セキュリティカード 三話
あれから何分が経っただろうかSCP-173の登場で収容所は混乱状態に陥り職員の大勢は収容所の外に避難していた。
「カイト、これからどうしたらいい?」 お互い息が上がり言葉を詰まらせながら聞いた。
「とりあえず、ここからでる事が大切だ。だから、信用してもらいないかもしれないが一緒に付いてきてくれないか」 これまで何度のピンチを救われた事か。断る理由は何もない。
「勿論だ。逆に俺に出来る事があったら言ってくれ」 もう一度言うが勿論、断る理由は何もない。大事な事なので二回言う。
「そっか。なにか変な日本語が聞こえた気がするが……」
「いやいや、なんでもない、なんでもない。カイトはエスパーか。とりあえずだな、ここって結構危ないんだろ? 安全な所に移動しないか?」
「まぁどこも危ない事には変わりないしここもよっぽど危ない。とにかく移動しよう」
カイトの足が進むのを踏ん切りに俺も足を進める。 俺は大人しくカイトに付いて行く。
カイトの後ろに付いて行く道中、カイトが口を開く。
「奴は……。 いや、173はどこでもすり抜けるというように思うがそうではない」
「そうなのか?」
「ドアはすり抜けれないのだが、通気口を通っては移動できるみたいだ。でも、原理はさっぱり分からん」
「ドアが通れなくて通気口は通れる...か。自分の頭じゃ分かるはずもないか。はは。」
「笑ってる場合じゃないぞ、イワン、俺達には大事なものがない。分かるか?」
「大事なもの?」
「食糧だ。後、十分な水分もな」 「どこかで調達できないのか?」
「ありそうな場所は知ってる。一回そこに行ってみるか」
「さっすがカイト。何でも知ってる。もしかして、元々ここの職員だったりして? なんちゃって」
「ん? 何か言ったか?」 「いや、なんでもないよ……」
今、完全に会話を無視された気が……。いや、気のせいだよな。くだらない事を言った自分が悪い。
相変わらず、何の変哲もない白い床のタイル。目の前には段差があまりない階段と少し大きめの黒いドア、カイトは階段を登っていく。
見失わないように俺は後を付ける。
階段を上がると、職員が使うのであろう机が無造作に置かれていた。
「ここまで机の色まで白いと気分も落ち込むもんだな」 カイトが口を開いた。
「机がこれまでかってくらい荒らされてるな」
「職員も混乱してこんなありさまなんだろうな。173ならここまでなるのも分かる」
「職員の人もやっぱり、怖れてるんだね」
「お、イワン、カードがあるぞ」 そういうと、カイトは一番、手前にある机に小走りに走って行った。
「カード?」 疑問を抱きつつもカイトに近づき、持っているカードを覗き込む。
「これはセキュリティカードだ。くそ、でも、レベル1だ」
「レベル1は駄目なのか?」 「このセキュリティカードは最高でレベル5まであるんだ。レベル1だとロックされたままで通れないドアがいくつもある。このままだと脱出は無理だ」
「それじゃ、何とかしてレベル5を探さないと駄目なのか」
「そうだな……。でも、これで何とか食料は何とか確保できそうだ。確か、職員が休憩するスペースはレベル1でそこには食糧があるはずなんだ。て、聞いた事がある」
「聞いた事がある?」 「昔、職員の一人に優しい奴が居てそいつに色々教えてもらってたんだ。SCPの危なさとかね」 「なるほど、それでカイトは詳しかったのか」 「まぁね」
カイトの詳しすぎる知識に少し疑問はあったが、その言葉をきっかけに全て理解できた気がした。
「よし、イワン。とりあえず、これを持って休憩スペースを探そう。て言っても場所がそもそも分からないから探すのは辛いがな……」
「まぁしょうがないね……。とりあえず、食糧は大事だし」
「イワンが居て良かったぜ。正直、一人では不安だったと思う。イワンが居るからこんなに冷静でいられる」 「それ、俺が頼りないって事かよ、勘弁してほしいぜ」
「いやいや、そんな事言ってないだろー」 カイトは笑いながら答えた。
「とりあえず、ここを真っ直ぐ進んでみるか?」 俺はカイトに確認を取る。
「俺もそう思ってた所だ」 辺りに散乱する机を両手で掻き分けながら俺とカイトはゆっくり前に進んで行く。
「イワン、一応今は移動中だしカードの事、もっと説明するよ」 次のフロアへ繋がるドアを開けたカイトが言った。
「このカードは職員全員が持つことが出来るらしいんだけど、役職で使えるカードを分けられるみたいなんだ」
「ここにも役職があるんだな」 「こんなとこにも一応はあるみたいだ。まぁ後は簡単な事で役職が上になっていくにつれてカードレベルも上がる。レベルが最高なら全部の部屋にアクセス出来るようになるらしい」 「なるほど。じゃ、レベル1は一番低いレベルな訳か。行ける所も限りがあると……」
「まぁそういうことだな」
-ゴリゴリゴリ
聞き覚えのある音。それは正しくSCP-173。静けさの後に自分の身体から発せられる心拍音。
その心拍音でさえ、自分の不安を煽る。
「カ、カイト……。あの音って……」
「ああ、分かってる。とりあえず、焦らず173を探そう。目視しないと殺される」
恐る恐る後ろを振り向き素早く辺りを見渡す。
相も変わらず、散乱した白い机に白い床タイル、白い壁。四方刑の部屋の両側には白い机に加え黒い収納棚。黒い収納棚の中には何なのかはわからない白い紙がある。
天井や床、机の下の空間。360度、あらゆる角度を見渡しても173の姿はどこにもない。
緊張状態が続くなか、カイトが口を開く。
「イワン、とりあえず大丈夫みたいだ。でも多分、このドアの先に居る。どうする?」
「見ている限りは襲われないんだよな?」 「大丈夫なはずだ」
「逆に戻る方が危ない気がする。ごめん、これは俺のただの勘なんだが……。」
「イワンがそう言うなら俺も覚悟が決まった。開けるぞ」 「おう」
ただの瞬き。それさえ、気を付ければいい。それさえ気を付ければ……。
今回も見ていただきありがとうございます。
今回はセキュリティカードについての説明をしたかったので、ちょっとした説明回みたいになっております。
投稿が遅れてて本当に申し訳ないです。