ダイジェスト版 その2 改訂版
そこにいたのはあのデンナーだった、
「アンドレス、俺を一晩泊めてくれ」
『よくも、また来たな、この悪漢め。」
アンドレスはそういうと家の中に引き返ししあの忌まわしい宝石箱を持ってきてデンナーに
投げつけようとした。
だが戻ってくるとそこにはもうデンナーの姿はなかった。
森中をくまなく探したがデンナーの姿はもうどこにも、なかったのだった。
アンドレスは今度こそフォンファッハ伯爵に一切を打ち明けようと
出かけようと思った。
そんなある日なんとフオンファッハ伯爵の使いの者がアンドレスのもとに来たのだ。
何事だろうと、急いで城へ出かけると伯爵は
「アンドレスお喜び、ジオルジナの養父が死んでなんと2000ドカーテンという遺産を残したのだよ。
今すぐフランクフルトの銀行家のところにお行き。」
アンドレスは早速フランクフルトに出かけ銀行家指定の商人から首尾よく遺産をいただいて1週間後我が家へと引き返してきた。
ところが家に着くとそこは、とんでもない事態になっていたのだった。
家の中は荒らされ 部屋中は血だらけだった。
9か月の幼い次男は胸を切り刻まれて心臓を抜かれて惨殺されて転がっていた。
ジオルジナは呆然としているばかりだった。
幸い長男は納戸に隠れていて難を免れたが、
ようやく落ち着いたジオルジナが話すところによるとこうだ、
アンドレスが出かけて4日後、
盗賊団はやってきた。
そして今度は仲間の報復のためにフォンファッハ伯爵の館を襲って伯爵を殺し金目のものを奪ってきたことを、
しかもアンドレスも仲間に加わって、なんとアンドレスが伯爵を殺したというのだ。
「奴は別の道をとおって遠回りして帰ってくるだろう」というのだ。
そうしてデンナーは悪魔の本性を現して、
幼い次男を連れて別の部屋に行き、悪魔儀式に使うために、
次男を殺して心臓を抜いてしまったのだった、
反抗した老僕は斧で殺されて死骸はどこかに運び去れた。、
ジオルジナにどうすることもできなかった。
その光景に気を失ってしまったのだった。
気が付くと、悪魔の強盗団は去って行ったあとだった。
そこまで聞くと、
アンドレスは、決して強盗団には加わっていないと
アンドレスは妻の誤解を解くため詳しく養父の遺産のことを聞かせたのだった。
惨殺された次男のムクロを布でくるみ埋葬すると、、、
そうしてもう永久にこの地を去ろうと荷物をまとめていた時である。
亡フォンファッハ伯爵のあとを継いだ甥の命令を受けた竜騎兵の一団がアンドレスを逮捕に来たのだ。
、ファッハ家の狩人があの日確かにアンドレスがいたと証言したからだ。
長男だけを林務官に預けて
アンドレスとジオルジナはしょっぴかれ、牢獄にぶち込まれた。
アンドレスは裁判官にこれまでのことを正直に話した。しかし遺産のことは亡伯爵は誰にも言っておらず
アンドレスも証文を遺産を受けとる際に、手渡してしまって持ってはいなかった。
証拠はなかったのである。
その時である。
なんとあの、デンナーが縛りあげられて引きずり出されてきたのだ。
デンナーはアンドレスを見ると。
『よお、仲間よ、お前もとうとうつかまっちまったのかい」
といい、裁判官に「こいつはずっと昔から俺たちの仲間で伯爵殺しもこいつです」というのだった。
デンナーもあの日アンドレスを見たというのだ。
アンドレスは必死に抗弁したが、裁判官はアンドレスを拷問にかけ、とげを肉に刺し関節を脱臼させる拷問にかけて
白状を迫った。
アンドレスはたまらず濡れ衣を認めざるを得なかったのである。
ただしジオルジナについては一切加担していないし、、デンナーも彼女は無罪だと証言したので釈放された、
こうして罪が確定し、アンドレスとデンナーは死刑になることになった。
ところがその夜、牢獄の石が外れてデンナーが顔を出し、仲間が明日手引きして脱獄できるとアンドレスに教えたのだ。、
アンドレスは翌日それを看守に密告し、デンナー一味の隠れ家を急襲した兵士はデンナーの仲間を逮捕してしまったのだった。
だがそれだけではアンドレスが許されるはずもなかった。
とうとうデンナーとアンドレスの処刑の日が来た。
引きずり出された二人は処刑台へ。
とそこへ、あの遺産を渡した商人がちょうど旅の途中で通りかかったのだ。
人々から処刑の話を聞いた商人は急いで駆け付け、
アンドレスがその強盗の日にはフランクフルトにいたことを遺産証文とともに証明してくれたのである。
アンドレスの罪は晴れた、
では?いったいあの日城を襲った時、狩人やデンナーが見たのはアンドレスのドッペルゲンガーだったのだろうか??
