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 無差別級個人戦のカードは与作対東雲。

 無差別級団体戦のカードはアデル対イリーナ。

 決勝戦はどちらも知り合い同士の対戦になった。

 ある意味で喜ばしい結果だが、オレの周囲は大変な事になっている。

 衛兵が取り囲んでいるのだ!

 この筋肉バカの魔神が相手ではどれだけ数がいても無意味だろう。

 どちらかと言えば、NPCが近寄らないよう警備しているといった所か?



「ところで、貴方達は何が目的なのかしらね?」


『我の目的は違うがな』


「知っている事、話す気はあるのかしら?」


『奴等の目的など知らん』


「貴方は、どうなの?」


『我の望みは戦いあるのみ。今は奴等を屠り続けるだけだ』


 あれ?

 筋肉バカの解説によれば、魔神は辺獄から蘇るようであるんだが。

 屠り続ける事に意味があるんだろうか?

 決着出来るの?

 永遠に続くようでは洒落にならないと思うけど。



「では当面の話をしましょうか」


『何かな?』


「いつ頃、魔神は襲って来るのかしら?」


『まだ十分に猶予はあるだろう。少なくともこ奴がこの町にいる間はあるまい』


「キースちゃんったら狙われてるの?」


『悪縁でも縁だ。切れるまで続くであろうな』


 嫌な事を聞いちゃったな!

 あのドワーフの魔神は延々とオレを狙いに来るって事?

 頭が痛い。

 大苦戦必至であるのだし、喜べばいいのかもだが。

 厄介であろう事は確かだ。



「私達にとって貴方も敵よね?」


『我の邪魔をするようであればな』


「言っておくけど、邪魔したくて邪魔する訳じゃないわよ?」


『然り。だが関係ない。邪魔であれば屠るのみだ』


「あらそう?」


 やめて!

 オレの頭上を飛び交う台詞は徐々に剣呑な雰囲気に!

 身の置き場が無いじゃないの!



「キースちゃん!決勝戦、始まるわよ?」


『暇潰しのつもりだったが、これは興味深いな』


 しかしオレの周囲はどんな風に見えているんだろう?

 それも気になる。

 家族みたいに見えていたりして。


 だとしたら嫌な家族だな!

 家庭の団欒は皆無、そこにあるのは家庭内暴力の嵐になりそうです。





「派手な殴り合いねえ」


『ハハハッ!元気で結構!』


 与作と東雲はお互いに申し合わせでもしていたのだろうか?

