増えてきた事だしな」

 

 うぇ……マジだ。

 多分受付前で騒いでいたので結構目立ってしまっていたか。遠巻きに10人前後の見学者が見えるが、大半が飲み物の入ったジョッキ片手に談笑しているので、酒場で飲んでいた人達だろう。

 

 はぁ、何だか見世物みたいだな。別にいいけど。

 

「んじゃ準備は出来たな? それじゃ行くぜ」

「はい、お願いします」

 

 俺がそう言うとジョニーさんは木刀を両手で持ちなおし、すぐに距離をつめてきた。ゴブリンよりは幾分か早い……けど

 

 まだまだ遅い。

 

「構えがなっちゃいねぇ――なっ!?」

 

 ジョニーさんが放った袈裟斬りを木刀で受け止めると、一瞬驚きの表情を浮かべてすぐに後方へ跳び距離を開ける。俺はそれを黙って見送り、今の感触を反芻させる。実際のところ避ける事も出来たが、単純な力を見たかったのだ。

 そうして受けてみた感想は……こう例えるととても申し訳ないのだが、雪華が軽く飛びついてくる方が速度も威力も高いと思う。

 

「……そこそこやるようだな、じゃあこれはどうだ!!」

 

 ジョニーさんは木刀を片手に持ち替え、今度は連撃を放ってくる。力押しが出来ないと考えての作戦変更か。酔っ払いかと思っていたが案外冷静らしい。

 

 俺はせっかくなのでジョニーさんを観察しつつ、迫りくる太刀筋を全て避け続ける事にする。こうして間近で見ていると、剣の扱いというのは実に奥深い事がよくわかる。振り下ろす姿勢や体捌きは勿論の事、目線の動きやフェイントのかけ方なども凄く参考になりそうだ。

 

 斬りこむ途中で角度を変えたり、または手前に少し引いて突きに切り替えるなど、本当に色々と手が込んでいる。まぁ鉄や鋼の剣で同じ事は出来ないだろうが、扱ってる得物によって戦い方をすぐに変えられるのは、純粋に凄いと思う。

 足運びも見ていると面白い。付かず離れずの距離で木刀を振ってきているが、しっかりと反撃された時の事も考えているのか、身体の重心を少し後ろに置いている。おっと! またフェイントか。俺も早くこのぐらい動けるようになりたいものだ。

 

 そのまましばらく見続けていると、徐々にジョニーさんの剣を振る速度が落ちてきた。

 どうやら俺が夢中になっている間に、随分と体力を消耗して息が上がっていたようだ。……俺としてはもう少し見学させて貰いたかったが、これ以上はもう持ちそうにないな。

 

 さて、そうなるとそろそろ終わらせたいと思うんだけど、どう動こうか?

 

 模擬戦に誘われた当初は勝てないと考えていたが、このままだと確実に俺が勝ってしまう。

 こんなにギャラリーがいる前で10級冒険者に負けてしまえば、ジョニーさんもかなり体裁が悪いだろう。なら俺がどこかで負けないとマズいよな。

 

「くそ、ちょこまかと! うおぉぉぉ!!」

 

 そこに都合よく、ジョニーさんの必殺っぽい力を篭めた切込みが入ってきた。

 よしっ、これだ!

 

 俺は渡りに船とばかりにそれを木刀で受け――力強く地面を蹴って後ろへ飛ぶ。

 

 ――しまった、強く跳びすぎた。

 

 瞬間、轟音が響き渡る。

 どうやら勢いを付けすぎたせいで、壁にものすごい速度で突っ込んでしまう。

 

「…………やば」

 

 俺はめり込んだ壁からすぐさま脱出すると、後ろを向いて冷や汗を流す。

 ヤバい、訓練所に少なくない被害を与えてしまった……やってしまったな。負けを演出するだけならこんなに派手でなくても良かったのに。

 え、これもしかして修繕費用とか取られるのかな? お金なんて無いんだけど……。

 

 と、とりあえず最悪な場合でも責任は折半だよね? ジョニー先輩は7級冒険者なんだし、連日宴会を開けるくらいだ。少なくとも俺より金持ってるよな。

 俺は背中に嫌な汗をかきつつ、ジョニーさんが待っている所へと向かう。

 

「……さすが7級冒険者のジョニー先輩。最後の切り込み、驚きましたよ」

「……」

 

 まずは相手を持ち上げて、会話出来る状態にしないと……ってあら? せっかく勝ちを譲った上に賞賛までしているのに、反応がないぞ? もしかして責任を分散しようとしてるの、バレてる!?

 そう思ってジョニーさんを見上げてみると、変な顔をして固まっていた。

 

「あの……」

「はっ!? ……あ、あぁそうだな。思い知ったか」

「はい、とても勉強になりました! ……それで、壊れてしまった場所なんですが、弁償とかさせられたり……」

「そ、それは大丈夫だ。10日に1回ギルド側で修繕するからな。心配しなくて良い」

 

 お、そうなのか。

 修繕費用って高いイメージあったから、本当助かった。もしお前が払えなんて言われたらどうしようかと思ってたよ。

 

「そうなんですね、良かったです。本日はありがとうございました! それではこれで私は失礼させてもらいますね」

「あ、あぁ……」

 

 俺はそう言うと、持っていた木刀を元の場所に行って元に戻し、雪華のところへと駆け寄る。

 

「ごめんごめん、待たせたね」

「ん、リューヤ、下手くそ」

「え? 何が?」

「……」

「……あはは」

 

 すると突然そんな言葉とともに、ジトっとした視線を向けられる。

 何の事かわからない俺は少し焦りつつ雪華にそう聞くが、黙ったままじっと見られるだけであり、隣にいたマカちゃんにまで苦笑されてしまった。

 

 うぐ……何か悪い事でもしてしまったのだろうか。

 

「リューヤが良いなら、良い……ん」

 

 俺がおろおろとしていると、雪華がそう言って両手を突き出してくる。抱っこの合図だ。

 良かった。何かしでかして雪華に嫌われてしまったわけではないようなので、俺は安堵しつつ雪華の両脇に手を入れて持ち上げ抱えてやる。

 

 ……ふむ、本人には言えないけど、やっぱりジョニーさんの一撃よりも雪華の体重の方が遥かに重いな。

 俺は雪華を抱えやすい場所に調整しながらそんな失礼な事を考えつつ、これ以上他の人などに絡まれないようそそくさと訓練所を後にした。

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