SCPの脱出 六話
「おい、起きろ! 起きろ!」
カイト? カイトの声なのか?
「う、ごめん、カイト。俺、朝は弱いんだ」
「そんな事、言ってる場合じゃない!なんか変なんだ、この部屋。早く逃げよう」
「俺にはどこも変なとこなんてわからないけど……」
「いいから早く」
おれにはまったく分からない、この部屋の変化。カイトには分かるのだろう。
俺たちは職員の休憩所のような場所を足早に去って行った。
その数分後、休憩所があった方向から爆発音がしたのは紛れもない事実だった。
「カイト? なんで分かった?」
「何となく……かな」 「何となくって、お前」
俺は不安感が強くなった。勿論、カイトが俺を助けてくれたのは事実。
事実だけど、カイトは知りすぎてる、ここの何もかも。
そこをこれまで疑ったことはなかったが今日のこの研究所でも爆発音は明らかに人為的。
流石にこれまでは予測の範囲内を大きく過ぎてる気がする。
「イワン? 大丈夫か?」 「うん、一応大丈夫だよ、びっくりしただけ」
びっくりしただけと言うのは真っ赤なウソ。このまま、カイトと一緒にいる事がいい事なのか悪い事なのか、でもどっちにしても一人じゃ絶対いきれない。この不安の中で生きることになるのもわかってる。
自分にはそれしかない。
「イワン、ごめん、今の爆発音実はわかってた」 「分かってたの?」
「うん、わかってた、たまにさ、SCPが抜け出す時があるんだ。そういう時はイワンは気づかなかったと思うけど、部屋の上の方にライトがあってその点滅の後5分後には爆発するって職員しか知らないお知らせが来るんだ」 「だいたい言いたいことはわかった。でも、ここからどうする?」
「ゆっくり休憩できただろ? ここからはもうちょっとスピード出して何とか出るように頑張ろう」
俺はカイトに小さくうなずいた。まだ、不安感が残ってる状態では小さくうなずくしかなかった。
「カイト、前が見えるか、この先は3つ部屋があるけど、自分たちの目的地はゲートBなんだ。そこにいけば絶対帰れる。でも、まず職員のカードを手に入れないとな」
「どうやって、手に入れるかは考えてるのか?」
「可能性は低いけど、あの爆発があったってことはSCPが逃げ出したってことだと思う。だから、職員の一人や二人死んでてもおかしくない。そいつらの死体からカードを取れれば」
「それじゃ、今から俺たちは職員の死体を探しに行くって事? 冗談はやめてくれよ……。死体なんて見たくない……」
「こんな状況だから言うけどね、イワン。このまま無事に生きて帰る可能性は残念だけど、10%もあったらいい方なんだよ。もうこれしかない」
「分かってるけど……」
「それじゃ、行こう。えっとまずは3つあるうちの左の部屋に行こう、ついてきて」
死体か……。どんな状態の死体と俺は顔を合わせるんだろうか……。
そんな事、考える暇もなくカイトは俺の腕を引っ張り強引に連れ出していく。
狭い通路を通って10分ほど走った。目の前に黒い扉が見えてきた。
「よし、とりあえず、このドアの向こうを調べよう。ドアを開けるときは注意しよう、実際、SCPが逃げ出してるんだからね」
カイトがドアの開閉ボタンに手をかける。
-ゴリゴリ
え? この音? 「やばい、イワン早く行くぞ」
ドアの開閉ボタンに手をかけドアが開く数秒の間、俺は後ろを見ていた。
奴だ、奴が居た、SCP173。。。 「そのまま、見ててくれ、イワン」
ドアが閉まる数秒間の間、瞬きもせずに173を必死に目でとらえる。
完全にドアが閉まったとき、目の束縛を解除し瞬きをする。
「ナイスだ、イワン。あのまま誰も見てなかったら俺たち、どうなってたか……」
「ま、任せろ、あの化け物を見るのは俺の方が慣れてると思いたい」
なんてカイトに冗談を言ったがカイトはそれを笑いながら受け流す。
SCPの事に気を取られていた俺達はドアの向こうにはまったく警戒しないまま入ることになった。
「イワン、良かったな、ここはまだ安全なところだ。。。」
部屋の形は長方形のような形になっていて俺たちが今来た部屋を省くと部屋数は3つ。
壁は白く塗られている。ドアも黒く塗られてる。部屋以外には何もない、また殺風景な部屋だ。
「殺風景だな」 「まぁね、だいたいこんな部屋だからな」
「こっからどうするの? カイト」 「一つ一つの部屋を確認して行こう」
そういうとカイトは迷わず右のドアに向かい進んでいく。
ジェスチャーから察するに開かなかったみたいだ。 残りの二つは開くそうだった。
「この黒い墨…… オールドマン」 「オールドマン? それもSCPか?」「うん、それもSCP、多分、逃げたのはそいつだな、出会ったら全力で逃げる覚悟じゃないと。もし、黒い奴が床から現れたら逃げるよ、いい?」 「うん、わかってる、カイトの言うとおりにするよ」
「それじゃ、この左の扉から調べて行こう。後ろにも注意して行くよ」
この時、逃げ出したSCPの怖さはイワンはまだ知らない