 試合場に姿を見せた時から分かり易い兆候はあった。

 与作はあの巨大な両手斧を持っていなかった。

 東雲も槌やポールウェポン、盾すらも手にしていなかったのだ。

 最初から最後まで、格闘戦。

 そんな覚悟が感じ取れた。


 体格の差だけで論じるなら与作に有利だろう。

 リーチの差は確実にある。

 殴るにしても蹴るにしても、東雲の攻撃が届かない距離をキープ出来るのだ。

 だが、そこまで単純じゃ無い。

 攻撃が届く、その瞬間が怖いのだ。

 腕を、脚を掴み取られたら東雲の膂力が活かされるだろう。

 それに東雲の重心は与作と比べたら極端に低い。

 背が低い事が不利に働くとも限らないのだ。


 2人は共に呪文を使っていない。

 武技すらも使っていない。

 戦闘ログを仮想ウィンドウで表示しているが、閑散としている。

 HPバーの減り具合が反映されているだけだ。

 MPバーは全く消費される気配が無い。


 肉弾戦だ。

 召魔の森の闘技場で何度も見ている。

 この展開では与作がアウトレンジで戦えば勝利する確率は高い。

 だが、納得はしないだろうな。

 投げ技も関節技も通じないままの勝利で満足すると思えない。

 与作の戦闘スタイルの基本は柔道がベースだ。

 投げに妥協はしない筈。

 最も自信がある投げを封じられたままなのはプライドが許さないと思う。


 東雲も基本はパワーファイターだ。

 その膂力は与作をも上回る。

 体重も上回っていて重心も低い。

 転がすのは与作でも大きなリスクを伴うのだ。

 格闘戦では打撃と蹴りを受け、カウンターで腕か脚を掴む所からが本領発揮になる。

 オレだって何度も投げられたものだ。

 関節技は喰らえばパワー差があり過ぎて外せない。

 寝技でもパワーと体重の差が絶望的になるからディフェンスが大変になる。

 与作はオレ以上にパワーがあるから多少はマシだ。

 だが、余裕はそんなにある訳じゃ無い。


 与作にとっては苦しい展開になっていた。

 距離を詰めて投げを狙いに行くのだが、上手く行っていない。

 東雲の投げを、関節技を凌ぐのに近距離から肘打ちや膝蹴りを多用していた。

 HPバーの減り具合では有利だが、焦りが見える。

 試合場の角へと、徐々に後退しているのも気になった。



「キースちゃんなら、どうする?」


「何度も対戦してますので。普段通りに戦うだけです」


 オレの場合は悩まない。

 パワーがある相手にやれる事をやる、それだけだ。

 小手先の技に頼ってどうにかなる相手じゃ無い。


 隣にいる筋肉バカの場合は呪文の強化と武技を使っても尚、差がある。

 そういう意味で普段からパワー差のある相手との格闘戦は貴重だ。

 特に与作の場合、体格差もある。

 いい鍛錬になってます。



『懐かしいものだ』


「何?」


『魔神となる前であればな。対等に戦える相手には事欠かなかった』


 何だろう。

 筋肉バカの様子はどこか悲しげだ。

 そう言えば以前に聞いたような。

 永遠に戦いを楽しむために魔神になったのだと。

 だが、その代償であるのか、戦って楽しめる相手がいないのだと。

 それもまた大いなる矛盾であるのだろう。



「今はどうなの?」


『当面の相手なら、いる。見込みのありそうな奴も隣にいる』


「キースちゃんの事?」


『然りだ』


「私じゃダメなのかしらね?」


『悪いが趣味じゃないのでな』


「あら、そうなの?」


 このバカ!

 最悪の挑発をしやがって!

 ヴォルフの体が震えているのが分かる。

 ジュナさんの気配を敏感に感じ取っているに違いない。

 奇妙な声色を使っているのがより一層、不気味だ。



『むっ?』


「まともに入ったわね」


 与作の膝蹴りが東雲の側頭部に直撃している!

 オレであれば胸元の位置になるが、東雲の背の高さだと頭部になる。

 これは、効いた。

 間違いなく、効いた。

 だが、与作の動きも一瞬止まっている!


 東雲の左腕が与作の膝裏に差し込まれているぞ?

 アレを喰らって動けるのか。

 オレならそう簡単に動けはしないだろう。

 いや、吹き飛んでますから!


 ドワーフの腕の膂力で強引に抱え込んで体を反転、与作の脚そのものを捻る。

 同時に地面へと投げた!

 プロレス技に似たようなのがあったような?

 名前は思い出せない。


 与作が残った左足裏で東雲を蹴る。

 東雲が抱える右脚は片腕だけだ。

 両腕で抱え込まれたら危うい。

 技どうこうじゃないのだ!

 問答無用でパワーだけで逃げられなくなるぞ?


 与作は逆に抱えられた右脚を押し込む。

 関節技の応酬に付き合うつもりだ!

 柔道がベースであるだけに寝技だけでなく関節技にも自信があるからだろう。

 普段でもこういう展開はある。

 あるけど、与作には基本的に不利だろう。

 フィジカルで圧倒出来ないからだ。

 体格で上回る利点はあるけど、相手は東雲。

 ドワーフなのだ。



「狙ってましたね」


「でも危なかったわよ?」


『身を削って好機を得るか。好ましい展開である!』


 脳筋らしい感想だな!

 そして同時に、オレにとっても好ましいのでした。

 嫌だな。

 オレも脳筋にカテゴライズされちゃうんだろうか?

 嫌だなあ。



「さて、これってどうなるかしら?」


 展開は東雲に有利だ。

 与作が体格差を活かし、パワー差を跳ね返せるかが鍵だ。

 密着した状態での寝技の展開か。

 地味だ。

 地味だけど内容は濃い。

 これはどっちが勝ってもおかしくないぞ?





「ドワーフのパワーが勝ったわね」


『ふむ』


 勝負は東雲の変形膝固めが決め手になったみたいだ。

 与作も横三角絞めを狙っていたが、右脚を使えない状態では極めきれない。

 腕を使って喉を圧迫するのがやっとだった。

 東雲がもう少し背丈があったら裸絞めに行けたんだろうけどな。

 体格の差がそれを許さなかった形になる。


 いい試合であった。

 観客受けはどうかと思うけどね。

 オレとしては楽しめた筈だ。

 本来であれば、ですけど。

 両脇にいる存在に戦々恐々としてますが何か?