事の顛末をさっきから見ていた、デンナーは目をむいて歯ぎしりし、
『悪魔め。俺を裏切ったな、なんでも白状するからおろしてくれ」
アンドレスは釈放され、そしてデンナーの裁判は
別の様相を呈してやり直されることになった。
新たな証言で、デンナーは悪魔と契約していたことを認め、
身の毛もよだつような告白を始めたのであった、
フルダの裁判所はナポリの宗教裁判所にも照会して
デンナーの身元を詳しく調べたのである。
さてその結果わかった、デンナーの世にも奇怪な素性とは?
、裁判所は悪魔崇拝者であるデンナーを聖職者も交えて改めてデンナーを取り調べた、
デンナーの語ることは不可思議な、飛んでもない内容だった、
ナポリの宗教裁判所にも照会して得られたのが以下のようなデンナーの奇怪極まる経歴・素性であった。
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ずっと昔のことだったが、ナポリにトラッバキオという不思議な医者がいたという。
彼はその治病の腕の確かさで「奇跡の医者」と言われていたという。
年のころは80歳、ゆがんだ顔で目つきはおそろしいものだった。
自身で調整した万能薬で何でも病気を治した。
今は何人目かの妻と暮らしていたが、以前の妻はみな不可解な死を遂げていた。トラバッキオは妻を人目にさらすことは決してなかった。
金持ちを治した収入は莫大で自宅は金銀財宝でいっぱいという噂だった。
だが、このトラバッキオについてはいつも変な噂がついて回った。
夜のまちで金色に輝く赤い雄鶏と連れ立って歩いているとか、塔の上を雄鶏と飛んでいたとか。
ちょうどそのころナポリの街で有力者が相次いで亡くなる(毒殺)されるというショッキングな事件が起こった。
宗教裁判所はドクター・トラバッキオが怪しいとにらみ、
捜索にあたった。
家宅捜査の結果、
毒薬(アクア・トファナ、当時の有名な毒薬ですね。モーツアルトもこれで殺されています。)
が押収され、使用人の老婆がすべてを白状した。
それによるとトラバッキオは毒薬を売って莫大な収入を得ていたというのだ、
さらに、結婚しては生まれた子供が9週か9か月になると
子供を殺し心臓を抜き取り悪魔と結託しては、その血で作った魔薬で何でも治していたのだという。
しかも、
この薬は自分の血を分けた子供でなければ効果がないのである。
だから結婚しては子供を得て、用無しになった妻は闇から闇に葬っていたのである。
もちろん悪魔ともたびたび交流していたのだという。
そして用無しになった妻は秘密の方法で殺して抹消していたのだという。
こうして何人もの妻と嬰児たちが霊薬づくりの材料のために、闇から闇に葬られたというのだ。、
こうしてトラバッキオは裁判の結果、
火刑にされることになった。
その前にトラバッキオの自宅捜索が行われたが、
地下室にはカギがかけられていて中から気味の悪い声が聞こえたために。
ドミニコ修道士を立ち会わせて開けると中から青い炎が立ち上り一気に燃え上がりたちまち屋敷は焼け落ちてしまったのである。
最後の妻との間にできたトラバッキオの息子12歳も宝石箱とともにもどさくさで消えていた。
この子だけは跡継ぎとして殺さずに生かしておいたのである。最後の妻は病死(自然死)している、
火刑の当日トラバッキオに回信させようという試みはすべてが無駄だった。薄ら笑いを浮かべて
かれは処刑台にのぼっていった。
だが火が燃え上がると同時に笑い声とともにトラバッキオの姿は消えていなくなった。
さて先ほどの宝石箱とともに消えたトラバッキオの息子 (イグナーツデンナー)もずっと以前に魂を悪魔に売っていたのだった、
トラバッキオの屋敷が燃え落ちるとき悪魔に救われてナポリ郊外に逃げおおせ、そこで火刑台から逃亡した父トラッバキオと再会し、
待ち合わせていたそのあたりに勢力を張る盗賊団と合流した。
もちろんずっと以前から盗賊団と意趣を通じていたのである。
盗賊団はトラバッキオを首領に依頼したが断られたので若いトラバッキオ(イグナーツデンナー)を首領にしたのである。
老トラバッキオはそのご、放浪者として何処ともなく姿を消した。
さてその後、、
ナポリ王の盗賊団狩りで壊滅的打撃を受けた盗賊団は分裂四散し
デンナーもスイスに逃げ、そこで旅の行商人を装って、ドイツの定期市に顔を出すことを業とした。
その後、逃げ延びた盗賊団を集めてドイツで
小さな強盗団を再結成したというのである。
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ここまで話すと若トラッバキオ (デンナー)は、しかし今、アンドレスが、神の摂理で処刑から免れて
老トラバッキオの魔力が消えて自分が救い出されなかったことを痛感し、
潔く刑に服する気になったというのであった。
こうした話を伝え聞いたアンドレスはしかし何で、
デンナーが執拗に、自分と、ジオルジナに付きまとったのかが、依然として不可解だったのである。
アンドレスは釈放されて自由の身になったとはいえ、今はすっかり体が衰弱してまともな狩りもできなくなっていた。
