市場
市には神殿で暮らしていた時にも何度か連れて行って貰った。
海の向こうと同じ制度なら、五日おき。
この町の商人が買い付けることもあれば、逆にこの町の品物を買い付けに来る人が来ることもある。
この町だったら、想鎖術に関するものとか、苹果とか売ってるのかな?
その為品物自体は町の商店と大差ないが、手数料などを考えると幾らか安いので神殿でもよく利用していた。
また、何より
「お兄ちゃん、ちょっと味見していかないか。おいしいよ」
「三つ買ってくれたら、一つおまけしてあげるよ。なに、味も格別さ」
「西大陸からの舶来品だよ。昨日入港したての最新作だよ」
とにかくにぎやかだし、いちいち商店を出入りする気兼ねもいらない。
道いっぱいに広がった天幕の商店は見て回るのも楽だ。
リーゼから少し離れて、幾つかの商店を見て回ってからまた戻る。
「ん、じゃあ今日はこれだけね」
全ての苹果の見分を終え、値段をつけ終えたらしくジュジェが薄い石板をリーゼに示す。
リーゼが不満そうに首を振り、ジュジェが渋々と言う表情で石板の文字を書き換える。
そのやり取りが二度ほど続いて、やがて両者とも頷いた。
幾らかの貨幣がやり取りされ、それを財布に収めたリーゼがこちらへ向かって歩いてくる。
「苹果三十個の値段がこれね。良く覚えておいて」
ええっと、値段が全部でこれで、苹果は三十個だから、一個当たりは……
あまり計算の得意では無いエルモは両手の指を使って必死に一個当たりの値段を割り出す。
だから、だいたい一個百……あれ、お金の単位って何だっけ?
「だいたい一つ百五十と思ってくれたらいいよ。今日はこれを元に話そうね」
優しげに囁くリーゼに続いて、市場を歩き出す。
それから何件か果物商も見て回ったが、リーゼの苹果よりも高い値段を付けられたものは滅多になかった。
「ああ、それはね。うちの苹果は一つ一つの実が大きく育つように工夫しているから。あ、でもジュジェの実家だから多少融通利かせて貰うこともあるけれど」
代わりに、昨日のような突発的な事態に巻き込まれることもあると言うことだ。
途中で瓶入りのシードルを二つ買い、片方をエルモに差し出す。
古書やタオルなどのこまごまとした日用品、更にはノートやペンといった文房具、少しずつ色々なものを買いながら、リーゼがふと足をとめたのはアクセサリーを並べる店だった。
「買うんですか?」
「う―ううん……でも、綺麗だなあって思って」
目を輝かせてそれらに見入る様は、大人びてはいるもののやはり少女なのだと思わせる。……結構、高いかも。
特に右端の、アンティークであるらしい薄桃のリボンなど、一メートルで苹果十個分ほどの値段もするのだ。
眺めるだけで満足したらしく、リーゼは立ち上がって市場を抜ける。
市場を抜けた先の一角が、空き地になっていた。そこまで歩を進めると、リーゼは買った物を地面に降ろした。
ふと空を見上げれば、空は勿忘草色。
随分白い太陽が高くなってきた。
今日も暑くなりそうな予感がする。
瓶にストローを直接さしてシードルを啜る。
ストローから冷たい液体が上がってきて、その冷たさにほっと目を細める。
「さてと、じゃあ今日のレッスンを始めようね」
エルモがシードルを飲み干した頃を見計らい、声がかけられる。
「大切に育てた苹果を売って作ったのが、このお金です。それでこれとかこれとか」足元の紙袋をさす。「買った訳だけど、同じ位の値段のものがあったかな?」
ノート一冊と、ペン一本。それが確か同じ位の値段だった。二つをとって差し出すと、正解、と言うようにリーゼは微笑んだ。
「つまりこの二つは、値段的に等価だっていうことだよね?」
エルモはこっくり頷く。リーゼさん、何を始めるつもりなんだろう。