「団体戦も面白そうね」


『我には興味が無いな』


「召喚モンスターはお嫌い?」


『嫌いでは無いがな。面白みに欠ける』


 そんなものなのか?

 オレは結構、楽しめるんだけどな。

 鞍馬は当然、逢魔も1対1でいい相手になってくれる。

 様々なタイプがいてくれるから飽きる事も無い。

 プレイヤーのように虚を衝くような動きに欠けるような所は確かにあるけどね。

 それでも、手強い。

 時には新鮮な感触もある。

 無駄にはならない。



「じゃあ普段は何を相手に暴れているのかしらね?」


『いい相棒がいるのでな。助かっておる』


 あの雲母竜の事か!

 たまに対戦していると聞いた事があったような。

 サイズが全然、違うよね?

 どんな戦いになっているんだか。

 ちょっと見てみたい気がする。


 試合場ではアデルとイリーナだけが試合場の中央に歩み寄る。

 並んで雛壇に向けて、腰を屈めて優雅に一礼。

 そしてハイタッチ、各々の召喚モンスター達が待つ方向に歩んで行く。

 完璧なユニゾンだ。

 彼女達らしい。

 観客にも受けている。

 確かに彼女達の容姿ならばそうなるだろうな。

 可愛らしいからね。


 だが、召喚モンスター達はそうじゃない。

 アデルの布陣は?

 妖狐、ケルベロス、パイロキメラ、虎獣鵺、インペリアルタイガーだ。

 オレの目ではモフモフで可愛らしい、と言えるのは妖狐だけです。

 アデルと春菜はその全てが可愛らしい、と言い切るけど賛同は出来ない。

 猛獣の群れだ。

 まともに相手をするには躊躇するのが普通だろう。

 イリーナの布陣は?

 タロス、マッドヒュドラ、キングバジリスク、青竜、ゴーレム・オブ・リキッドメタル。

 軸になるのはゴーレム2体の壁役だ。

 それを補足する形で蛇身の召喚モンスターが3体。

 シンプルな編成に見えて色々な搦め手も使えるのだ。

 それはここまでの対戦で証明している。


 どんな戦いになる?

 もう想像出来ている。

 アデルが速攻を仕掛け、イリーナが迎撃する事になるだろう。

 召魔の森の闘技場で散々見ているからな。

 お互いに手の内が分かっている。

 それだけにイリーナはやり難いだろうな。

 アデルは何も考えていないだろう。

 いや、火輪の毛並みを堪能する事に思いを馳せているかもしれない。


 それがどう作用するかな?

 モチベーションが上がるだけならいい。

 邪念となって隙を生むかもしれない。

 そこが、読めない。

 さて、これはどうなるかな?





「派手な試合になったわねえ」


『確かに』


 筋肉バカの魔神も僅かだがこの対戦に興味を示している様子です。

 いい試合だ。

 それは間違えようがない。


 ジュナさんの言うように派手な展開が続いている。

 アデルが最初から全開で飛ばしているからだ!

 飛ばし過ぎにも思えるが。

 どうも例の約束は逆の方向に作用したかな?


 だが、戦況に大きな変化が生じている。

 アデル配下のインペリアルタイガーがダメージを喰らいつつ、場外へ。

 イリーナ配下のキングバジリスクと青竜も道連れだ!

 これで数の上では差が出来た。

 だがこれでアデルは壁役になり得る手札を1枚、失った事になる。

 まだケルベロスが残ってはいるけどね。

 タロスとゴーレム・オブ・リキッドメタルの足を止めるには不足だろう。


 ケルベロスは遊撃のまま、アデルのフォローに入らない。

 その理由はすぐに分かった。

 アデルの体が宙に浮く。

 フライの呪文を使ったのか?



『頭上を抑えられてはな』


「これは大変よね?」


 だが。

 イリーナもこれは考慮していたのだろう。

 空中に位置するアデルに矢を次々と放つ。

 しかも、武技を使ってだ!

 これに対抗する形でパイロキメラと虎獣鵺は空中での壁を作っている。


 成程ね。

 考えてやった事とは思わないが、イリーナの布陣を見たら納得だ。

 空中位置で戦える召喚モンスターは青竜だけ。

 だが、対空火力はまだあるぞ?