ジオルジナもすっかりやつれ、この間の悲しみとおそれと苦しみで食い尽くされて
何の救いもなく、、、アンドレスの罪が晴れて、釈放されたあと、数か月後には死んでしまったのだった。
ジオルジナをなくし、
今やアンドレスにとってはかわいい長男ゲオルグだけが生きがいだった。
やつれれたアンドレスも、2年もするとやっと再び元気を取り戻したのだった。
さて長引いたデンナーの裁判もやっと終わり火刑が決まったという知らせが届いた。
そんなある日アンドレスが森から帰ると、野の堀の中でうめく声がするのである。
近寄るとそこにいたのは、体中が傷だらけで、ぼろをまとった、瀕死の、なんとデンナーその人だった。
「アンドレス助けてくれ。」
アンドレスは『この悪魔め。まだ付きまとうのか地獄に行ってしまえ』
というと
「アンドレス。俺はジオルジナの父親なんだよ」というのである。
アンドレスはそれを聞くと、愕然とし、その真偽を確かめたくてデンナーを背負って自宅へと連れ帰ったのである。
デンナーの語るところによると、牢獄の鉄格子をゆすって脱獄し這いずりまわってやっと、やっと逃げ延びてきたというのである。
そしてジオルジナについて、、、、
デンナーがある娘をかどわかして結婚し子供ができたとき、その子の生き血を使って例の魔薬をつくろうとしたのであるが。
ある日、女は生まれたばかりの娘を連れてどこかに消えてしまったというのだ。
例の万能薬は自分の血を分けた子供か、血縁の子の血でなくては、その子が9週めか9か月かの時しか作れなくて、心臓から絞った血で作ったこの薬は万病に効くし、若返ることもできると言うのだった。
もちろんデンナーが初めてアンドレスの山番小屋に来たとき処方した、ジオルジナに処方したあの薬もそれである。
さてそれから何年もして、、逃げた妻は死亡してみなしごになった自分の娘の、ジオルジナが養子に出されてこき使われ、ドイツから来たアンドレスと結婚してフルダに行ったと聞いたのだという。
「これで俺が何でお前たちのところに行ったか分かったろう。だが今は俺も後悔してるし、神の加護を
受けたいとも思ってるんだよ」
アンドレスはしばらくこの瀕死の義父をかくまうことにした。
しばらくはおとなしくしていたデンナーだったが
ある日仲間の猟師がアンドレスに言った。
『お宅の家の窓から黒い煙が入って行って中から薄気味悪い声が聞こえ、また黒い煙が出て行ったぜ』
アンドレスはそれを聞くと、デンナーに問いただした。
『老トラバッキオが来て俺を誘ったんだが俺は断ったよ』というのだ。
「俺は二度と来るなって言ったよ。
なあ息子のアンドレスよ。俺をキリスト教徒として死なせてくれないか?」
デンナーはおいおい泣いて懇願するのだった。
アンドレスは
『ではあと一日だけ様子を見ましょう。もしまた老トラバッキオが来るならあなたはまた城の牢獄に戻るんですよ。』
と、堅く言ったのだった。
次の日アンドレスが仲間と狩りに出かけて、知らないうちに奥深く入り、仲間ともハグレ、、いつの間にか、見たこともないところまで入り込んでいた。
すると遠くの茂みに怪しい光を見つけて近づくと、そこにはあの老トラバッキオとデンナーが
アンドレスの息子ゲオルグの横たわったところに、
今や振りかざした刃でまさに、刺し殺そうとしているところだった。
その瞬間、、アンドレスの銃が火を噴いていた。
デンナーは血をふいて倒れ、老トラバッキオの姿もかき消すように消えていた。
近づくと
デンナーは瀕死の様子で、『親殺しめ。お前の女房の親殺しめ。俺の悪魔がきっとお前を、苦しめてやるぞ」
そういうと、、こと切れた。
アンドレスは死骸を穴を掘って埋めた、
助かった息子を連れ帰り、
翌日再びそこへ行くと死骸は何者かによって既に、掘り返されてデンナーの死骸は跡方もなく消えていた。
アンドレスは、フォンファッハ伯爵の館に行って事細かくそれまでのことを報告してゆるしを請うた。
伯爵はアンドレスをゆるし、書記官に命じてその経過を記録させ城の文書室に保管させたのであった。
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アンドレスは今までの身に起こった悪事ですっかり疲れ果てていた。
だが、夜になると。
ぱちぱちという音と、赤い光が見え
こんなささやき声が聞こえるのだった。
「今や、お前は首領だよ。何でもできる。宝箱もお前のものだ。力も使える。お前は親分だよ」
しかしアンドレスはそんな誘惑にもう何の関心もあるはずもなかった。
『神よ、私を悪魔の誘惑からお守り下さい」
そういうとまだあった例の宝箱(宝石箱)を次の日、
山奥の深い峡谷に投げ捨てたのであった。
それからはさすがに、あれほど付きまとっていた悪魔どもも2度とアンドレスの平安を脅かすことはなかったという。
その後、
アンドレスは晴れやかな高齢を送ることができたのであったという。
(終わり)
ETA ホフマン原作『イグナーツデンナー』より。ダイジェスト版
2019,2.7改訂済み
付記
原作は古典小説であり著作権は消滅しております。