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街までのんびり帰ろう!

 

 目の前の焚き火がパチパチと音を鳴らすのを見て、俺はため息を吐く。

 

 今はもう完全に日が沈み、夜になっている。

 あのあとすぐに雪華には元の状態に戻ってもらい、一緒に子供達を木陰まで運んで目を覚ますのを待っていたのだが、いつの間にやら夕方になっていた。

 たっぷり気絶していた子達はその頃になってようやく目を覚ましたが、驚いたショックが抜けきっていなかったようだったので、夜が明けるまで休んでもらう事にしたのだった。

 

 その際に、冒険者は夜に見張りを立てて交代で休憩を取るというのを聞いたので、疲れた表情の子供達にお願いするのもなんだかなぁと感じ、俺と雪華で引き受ける事にした。

 まぁここは前にいた世界と違って、平気で人殺しモンスターが闊歩している異世界なのだ。言われるまでは気づかなかったけど、確かに見張りは必要だろう。

 

「……ん」

「眠い? 火は俺がみとくから寝てても良いよ」

「起きる」

 

 俺を背にもたれ掛かっている雪華は、ちょっと眠そうだ。いつも眠そうな目がさらに薄っすらとしかあいていない。

 だがさっきから寝ても良い事を伝えてるのだが、ずっとこの調子なのだ。もしかして俺じゃ頼りない感じなのかな。……うぅ、竜也さんは少し悲しいぞ。

 

「でも疲れてるでしょ。寝てる間しっかり見張っとくから、俺は気にせず安心して寝てても良いんだよ?」

「疲れてない、眠くない。ん、リューヤ、ぎゅっ」

 

 雪華からそんな可愛らしいお願いをされた俺は、さっそく後ろに付いていた手を前に回し、雪華を抱きしめてやる。

 すると雪華はさらに俺の手の上に自分の手を重ね、嬉しそうな表情になった。

 

 喜んでもらえて何よりだ。

 ……だが実はこの姿勢、少々辛い。

 

 なんたって雪華はかなりの重量があるのだから、それを支えている俺は相当の負荷が掛かっているわけで……後ろ手をついていれば問題は無いのだが、前に回してしまうと腹筋と愛の力で絶えるしかないのだ。

 でもそれを雪華に知られる訳にはいかない。多分それを知ってしまえば優しい雪華の事だ、今後遠慮して寄りかかってくれなくなるだろう。それは俺が絶対に嫌なので、ここは涼しい顔をして耐える場面なのである。

 

 そんな風に頑張っていると、後ろの方で音が聞こえてきた。

 多分休んでいた子達の誰かが起きてきたのだろう。こちらに迷いのない足取りで近づいてきた。

 

「……すごく仲がいいんだね」

「ん、リューヤとセツカ、仲良し」

「おはようございます、体調はもう大丈夫ですか?」

「うん、でもそれより……ごめんね? 助けてもらったり変な事言ったり……倒れたり……」

 

 顔を上げると、一番コミュ力が高かった女の子が来ていた。

 言葉の通り顔色も良さそうで、彼女は少し恥ずかしそうに視線を逸らしている。

 

「まぁそれはこちらも悪かったと思ってます、ドラゴンって珍しいんですか?」

「おにーさんって面白い事言うね? 普通に暮らしている限り、ドラゴンなんて目にする事なんてないよ」

「あはは……」

 

 彼女の言葉に笑ってごまかすと、女の子は隣に腰を下ろしてきた。……何か近くない?

