SCP-173 二話
一通り、カイトとの話を終え、周りに目を配る。
シャッターのようなドアでふちは黒い。床は白いタイルのようになっている。
そんな不気味なドアは人三人が通れるくらいの道の左右の壁あちこちに取りつけられている。
「あのさぁカイト、ちょっと聞いていいか?」
「ああ、いいぜ。答えられる範囲ならな」
「君たちは何者なんだ?」
「俺達は死刑囚だ」
「え……」 普段、聞きなれない言葉の性かその言葉は俺の頭にスッとは入っては来なかった。
「死刑囚……」
「ここは人を殺したりして死刑を宣告された物が来るんだ」
「何のために?」
「SCPという怪物を管理するのに死刑囚だと都合がいいのさ。死刑囚に化け物の対処に当たらせたり人体実験をしたりするのがたやすい」
「人権は無いって事か……。でも、俺は何もしてない」 そう俺は何もしてない。死刑を言い渡される事をした記憶も。
「最近、関係ない奴もここに来るんだ。実は俺もそうだ。俺もイワンみたいに勝手に連れてこられた」
「何で関係ない奴まで?」
「最近はSCPの人体実験を積極的にやっていて死ぬ人間が増えてるんだ。だから、関係ない人間でもさらってきて人体実験させられてる。そういう状況なんだ」
「そんな……。それじゃ俺も今から人体実験に参加させられるのか?」
「いや、今回は違う。簡単にいえば清掃だ」
「せ、清掃?」 清掃と聞いたとき、肩の力が抜けた気がした。てっきり、人体実験をさせられるとおもっていたからだ。
「でも、ただの清掃じゃない。命がけの清掃だ」
「命がけ?」
「SCP-173という化け物が居てな。その化け物の排せつ物を定期的に片づけなくちゃならない」
「排せつ物?」
「ああ、簡単にいうと糞だ」
「でも、それを掃除するだけだろ? 何が命がけなんだ?」
「SCPってのは危険度をクラス分けされててな。Safe、Euclid、Keterって分類されてる。safeクラスのSCPは扱いを気を付ければ無害だが、扱いを間違うと殺される可能性がある。でも、safeクラスのSCPは完全に収容できてるから自分から何かをしなければ安全だと言われている。EuclidクラスのSCPは明確に生態が解明されてない化け物の事を示すものだ。それに思考も複雑で何を考えているのか分からないからこのクラスに分類される。そして、KeterクラスのSCPは完全に収容できる者も居るがほとんどは収容できないどころか人間に対して明確な敵対意識がある化け物なんだ。だから、ここの武器を持ってる職員も警戒してる。で、そのSCP-173はどのクラスかというとEuclidクラスのSCPだ」
カイトはここの施設の職員の様にスラスラと語った。
「なるほど、話が複雑で一回では理解するのが難しいけど、Euclidだからそこまで命がけになる理由ってあるのか?」
「正直、SCP-173はEuclid以上だと思う。そいつの前では瞬きは出来ないんだ」
「瞬きが出来ない?」
「SCP-173は瞬間的に場所を移動したかのように素早い動きをする。だから、瞬きをするとその瞬間には目の前に来られて逃げる間もなく首を折られる」
「首を折られる? そんな事するのか」
「ああ、だからいっただろ。命がけって。前にSCP-173の収容所の掃除に行った時に仲間が首を折られるのを見ちまってな。でも、何故か知らないが瞬きをしなければ襲われる事は無いんだ。だから、三人でいって一人は掃除をしてほかの二人は173をずっと目視するという事をするんだ。おっと、そんな話をしてたら着いたぞ」 話に夢中で周りの景色を見ていなかった俺はさっきとは違う景色を目の当たりにする。
「この先に進め」 武器を持った男がそう告げる。 武器を持った男が指をさしたのは只の黒いドアだった。だが、そのドアの横に黄色い張り紙がある。
そこにはSCP-173と書かれた文字、そして173と思しき形をした写真があった。
人間とは似ても似つかないし他の生物と比べても誰にも類似していないその怪物は写真からでもどこか不気味な雰囲気を放っている。その容姿はどこかこけしにも似ている。
こけしに足と腕が着いたような容姿だ。 気持ち悪いものだ。
「さぁ入れ」 武器を持った男に背中を叩かれ俺を含めた三人はドアの前に着いた。
少ししてからドアが開きもう一つ大きなシャッターと呼ぶべきだろうか黒いドアの前に着いた。
「イワン、この黒いドアの先に奴が居る。絶対にそいつから目を離すなよ」
「ああ、分かった」
「こちら、放送室。今から173収容室を開きます。繰り返します、今から173収容室を開きます。職員は武器を構え、警戒態勢に入ってください」 シャッターのような黒いドアの周りには、武器を持った職員と思わしき人間が十人近く居る。
次第に目の前の黒いドアがドンドンドンと大きな音を立てながら開いて行く。
全開までドアが開くとSCP-173が姿を現した。その部屋の一番奥の左の隅に佇む様に立っていた。
「三人、早く中に入れ」 俺達は職員に言われるがまま、部屋に入る。
部屋の床には排せつ物と思わしき茶色い物が広がっていた。
「あれ、ドアが閉まらないな。何かの故障か? 放送室の人間に早く伝えろ。ここが閉まらないと俺達も危ないぞ」 職員の男が後ろでそう叫んでいた。
「カイト、俺はずっとこのままあいつを見てたらいいんだね?」
「でも、待て。少し、様子が変みたいだ。気を付けろ。この故障は、173が原因かもしれん」
「うん、分かってる」 カイトと二言、交わした直後の出来事だった。
大きな機械音がしたかと思えば辺りが急に暗くなりだした。 停電だ。
一センチ先の物も見えない暗闇だった。
「イワン、俺がお前の手を握る。だから、付いてこい」 何も見えない暗闇でカイトの声が頭の中で響く。
誰かが俺の手を握る。イワンだ。俺はカイトに手を引っ張られるまま、走る。
その瞬間、後ろの方でゴキッという嫌な音がした。
また少しすると大きな機械音がして明かりがつく。
「カイト、一体どうなってるの?」 俺の頭は正しく混乱状態だった。カイトに対しても聞き方が荒くなる。
「俺にも分らん」 停電から復旧して気付いたときにはSCP-173の姿は収容室から消えていた。
「あ、さっきの人が倒れてる。あ、頭がない……」 もう一人の白い服を着た人間は見るも無残な姿になっていた。足をこっちに向けて倒れていて切り離された顔はこっちをずっと見つめていた。
「おい 173はどこだ。探せ。見つけたら目を離すな」 職員の男が遠くで叫ぶ。
だが、その叫びが届かなかったのか至る所で首を折られる音のようなものが鳴る。
ゴリゴリと石を地面にこすっているかのような音が目の前から聞こえた。
「え、SCP-173…?」 突然、173がイワンの目の前に現れる。恐怖で腰を抜かしそうになった。
「イワン、いいか。絶対目をそらすなよ。 目をそらさずゆっくりドアまで下がるんだ」
「わ、分かった」 俺は指示されたとおり、ゆっくり下がる。
「よし、俺がドアまで下がったらなるべくイワンは瞬きはするな。俺がその間に閉めるボタンを押す」
ドアまで戻るとカイトがその場から離れる。そのすぐ後、ドアが閉まっていく。
「よし、これで一安心だ。こっからはなるべく走って離れるぞ」
「うん」
突如、始まるSCPからの逃亡劇。