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運命

作者: しんる

それは決められた道必然の道

通る事を義務づけられた道

でも

わたしは思うように生きられる好きな道を進める

わたしの道を決めるのが運命だとするならば

わたしの通る道が全て運命ならば

きっと

運命っていうものは今決められるのだ

今はまだ1年後も一ヶ月後も1日後も一時間後も1秒後も

何も決まってないのだ

通った道を振り返ってその道を見つめて

わたしはその道の事を運命と呼んだのだ




運命の出会いとか、そういうものは何も信じていない。くだらないものとして一掃する性質だ。

そんなもんに振り回される気はねぇ、それが俺の考え方だ。

似たような理由で宗教も信じない。

こういうことを言ってると科学で証明できない事以外は信じない奴なのかと思われるときもある。

だがそれは間違いだ。

科学で証明できないもので信じてるものもある。

人が俗に『ユウレイ』と呼ぶ奴だ。


「帰ってきたのか・・・」

いまいち実感はわかない。

ここは俺が小さいころ去った街である。

1人で住むならここに住もうとずっと決めていた。

あのころあったどぶ川は見当たらない。住んでいた新品のマンションはぼろくなっている。

小学校に上がる前まで住んでいたあの街に俺は戻ってきた。

あのころの不思議な思い出とともに。


おかしな話だが俺は幽霊を見ることができ話すことができる。

幽霊友達も何人かいる。

この街にもいた。

二十ちょいのお兄さんでなーんか調子のイイヤツだった。

小さい俺に付きまとっていて何処に行くのにもそいつがいた。別に害は無かった。

でも、引越しの際にはついてこなかった。

なんか難しいとこを言っていたのだけは覚えている。小さかったから理解できてなかった。

なんだったのか今でもおもいだせねぇ。

それが知りたいし、この街が好きだしそれで戻ってきたのだ。

俺は自分のアパートに向かって歩く。

昔住んでたみたいなマンションにゃ今の俺じゃ住めるわけが無い。町外れのボロアパートの一室だ。しかも幽霊が出るとかなんとかで格安。

すこぶる俺向きの部屋ではないか。アイツの居場所を探れるかも知れねえし、案外調子の良い漫画みたいにアイツが出るのかも知れねぇし。


住む人がいなかったその部屋に入ったことで、大家さんからはかなり良い扱いを受けた。

部屋を見渡す。ほとんど何も無い部屋。俺の新生活だ。

さあ、チャっチャと幽霊さんとの対面を済ますか。

俺は鞄から本を取り出す。

・・・

すぐよってくるし・・・

本を開けたまま俺は右隣の幽霊に視線を合わす。

なんと言うか・・・デキレースだ。

「久しぶりだな、センジ」

「あの小さかった子がこんなに大きくなっちゃって・・・」

あいつは覚えのあるニヤリ顔を俺に向けていた。


「漫画のような運命の出会いだよね」

ケタケタと笑いながらあいつは言った。

「幽霊が出るってアパートを借りたらおまえが出るんだもんな」

「ホントに大きくなっちゃって・・・」

「もうそれはもう良いって」

談笑、幽霊と。変な話だ。だがこれが俺の真実。

「そう、ところでさ」

あの気になっていた事を俺は切り出す。

「あの最後の日、おまえ何言ってたんだ?」

覚えてない事に怒るような奴ではない。記憶力が悪いとか言って馬鹿にされるだけだ。

「何それ、冗談きついよ〜」

「いや、まじで」

へらへらといつものアイツだったのが意外そうな顔をする。

「ホントに覚えてないの?」

俺は頷く。

「それでも、戻ってきたんだ・・・」

「なんて言ったのかが聞きたくてさ」

「そっか・・・それはな」

真剣に俺はあいつを見つめる。アイツはニヤリと笑う。

「秘密だ」

「はあ?!」


あいつは楽しそうに「自分で思い出せ」といった。おまえと違って俺はとりあえず大学生で時間が余ってるわけじゃねぇぞ・・・。

大学が終わってからあのころ住んでいたマンションの近くを通る。

思い出せない。

もう十五年以上考えて思い出せなかったのだ。思い出せるとは思わなかった。

「もう大学終わったの?」

「おまえまたうろついてんだな・・・」

あのへらっとわらうあいつの顔がそこにあった。

「・・思い出した?」

「ぜんぜん」

あいつは人が困っているの見るのが趣味に含まれていたっけ。


「だー。もう一週間も立つじゃねえか」

「ホントにいつになったらおもいだすのかねぇ?」


「3週間目突入だね」

「う〜」


土日は大半二人で過ごしている。しゃべる分だけ昔の事を思い出す。あの事以外だが。

そして今日、四回目の土曜日。

「熱があるね。身体弱いの?」

「昔はそうでもなかった」

「ニ十数歳の昔なんてたかが知れてるよね」

「悪いが俺は人並みの感覚なんで・・・」

風邪を引いたのは久しぶりだった。

「いつも思うんだ。近くの人が病気になるのは俺が幽霊だからじゃないかって」

「何言ってんだおまえは。そんなん証拠の無い話だろ」

少し翳った笑顔があった。

あの時と同じ顔だ。さびしそうな、かげりのある顔。思いでの彼が口を開く。

『そうだよな。友達でいれるよな』

そうだよ。一緒にいよう。

『もしも――――』

「おーい」

あいつのヘらっとした顔があった。

「大丈夫?」

おそらくかなり嫌そうな顔をしてみせたのだろう。あいつはおずおずと手をひいた。


「寝ていたのか」

おそらくのどの渇きで起きたのだと思う。

「センジ・・・?」

いない?気配と言うか感触と言うかがない。

嫌な予感がする。

あのときみたいに離れ離れになるのだろうか?

「いや・・だ」

俺は動かない身体を無理矢理動かす。

走りたいが走れそうに無い。身体がだるい。

意識は朦朧とする。一体俺は何処に向かっているのだろう?

足が勝手に動いている気がする。何も動いていない気もする。

只気がついたらあのぼろくなっているマンションの前だった。

夜中。二人しかいない。

あいつと俺と。

「あの時もこうだったよな」

最後の夜に俺はここに立った。

「『いっしょにいこうよ』」

あいつが降りかえる。あの時と一緒。

「『無理さ。俺は幽霊でしかなから』」

「『なんでだよ。うまく行かない証拠なんか無いよ』」

「『そうかな?そうだよな。友達でいれるよな』」

「『そうだよ。一緒にいよう。』」

「『・・・もしもそうだとしても』」

俺がさえぎる。

「『俺は行かない。おまえが戻ってきてくれるのを待っているよ。』」

あいつは驚いた顔をする。そして続きを続ける。

「『そして戻ってきてくれたのなら、それからあとはずっと一緒にいよう』」

あいつはニヤリと笑った。俺は笑い返した。

「これからは」

「ずっと一緒だ」

手も握れない、肩もたたけない実体の無い彼。

俺が戻ってきたのは、今振り返ると運命でしかないのだろう。


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