 

「あ、そうだ! 私の名前はマカ。多分ほかの子もまだ名乗ってないと思うから言っておくと、その子を見て顔を赤くしてたのがショーで、もう一人の男の子がバズ、最後に女の子がラアラだよ」

「私はリューヤと言います、それでこの子が」

「セツカ」

「リューヤさんとセツカちゃんね! よろしく!」

 

 マカはそう言うと、俺の手をとって元気に挨拶をしてくれた。さっき失神させられたのに、精神的にタフな子だな。

 

 俺はマカに手をとられつつ、改めてマカと名乗った子を見てみた。

 青髪でふわふわとしたクセのあるショートヘアに、少し釣り気味の目と幼さと愛嬌のある顔立ち。彼女の性格もあわさってか、何だか懐きやすい猫のような印象を受ける子だ。年齢は多分12歳前後くらいか? 見た目の割りにしっかりしてる子だ。

 彼女の格好は武器になりそうなものが腰にあるナイフだけのようで、何をしている人なのか想像が難しい。あるかは知らないが、盗賊とかシーフの肩書きかな? でもそれって一歩間違えれば犯罪者みたいな肩書きだし、さすがに違うか。

 

「えぇと、マカさんは」

「うん、おにーさんちょっとまって」

「?」

「丁寧な口調も良いんだけど、何か変な感じしちゃって……おにーさんが嫌じゃなければ、セツカちゃんに使ってるような砕けた口調が良いな」

 

 む……なかなか難しい事を言いよる。

 雪華はもう慣れたが、はっきりいって俺はあんまり子供相手をした事がない。だからこそ万人共通で失礼の無い敬語崩れを使っていたのだが、変えろと言われると少し難しい。

 それに雪華に対しての口調は、雪華専用だし、他の人にも同じ接し方をするのはちょっとなぁ。

 

「……ごめんなさい、ちょっとずうずうしかったですかね、私」

 

 俺が考えあぐねいていると困っているのを察してくれたのか、態度と口調を少し距離の開けたものに改め、小さな微笑みを向けてくれた。だがその笑みはどことなく悲しそうだ。

 うぅむ、困っていたのは確かだが、子供にこんな表情をさせるのはなぁ。……はぁ、仕方無い。普段の口調はちょっと酷だから、少し優しめにテイストした感じで接する事にしよう。

 

「わかったよ、マカちゃん」

「っ!」

「む」

 

 俺が多少砕いた口調でそういってやると、マカちゃんの何かに触れたようで、恥ずかしそうな表情でバッと下を向いた。

 代わりに雪華が少し不機嫌そうな声を上げて、いまだに俺の手を掴んでいたマカちゃんの手を振り払うと、まるでここが定位置! というかのように自分のお腹へと寄せる。

 

「えっと、雪華?」

「ぎゅっ」

「……はいはい」

「ん」

 

 また雪華がせがんできたのでちょっと強めに抱きしめてやると、すぐに機嫌が戻ったようだ。

 なんだろう、もしかして焼き餅とかかな? 全くいちいち可愛いなぁもう。

 

 そうやってじゃれていると、いつの間にかマカちゃんは復活しており、こちらをぽーっとした表情で眺めてきていた。

 

「どうしたの?」

「……へ!? うぅん、何でもないよ!」

「そう?」

 

 それからしばらくは3人……と言っても雪華はほとんど喋らないので実質マカちゃんと二人で、夜が明ける2、3時間ほど話し込んだ。

 

 

 

 

 夜も明けて翌朝、他の3人も起きてきたので早速街へと向けて出発する。

 道中ゴブリンが出てくる事もあったが、俺が前回の戦闘で腹を決めたのもあってか、サクサク倒す事が出来た。一緒にいるマカちゃん達に任すと時間が掛かってしまうので、基本的には俺1人での戦闘だ。

 そうそう、そういえば冒険者はゴブリンを倒すと、証明の右耳を持っていけばお金がもらえるという話をマカちゃんから聞いたので、生理的に少し気が引けたが耳を削いで持って帰ることにした。これも慣れが必要だな。

 

 そうしてまたゴブリンを一太刀で倒すと、マカちゃんが駆け寄ってきた。

 

「やっぱりおにーさん強いね」

「そうはいっても、まだ俺10級冒険者なんだけどね」

「へー……えっ!?」

 

 俺の言葉に始めは笑顔で流していたが、急に驚いた表情でこちらにがばっと向いてきた。び、びっくりした……二度見されるのって初めてだよ。

 