 マッドヒュドラのブレスが空中を覆う。

 パイロキメラと虎獣鵺がまともに喰らっている!

 アデルの壁呪文は間に合っていない。

 まだまだ、お互いに削り合いが続きそうだが。

 戦況はイリーナに不利のままだ。

 どう挽回するのかな?

 そこが見所になるだろう。





『そっちはどうなの?』


「ちょっと動けそうにないんで、少し待ってて下さい」


 テレパスでフィーナさんと会話しつつ表彰式を見てます。

 無差別級個人戦優勝は東雲、準優勝は与作。

 無差別級団体戦優勝はアデル、準優勝はイリーナとなった。

 知り合いばかりだし、どういった結果になっても喜ばしいのだが。

 オレの状況は一向に改善されていません。

 オレの目の前には筋肉バカの魔神がいる。

 そしてジュナさんもいる。

 まさに一触即発、何が起きても不思議じゃ無い。

 町の衛兵の皆さんも観客を近寄らせないように必死だ。


 その観客の中にデッカーの姿が見える。

 隣には鏑木までいる。

 約束があるのにこれでは動くに動けないじゃないか!



「済みません、別件で約束があるんですが」


「私はいいわよ?」


『我には関係ないな』


 これはどうしたらいいんだ?

 恐らく、町を出たらどこかのタイミングで魔神達の襲撃がある。

 そう思えます。



「悪いけど、ここで待てるか?」


『長くは待てんぞ?』


「私も待てないかもよ?」


 もうね、面倒!

 簡単に済むとは思えないけど、約束を優先させるべきだろう。





『キースって何かしたの?』


『イベントか何かですかね?』


「もう何もかも分からないな」


 デッカーと鏑木と少しだけ距離を置いて移動中です。

 オレと同行しているのはフィーナさんとゼータくんだ。

 ゼータくんの召喚モンスターもいるけどね。

 ホワイトファングと白狐だが、オレと同様に影の中に3体を潜ませている。

 インビジブルストーカー、レプリカント、ファントムです。

 今はユニオンを組んでいるから分かる。

 同様にオレの布陣も、フィーナさんとゼータくんも把握しているだろう。



『それにしても気になるわね』


「ええ。何かが同時進行しているように思えます」


『それよ。偶然だと思う?』


 フィーナさんが気にしているのはそこか。

 確かにどこか不自然に感じられるが。

 運営が過剰に介入しているとか?

 まさか!

 運営に対するオレの印象は?

 仕事がどこか中途半端で信用ならない。

 今回のような事態は不手際で起きたと言われた方がまだ納得出来る。



「ここです。ちょっと人数が多くなっちゃいました」


 鏑木の言う通りだった。

 黄色のマーカーはざっと見ても50名近くになるだろう。

 こちら側は30名って所だ。

 2つのパーティがPKK職、残りはPK職になる。



「先に情報交換はしてあった。違うかな?」


「ええ」


「結論を言えば、奇妙な点は1つに集約されます」


 デッカーの表情に浮かぶのは?

 困惑。

 そんな所だろう。

 鏑木も同様だ。

 こっち側の面々も向こう側の面々も、皆が困惑しているかのようだが。

 何だ?



「お互いの常識そのものに差があります」


「常識に、だって?」


「ええ」


「お互いに類似してはいますが違いがあるんです」


 それは何だ?

 意味が分からない。



「仮説ならあります」


「ちょっと唐突かもしれませんが」


「平行世界。さもなければ異世界?」


「そうとでも考えないと説明が出来ません!」


 唐突も何も、面食らいましたよ!

 出来の悪い小説じゃあるまいし。

 


「根拠はあるの?」


「幾つかあります。一応、箇条書きにして纏めてありますが」


「確認させて貰えるかしら?」


「勿論です」


 フィーナさんも、それにゼータくんも半信半疑?

 いや、全く信じられないって表情になっている。

 オレもだ。

 そんな事ってあるのか?

 運営がNPCを使って壮大な罠を仕掛けているんじゃあるまいな?

 そんな疑念が払拭出来ない。



「彼等とはユニオンは組めません」


「こっちで纏めたファイルが外部リンクにあります。確認して下さい」


 良く見たらこの廃墟の建屋の壁は文字で埋め尽くされているかのようだ。

 筆談までやってたのか。

 内容を全て把握出来る訳じゃ無いが、言葉で伝わる以上の迫力がある。



「時間は大丈夫なのかしら?」


「ええ、大丈夫でしょう」


「彼等もここでログアウト出来るのは確認済みです」


「そう。じゃあ食事を摂りながら話を聞きましょうか」


 ある程度はフィーナさんに任せていていいかな?

