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「フッ!」
「それっ!」
まただ。
また、返された!
恐ろしい展開が続いている。
投げ技で、関節技で、そして寝技で手玉に取られている!
しかも傍目からだとラッキーな展開に思う向きもあるだろう。
息が、出来ない。
袈裟固めを喰らえば、目の前におっぱい。
上四方固めを喰らえば、やっぱり目の前におっぱい。
押し付けられたらどうなると思いますか?
窒息しかねない恐るべき凶器と化す。
風魔法の呪文のサフォケイションを喰らったらきっと、こんな気分になるのだろう。
フワフワな感触は無いだろうけどね。
どうにか腕絡みを抜け、立つ。
だが相手はジュナさん、殴る蹴るといった事はしない。
腕を組んで、投げを狙う!
「ほれ!」
「ッ?」
いきなり構えがスイッチ、袖釣り込み腰に!
ジュナさんもどうやら柔道に通じる格闘術を使う。
少し違っているように思えるけど、そう考えていい。
だからこそ、自然と投げられないように身構えてしまう。
それが罠だ!
「そりゃ!」
踏ん張った所で小内刈りかよ!
いいように転がされている!
またしても袈裟固めを狙われているけど、足を絡めてどうにか防ぐ。
パスガードされたらまたおっぱい固めになる。
アレは、ダメだ。
でも心のどこかで喰らいたく思っている向きがあるのも分かる。
何という罠!
「ヌッ!」
「ありゃ?」
首に巻かれようとしていた左腕を取り、肘関節を狙う。
正直、ジュナさんの膂力は女性としては凄い。
でも凄過ぎはしない。
対応は可能であるのに、ここまで一方的になる理由は何だ?
認めないといけない。
明らかに技量で格段の差があるからだ!
どこか手を抜かれているのも分かる。
この人、本当に何者だ?
「ッ?」
「あまーーーーーい!」
いかん!
いつの間に左脇を差し込まれていたんだ?
オレの左肘が極められかけている!
反射的に防御に動く右腕、そしてジュナさんの左腕が自由になった。
あ、これもダメだ!
「よいしょ!」
「クッ!」
左腕がアームロックに極められ、同時に首も絞められつつある。
体重を活かした動きで無駄が無い。
しかも目の前にアレが迫る。
そう、おっぱいだ!
「ッ?」
最後の抵抗で左腕を右手で引き戻そうと試すが、ダメだ。
完全にロックされている!
その上、右手が何かに挟まれている感触。
これもやっぱり、おっぱいだ!
いかん。
息が!
息が!
右手をどうにか引き抜くとジュナさんの背中を叩く。
もうこれでは仕方ない。
降参する以外にどうしろと?
《只今の戦闘で【関節技】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘で【投げ技】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘で【回避】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘で【受け】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘で【召喚魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘で【連携】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘で【掴み】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘で【精密操作】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘で職業レベルがアップしました!》
《只今の戦闘で種族レベルがアップしました!任意のステータス値2つに1ポイントを加算して下さい》
地上に転がったまま、インフォを聞いていました。
ある意味これは、屈辱だ。
4戦して全敗。
それでいてレベルアップ?
美味しいとは思えない。
そんな気分になれませんよ!
基礎ステータス
器用値 61
敏捷値 61
知力値 100
筋力値 61(↑1)
生命力 61(↑1)
精神力 100
《ボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で13ポイントになりました》
与作や東雲、ハンネスと組み合うのとはまるで違う。
柔らかいクッションを相手にするかのように、手応えが無くなってしまう。
ジュナさんは武技は勿論、呪文すら使っている気配は無い。
体格はオレの方が上で、パワーも素の状態であれば差があるように感じないのだが。
結果は当然だが、内容で圧倒的に差があるのが分かる。
投げ技で内股が通じそうになったけど、浮き技で切り返されてしまっていた。
オレってば全然、いい所が無いじゃないか!
「もう!殴ったり蹴ったりしに来てもいいのに!」
「それは出来ません」
「気を回す必要、無いんだけどなー」
ジュナさんが拗ねた様子を見せている。
だが、その視線がいきなり鋭くなった。
何かを見ている。
ジュナさんの視線の先に、法騎士と天馬騎士。
今度は少し人数が増えたかな?