「えーと、冗談だよね? 私でも9級なんだけど」

「そうなんだ、先輩だね」

「いやいやいや! 私おにーさんの事は少なくとも5級以上、いや、3級くらいかと思ってたのに……」

「まぁ冒険者登録したのも数日前だしね」

「あ、そなんだ。なるほどねー、なら納得かも。……それにしても昨日話してて思ったけど、おにーさんって強いのに結構何もしらないよね。もしかしてすっごい僻地からきたとか?」

「あはは……まぁそんなところかな」

 

 俺はマカちゃんの言葉に顔を引きつらせつつ、誤魔化す事にした。僻地っていうか異世界です。とは言えないしなぁ。

 

 加えて無知な事にも今は少し反省している。

 命の危険がある場所に何も確認しないで出発とか、あの日の俺はどんだけ行き急いでいたんだろうかと思う。雪華と出会えなかったらもう完全にアウトだっただろうし、今後は俺の不注意に雪華まで巻き込まれる事を考えると、もっとしっかり気をつけないといけない。

 よし、ここは素直に受け止めて、早速冒険者の先輩に教えてもらおうか。

 

「先輩、この辺りは他にどんな魔物がいるんですか?」

「あはは、その呼び名と敬語はやめて欲しいかな……コホン、この辺にでる魔物だよね? えーと、ゴブリン以外だと、ワイルドドッグ、オーク、ラースラビットかなぁ。ちなみにゴブリンが10級で、ワイルドドッグ、オークが9級、ラースラビットが8級だよ」

「へぇ、マカちゃんは物知りだね」

「……うん、このくらいなら普通、皆知ってるからね?」

「うぐ……」

 

 マカちゃんは中々に手厳しい。

 それはそうと、どれも名前から連想できそうな魔物で少し安心した。要するに犬と豚と兎だろ? 何かこうやって並べるとゴブリンより弱そうな気がするな。

 

 ちなみに魔物の等級だが、これもやはり1級が一番強いらしい。その上に特級というのもあるみたいなのだが、魔王が現れたときにしか使われないらしく、今は該当する魔物がいないと言っていた。

 ふむ、あの管理者は魔王を守れといっていたが、まだ人に見つかってないのかな? 出来ればこのまま出てこないでいてくれると、世界規模で助かるんだが……まぁ今出てこられても何も出来ないし、出てきたときに考えよう。

 

 少し脱線した。

 続いて等級別の魔物の強さだが、10級の魔物1匹に対し、10級の冒険者がパーティを組んで挑めば大体倒せるといったレベルみたいだ。

 等級がかわってもそれはかわらないようで、大体自分のパーティにあった等級の魔物と戦えば、運が悪くない限り倒せるとの事。ただこの辺りの情報も、本来なら冒険者ギルドで聞いておくべきだったよね。はぁ……。

 

「よし、これで最後っと」

「4匹で一気に襲ってきたときはびっくりしたけど、おにーさんがいれば街までは安心だね」

「うん、色々情報教えてくれたしね、道中の戦闘は任せてくれて良いよ」

 

 そう言ってゴブリンの耳を荷物に詰め込むと、少し離れていた雪華や他の3人が居る場所へと戻る。

 

「……」

 

 戻ってみると、残ったバズくん、ショーくん、ラアラちゃんに雪華の誰も喋っておらず、気まずい沈黙が流れている。なぜか男の子2人は雪華から結構な距離をとって警戒……もとい、ビビってた。

 確かに人かと思ったらドラゴンでした! なんてなれば普通は恐いか。でも、だからってなぁ……こんなに愛らしいのに。

 

 とりあえずこのままにしてはおけないので、つまらなそうな表情でしゃがんでいる雪華に声をかける。

 

「お待たせ、雪華」

「ん」

「あ……」

「……」

 

 俺に気づいた雪華はてててっと駆け寄り、すぐに手を握ってきた。それを見た男の子達はどことなくほっとした表情をしている。うーん、これはあまり雪華のためにも離れない方がいいかもしれないな。