 オレは周囲の警戒をしつつ、話を聞く事にしよう。

 それに今になって、何かを忘れているような。

 何を忘れているんだろう?

 色々と詰め込んでしまうと重要じゃ無い用件を忘れてしまう!

 いかんな。

 やっぱりオレも脳筋なんだろうか?





「どう思いますか?」


『半信半疑って所ね。鵜呑みに出来るような事じゃないわね』


『同感です』


 デッカー達、それに鏑木達との会合は一旦解散となった。

 今は冷静になれる時間が欲しい。

 切実にそう思えます。



「歴史も共通項があるのは明治維新までですか」


『ええ。一般良識にも少し差があるみたいね』


『世界情勢も似てはいますが差があるようです』


 そう。

 基本的に似ている。

 それ自体が互いの差を認識出来ない罠となっていた。

 当初はお互いがお互いに別サーバーの住人だと思っていたのも納得だ。

 それ程に似ている。

 差は僅かだ。



「運営の仕掛けた罠の可能性は?」


『その可能性が一番高いわね。向こうもそう思っているみたいだけど』


『あの反応、運営が全てを仕切っているようなら驚きですね』


 そうなのだ。

 鏑木達の反応は真に迫り過ぎている。

 疑念があるにも関わらず、信憑性もある。

 このゲームのNPCの反応を考慮したら?

 彼等もNPCである可能性も捨て切れない。


 もしも鏑木達がNPCであるとして、その狙いは何か?

 分からない。

 単に混乱させる為、というのはあるだろうけどね。

 こんな手の込んだ事を運営がやるだろうか?

 オレの認識とは異なる。

 イベントが進行せずに中断するような有様なのだから。



「では、どうします?」


『時間を掛けて情報交換を続けるしかないでしょうね』


『対応する人数は増やしますか?』


『そうね。それがいいわね』


 オレとしても参加したい所だ。

 でも鏑木達からもたらされた情報は他にもある。



「法騎士の軍勢が再び迫っているって話は関係ありますかね?」


『あると思いますが』


『どうかしらね?』


 ゼータくんとフィーナさんの意見は割れたか。

 何にしても、情報が確かであれば戦争になる可能性があるだろう。

 オレが余計な事をしなければ始まっていたかもしれない、戦争にだ!

 今度は期待していいかもしれない。

 いや、期待させて下さい!





 フィーナさんとゼータくんと別れて試合場A面に戻りました。

 雛壇にはサビーネ女王と竜騎士達、サニアの町の重鎮が何名か残っている。

 師匠、それにゲルタ婆様の姿もあった。

 そして試合場には水晶竜。

 凄まじい怒気を発している!

 空気が熱を帯び、空気が震えているかのような迫力だ!

 ジュナさんが水晶竜の傍にいて苦笑しているのが分かる。


 そんな水晶竜を目前にして、筋肉バカの魔神は平然と佇んでいた。

 まるで水晶竜の存在を無視しているかのようだ。

 鈍感な訳じゃあるまい。

 これも一種の挑発なんだろうか?



『おお、戻ったか』


「ああ」


 しかしこうなるとこれって好機?

 場所は闘技大会で使っていた試合場。

 魔神を相手に戦うだけの舞台は整っている。

 どうする?

 どうする、オレ?

 この後、魔神達がオレを襲いに来るそうだが。

 目の前に目標としている存在がいるのです。

 挑めるようであれば挑んでみたいものだ。



「魔神達は本当に来るのか?」


『来るであろうよ』


「あんたが狙いはあのドワーフの魔神。そうだな?」


『無論だ。他の魔神は汝に譲っていい』


「ドワーフの魔神に狙われているのはこっちだろう?」


 オレの言いたい事を理解しただろうか?

 筋肉バカの表情に変化が見える。

 そして肉食獣のような雰囲気。

 いいぞ。

 挑発に乗ってくれ!



『またしても邪魔するか!』


「邪魔なのはそっちもだろう。ある意味、こっちが先約だ」


『話にならんな』


「何だったらここで決めるか?」


 さあ、どうする。

 賽は投げられた。

 どの目が出るのかは運頼みになるだろう。



「待て!キースよ!」


 制止する声は意外な所から発せられた。

 ゲルタ婆様?



