月曜日、襲来
月曜日。
それは遙か悠久の昔、人々が時間というものを作り上げたその時から、または名前はなけれどもそのさらに前から厳然として存在し続けている概念の一つだ。
日曜日というつかの間の休息を楽しむ人を再び学校や会社へと引きずり込む憂鬱の符丁であるその日は、七日に一回という期間を一秒たりとも前後させずに毎週のごとく人々の意識を「ああ、また会社なのか……」と失意の底にたたき落とす、そんな恐ろしい日なのだ。
だが人類は、その月曜日を前にしてただうなだれ自分の無力さを痛感するだけが能の生き物では無かった。
時は二十一世紀末、人類は二十二世紀の光と共に、月曜日を撃退するだけの力を手に入れた。 その力の名、人々が身につけた意思表示と言う名の心の壁を人はこう呼ぶ。
U.Q.フィールド(ユウキュウフィールド)、と。
NERV(日本の偉いヤツらにヴァーカって叫びたい)という組織の開発した、月曜日に絶対的な力を発揮するこの壁はシャチク化現象の蔓延するこの世にあって月曜日を撃退するだけの威力を秘めており、月曜日の持つ破壊力に膝を折っていたシャチク症候群患者を大いに喚起させた。
そして今日ではその力を中心に組み立てられた月曜日対策プランに基づき、毎週一回の頻度で月曜日とNERV率いる対月曜日部隊との過激な戦いが繰り広げられているのだ。
「──来ました!距離二百、接触予定時間は定例通り一ニ〇〇です!」
その耳あたりのいい声は声の持ち主のいる静まり返った部屋全体によく響き渡り、対月曜日システムを搭載した基地であるその部屋に居合わせた全員の緊張感をより一層高める効果を持つ。
「総員、第一種戦闘配備!」
部屋の中心、棚田か何かのような構造をしているその部屋を見渡せる席に陣取る女性が、月曜日接近の報告を受けると声を大にして指示を飛ばす。彼女こそが月曜日にどうにかこうにか一矢報いるために作られた対月曜日部隊、人類(主にサラリーマンやOL)の期待を一身に背負ったその部隊の隊長なのだ。
その言葉を受け、それまで部屋の色々な場所に散って思い思いの時間を過ごしていたそれぞれが各々のコンソールの前に座る。
「隊長!総員、所定の位置につきました!」
「スクリーンは映せる?」
「スクリーン準備OKです!映像、出ます!」
その言葉と同時に、隊員達が座る席のどこからでもよく見えるサイズのスクリーンに光が灯る。
今回襲来した月曜日の大ざっぱなパラメーターの示されたその図は厳密には図とは呼ばないのだが、その呼び方は一種のならわしのようなものだった。
「対月曜日システムの展開を急いで!」
そのパラメータをにらみつけたままの隊長がそう口にすると、返事の変わりだとでも言いたげに彼女の前のディスプレイにいくつものシステムメッセージやシークバーが次々に現れる。
「U.Q.フィールド、60%エネルギーチャージ完了!」
「装甲板のチェック完了!99%は異常なし!1%は耐久性が約一割低下しています!」
次々に口頭で対月曜日戦のシークエンスの通過が知らされるにつれ、隊長の目の前に表示されているシステムウィンドウが閉じていく。
だが、隊長の表情はあまり優れない。
視界の真ん中、月曜日との接触までのカウントダウンをかねた時計に表示された時刻が思っていたより進んでいたからだ。
「予定より十秒近く作業がずれ込んでるわ、ペースを上げて!」
その声に答えるように、周囲で聞こえるコンソールの操作音が増えた。
本当ならば隊長も手元のコンソールを操作して作業を手伝いたいところだが、今彼女がこの場に割く意識を少しでも作業に回してしまうと、それだけ唐突に降ってわくかも知れない状況に対する判断能力が落ちてしまう。固唾を飲んでスクリーンを見つめる彼女の前で全てのシステムウィンドウが閉じたのは、月曜日を迎えるまで残り十秒近くという危ういタイミングだった。
「U.Q.フィールド、展開の準備が完了しました!」
「接触までカウントダウン、あと十秒!」 最後のシステムウィンドウが閉じるのと同時に、隊員たちの緊迫感にまみれた声が聴覚に滑り込んでくる。
もうほとんど時間がない。隊長の思考と判断は一瞬にして正確なもので、次の瞬間には指示を下していた。
「──よし、U.Q.フィールド展開!」
「U.Q.フィールド展開!」
隊長の指示を復唱した部下が手元のコンソールを操作すると、
「……三、二、一、接触します!」
その言葉にかぶせるがごとく、部屋の全体に重たい衝撃音が走った。
その場に居合わせた誰もが固唾を飲む中、U.Q.フィールドによる月曜日への抵抗が始まる。
だが一瞬の後、スクリーンを食い入るように見つめていた隊員のひとりが悲鳴のように声をひきつらせて報告をあげてきた。
「ダメです!U.Q.フィールドが中和されています!……この反応はまさか、SHA─CHOメイレイタイプ!?」
「チッ、パラメータで判断できないなんて、よりによっていっちばんメンドいパターンじゃないの!」
いつの間に対抗策を講じたのか、いつからか月曜日の中にはU.Q.フィールドを中和してそのまま進軍を続けるものが現れ始めた。U.Q.フィールドをものともせずにこちらへ向かってくる姿を有休などお構いなしに出社を突きつける宣言になぞらえてSHA─CHOメイレイと呼ばれる現象を有するのが、まさに今日の月曜日だった。
「本部へ通達、#あの槍#(傍点)の使用許可を急いでもらってきて!」