 そして少し後ろにいたラアラちゃんも俺を見つけると、小さく礼をしてマカちゃんの近くに寄っていった。こっちの子はまだ話をしたことはないが、男の子達とは違って特に雪華を恐がっている様子もないので、単に静かな子なのかもしれないな。

 

「そういえば皆さんは、何をしに外へ?」

「8級に上がるため、です」

「指定された魔物で、討伐証明が出来るものを1種類の魔物につき最大10個、合計20個用意出来たらパーティごと昇格出来るんだよ」

「へぇ、どんな魔物が指定されてるの?」

「さっき話に出した4種の魔物だね。けど最低1種類1個は必要だから、ゴブリンを10と、後は9級指定で適当に19個まで埋めるつもり」

「なるほど」

 

 つまり冒険者も級によってそれぞれ昇格条件があって、満たせば次の級に上がれるという事か。

 だが8級に上がるのに最低でも1匹の8級指定の魔物を狩らなければならないのか。1つ等級を上げるのも結構大変そうだな。

 

 また、パーティで昇級後にソロへと戻っても、パーティだった時の等級がそのまま適用されるそうだ。

 

「今はどのくらい進んでますか?」

「……」

「……あはは」

 

 男の子は黙り込み、マカちゃんも苦笑で答える。どうやら芳しくないようだ。

 ならばとゴブリンの耳を渡そうと提案してみたが、やんわり断られる。マカちゃんが言うには、「自分達の実力で倒せないと意味ないから」だそうだ。本当に見た目の割りにしっかりしている子だ。

 

 だが少し空気が重くなったのも確かなので、話題転換をする。

 丁度聞きたかった事もあったので、俺は隣を歩くマカちゃんに口調を崩して聞いてみた。

 

「あ、そうだ。良かったら9級への昇級条件を教えてくれないかな?」

「えっと、私が知ってるのは2種類あって、10級の依頼を5個達成するか、ゴブリン討伐証明部位を10個用意すればなれるんだよ」

「何で2つあるの?」

「まぁ冒険者って言えば、やっぱり強さを基準としてるところがあるからね。強い人にはさっさと昇級してもらおうって事みたい」

「そっか、色々ありがとねマカちゃん」

 

 そう言ってくマカちゃんの頭を撫でつつ、倒したゴブリンの数を思い返す。

 実は歩き出してから結構な頻度でエンカウントしており、既に13個の耳が荷物に収められていているので、知らぬ内に条件を満たしていたようだ。

 

 街に戻ったら冒険者ギルドへ行くことにして、あとはグラン師匠にもテイム報告しておこうかな。

 

「あの……」

「あ、はい、どうしました?」

 

 考え事をしながら歩いていると、珍しくラアラちゃんから話しかけて来た。

 

「マカが悶えてますので、そろそろ……」

「あ」

 

 その言葉に隣を向くと、マカちゃんは恥ずかしそうな表情で俯き、「うぅ……」と唸っていた。どうやら無意識にずっと撫で続けていたようだ。雪華と2人の時は暇さえあれば撫でていたので、早くも癖になっているのかもしれない。

 とりあえず言われてすぐに手を離してやると、マカちゃんは一瞬顔をあげて「あっ」と小さくこぼし、俺と目が合うとすぐに何かを誤魔化すようにして、ラアラちゃんの手を引いて俺から離れた。

 

「……ラアラのばか」

「え?」

「うぅん、なんでもないよ」

「そ、そうですか?」

 

 本人は小声のつもりだと思うが、その声は俺の耳に届いていた。

 あらら、指摘されたマカちゃんが少し拗ねているみたいだ。まぁ皆の前で指摘されるのは恥ずかしかっただろうし、少し悪い事をしてしまったか。

 

 前を歩く2人を見ながらそんな事を思っていると、雪華がずいっと前に来て俺の手をとった。そしてそのまま自分の頭の上に乗せる。

 

「ん!」

 

 あ、あれ? なんかちょっと不機嫌に見えるような?

 俺はその後、雪華が満足するまで頭を撫で続けさせられたのであった。

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