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944

 サニアの町に到着。

 その周囲は既に大勢のプレイヤーで混雑している有様だ!

 町の外でこれか。

 防壁の外にまで屋台があったりしてカオス過ぎる!



「ミオ、こっちよ!」


「差し入れ、持ってきたよ!フィーナ姉は?」


「町の中。私達はここで配給をやるわよ」


「オッケー!」


 屋台の前でサキさんが待ち構えてました。

 生産職のいつものメンバーが総動員だ。

 オレはどうする?

 まずは攻めて来た軍勢の全容を把握すべきだろう。



「行きますか?」


「ああ」


 イリーナに言われるまでも無い。

 行くとしましょう。

 上空を見上げると、そこには水晶竜とブロンズドラゴンが旋回しているのが見えた。

 サビーネ女王はサニアの町にまだ滞在しているからだろう。

 挨拶をしてから、偵察行だな。


 ユニオン申請を受諾、アデル達と共に空へと飛ぶ。

 目指す方位は当然だが北だ。

 今日の天気はいい。





『我も同行したい所なのだがな』


『仕方あるまい、ここまでだ』


 水晶竜とブロンズドラゴンとの挨拶は挨拶で済まなかった。

 愚痴?

 多分、そうだろう。

 ここ、サニアの町近郊では元々、そう強力な魔物がいない地域であるらしい。

 全然、物足りないようです。



「女王陛下の守護の方をお願いしますね?」


『無論だ』


 水晶竜とブロンズドラゴンがサニアの町に向け、戻って行く。

 さて、と。

 相手はどんな連中になるかな?

 法騎士が率いる軍勢であろう事は間違いなさそうなんだが。

 警戒すべきなのは魔人だ。

 それに魔神もかな?



『掲示板情報で書き込み確認!』


「ほう、どんな感じだ?」


『何だか大きなゴーレムみたいなのがいます!』


 共有している仮想ウィンドウを見る。

 夜明け前であったらしく、まだシルエットしか確認できないが間違いない。

 センチネルゴーレム。

 スクリーンショットだから全容は分からないが、少なくとも4体いるみたいだ。



『これ、結構小さい?』


『キングトロール並みか、少し大きい感じですね』


『危ない相手でしょうか?』


「アレも多分、センチネルゴーレムだな」


『もしかしてキースさん、以前に戦ったアレですか?』


「多分な」


 さて。

 センチネルゴーレム4体だけで済むかな?

 済んで欲しくない。

 それにこれだけで済むとも思えない。



「クゥーーーーッ!」


 黒曜がオレの耳元で鳴く。

 警告、という訳ではないないらしい。

 何かが右翼側から迫っている?



『ユニオン申請、ヒョードル?』


 確かに、ヒョードルくん達だ。

 東側に行っていたのか。

 ヘラクレイオスくんはいるけど、ゼータくんの姿は無い。

 どうしたんだろう?



『東にも動きがあります、天馬騎士が来ます!』


「数は?」


『総勢で100騎を下らないでしょう。先刻、北西方面に転進しました』


「ふむ。法騎士の軍勢と合流するつもりかな?」


『可能性はありますね』


『別途、地上戦力もいます。こっちは行軍を止めてます』


 色々と情報が交錯する。

 どうやら本格的に戦争になりそうな雰囲気がある。

 盛り上がって参りました。

 センチネルゴーレムか。

 現時点で戦ったらどうなるんだろう?

 大いに興味があります!






 センチネルゴーレム壱式 ???

 ??? ??? ???

 ??? ???



 センチネルゴーレム弐式 ???

 ??? ??? ???

 ??? ???



 センチネルゴーレム参式 ???

 ??? ??? ???

 ??? ???



 センチネルゴーレム伍式 ???

 ??? ??? ???

 ??? ???