こっち側にはサビーネ女王と共に水晶竜もいればブロンズドラゴンもいる。
それでいて少人数で出向いて来る事は大いに評価していいと思う。
先頭にいるのは法騎士ルッジェーロ。
その後方に控えているのは宮廷魔術師のシルビオ。
法騎士ジョバンニ、法騎士ファラの姿も見えていた。
他の連中は正規兵だな。
総勢20名程度、正直言って水晶竜とブロンズドラゴンの前では小物にしか感じない。
天馬騎士は2名だけ、アントン、バルバラの両名だ。
やはり戦力としては不足に思える。
でも下手に手出しするのは控えたい。
黄色のマーカーのままなのだ。
反撃許可はまだ無い。
「ジュナ様が使者と思って宜しいので?」
「いいんじゃない?それに元師匠を待たせるなんて、なってない!」
シルビオの問いに反論する図であるんだが、やっぱり奇妙だな。
外見で言えば宮廷魔術師でもあるシルビオの方が立派であるからだ。
「サニアの町は我が国の領土、それを不当に占拠し続けるのは事実上の侵略だ!」
「あらそう?じゃあ住民の言い分を聞いてみる?」
「下賤の者達の言い分に何の意味がある?」
法騎士ルッジェーロだが、この人の恐ろしさを知らないみたいだ。
ジュナさんの立ち姿は一見、柔らかい印象でしかない。
貴族然とした所も無い。
どこかの商家の若奥様といった風情だ。
「しかも魔人と通じているなどと我等を愚弄するとはな!」
「ジュナ様、どう致しますか?」
「そうね。こうしてみようかしら?」
ジュナさんの影から何かが浮かんで来る。
その影は2つ。
バンパイアデューク!
だがもう一方が問題だ。
法騎士ストーク。
その視線の先に、法騎士ルッジェーロの姿があった。
「何ッ!」
「お久し振りですな、兄上!」
兄上?
この2人、兄弟だったのか?
だが様子はおかしい。
感激の再会って訳ではないらしい。
兄の反応は驚愕するばかりであり、その言葉には苦々しい思いが透けて見えていた。
弟の反応はもっと先鋭的であり、怒りに満ちている。
仲が悪いのか?
もっと様子がおかしいのは法騎士ジョバンニ、法騎士ファラの両名だろう。
表情は変わらない。
でも動揺が大きいのはこっちの方だろう。
あれ?
もしかして、死んだと思ってました?
法騎士ルッジェーロの視線はストークから外れ、この両名を見ているみたいだ。
だが、この両名は目を合わせようとしない。
何やら不穏な雰囲気。
ここから面白い展開になるのかな?
「ストーク殿は戦死したと聞き及んでおりましたが、これは?」
「偽者だ!そうに決まっておる!」
天馬騎士の問いに答えるが、明らかに虚勢。
しかしこの法騎士ルッジェーロ、小物感が半端ないな!
「ジュナ様、まさかと思いますが」
「失礼ね。アンデッドじゃないわよ?」
ジュナさんもシルビオの問いに憮然とした表情になる。
だが、シルビオの表情も冴えない。
「レプリカントではないでしょうな?」
「くどい!何なら貴方が確認したら?」
ストークは拘束されていない。
武装もしていない。
シルビオが一歩、近寄って凝視しているが本物なのは明白だ。
レプリカントではここまで、表情を作るのは無理だとオレは知っている。
「ルッジェーロ殿」
「いかん、認める訳にはいかんぞ!」
明らかに狼狽する法騎士ルッジェーロ。
どうしたんでしょうね?
「兄上が私を苦々しく思っていた事は知っておりました。ですが、此度の事は一体何なのです?」
答えは無い。
睨み返すだけだ。
間違っても肉親に向ける表情ではない。
このやり取りに天馬騎士達も困惑しているのが分かる。
まあ、そうなるよな?
「サニアの町の者達がコンティ王家に従う事はないでしょう。まさか法騎士が魔人を引き入れるとは!」
「黙れっ!弟の名を騙る者の戯言など、聞かぬ!」
ああ、これってダメな奴だ。
意固地になって地雷を踏むような類か?
