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光のもとでⅠ 第八章 自己との対峙  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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14 Side Kaito 01話

 俺と司は湊ちゃんちの司の部屋で勉強をしていた。

 勉強の手応えは、今回のテストがやばいというより、司の作る模擬テストが容赦なく難しくてクリアできないだけだと思いたい……。

 いつものように俺はローテーブルを使い、ツカサは窓際の黒いデスクで各々の勉強をしている。

 司の背中はいつもとなんら変わらない。面白いくらいになんの変化も見せないひとつ上の従兄。

 冷静沈着なのは知ってるけど、仮にも好きな女のところにライバル――秋兄が会いに行っているともなれば、少しは態度に表れてもいいものではないだろうか。

「海斗……俺を見ながら物思いに耽る余裕があるのか?」

 背を向けられたまま問われる。

「司……こっち見てねーのになんでわかるんだよ」

「注視されていたら嫌でも気づく」

 あ、侮れん……。

 夕飯のときにでもそれとなく訊いてみようか……。少なくとも、今は訊いちゃなんねぇ。まだ数時間はこいつの作った問題集と格闘しなくちゃいけないわけで、自分の首を絞めるようなことは回避回避回避っっっ!

 そう自分に言い聞かせるも、意識は違うほうへと逸れる。

 ゲストルームにいるであろう翠葉は大丈夫だろうか……。

 翠葉は秋兄のことを好きだと言った。でも、それと同じくらいすごく怖いとも言っていた。

 そんなあいつはどんなふうに秋兄と対峙するのかな。また、秋兄はそんな翠葉とどんな話をするんだろう……。

「――はい、終了」

 え……?

「ずいぶんと白さが目立つ答案用紙だな」

 いつの間にか、俺の目の前にあった答案用紙が司の手に渡っていた。司は爽やかに微笑み、

「どうやら夕飯が食べたくないらしい」

 やめてくれっ、俺から夕飯を取り上げるのだけは勘弁してくれっ。

「何ごちゃごちゃ考えてるんだか……」

 司は呆れたような顔で部屋を出ていった。

 たぶん、コーヒータイム。司は厳しいけど、俺の集中力が切れる頃には必ず休憩を入れてくれる。そして、司が入れるコーヒーは秋兄が淹れるコーヒーと同じ味がするんだ。飲むたびにそれを感じるけど、口にすると嫌な顔をされるのが目に見えてるから言いはしない。

 ……もし、すごく仲のいい友達や兄弟、従兄とライバルになったらどんな気持ちになるんだろう。

 俺には想像ができなくて、でもやっぱり負けたくないと思うんだろうな、などと思ったり……。けれども、決定権は好きな子にあるわけで……。

 どこまで自分がその子に近づけるか――その子の気持ちを自分に向けることができるか。

 きっとそんな感じなんだろうな。でも、司と秋兄だとタイプが正反対すぎる。

 秋兄はどこまでも積極的で、司は動かなすぎ。少なくとも、今の司を見ている限りだと、俺にはそう見えるわけで……。

 司は何をどう考えているのだろう。あいつに限って何も考えてないわけはないだろうし……。

 ――余裕、なのかな? 秋兄相手に……?