「【識別】出来た!やはりセンチネルゴーレムだ!」


『了解!』


『地上から何か上がって来ます!』


 それはオレにも見えていた。

 天馬騎士。

 戦いを挑んでくるなら否は無い。

 迎撃するだけであるんだが。

 蒼月の目を借りているんだけど、マーカーの色は黄色。

 残念でした!

 つか事態がここまで進行しててまだ黄色かよ!

 それはセンチネルゴーレムも同様だ。


 そのセンチネルゴーレム、未見の奴もいる。

 壱式は最初に見ているタイプ、スプリガン級の巨躯を誇る奴だ。

 その数は4体。

 等間隔で行軍している様子は上空からでも威圧感たっぷりだ。

 参式も1回、見ている。

 ケンタウロスのような姿で機動力のあるタイプだ。

 その数は2体か。


 未見のタイプは2種。

 センチネルゴーレム弐式は壱式よりもかなり小さい。

 それでもキングトロール級の大きさがあるだろう。

 問題はこのタイプが武装している事だ。

 所持しているのは共通で、岩板のような盾、それに岩塊のようなメイスだ。

 そのは8体にも及んでいる。


 センチネルゴーレム伍式はかなり独特な奴だ。

 巨大なグリフォン?

 そんな相手が天馬騎士に続く形でこっちに向け高度を上げている。

 飛べるのかよ!

 その数は3体。

 相当な戦力になるだろう。



『どうします?』


「戦闘になってくれたら有難いな」


『全然、有難くないですよ!』


 そうか?

 こっちはプレイヤー7名でしかないが、全員がサモナー系で相応の戦力がある。

 空中戦、あると思います!





 オレの望む空中戦は?

 ありませんでした。

 天馬騎士は5名いたんだけど、全員が恐縮する様子を見せてしまい、そのまま高度を下げてしまった。

 どうやら以前に同行した事があった面々であるらしい。


 残されたのはセンチネルゴーレム伍式が3体。

 各々の頭部に法騎士がいるけどお互いに態度を決めかねている様子だった。

 結局、黄色のマーカーが赤に変じる事もなく、撤退してしまってます。


 つまらん。

 お前達、本当につまらん奴等だ!

 何で襲ってくれない?



『地上戦力の行軍が止まりました!』


「了解だ。地上に降りよう」


 サニアの町に向け行軍していた連中の目の前に着陸しよう。

 出来るだけ、近くがいい。

 何で?

 勿論、挑発だ。

 オレの配下にいるアイソトープはその存在だけで威嚇になる。

 アデル達もそれぞれ、配下にグレータードラゴンがいる。

 各々、水晶竜やブロンズドラゴンに比べたら格落ちでだが、7体いたら十分だろう。






『キースさん、このままでいいんでしょうか?』


「いいんじゃないかな?」


 草原の中、目立つ形で臨時の陣地が出来上がっている。

 ゼータくん、駿河に野々村も合流していた。

 各々、配下の召喚モンスターにグレータードラゴンを加えて威嚇する構えだ。

 他にもサモナー系のプレイヤーも数名追加、攻略組も続々と集まっている。

 ドラゴンナイト達だけでも編隊を幾つか、組めそうだ。

 空中戦力も地上戦力も相応に揃っている。

 数では大いに劣るが意気軒昂?

 それはちょっと違うかもしれません。


 セータくんの懸念が別の事を意味しているのは明らかだ。

 火輪の周囲が凄い事になっている。

 プレイヤーの面々もモフモフな感触を楽しむ為に押し競饅頭状態に!

 そんな火輪の背中の特等席は黒曜とアデルと春菜が占拠している。

 表情は、アレだ。

 ヘヴン状態?