面白い。
もっと地雷を踏ませてみましょうか。
「じゃあ、試してみます?」
「キースちゃん?」
ジュナさんは反対するかもだか、今は行動してしまおう。
《アイテム・ボックス》からオレが取り出したのは?
秩序法典巻之三だ。
「貴様、どうやってそれを!」
「それ、聞くの?」
法騎士達は全員、激発寸前だな。
いいぞ。
冷静さを失ったら向こうから戦争を仕掛けてくれるかもしれない。
でもちょっと反応が大袈裟じゃないかな?
「法騎士ではない貴様にとっては無用の長物、こっちに引き渡せ!」
「確かに、私には使えない無用の物。それは法騎士を騙る者にとっても同様ですよね?」
オレは手にした秩序法典巻之三を軽く掲げる。
同時にストークを見る。
いかん。
表情がどうしても、笑ってしまいそうになる!
いや、笑っている?
ストークがオレに向ける表情は驚愕を通り越して何かを恐れているかのようだ。
「彼が法騎士じゃない、というのであれば、彼にこれを渡しても問題は起きない。違いますか?」
「ま、待て!」
顔を真っ赤にした法騎士ルッジェーロはそれしか言えず、二の句が出て来ない。
何やら思案しているようだが、アイデアが浮かばないのか?
いいアイデアならある。
今、オレを襲ってくれていいぞ!
「それは元々、コンティ王家の宝。返して頂きましょう」
「断る。そんな義理は私には無いのでね」
宮廷魔術師のシルビオがオレに迫る。
恐らく、この男の力量は師匠やゲルタ婆様に匹敵する。
敵に回したくはない相手だが、それだけに面白い。
でも今は交渉の相手だ。
どんな手を打ってくるかな?
「ではこうしましょう。その法典を賭けて決闘を申し込みたい」
「受ける義理も無いなあ」
馬鹿馬鹿しい。
決闘でこの秩序法典巻之三を賭けるのだと仮定して、オレが勝った時に何を得るというのか?
秩序法典巻之三に相当する何かがあればいいが、そうでなければ受ける意味は無い。
「我等の代表が勝利の暁にはその秩序法典を」
「私が勝ったら?」
「望む物を。それでどうです?」
シルビオはオレに向けて言ったのではない。
ジュナさんに向けての言葉だ。
あれ?
オレを無視するとか、ちょっと頭に来てますよ?
「今の言葉、そっちに異存は無いと思っていいのかしら?」
「む、無論だ!」
法騎士ルッジェーロはジュナさんの言葉に反射的に答えていた。
オレを凝視しているのが分かる。
品定めって所か?
「聞きました?」
「はい、確かに」
「天馬騎士のお二方には立ち会って頂きましょうか。それで公平。いいわね?」
ジュナさんもどこか楽しそうだ。
悪い笑顔をしている。
とても、とっても悪い顔をしている。
悪戯を思い付いた、そういう感じだ。
言質を取ったからだろうか?
オレの力量を信じているからだろうか?
分からない。
分からないけど、お気の毒に。
誰が?
勿論、法騎士達だ。
「キースちゃん、どうする?」
「決闘ですか。受けましょう」
「では、我等が勝利の暁にはその秩序法典は返して頂きましょう」
「いいわ。こっちが勝ったなら全軍撤退、それにそこの宮廷魔術師の身柄を渡して貰おうかしら?」
「え?」
虚を衝かれたのは宮廷魔術師のシルビオだ。
そしてジュナさんの言葉に反射的に答えてしまうバカがいた。
「いいだろう」
法騎士ルッジェーロが即答する。
シルビオが動揺しているのは明白だった。
この人も気の毒に。
きっと過去にも色々と被害を受けていたに違いない。
「何か妙な事になっちゃったみたいです」
『決闘だなんて、気の毒にねえ』
「いや、本当に。誰か代わってくれませんかね?」
『キース、気の毒なのは貴方と戦わされる方だと思うわよ?』
『ですよねー』
『ま、妥当な所だよなー』
そうだろうか?
納得は出来ない。
話の流れで決闘をする事になったけど、これで良かったのか?
