異教の街(2)
極光の中から上体を斜めに傾がせて、ゆっくりと少年が姿を現す。
全身に光を纏い、しかしその四肢は糸の切れた人形のように力なく垂れ下がるのみ。
やがて、踵まで姿を露わした少年は、どさりと地面に倒れた。
まるで、役目を果たしたと言わんばかりに、彼を吐き出した光は急速に収束し、そして最後には破裂してしまう。
あまりの目映さに顔を背けるが、瞼の裏にはまだ強い光が染みついている。
焼かれた目を抑えつつ、彼は神学生と共に、それを見つめた。
嘘でも冗談でもなく、異次元から姿を露わしたとしか言えない少年。
「師父、一体どうしましょう」
「どうって、できることは決まっておるだろうに」
彼は羽織っていたマントを外す。
「とにかく、連れて帰ろう。このまま誰かに見つかると厄介だ」
赤ん坊のように地べたへ寝転がる少年へ、急いで歩み寄る。
何色ともつかない瞳が、一度も瞬くことなく彼を見つめていた。
恐らく、年齢でいえば十三歳か四歳くらい。何一つ身に付けない痩せた身体を包む寒風にも反応を示さない。
「はじめまして。私はこの村の神殿で師父を務めるものです。あなたは、誰かな?」
外したマントで両肩を包んでやりながら、敢えて彼は穏やかに問いかけた。師父様!と神学生が悲鳴のような声を上げる。
「そう怖がらなくともよろしいのですよ」
厚い毛織の織物の上から、両肩を抱きしめるようにしても、少年は反応を返さない。
「師父様、その子はひょっとして耳が……?」
怯えてばかりいた神学生も、一先ず害意が無いとわかったのか、恐々と近づいてくる。
疑問を示すように、軽く首を傾げている。
その声に、少年がゆっくりと首を巡らせた。
相変わらず瞬かない瞳を神学生と自分へ向けてくる。
憶病な神学生はひっと、息を飲んだ。
「もしよろしければ、我らの神殿においでませ。そこでゆっくりと話を聞きましょう」
立てますかな、と促すが少年は相変わらず首を巡らせるだけだ。
そこで、神学生と自分で両方から肩を持ち上げてやると、やっと立ち上がった。
「そうそう、そのまま足を右に、左に」
思い当って、口を噤む。
「このように、こちらの足そちらの足、と動かして御覧なさい」
手本を示すように、隣をゆっくりと歩いてみせると裸足の足が、たどたどしいながらも確かに体重を支えて動いている。
「お上手ですよ。その調子で」
今度は腕を彼の脇に滑り込ませると、ややあって同じようにこちらの肩に手が置かれる。
最初は力の加減が上手に掴めず外れてしまった腕が、回数を重ねるごとに適度な強さを学習して、しっかりと捕まるようになる。
それに従い、歩みも徐々に安定したものになる。
海を背後に神殿へと急ぐ刹那、ふいに声が聞こえた気がした。
急いで振り返るが、誰もいない。
ただ、朝の光を受けてきらめく海があるだけだ。
けれど、確かに聞こえたのだ。
―――その子のこと、よろしくね。
そういう風に、若い女の声で聞こえたはず。
しかし、一体誰が?
彼の思考はしかし、少年の手が自分の肩から外れたことで、強引に引き止められる。
今はとにかく、この少年のことが先。
そして、不思議なことに。
この声のことを彼が思い出すことは、生涯なかった。