 ここはいつ戦場になってもおかしくないんだけどな。

 臨戦状態である証はここにいる全員でユニオンを組んでいる事だ。

 各々、使える切り札は確認してあるんだが忘れていそうな気もします。



「夜のうちに魔人はいたかな?」


『見掛けませんね。一昨日が最後だったと思います』


 ゼータくん、それに紅蓮くん達が先行で偵察を続けていたようです。

 その結果も思わしくない。

 魔人も、魔神も、そして追従する戦力らしき姿も無い。

 やはり目の前にいる戦力に襲って来て欲しいものだが。

 何かいい手段がありませんかね?



『側面、それに後方は遮断した方がいいんじゃ?』


「戦力差が大きいし身を隠す場所も少ない。このままでいいさ」


 目の前の戦力は法騎士が率いる軍勢だが、法騎士そのものはそう多くないようだ。

 正規兵らしき連中も半分、これは装備が統一されているから分かり易い。

 残り半分は傭兵、そうでなければ冒険者かな?

 統一感が無いし、編成は別で動いている。

 その中にはサモナー系の相手もいるようだ。

 召喚モンスターが交じっている。

 その多くは第四段階以下だけど、一部には第五段階もいるようです。

 ストーンゴーレム、それにタロスの姿が見えている。

 当然だけど、まだマーカーは黄色のままだ。



「相手戦力の把握はしておきたい所だな」


『九重達があの戦力の後方にいます。移動しながら確認するよう連絡しときましょう』


 紅蓮くんがテレパスを使い連絡する一方で、オレも動くか。

 ヘザーとアリョーシャだけを連れて、法騎士達の軍勢に歩み寄ってみよう。

 これは挑発だ。

 先制してくれていい。

 但し、数倍にして反撃させて貰うけどな!



『あの、キースさん?』


『何をするつもりですか!』


「ちょっと様子見だ」


『これ以上、近寄ったら弓矢が届きます!』


「ああ。だから、いいんだ」


 いかん。

 いかんぞ!

 まだ、笑ってはいけない。


 オレの目論見通りになってくれるかな?

 そうであって欲しい。

 本気でそう思ってます。






 時刻は?

 午前8時40分だ。

 後方を見て臨時の陣地と化したプレイヤー達の様子を見る。

 もうこの状況に慣れて来ているせいか、インスタント・ポータルを使い交代で小休止もしている。

 最早、物見遊山の様相だ。


 正面を見る。

 天馬騎士の戦力が数騎、追加で合流した以外に変化は無い。

 オレはと言えば地面に座り込んで、仮想ウィンドウで【呪文融合】の組み合わせを見直ししていた。

 その中には目の前の戦力を相手にする事を前提に追加で組んだ物もある。


 地上戦力、空中戦力、その両方にどう対抗するか?

 センチネルゴーレム対策はどうする?

 魔人、それに魔神の軍勢が介入した場合はどうする?

 悩みは深い。

 いや、そうなって欲しい気持ちが強い。


 その一方で疑念もある。

 行軍を止めている理由です。

 思い当たらないのだ。


 こっちは正規兵じゃない。

 ベルジック家に雇われている傭兵じゃない。

 飽くまでも冒険者であり、所属する冒険者ギルドはベルジック家の出資があるってだけだ。

 あれ?

 傭兵と大した差がないな。

 その上、オレの称号には王家の剣指南者なんて代物がある。

 全く関係が無いと強弁するのは困難かもしれません。


 このまま状況に変化が無いのは面白くない。

 そう思っていた所にオレの傍に近寄る影があった。

 フィーナさんだ。

 それに与作に東雲にハンネス、ヘルガに篠原か。

 パーティ1つ分だな。



『相変わらず無茶するわね』


「ども」


『挑発には乗ってくれそうな気配は?』


「今の所は、無いです」


 フィーナさんは呆れ顔、与作は面白がっている。

 各々の反応は違うけど、心配であったのは本当だったようだ。



「数が増えると挑発にならないと思いますが」


『でしょうね、だから来たのよ』


『ま、暇だろうと思ってね。座り込んでいるだけじゃ面白くないだろう?』


 与作がニヤニヤしながら拳を突き出す。

 ああ、そういう事か。

 それもいい挑発になるかもしれません。



『貴方達、まさか!』


『まあまあ』


『いいじゃないですか、対戦で時間を潰しても』


「武技、それに呪文は無しで。それなら大して消耗もしないですし」


 そんな訳で、対戦だ。

 暇潰しと挑発を兼ねる事になるだろう。

 そして助かった。

 今日は朝から、1回も戦闘が無い!