舌打ちをした隊長の剣幕にその言葉を聞いていた部下の一人が緊張を顔に走らせて一つ頷き、手元のコンソールに向かう。
「状況はどう?」
「U.Q.フィールドの出力を最大限にして展開していますが、このままだとあと一分も持ちません!さらに五分後には装甲板も根こそぎ持って行かれます!」
月曜日に屈する恐怖から声を裏返しながらも状況を報告する部下に隊長は一つ頷き、また前のスクリーンを見つめる。U.Q.フィールドの崩壊と装甲板の粉砕までのカウントダウンを示した数字が共に三、四十秒も動いた時、ようやく状況が動いた。
「隊長!本部より許可が降りました!」
「来たわね……『フテーネの槍』、発射用意!」
隊長がそう言うや否や隊員達が一斉にまたコンソールを操作しだし、隊長の前のスクリーンにも変化が生まれる。
今までは薄い青だった背景はマゼンダに変色し、『WARNING!』の文字と共に同じくマゼンダの新たなシークバーがいくつも出現し、隊長の表情にほの暗く光を投げかける。
月曜日が生み出したU.Q.フィールドを中和する技術に対して人類がさらに作り上げた解決策こそ、このフテーネの槍だった。
社長命令すらも遠く力及ばない、最後の逃走手段になぞらえて作られたこの槍はU.Q.フィールドを中和する月曜日に対しても有効に作用する攻撃手段だった。今となってはその強力さから、月曜日のパラメータを確認した段階で利用申請をする必要がある。だが、今回のようにパラメータから月曜日の特性を判断できないパターンは特例だろう。
普通はU.Q.フィールドをそもそも展開しないか、フィールドごと貫くようにして発射する槍だが、この特別な月曜日ではフィールドによって威力の落ちる槍に耐えきってしまう可能性がある。もう一度U.Q.フィールドを展開するまでにかかる時間の間に月曜日が装甲板を突破することも十分起こり得るこの状況を正確に読みとった隊長は、驚くべき指示を部下に下した。
「槍でU.Q.フィールドをわざわざ貫いて威力を落とすわけにはいかないわね……U.Q.フィールド崩壊まであとどれぐらい?」
「あと三十秒を切っています!」
「分かったわ、カウントダウンを頼むわ。発射までのラグを含んだ上で、U.Q.フィールド崩壊の半秒前に発射するわよ!」
前代未聞の無茶振りとも言えるような上司からの指示を受けたメンバー達は、顔からうっすらと血の気を引かせながらもしかし気丈に首を縦に振って見せた。
「あと十秒、九、八、七、……」
指示通りに行われるカウントダウンの数字が減少するにつれ、隊長の手は固く握り込まれていき、額に一筋の汗が走る。
「三、二、一、──」
「──撃てっッ!!」
「「「────ッ!」」」
発射コマンドを送信した後に一拍をおいてほぼ同時に轟く破砕音と衝突音が聴覚を蹂躙し、グラグラと揺れる足元が否が応でも隊員の不安を呼び起こす。
しばらくして戻ってきた沈黙の中、機能の復旧した計器を見ていた隊員がこう口を開いた。
「──月曜日の反応、遠ざかっていきます!目標の撃退を確認しました!」
その報告が部屋全体に届いた瞬間、えもいわれぬ安堵と疲れが隊員達にどっと押し寄せてきた。
「……よし、現時点をもって作戦を終了する!」
隊長はそれだけ告げると椅子に腰を下ろし、満足そうにため息を一つ漏らした。
こうして今回もまた対月曜日部隊は、無事に月曜日を撃退することに成功した。だが彼らの戦いは決して終わりを告げることはない。日付の概念が、月曜日が、この世に存在し続ける限り、彼らもまた月曜日にあらがい続けるのだから。
……っていう夢をみた。
あとがきという名の言い訳
なんだよ夢オチって。
……まずは言い訳をさせてください。
ある日エ○ァのコラ画像で、『使徒襲来』と書かれている部分を『月曜襲来』に差し替えた画像を見つけたんです。日曜日にひたすら遊びまくったあとに襲いかかる月曜日を課題の提出期限だのテストだのを容赦なく突きつける悪意の権化か何かのように勝手に感じていた僕からしてみればまさにど真ん中ドストライクなそのコラ画像を目にしてからしばらくして、気がついたらこれを書き上げていたんです。
別に有休フィールドっていう単語の使いたさに書いたわけじゃないんだからね!っていうのを夢オチっていうフザケたオチをやらかした理由にしたいわけじゃないんだからねっ!
……えーまあクレーム不可避の見苦しい言い訳はこの辺りで止めておくとして。
挨拶が遅れましたが、みなさん初めまして、アキと申します。とある全寮制の学校に通う小説家ワナビの生意気が盛りの高校生です。
こんな深夜のノリで書いたSSが初投稿というヤツですが、何も普段からこんなんばっかり書いてるわけでもなく、真面目な文章も書いたりしてるんですよ?いやホントだからね!?
まあその証明のためという意味もありますが、次は某出版社に投稿してまさかの規約違反によりそもそも目を通していただけなかった作品にブラッシュアップを加えてこちらに投稿させていただこうと思っています。
僕の調子と気分(主に1:9ぐらいの割合)によって投稿のペースがブレまくるとは思いますが、もしこの次も見ていただければありがたいです。ちなみに幽霊系ラブコメもどきになる予定です。
ではこの辺で。 マリ可愛いよマリ
これって二次創作に入るんですかねえ…?
入らないといいなあ…(´・ω・`)