「お主には手伝いを頼んであった筈!マナポーションじゃ!」


「あっ」


 それ、忘れてました!

 でもね、それって元々は師匠がすべき仕事じゃ無いんですかね?

 それにマナポーションの作業を延々としていたのでは魔神達とも戦えない。

 困る。

 とても、困ります!



『それは我も困るな』


「じゃあお互いに妥協したらどう?」


 ジュナさんも無茶を言う。

 妥協点はあるようで無いも同然なのだ。

 筋肉バカの魔神も譲るとは思えない。

 オレも譲るつもりは無い。

 ゲルタ婆様だって譲れない所があるだろう。


 ところで、師匠。

 弟子が困ってますよ?

 助けて下さい!



「ここで勝負、勝った方の意思を優先。それでいいんじゃない?」


「ジュナ様!」


「マナポーションの件ならシルビオちゃんとオレニューちゃんもいるし」


「ええっ?」


 師匠が素っ頓狂な声を上げる。

 静観を決め込んでいたようです。



「異存はある?」


『我には無いな』


「ありません」


 ジュナさんの視線の前では師匠に発言権は無かった。

 弱っ!


 そして勝負か!

 望む所だ。

 こいつ相手にオレの中に溜まっている何かを発散してやる!

 闘技大会の観戦の間、余計な重圧を受けていた事とか。

 暴れる事が出来ずにウズウズしてた事とか。

 鏑木達の一件が意外と面倒そうな事とか。

 まあ、色々だ。



「何だった預かっている物を賭けたっていい」


『自惚れるな。肩慣らしにいいと思ったまでだ』


 こいつ!

 挑発か?

 侮蔑なのか?

 どっちでもいい。


 もうこうなったら徹底的にやろう。

 以前のオレとは違うぞ?

 この肉体で語ってやる!

 そして目の前にいる筋肉バカに痛みを刻み込んでやる!



『場所を空けねばならんか』


「ゴメンねー」


 水晶竜が空へと舞う。

 試合場A面に残ったのはオレと筋肉バカの魔神。

 それにジュナさんだけだ。



「開始の合図は?」


「無用です」


『うむ。もう始まっているも同然であるしな!』


 その通りだ。

 魔神の腰の位置が僅かに下がっている。

 単に立っているだけのように見えて、歩幅が僅かに広がっていた。

 いつ、襲われても迎撃出来るだけの用意をしていたのだ。



「そっちから仕掛けてもいい」


『先に一発、殴らせていいぞ?』


 ダメだ。

 口先だけでどうする?

 やはりこうだな!



「神降魔闘法!」「金剛法!」「エンチャントブレーカー!」「リミッターカット!」


 これで届くか?

 まさか!

 相互作用があるだろうが、届くとは思えない。

 更に強化の上乗せだ!



(フィジカルエンチャント・ファイア!)

(フィジカルエンチャント・アース!)

(フィジカルエンチャント・ウィンド!)

(フィジカルエンチャント・アクア!)

(メンタルエンチャント・ライト!)

(メンタルエンチャント・ダーク!)

(クロスドミナンス!)

(グラビティ・メイル!)

(サイコ・ポッド!)

(アクティベイション!)

(リジェネレート!)

(ボイド・スフィア!)

(ダーク・シールド!)

(ファイア・ヒール!)

(ヒート・ボディ!)

(レジスト・ファイア!)

(十二神将封印!)

(ミラーリング!)


 これで互角?

 そこまで楽観視はしていない。

 もう一段階、切り札がある。

 ブーステッドパワーだ。

 使うべきか?

 もうね、悩んだらやるべき事は決まってます!



「ブーステッドパワー!」


 はい。

 使っちゃったね!

 もう後戻りは出来ない。

 オレに残された選択肢はもう、全力で戦う以外に無い。

 もうどうとでもなれ!



『ハハハハハハハハハハハッ!』


「ケェェェーーーーーーーッ!」


 魔神め、嗤ってやがる!

 格上なのは承知だが、甘く見ないで欲しいものだ。

 思い知るがいい。

 さあ、解き放とう!

 獣の如き狂気を全て、目の前の魔神に叩き付けてやる!

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― 新着の感想 ―
アデルとイリーナのコンビは本当にいいですねぇ…まさにベストフレンド&コンビという感じ そして良かったねサモナーさん!エキシビションマッチ開催ですよ!!
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