 もうね、ウズウズしてたんですよ?

 こっちから目の前の大軍に向けて攻撃したくなっていたのは内緒だ。

 いや、与作辺りはその危険を察知していたのかもしれない。



『で、誰からやる?』


『言い出した奴からでいい。観戦させて貰おう』


『じゃあ、遠慮なく』


 与作は手にしていた斧を東雲に渡すと数歩の距離を置く。

 オレも立ち上がると胡坐の上に乗せていた神樹石のトンファーをヘザーに預けた。

 格闘戦だ。

 何も語らずとも、意図が通じている。

 それは与作の顔に浮かぶ表情でも分かる。

 体を動かしたくて、暴れたくて仕方ない!

 そんな顔だ!


 きっとオレも似たような顔をしているのだろう。

 お互いにこの状況は好ましくない。

 ならばお互いに発散するには、こうするしかないのだ!







《只今の戦闘勝利で【耐久走】がレベルアップしました!》


 ハンネスがタップして対戦は終了。

 このハンネスも素の状態ならパワーとタフネスはオレよりも上だ。

 どうにか負けずに済んでいるのは密着する事を意識しているからだろう。


 対戦は格闘戦だけ、勝ち残りで続けているんだが。

 オレは与作と東雲に1敗しているけど他は全勝、結構な数の対戦をこなしてます。

 最初の参加者はオレと与作、東雲、ハンネスだけだったけどね。

 追加でもう1名、ギャラリーから参加者がいる。

 次の相手になるんだが、ちょっとやり難い相手かな?



 各務 種族Lv.108 人間 女性

 グラップルマスターLv.46

 待機中 戦闘位置:地上



 見覚えならある。

 忘れる事の方が難しい!

 その装備はピンク色、目立つ事この上ない!

 戦隊チームの一角、紅一点だったプレイヤーだ。

 そう、女性なんだが正統派の格闘家だな。

 グラップルマスターはグラップラー、グラップルソルジャーの上位であるらしい。

 どうやらもう1段階、上がありそうですけど。


 ここまで1戦して勝ててはいるけど、油断はならない。

 与作は柔道ベースなのが明白で、組み合って戦うスタイルが基本だ。

 それを補う意味で打撃や蹴りを使っている形になる。

 東雲はどこまでも格闘戦は次善の策であり、基本は組み合って戦う事を好む。

 殴る蹴るの間合いが短いから仕方ない。

 どこまでも力技で勝負するレスラーみたいに感じられる。

 ハンネスはオレと体格が似通っていて打撃戦では最も間合いが噛み合う。

 打撃も組み合うのもいい感じなんだが、ハンネスは格闘戦関連のスキルを本格的に鍛えていない。

 そこだけが惜しい。


 だが、目の前に相手は違う。

 間違いなくムエタイスタイル。

 両手をアップライトに構え、遠い間合いでは蹴りを主体にし、近い間合いでは肘や膝を多用する。

 首相撲で組まれると主導権も奪われかねない危険さがある。

 立ち技で相手をせず、転がして足関節を狙えばいいんだろうけどね。

 事故が怖い。

 どうしてこうなった?



『では、お願いします』


「お、おう」


 声の調子もおかしくなる。

 最初の一戦は肘関節を極めてから投げを打ち、片羽絞めで勝利したんだが。

 戦い方を変えた方がいいのかな?

 終始、打撃戦の方が楽しそうではある。

 ちょっと悩ましい。


『ハッ!』


「ッ?」


 いきなり立ち膝蹴りか!