今は分からない。
でもやると決まったらベストを尽くすのみだ。
一旦、時間を置いてから決闘をする事になってます。
法騎士側から誰が決闘の場に出て来るのかはまだ分からない。
しまったな。
法騎士ルッジェーロを指名しておけば良かった!
顔を踏み付けてやって差し上げたい!
既に決闘の場所は決まっている。
天馬騎士がいる場所だ。
そして秩序法典巻之三は天馬騎士アントンに預けてある。
ジュナさんも傍にいる事だし、そのまま奪って立ち去る事も出来ないだろう。
そして宮廷魔術師のシルビオも天馬騎士と共にいる。
その立場は秩序法典巻之三と同じく、勝利した者への景品みたいなものだ。
ちょっと切ない。
でも同情するのはそこまでだ。
申し訳ないけど、全力で相手をしよう。
楽しめるかどうか、そっちが優先だけどね!
「キース様、本当に良いのでしょうか?」
「ま、いいんじゃないですかね?」
サビーネ女王はどこか申し訳なさそうだけどね。
その隣に立つゲルタ婆様は違う。
プレッシャーが凄いよ!
「分かっていようがな。負けたら承知せんぞ?」
「はあ」
口にしなくてもいいのに!
じゅ、重圧が!
やっぱりこの人、苦手です。
『決闘とはな』
『思う存分、暴れて来るがいい』
水晶竜の様子は、まあアレだ。
本音を言えば自分が暴れたくて仕方ないのだろう。
戦争ともなれば、その相手にセンチネルゴーレムが加わる事だろう。
そしてセンチネルゴーレムは間違いなく強い。
水晶竜にとっては戦闘スタイルが噛み合わないだけだ!
暴れるだけであればいい相手になるだろう。
延々と回復し続けてくれるから攻撃し放題だ。
「負けるつもりは当然ですがありませんよ?」
「うむ、行って来い!」
ゲルタ婆様に尻を叩かれた。
防具があるのに結構痛いよ!
気合を入れろって事だろう。
言われるまでも無い。
必勝あるのみ!
負けてやる理由なんて皆無であるのです。
法騎士達の軍勢の中から進み出て来たのは?
法騎士ルッジェーロだ。
良かった。
最悪、傭兵とか冒険者のうちの誰かを出して来る事も有り得たのだ。
外聞を憚る事でもあったのか、法騎士が相手になるとは僥倖だろう。
こうでもしないといけない理由が他にあるのかもしれません。
何か必勝の策でもあるんだろうか?
「両者共、宜しいですかな?」
「無論だ!」
「いつでも、どうぞ」
見届け人であり、審判役を兼ねるのは天馬騎士アントンになるようだ。
判定にも気を付けるべきなのは言うまでも無い。
ルッジェーロに有利な形で誘導する可能性もある。
少なくとも、HPバーでルッジェーロを下回るのは危険だ。
判定勝ちを宣告されてしまう可能性がある。
「では、始め!」
今日はやたらとギャラリーが多い。
恥ずかしい戦いは見せちゃいけません。
出来るだけスマートに勝っておきたいものです。
センチネルゴーレム壱式 ???
??? ??? ???
??? ???
オレの目の前にいるのは確かに、センチネルゴーレム壱式。
あれえ?
これって、いいのか?
オレとしてはある意味で歓迎なんだけど、釈然としない。
単純な対策ならある。
法騎士ルッジェーロ本人を狙えばいい。
そう、狙えばいいんだが。
その法騎士ルッジェーロはセンチネルゴーレム壱式の肩にいる。
しかもこっちを見下して、高笑いしてやがる!
「フハハハハハハハハッ!法騎士の力を甘く見た報いを受けよ!」
何だろう、あの小物感。
使うのを控えていたけど、アレを使っちゃおうか?
オレが手にしていたのは神樹石のトンファーだが、他にもサブウェポンは用意してあった。
金剛杵、それに神鋼鳥のククリ刀だ。
当然だけど、センチネルゴーレム級に通じる得物ではない。
どうする?
当面はこうしよう。
「真降魔闘法!」「エンチャントブレーカー!」「リミッターカット!」
「メディテート!」「ブレス!」「インテリジェンス・アタック!」
センチネルゴーレムを使うのは反則?