 はっと気づいたときには、コーヒーのいい香りと共に司が立っていた。

「あのさ、司ってすんげぇ余裕だったりする?」

 口にした瞬間にまずったと思った。

 夕飯まではまだ遠い。でも、気になって勉強どころでもない。俺、今日の夕飯は抜きかもしれない。

 そんなことを考えていると、司は小さなため息をついてデスクへと戻った。

「それ、テストの話? それともそれ以外?」

 デスクチェアに掛けた司はものすごく嫌そうな顔で訊いてくる。でも、尋ねてくるってことは答えてもらえるのかもしれない。

「主にはテスト以外の話です」

 冷や汗をかきながら正直なところを口にすると、うんざりした様子で核心をついてきた。

「翠のこと?」

「今日、秋兄が翠葉に会いに行ってるの知ってるじゃん……」

「……だから?」

「全然うろたえてないっぽいから余裕なのかな、って……」

「……昨夜、姉さんにも同じこと言われた。俺、そんなふうに見えるんだ?」

「……少なくとも、動じてないようには見える」

「動じてない、か……」

 司はカップに口を付け、コーヒーを一口含んだ。

「……焦っても仕方ないから、今は翠の体調と気持ちを優先させる。姉さんにはそう答えた」

 なるほど……。じゃ、これにはなんて答えてくれるかな。

「司……仲のいい人と好きな人が一緒になるってどんな感じ?」

「……それ、愚問じゃない?」

 それはそうなんだけど……。

「……負けるつもりも譲るつもりもない」

 せっかくお答えのところ大変申し訳無いのですが……。

「現時点でおまえ負けてるじゃん?」

 無言の司が視線だけを寄こす。

 しまった――俺としたことが心の声がそのまま……。

 思わず身構えたものの、容赦ない反撃は来なかった。

 司にしては珍しく視線を宙に彷徨わせ、

「どこからだろう……」

 ひとり言のように呟くそれに「何が?」と問いたいのを懸命に堪える。

 今は考察中のようだからしばし待てっ。待つんだ、俺っ!

「……翠を好きだと自覚した瞬間は確かにあったと思う。負けたくないとか、人に取られたくないとか……。でも、いつからか翠が笑ってればいいかなって思うようになってた。……今は、それを求めて動いてるだけなんだ」

 司は俺に言ったわけじゃないと思う。たぶん、自分でもよくわかってないんだ……。

「司は翠葉が第一なんだな?」

 この司が自分以外の人間に合わせることをものすごく意外だと思った。でも、心のどこかで司らしいとも思った。

 俺にはまだよくわからないけど、人を好きになるって、たぶんこういうことなんだろうな。必要以上に執着したり、自分よりも相手を大切に思ったり。そんなふうに思える人間がいることが少し羨ましいかも。

 司はあまり自分から人に関わるタイプじゃない。けど、人を見る力はあると思う。どんな人間でも適材適所に配置する能力があるっていうのは、観察力があるってことだと思うから。

 司は翠葉の本質をどう見抜いているんだろう。翠葉からは何を引き出すのかな。

「なぁ、司」

 司は無言で俺を見る。

「たとえばさ、ものすごく仲のいいふたりが同じ女を好きになったとして、俺はどっちを応援すべきかな」

 司は口に付けていたカップを慌てて離し、ゲホゴホと咽た。

「……大丈夫か?」

 ずいぶんと苦しそうだけど……。

「人が飲み物飲んでるときに変なこと言うな」

 言いながら、気管に入ったであろう液体を出そうとしていた。少し落ち着くと、

「翠が――誰を選んでも『良かったな』って言ってやって」

「……え?」

「俺や秋兄の応援をする必要はない。以上、休憩終わり。これ、二十五分で解いて」

 えぇぇぇぇっっっ!?

「司様っ、五分ほど短いけどっ!?」

「休憩が五分伸びればどこかで調整する必要が生じる」

「くっそっ……」

 俺は、ひらり、と目の前に滑り込んできた問題用紙に食いつき問題を解き始めた。

 でも、わかった……。俺、翠葉の味方でいる。

 俺にはふたりが翠葉の何に惹かれたのかはわからない。

 俺から見たら、翠葉は身体が弱くて、ついでに心も脆くて傷つきやすくて――まるで、顕微鏡に使われるプレパラートみたいだ。でも、透明できれいで、光を反射させる力を持っている。かなりのがんばり屋でそこらにはいない天然で、笑うとすんごくかわいい。

 できることなら妹に欲しい。正直、蒼樹さんが羨ましいと思うくらい。

 何がどう転ぶのかはわからない。現にあの秋兄が一度振られ二度振られ、な状況。加えて、この司の露骨な態度にも気づいていない。

 秋兄とくっついてラブラブハッピーなんて状況にもならなかったし、これからもどうなるのかなんて見当もつかない。翠葉ってそういうやつなんだ……。

 諸刃の剣っていうのかな……。その割には司も秋兄もザックザクやられてる気がするけど……。

 秋兄が翠葉の道になりたいというのなら、司が翠葉の歩く道を照らしたいと思うのなら、俺は翠葉と共にある方位磁石になってやる。こっちが前であっちが後ろ。そっちは森でこっちは海。そんなふうに翠葉が行く先を教えてやるから、翠葉は自分で決めて一歩を踏み出せばいい。そうやって、常に友達ってラインで俺は翠葉と一緒にいる――。

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