 各務はオレよりもやや背が高いし、手足も長い。

 間合いがあるし、踏み込みも鋭いからまともに打撃戦は不利だ。

 思いっ切り体の軸を回して脚を捻り込むようなミドルキックは受けるだけでも大変です。

 それでも真正面から受けて立とう。

 肉は叩かせてやる。

 でも骨にまで響く一撃を打通させますよ?



「フンッ!」


『ッ?』


 蹴りを回し受けで凌ぎ、そのまま直突きへ。

 歩くように、前へ。

 その真髄は体の軸をブレさせない事。

 受けるのも、蹴るのも、殴るのも、何をするのも変わらない。

 習っているのは、それだけ。

 言葉にするだけなら簡単だ。


 だが実戦でそれが出来るか?

 理想には程遠い。

 相手が手強い程、思うようにならないものなのです。






《只今の戦闘勝利で【関節技】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘勝利で【投げ技】がレベルアップしました!》


 ずっと連戦になっている。

 そして恐ろしい事も起きつつあった。

 ギャラリーが徐々に増えている。

 それはプレイヤーだけじゃない。


 法騎士の率いる軍勢の中からギャラリーに加わっている連中が出始めていた。

 正規兵じゃない。

 傭兵か、冒険者であるのだろう。

 興味があるのかね?


 そんな遠巻きのギャラリーを前にして、面白くない戦いをする訳にもいかない。

 でもね。

 オレの場合、ネタみたいな事になりかねない。

 与作は偉丈夫であるし、東雲も筋骨隆々のドワーフで見栄えはいい。

 各務の場合は華がある。

 うらやましい事だ。

 オレとハンネスはその姿だけではまるで目立てません。

 戦い振りで示すしかないのだ。



『注意して!誰か来るわ!』


 フィーナさんの警告を耳にしつつ、ギャラリーを見る。

 遠巻きにしていた連中が2つに分かれ、そこから近寄って来るのは?

 法騎士だ。

 但し1名だけか。

 同行する1名は法騎士じゃない。

 どうも戦争を仕掛けに来ている様子じゃない。


 同行しているのは天馬騎士か。

 モノペガサスが一緒だ。

 どうも見た事があるような。

 どこででしたっけ?



 法騎士 ルッジェーロ Lv.9

 ホーリーナイト 警戒中

 ???



 天馬騎士 アントン Lv.18

 ペガサスナイト 警戒中

 ???



 警戒しなくてもいいのに。

 ここで対戦に参加しますか?

 何、ちょいっとばかり首を絞めたりするかもだが、優しくしますよ?



「下らぬ見世物はそろそろ終わりだ!そこをどけ!」


「はあ?」


 法騎士ルッジェーロだ。

 いい感じで印象は最悪。

 結構な美男子、足の裏を舐めさせたくなるような奴だ。

 そして何を言っているのか分からない。

 別にここで対戦を楽しんでいるだけですが何か?



「ご用件はそれだけで?」


「貴様、無礼な!」


 法騎士ルッジェーロが激発しそうになる所を天馬騎士アントンが制している。

 余計な事をするなよ!

 殴られでもしたら戦闘の火蓋を切る、いい口実になるのに!



「サニアの町にベルジック家の者はいるだろう?話を通したい」


「それは何の件ですかね?」


「サニアの町はコンティ王家の領地であり、ベルジック家の行いは侵略に相当する。返すのは当然であろう」


「はあ?」


 天馬騎士アントンの表情に乱れは無い。

 無言のまま、前に出ようとする法騎士ルッジェーロを押し留めている。

 だから、邪魔だって!



「伝言を頼もう。ここに使者を派遣して欲しい、とな」


「伝言、ですか」


「さもなくばこのまま、押し通る!」


 そうそう!

 それでいいんだよ!

 それがいいんだよ!