多分、そう言うのは簡単だ。
でもそれを言い訳にしたくない。
やれる事を、やろるだけだ。
(フィジカルエンチャント・ファイア!)
(フィジカルエンチャント・アース!)
(フィジカルエンチャント・ウィンド!)
(フィジカルエンチャント・アクア!)
(メンタルエンチャント・ライト!)
(メンタルエンチャント・ダーク!)
(クロスドミナンス!)
(グラビティ・メイル!)
(サイコ・ポッド!)
(アクティベイション!)
(リジェネレート!)
(ボイド・スフィア!)
(ダーク・シールド!)
(ファイア・ヒール!)
(ヒート・ボディ!)
(十二神将封印!)
(ミラーリング!)
自らを強化し、センチネルゴーレムを見上げる。
巨神級を相手に地上戦をした事だってあるのだ。
それを思えば、戦えなくは無い。
何よりも弱点は分かっているのだ!
(ショート・ジャンプ!)
跳んだ先は?
センチネルゴーレムの肩の上です。
法騎士ルッジェーロと視線が合う。
「やあ」
「な、何?」
これ以上の問答は不要。
神鋼鳥のククリ刀を投じる。
急所に直撃ぜず、肩口を掠っただけだ!
だがいい威嚇にはなっているみたいです。
表情は見えないが、苦痛を与えたであろう事は確実だ!
いいぞ。
でもその兜が邪魔だな。
オレはお前の苦痛に歪む顔が見たいのに!
「ヌンッ!」
法騎士ルッジェーロが手にしているのは本だ。
アレを奪えばセンチネルゴーレムの制御は出来なくなるのだろう。
その前に、蹴りを放つ!
前蹴りは腹を直撃、追撃を加えようとしたその時。
ルッジェーロの体がセンチネルゴーレムの頭部に融合?
そのまま中へと埋まって行くかのようだ。
「バカめ!これで終わりだ!」
ルッジェーロの笑い声はどこか楽しげだ。
その姿はセンチネルゴーレムの頭部の中へと消えて行く。
おい。
まさか、センチネルゴーレムと合体したのか?
迷いが生じてしまった。
だが今は対抗策を講じるべきだ。
センチネルゴーレムの掌が迫っている!
(フライ!)
(アクロバティック・フライト!)
(ミラーリング!)
一旦、空へと退避する。
センチネルゴーレム壱式の全容を眼下に納めつつ思う。
空中から攻撃するのはいいんだが、それって面白いか?
きっと面白くない。
出来ればこの手で、ルッジェーロの顔を変形させたい所であるんだが。
どうしたらいい?
残念だが、いいアイデアは浮かんでくれそうに無いみたいです。
(レールガン!)
(ミラーリング!)
センチネルゴーレムはやはりセンチネルゴーレムだ!
連続攻撃を重ねているけど、HPバーが思ったように減ってくれない。
溶岩風呂に片足を突っ込ませて動きを止め、【呪文融合】で組んだ攻撃呪文を使う。
センチネルゴーレム壱式はその強力なHP回復能力を発揮しており、どうやっても沈みそうな気がしない。
HPバーが最大限に減らせたのも残り8割程度まで。
火力が足りないのは明らかだ。
防御面では問題ない。
センチネルゴーレム壱式の攻撃は空中で対応さえしていたらどうにかなってしまう。
正直、面白くない。
MPバーの枯渇は?
関係ない。
時々、接触型呪文の詰め合わせを使っている。
それで十分に補充出来ていた。
ルッジェーロが合体した事でセンチネルゴーレム壱式の動きはどこか滑らかになったと思う。
でもそれだけじゃない。
どうもダメージを喰らわせている度に動きがおかしくなっている。
もしかして、痛がってます?
試しにレールガンによる攻撃を頭部に集中させているんだが、貫通すると動きが止まる。
しかも、身悶えるかのような動きもする。
ルッジェーロと感覚が同調しているのかな?
((((((エナジードレイン!))))))
(((((フォースド・メルト!)))))
(((((カーボニゼーション!)))))
(((((フォースド・エバポレーション!)))))
(((((サーマル・ニュートロン!)))))
(ミラーリング!)
更に頭部へ接触、攻撃を重ねてみる。
そこに迎撃で迫る掌!
