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光のもとでⅠ 第八章 自己との対峙  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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07 Side Soju 01話

 翠葉がお風呂に入ってしばらくすると、インターホンが鳴った。

 ドアの外には葵が箱を持って立っており、

「秋斗先輩から若槻様宛てです」

 荷物を受け取ったあと、今度環と三人で飲みに行こうなんて話をしてドアを閉めた。振り返ると、廊下で不思議そうな顔をして唯が箱を見ている。

「秋斗さんから小包って何……。超怖いんだけど……」

 身を引き気味に、まじまじと箱を凝視していた。

「珍しいことなのか?」

「珍しいどころじゃないよっ! だってあの人、基本はメールか電話一本で一方的によろしく! って物投げてよこして以上終了だもんっ」

 なんとも先輩らしい……。

「とりあえずは開けてみたら?」

「あんちゃん、怖いから一緒にいてっ」

 唯は自分の部屋ではなく俺の部屋へ向かって歩きだした。

 部屋に入ると唯はベッドを陣取り、箱を前に慎重にガムテープを剥がし始める。まるで危険物でも扱うような様に笑みが漏れる。

 あと少しでガムテープが全部剥がれる、というところで唯は手を止め顔を上げた。

「あんちゃん、びっくり箱とか時限爆弾だったらどうしよう……」

 本気で考えているように見えるからおかしい。

「さすがにそれはないだろ?」

「いや……爆発音くらいは予想しておかないと俺のかよわい心臓が止まるかもしれないし……」

 秋斗先輩……あなた、唯にいったいどれだけのいたずらを仕掛けたんですか……。

 そんなことを思いながら、問題の箱を検分する。

 箱は普通のダンボールでとても仕掛けがしてあるようには見えなかった。ガムテープを剥がし終わり、箱を開けると――パンッ!

 軽快な音と同時に、色とりどりの紙テープがそこらに散らばり火薬の匂いもした。

 間違いなくクラッカー……。

「ほらっ、絶対に何もないなんてことないんだからっ!」

 と、唯が箱を指差した。

 なんていうか、子どものいたずらと言える域……。

 肝心の中身は、

「ウォーカーズのクッキー……?」

 唯が首を捻る。

「ほかには?」

「あぁ、紙切れが入ってる」

 と、一枚の封筒を取り出した。

「唯……それは紙切れじゃなくて手紙っていうんだけどさ……」

「いや、俺には嫌な予感しかしない……。絶対に変な指令とか極悪な指令が書いてあるに違いない」

 唯が封筒にすら手を伸ばさないから代わりに俺が封を開けると、その手紙は俺宛てのものだった。



蒼樹へ


俺、日曜日に翠葉ちゃんい会いに行くから。

もう困らせるつもりも泣かせるつもりもない。

だけど、たぶん俺が行くだけで彼女は不安になるだろ?

だから、申し訳ないけどフォローを頼む。


秋斗



 短い手紙だった。けれど、秋斗先輩の直筆を見るのはどのくらい久しぶりだろうか……。

 だいたいはメールか電話で、字を見ることはほとんどなくなっていた。

 手紙を覗き込んだ唯が、

「ねぇ、これってさぁ……あんちゃん宛ての手紙なのに、なんで俺宛てで来るのかなぁ……」

 若干げっそりとした顔で言われる。

「それはたぶん……唯が期待どおりに面白い反応をするからだろ?」

 それ以外に何かあるとは思えない。

「ひっでーーーっっっ!」

「うん、確かにひどい……。けど、俺は見てて楽しかったかな?」

 言って、もう一度手紙に目を落とす。

 明日、か……。

 明日は夕方から桃華との約束がある。桃華と、というよりは桃華のお父さんと、というべきか……。

 先週の日曜日、曰くありとしかいいようのないパーティーで会うとは思っていなかった人物と遭遇してしまった。簾条珠山れんじょうしゅざん――紛れもなく桃華の父親。

 俺たちは着物で出席というドレスコードありのパーティーに洋装で出向いた。そして、会場に入った桃華は艶然と笑ってこう言ったのだ。

「こんな無意味なパーティーにご足労いただきありがとうございます」

 桃華の一言は場を騒然とさせ、お父上の顔にこれでもか、というほどに泥を塗った。その直後、桃華のお父さんと対面することになり、俺が無難に自己紹介をすると、

「後日、改めて我が家へお越しください」

 その後日、が明日……。

 これだけは外せない。先輩は何時に来るのだろう……。

「唯」

「ん?」

 気の抜けた顔で唯が俺を見上げる。

「俺さ、明日の夕方に用事があって出かけなくちゃいけないんだ」

「そうなの?」

「それまでに秋斗先輩が来れば問題ないんだけど、そうじゃなかったら、唯に翠葉を頼んでもいいか?」

「……あんちゃんらしくない。どうしたの?」

 確かに……。今までなら何に変えても翠葉の側にいただろう。けれど、今回は桃華を優先させたい。

「たぶんさ、唯と翠葉のリハビリなんて言ってたけど、俺にとってもリハビリなんだ」

「どういう意味?」

「自分で言うのもなんだけど、俺、重度のシスコンだからさ、ほかの誰かに翠葉を任せることができないんだ。でも……このままじゃだめだから」

「……なるほどね。リィはほかの人に頼ることを覚えなくちゃいけないし、あんちゃんはほかの人に任せられるようにならないといけないってことか……。まるで親離れ子離れだね」

 そんなふうにたとえられて少し笑う。

「俺はがんばってみる、としか言えないかなぁ……。実際に何ができるのかなんてわからないし。たぶん、側にいることが精一杯。リィはあんちゃんのほうがいいんじゃない?」

「どうしようもなく手がつけられないと思ったら連絡して。すぐに戻るから」

「でも、俺にどうにかしてほしいんだね。絶対に外せない用なんだ?」

 何かを見透かされたように返された。

「そう、こんな二者択一は初めてだ」

「わかった。がんばってみる」

 唯はにこりと笑った。

 当たり前だけど、翠葉と唯の顔は似てないし雰囲気だって全然違う。でも、こんな笑い方はどこか似ている気がする。それは、こっちが救われるような笑顔……。

「で、なんでこのクッキー? 俺に、かなぁ?」

「あぁ、それ、翠葉が好きなクッキーなんだ」

「へぇぇぇぇぇ……。本当に俺は宛名に使われて開けるだけの役で、中身はあんちゃんとリィ宛てってわけね……」

 唯は瞬時にどす黒いオーラを放った。

 天使の笑顔はどこへやら……。

「あとで……十二時前にでも三人でお茶でも飲みながら食べよう。そのときに秋斗先輩の名前を出して翠葉の反応を見るよ」

「……結局、どこまでも過保護だね」

「そうだよなぁ……。なんとかしないとな」

 苦笑して答えたけれど、どうにかできるのかはまだ謎の域。

 でも……翠葉、一緒に少しずつ前へ進もう――。

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