 でもね、この会話は皆が聞いている。

 観客となっていたフィーナさんはいるかな?



「どうします?」


『私がサニアに戻りましょうか?伝手ならあるし』


「頼めますか」


『ええ。ここは任せていい?』


「はい。伝言はお願いします」


 オレはここを動けない。

 いや、動きたくない。

 サニアの町に行くのはいいけど、その間に戦端が開かれてしまっては目も当てられない。

 フィーナさんに任せてしまおう。


 火輪がいるであろう辺りを見る。

 その一角だけはこっちのやり取りにすら気が付いていない様子です。

 まあ、そうか。

 そうだよな。

 モフモフを愛でるのに皆、夢中であったのだ。

 対戦だって見ていないだろう。


 フィーナさんがリックと紅蓮くんを伴ってテレポートして跳ぶのを見送る。

 さて、待っている間はどうする?

 対戦だ。

 ここを動く理由は無い。



「まだそんな見世物を続けるのか?」


「まあね。何だったら貴方達を相手にしてもいい」


 何故か後ろに下がる法騎士に天馬騎士。

 だがモノペガサスは動じない。

 おお、こっちは見込みがあるぞ?



「使者が来るかと思いますので、ここはお引取りを」


「ケッ!」


 どうも躾がなっていないようだ。

 法騎士ルッジェーロはあからさまに見下した態度のまま、去ってしまう。

 天馬騎士アントンはまだマシだが、無言のまま礼も残さず去っている。

 五十歩百歩だな。

 覚えておこう。



『じゃあもう少し、対戦で時間を潰すか?』


「そうだな」


 対戦相手には事欠かない。

 もう少し、楽しめそうな感じがします。





『では、行きます!』


「応ッ!」


 今、オレが手に提げているのは黒檀の木刀だ。

 目の前にいる対戦相手は、ゼータくん。

 手にしているのは同じく、黒檀の木刀。

 但し、左手には盾も持っている。


 格闘戦成分は十分に補充出来た事もあるが、対戦相手が一時的に不足してしまっていた。

 与作達は揃って小休止、インスタント・ポータルを使ってログアウトしている。

 鞍馬を召喚して対戦をするか、と思ったけどね。

 対戦を申し出てくれる相手はちゃんと残っていたのです。


 こうしてゼータくんと直接対戦をするのは久々かな?

 闘技場でゼータくんが魔物相手に戦っている所は何度も見ているけどね。

 その技量はかなり上がっているのは間違いない。

 スキルに依存した動きじゃないのも好印象だ。


 それだけに少し、物足りないと思える。

 まだ動きに無駄が見えるのだ。

 以前はそう気にもしなかったけど、何でだろう?

 護法魔王尊との稽古を通じて、オレも次の段階に進んでいるからなのか?

 関係しているのかもしれない。

 関係ないのかもしれない。


 まあ、どっちでもいいか。

 楽しめそうである事は間違いないのだ。


 ゼータくんは片手で黒檀の木刀を持ち、右を前へ半身に構える。

 普通に考えたら盾を前にして構えるのが常道だろう。

 だが、それでは僅かであるけど視界を遮る事になる。

 それを嫌っているのだと、分かる。

 闘技場での対戦では人間型の相手もいるんだが、そういった相手にはこの構えをしているのを見ている。

 盾を防御だけでなく、攻撃で使う事も知っていた。

 ゼータくんは基本、器用であるのです。

 元PKK職らしい所も多い。

 意外な所から不意を衝く攻撃を仕掛ける事もあるのだ。

 盾はその為に使う小道具としても利用している。


 だが、オレとしては構わない。

 戦い方が変わる訳じゃないしな。

 木刀を平正眼に、左足を下げて半身に構え直す。

 両手で構えているけど、気分は短刀のつもりでいい。

 さあ、ゼータくん。

 容赦はしなくていい。

 意表を衝くような、そんな戦いを見せてくれよ!