センチネルゴーレム壱式が自らの掌で耳元を叩く形になった。
何かを連想する。
血を吸いに来た蚊を叩く構図です。
オレは害虫扱いですか?
大きさの対比であればそうだろう。
(((((((ダークマター!)))))))
(((((((ソーラー・ファーニィス!)))))))
((((((ディクレイ・ヒート!))))))
((((((サーマル・ニュートロン!))))))
(ミラーリング!)
オレが蚊とは違って様々な攻撃手段がある。
それに蚊の場合、血を吸うのは自然の摂理、子孫を残すのに必要な行為だ。
例えるのは失礼ってものですよね?
(((((((メテオ・クラッシュ!)))))))
(((((((パラレル・シムーン!)))))))
((((((ヴォルカニック・ボム!))))))
((((((スチーム・エクスプロージョン!))))))
(ミラーリング!)
まだまだ試したい組み合わせもあるけど、これを継続していれば優位は揺るがない。
沈める事も出来ないけどね。
こうなったら我慢比べだ!
(アポーツ!)
同じ手順の繰り返し、しかも仕留められないと分かっている相手か。
一方的な展開だが、オレの方は一度でも直撃を受けたら終わりだ。
油断大敵。
緊張感は当然のようにある。
難儀な奴め。
法騎士ルッジェーロを直接殴るのは諦めるしかないな。
その代わりにセンチネルゴーレム壱式の頭部に攻撃を集中させよう。
元々、ゴーレムだし目鼻も耳も、口も無いけどね。
その顔を変形させてやる!
オレのブーツの底を舐めさせてやる!
気分だけだけど、絶対にやってやるからな!
何度目かのレールガンの直撃でセンチネルゴーレム壱式の動きが止まった。
何で?
理由はすぐに分かった。
倒れ込んだセンチネルゴーレム壱式から法騎士ルッジェーロが転がり出ていた。
その傍には本。
恐らくは法典。
手放してしまったのか?
馬鹿な奴!
「ハハハッ!」
だがこれは好機!
反射的に手にしたオリハルコン球を投げていたけど問題ない。
目標は修正だ!
(レールガン!)
(ミラーリング!)
本を拾おうとしていた法騎士ルッジェーロの目の前、地面に向けて放った。
足が竦んだのか、動きが止まる。
そう簡単に拾わせる訳がないだろうが!
(ショート・ジャンプ!)
法騎士ルッジェーロの背後に跳ぶ。
膝裏を蹴り飛ばし、右腕を後ろ手に捻り上げた。
地面に押し倒し、背中に乗ると体重を掛けて行く。
左膝で延髄を押す形で地面に顔を押し付ける!
オレのブーツの底を舐めさせる前に、地面を舐めるがいい。
どうだ?
美味しいか?
感想を言え!
言えないのは承知だけどな!
「フンッ!」
「ガハッ!」
右肩の関節が抜けたかな?
そして右肘から奇妙に響く音。
おっと、いけね。
武技と呪文で強化されているから加減が出来ていない!
これでは殺しちゃうかも?
それはオレも望んでいない。
実際にHPバーは一気に半分以下になっているぞ?
(((ダーク・ヒール!)))
(ミラーリング!)
ダーク・ヒール3回分、ミラーリング付を使う。
組んであって良かった。
そして法騎士ルッジェーロのHPバーは全快になったようだ。
これでいい。
これでもう少し、楽しめそうだ。
(((((((ファントム・ペイン!)))))))
(((((((カーズド・ワーム!)))))))
((((((イビル・アイ!))))))
((((((マインド・クラッシュ!))))))
(ミラーリング!)
嫌がらせ呪文の詰め合わせを使う。
これを使うのは初かな?
どうもこれはいい選択じゃなかったらしい。
マインド・クラッシュでMPバーを削り過ぎた。
ダーク・ヒールを使う分を余らせておかないと、楽しめない!
「お、おのれは!」
「ハイハイ、黙ってろ!」
しかし黙りそうな様子は無い。
どうしますか?
こうしましょう。
(((((((サフォケイション!)))))))
(((((((ペトリファクション!)))))))
((((((アブソリュート・ゼロ!))))))
