1、落ちこぼれと売れ残り
手品があんまり凄すぎるから、パイホゥは「大手品師」って呼ばれてる。希代の大スターさ。
あんた、奴の手品を見たことあるかい?
そうそうそれだ、カードをすり替えコインを消して、マントをヒラリとはためかせりゃ、宙に浮かんで現れる。
でも、ここだけの話、あれにはタネも仕掛けもあるのさ。
そんなこと知ってるって?
じゃあパイホゥがどうやって飛んでるのか言ってみな。
上からワイヤーで吊ってる?
わかってないねえ。
人形を飛ばしてるだけで、パイホゥ自身は飛んでいない?
はは、やっぱりわかってねえな。
ホー! ホー! ホー!
タネは魔法。
いいか、今から話すことは大神秘に誓って嘘じゃない。
パイホゥはほんとにマジシャン――魔術師なんだ。
★★★★
パイホゥは魔術師の隠れ里クン・ヤンに生まれた。青い霧の立ち込める景勝地さ。
あいつは里でもとびきり平凡な、可もなく不可もない一族の出だった。とはいえ生まれた時の親父さんの喜びようったら、飛び上がって花火を打ち上げて火傷したりさ、周りが心配するほどだったがね。
だがパイホゥの素質がわかってきて、話は変わっちまった。
魔術師ってのは魔法がどのくらい使えるか、生まれた時からあらかじめ限界が決まってるのさ。
五歳を過ぎたら、あとはどれだけ練習しても一緒。できるやつはできるし、できないやつは一生できない。五歳のお祝いに貰える使従魔畜だって、下位級に限定される。
……パイホゥはできない方のやつだった。悲しいくらいしょぼい魔法しか使えなかった。おまけに性格も、里の青い霧を怖がる弱虫でドン臭くてお人好し。ぼんやりしていて忘れ物だらけ、よく転ぶし、教えられても同じ間違いを何度もする。そんなやつに渡される使い魔なんて、かっこいい灰白梟でも人気の漆黒猫でもなくて、フン! ありがたくもない余り物の黴黒鳩のおれが第一候補だったのさ。
初めて会った時のことなんざ忘れちまったが、まあ大体こんな感じだった。
五歳になったパイホゥは使従魔畜たちの暮らす小屋にやってきた。キョロキョロと落ち着かない様子で見回し、おれを見つけるなり嬉しそうに駆け寄ってきた。
はにかみながら、口を尖らせて。
「ポッポッポ、ポッポ、クルック……」
「普通の言葉で普通に話せ。使従魔畜はみんな言葉がわかる」
周囲からクスクス笑いが漏れる。落ちこぼれに売れ残りはお似合いだぜってな。
「初めまして。ぼくはパイホゥだよ、君は」
おれはこの性格だから断られるのに慣れていた。
「キームンだ。このド腐れおっさん黒鳩が嫌なら、さっさと別の使い魔に頼んだ方がお互いのためだぜ」
「どぐされ……?」
深緑色の瞳がまっすぐ射抜く。おれは思わず目を逸らしたね。
「とにかく、お前さんにゃ砂白蛇ほどは無理かもしれないが、夕赤蜥蜴あたりならまだ間に合うんだからな」
「ううん、嫌じゃないよ。キームンはぼくが嫌かい」
おれは何か言ってやろうとクチバシを開けたが、言葉が思いつかなかった。
「だったら一緒にいようよ。ぼくの初めての友達になっておくれ」
……なんていうか、まあ、危なっかしくて放っておけなかったんだろうな、おれは。だからこの落ちこぼれを選んでやったってわけだ。
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