《只今の戦闘勝利で【小刀】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘勝利で【刀】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘勝利で【二刀流】がレベルアップしました!》


 ゼータくんとの連戦になってしまってます。

 ここまで、全勝ではあるけどね。

 迷いが見えていた。

 だからこそ、途中から二刀流スタイルで構えをスイッチしながら対戦をしています。

 一応、見本のつもりだ。


 どうも盾を利用しながら戦いたいようだが、意識が分散して基本が崩れていた。

 体の軸を簡単に崩せてしまう。

 折角の連続攻撃も足元から崩されているようでは意味が薄い。

 それに今の対戦では木刀を弾き飛ばされてからの対応遅れが致命的だった。



『すみません、これじゃキースさんの鍛錬になりませんね』


「構わないよ。それよりもそっちを使ってみていい」


『え?』


「トンファーだよ。使えるよね?」


 ゼータくんの盾の裏側にはトンファーが忍ばせてある。

 今の対戦では取り出そうとして失敗して出番は無かった。

 闘技場でも何度か、使っているのは見ている。

 魔法使い系の職業だと【杖】はレベルアップが早い傾向がある。

 サブウェポンとして使うのは大いにアリだ。

 オレだって使っている。


 ゼータくんの迷いの元は何となく分かる。

 今は目先を変えさせた方がいいと思う。

 迷う事なんて無い。

 自然体で、いいのだ。



『では、これで』


「ああ、それでいい」


 それでは対戦の続きだ。

 周囲にはギャラリーもいるけど、様相が変わりつつある。

 他にも対戦が始まっている。

 そして一部ではサモナー系の交流会みたいな場所も出来つつある。

 変わらず火輪も人気だ。

 その背中の上でアデルと春菜はヘヴン状態のままです。

 黒曜も目を細めて、ヘヴン状態か。

 寝ているの?

 ねえ、もしかして寝てるの?

 監視はいいの?


 まあいいか。

 周囲には真面目に警戒を続けている召喚モンスターだっている。

 アイソトープもそうだ。

 ヘザーはその頭上に座って法騎士の率いる軍勢の方位を監視している。

 アリョーシャは?

 スフィンクスの像のように地面に座り込んでオレの対戦を観戦し続けている。

 どこかほのぼのしてしまう!


 戦闘がいつ始まってもおかしくない雰囲気はどこにも無い。

 あれ?

 どうしてこうなったんだっけ?





《只今の戦闘勝利で【小刀】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘勝利で【杖】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘勝利で【二刀流】がレベルアップしました!》


 与作達も戻って格闘戦もしているけど、ゼータくんとの対戦の比率が高くなってます。

 オレとしても得る事があったりする。

 トンファーを使っての攻防なんて、そんな機会は殆ど無い。


 ゼータくんとの対戦はどこか組み手のような展開になっている。

 これはこれで面白い。

 ゼータくんもトンファーと木刀の変則二刀流で、オレと同じスタイルだ。

 腰が据わり、重心が安定している様子が分かる。

 撃ち込みも安定、体の中心に軸があるかのように見えるけど、まだまだかな?

 動き出素す瞬間を衝かれると、バランスが一気に崩れてしまう。

 それに常時、体に力が入り過ぎているみたいです。

 肝心の時に力が入っていない傾向もある。


 もっと伸び代はあると思う。

 後は経験を積む事だ。

 魔物相手に力押しをするだけでは得られない領域が確かにある。

 会得するのはきっと難しい。

 でもそこに至る道はあるのだ。




 対戦はどうやらここまでかな?

 急に日が陰ったのには理由があったみたいだ。

 見上げるとそこに水晶竜とブロンズドラゴンが!

 つまりサビーネ女王も来たのか?