((((((アイアン・メイデン!))))))
(ミラーリング!)
鉄の棺桶に封じ込める組み合わせは幾つかある。
正直に言えば、選択を間違えた。
これ、極限に冷やした上に窒息と石化を狙う組み合わせだった!
いかん。
これではすぐに、死んでしまうぞ?
解除だ解除!
((オフェンス・フォール!))
((ディフェンス・フォール!))
(スロウ!)
(ディレイ!)
(パラライズ!)
(イビル・アイ!)
((グラビティ・プリズン!))
((ダーク・プリズン!))
((ホーリー・プリズン!))
(アイヴィー・ウィップ!)
(ブラックベルト・ラッピング!)
(レインボー・チェイン!)
(コラプト!)
(オートクレーブ!)
(ドラウト・ゾーン!)
(ヘルズ・フレイム!)
(レゾナンス!)
(スウォーム!)
(カーズド・ワーム!)
(ペトリファクション!)
(アイアン・メイデン!)
(ミラーリング!)
これでどうだ?
返事が無い。
鉄の棺桶が突破されそうな雰囲気も無い。
おっと、いけね。
これでもまだ、死にそうになってしまうぞ!
(((ダーク・ヒール!)))
(ミラーリング!)
鉄の棺桶越しに回復はさせておこう。
まだ法騎士ルッジェーロのMPバーは2割程、残っている。
大事に使わないといけません。
生かさず、殺さず、それでいて何も言わせない。
これ、匙加減がかなり難しいぞ?
慎重に判断を下さないといけません。
それにしても法騎士ルッジェーロ自身は格闘戦で楽しめそうな雰囲気が無い。
以前は戦ってみたいと思った時期もあったんだが、見込み違いだったのかな?
残念だ。
とても残念です。
《只今の戦闘勝利で【杖】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【時空魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【封印術】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【光魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【水魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【闇魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【雷魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【塵魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【灼魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【禁呪】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【投擲】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【魔力察知】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【武技強化】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【魔法効果拡大】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【魔法範囲拡大】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【呪文融合】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【限界突破】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【獣魔化】がレベルアップしました!》
オレの足元で法騎士ルッジェーロはオレのブーツの底を舐めているのか?
どうもそうじゃないらしい。
既に気絶してしまっていたみたいだ。
まあ、いいか。
これで舐めたって事にしておいていい。
HPバーはまだ半分、残っていたんだけどな。
ダーク・ヒールでMPバーを枯渇させてしまったのがいけなかったようだ。
それに対戦の終盤で介入しようとしていた連中がいたのも知っている。
法騎士達だ。
今も駆け寄って来そうなのが、いる。
どうにか視線で制しつつ、地面に転がったままの本を拾い上げた。
【装飾アイテム:書物】秩序法典巻之七 品質? レア度?
重量2+ 耐久値???
限られた法騎士に与えられる書物で同時に誓いのアイテムのうちの一冊。
分厚く重たい古い革装丁の本だが法騎士でしか扱う事は出来ない。
対応するセンチネルゴーレムを使役するという。
センチネルゴーレムは使用者によりその形態は異なる性質がある。
※効果 センチネルゴーレム操作
秩序法典は土埃だらけだ。
これは戦利品にするのはいけないのかな?
きっといけないのだろう。
気絶したまま地面に転がっている法騎士ルッジェーロの胸元に置く。
これでいいのかな?
「で、勝敗は?」
「ベルジック家側の勝利と認める」
天馬騎士の判定は当然だろう。
オレも反則はしていないと思う。
相手を回復させるという、実に慈悲深い戦いだった筈だ。
これで負けてるようでは天馬騎士を襲ってしまうだろう。
法騎士ジョバンニ、法騎士ファラは無言のまま、法騎士ルッジェーロを回収して行く。
決闘の約定どおりであれば、撤退する事になる筈だが。
本当に撤退するのかね?
「ファルネーゼ家の方々はどうするのかしら?」
「撤退しよう。報告せねばならない事も出来たようであるしな」
天馬騎士アントンはジュナさんに一礼を残すと、そのまま去ってしまう様子です。
何だ、面白くない。
この場で宣戦布告、戦争になってもいいのに。
まさかこれで、本当に終わりなの?
法騎士達の軍勢を見る。
どうやら約定の通り、撤退の準備を始めているような雰囲気がある。
え?
本当に撤退するの?
そこは逆上して約定を破り攻めて来てくれないと!
ああ、そうか。
一番、逆上しそうな奴が気絶しているのがいけない。
「あの、本当に私の身柄を引き取りになるので?」
「勿論!」
「逃げちゃ、ダメですか?」
「ダメ!」
宮廷魔術師シルビオの声が震えている。
いや、もう宮廷魔術師じゃない。
元、宮廷魔術師になった訳だが。
ジュナさんが宮廷魔術師シルビオを見る目はアレだ。
怖い。
オレの背筋にも寒気が走っている。
隠しようが無い程の殺気が迸っていた。
「コンティ家に気兼ねなく、お説教が出来そうね!」
「拷問の間違いですよね?」
あ、その一言、余計だ!
ジュナさんはシルビオの腕を一気に手繰ると、頭部を抱え込む。
サイドヘッドロック。
あ、かなり危険な位置を絞めている!
絞め落としたか?
それだけじゃ終わらなかった。
ジュナさんの影の中から腕が伸び、影の中に沈めて行く。
バンパイアデュークだ!
これで身柄を確保したって事か。
それにしてもこれ、本当に終わりなの?
まさか、こういう展開になるとは!
オレってばもしかして、大きな失敗をしたんじゃないだろうな?
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv161(↑1)
職業 サモンメンターLv50(召喚魔法導師)(↑1)
ボーナスポイント残 13
セットスキル
小剣Lv116 剣Lv116 両手剣Lv121 両手槍Lv131
馬上槍Lv134 棍棒Lv120 重棍Lv117 小刀Lv119
刀Lv123 大刀Lv127 手斧Lv118 両手斧Lv112
刺突剣Lv119 捕縄術Lv126 投槍Lv131
ポールウェポンLv137
杖Lv145(↑1)打撃Lv150 蹴りLv150 関節技Lv151(↑1)
投げ技Lv151(↑1)回避Lv159(↑1)受けLv159(↑1)
召喚魔法Lv161(↑1)時空魔法Lv148(↑1)封印術Lv147(↑1)
光魔法Lv144(↑1)風魔法Lv144 土魔法Lv144
水魔法Lv144(↑1)火魔法Lv144 闇魔法Lv145(↑1)
氷魔法Lv144 雷魔法Lv145(↑1)木魔法Lv144
塵魔法Lv144(↑1)溶魔法Lv144 灼魔法Lv144(↑1)
英霊召喚Lv6 禁呪Lv148(↑1)
錬金術Lv137 薬師Lv34 ガラス工Lv33 木工Lv76
連携Lv113(↑1)鑑定Lv119 識別Lv132 看破Lv100e
耐寒Lv80e
掴みLv140(↑1)馬術Lv138 精密操作Lv142(↑1)
ロープワークLv100e 跳躍Lv133 軽業Lv130
耐暑Lv80e 登攀Lv60e 平衡Lv100e
二刀流Lv107 解体Lv119 水泳Lv80e 潜水Lv80e
投擲Lv142(↑1)
ダッシュLv141 耐久走Lv115 追跡Lv100e
隠蔽Lv110 気配察知Lv100e 気配遮断Lv100e
魔力察知Lv125(↑1)暗殺術Lv142
身体強化Lv137 精神強化Lv137 高速詠唱Lv50e
無音詠唱Lv60e 詠唱破棄Lv60e 武技強化Lv136(↑1)
魔法効果拡大Lv135(↑1)魔法範囲拡大Lv135(↑1)
呪文融合Lv135(↑1)
耐石化Lv80e 耐睡眠Lv80e 耐麻痺Lv80e 耐混乱Lv80e
耐暗闇Lv80e 耐気絶Lv80e 耐魅了Lv80e 耐毒Lv80e
耐沈黙Lv80e 耐即死Lv80e 全耐性Lv83
限界突破Lv26(↑1)獣魔化Lv58(↑1)
基礎ステータス
器用値 61
敏捷値 61
知力値 100
筋力値 61(↑1)
生命力 61(↑1)
精神力 100