 そうなるとジュナさんもいるのだろう。

 師匠だって来ている可能性はある。

 ロック鳥は見えないけどね。


 舞い降りた水晶竜とブロンズドラゴンの間にサビーネ女王が騎乗するドラゴン。

 ジュナさんも一緒だ。

 あれ、師匠はいない?

 でも心配ないみたいだ。

 竜騎士プリムラの騎乗竜に同乗しているのはゲルタ婆様です。

 ある意味、師匠よりも強烈な存在だ!



「あら、キースちゃん!楽しそうな事、やってるじゃない?」


「はあ」


「私も、やる!」


 はて、これはどうなんだ?

 サビーネ女王は交渉の為にここに来たのだと思うのだが。

 ジュナさんはオレと対戦したいみたいだ。

 いいのかな?



『私はいいんで、どうぞ』


「え?」


 ゼータくんが気を利かせたみたいだ。

 おい!

 これでは対戦をしないといけない流れじゃないの?



「それ、使ってもいいわよ?」


「えっと、それでは申し訳ないんで」


 得物を使うのは止そう。

 それに危険な雰囲気ですよ?

 ジュナさんはその外見に似合わない格闘戦の技量がある。

 それを知っているプレイヤーは少ない筈。

 いや、いない可能性の方が高い!

 観戦しているプレイヤーに伝わらないかも?

 誤解されるかもだが、ここは受けておくべきだろう。

 何しろ、後が怖いのです。

主人公 キース


種族 人間 男 種族Lv160

職業 サモンメンターLv49(召喚魔法導師)

ボーナスポイント残 11


セットスキル

小剣Lv116 剣Lv116 両手剣Lv121 両手槍Lv131

馬上槍Lv134 棍棒Lv120 重棍Lv117 小刀Lv119(↑3)

刀Lv123(↑1)大刀Lv127 手斧Lv118 両手斧Lv112

刺突剣Lv119 捕縄術Lv126 投槍Lv131

ポールウェポンLv137

杖Lv144(↑1)打撃Lv150 蹴りLv150 関節技Lv150(↑1)

投げ技Lv150(↑1)回避Lv158 受けLv158

召喚魔法Lv160 時空魔法Lv147 封印術Lv146

光魔法Lv143 風魔法Lv144 土魔法Lv144

水魔法Lv143 火魔法Lv144 闇魔法Lv144

氷魔法Lv144 雷魔法Lv144 木魔法Lv144

塵魔法Lv143 溶魔法Lv144 灼魔法Lv143

英霊召喚Lv6 禁呪Lv147

錬金術Lv137 薬師Lv34 ガラス工Lv33 木工Lv76

連携Lv112 鑑定Lv119 識別Lv132 看破Lv100e

耐寒Lv80e

掴みLv139 馬術Lv138 精密操作Lv141

ロープワークLv100e 跳躍Lv133 軽業Lv130

耐暑Lv80e 登攀Lv60e 平衡Lv100e

二刀流Lv107(↑5)解体Lv119 水泳Lv80e 潜水Lv80e

投擲Lv141

ダッシュLv141 耐久走Lv115(↑1)追跡Lv100e

隠蔽Lv110 気配察知Lv100e 気配遮断Lv100e

魔力察知Lv125 暗殺術Lv142

身体強化Lv137 精神強化Lv137 高速詠唱Lv50e

無音詠唱Lv60e 詠唱破棄Lv60e 武技強化Lv135

魔法効果拡大Lv134 魔法範囲拡大Lv134

呪文融合Lv134

耐石化Lv80e 耐睡眠Lv80e 耐麻痺Lv80e 耐混乱Lv80e

耐暗闇Lv80e 耐気絶Lv80e 耐魅了Lv80e 耐毒Lv80e

耐沈黙Lv80e 耐即死Lv80e 全耐性Lv83

限界突破Lv25 獣魔化Lv57

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― 新着の感想 ―
やはりこうなったか…w火輪一体に群がれるのはせいぜい5,6人だと思うけどどんだけ…
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