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レムトの町に到着した。
結局、師匠はオレが魔物を狩っている間、何もしなかった。
眺めていただけだ。
たまに杖を掲げて魔物を指し示す事があった。
そしてその先には大抵、ワイルドドッグがいたりする。
犬はドロップを残さないから遠慮したいんですけど!
でも師匠の指示ですから当然狩りますけど。
それに結構な数の戦闘をこなした筈なのに、徒歩と比べると町に到着するまでの時間が明らかに短い。
これは嬉しい。
サーチ・アンド・デストロイをしていなかったら師匠の家とは片道1時間程度で行き来できそうだ。
町の中では、馬は降りて手綱引くのがルール、である。
門を抜けてすぐ馬を世話する一角があるが、師匠の馬もオレの馬も召喚したものだから世話は必要が無い。
それに多少ではあるが荷物も運ばせているし。
鷹であるヘリックスはオレが肩に担いでいるロッドの先に器用に止まっていた。
これもどうにかしたいものだ。
冒険者ギルドに到着すると、師匠の馬から《アイテム・ボックス》である鞄を下ろした。
馬は建物脇にある馬留めに繋いでおく。
ヘリックスは馬留め一番上に自分の居場所を見つけたようだ。
師匠はオレに目配せするとギルドの中に入っていく。
オレも荷物持ちとして付き従う。
つかこの鞄、《アイテム・ボックス》のくせに大きくないか?
さほど重たくないのが救いだ。
ギルドの中は人が多いのは相変わらずだ。
依頼票を見て回る者。
受付で依頼を受ける者。
さすがに朝では獲物を持ち込む冒険者は皆無であった。
町中もそうだが、初日、二日目に比べたら明らかに人が減っていた。
町の外で冒険を求めて出ているのであろう。
師匠は受付の一番端、ギルド職員のいない場所に陣取ると、それに中年の職員が気がついた。
あ、オレに師匠を紹介した人だ。
「ああ、助かります!急な話で申し訳ない」
師匠に平謝りである。
オレの時とさすがに姿勢が違っている。
「モノはこれじゃ」
「すぐに数えたいのですが、別の部屋を用意します」
「なんじゃ、普段と違うのう」
「ちょっとした騒ぎになってますから」
受付の男は真剣だった。
何か問題でもあったのかな?
男はカウンターの一部を上に跳ね上げると師匠とオレを中に案内していく。
ギルド職員の机を横目に一番奥へと進む。
男が一番奥の扉を開くと中へと通される。
そこは一種の会議室みたいな場所であった。
中で待っていたのは1人の老人だ。
見事な髭は真っ白で口元が見えないほど量が豊かだ。
「ルグラン!」
「オレニュー!」
あまり美しくない老人同士の抱擁。
にはならなかった。
師匠が杖で床を鳴らして威嚇した。
続いて髭をワシ掴みにして下に引っ張る。
「ワシを便利屋か何かと勘違いしておるようでは、の」
「痛い!痛い!よさんかこれ」
「同時に冒険者駆け出しの面倒まで押し付けよるし」
「痛い!何を言うか、どうせ暇潰しに見ておるか便利にコキ使っておるんじゃろうに、痛い!」
「理由を、言え。まずはそこからじゃ」
ようやく師匠は髭を手放した。
済まないって気持ちになったんで老人に一礼する。
「うむ、ちょっと困っておるんじゃよ」
この老人がギルド長であった。
オレが【識別】で見たらこんな感じ。
レムト冒険者ギルド長 ルグラン Lv.???
エレメンタル・メイジ『光』 接客中
うわ、なんか凄そう。
名前の前に身分が表示されているのは初めてかな?
名刺いらずだな。
中年の職員はと言えば、机の端で《アイテム・ボックス》である鞄を何か紋章のようなもので開けていた。
ポーションを次々と取り出して10個単位で並べていく。
途中で年配の女性職員を呼んで作業を手伝わせていった。
検品作業だ。
オレもバイトでやりましたとも。
そんな光景を見ながらも師匠達の会話にも耳を傾ける。
今、この町で起きている出来事は全ての冒険者に関わるのだから当然興味がある。
何が起きているのか。
冒険者が異常に増えた事によって、様々な所で需要と供給のバランスが崩れているそうなのだ。
その1つがポーション。
師匠によって持ち込まれたポーションの数は430本、それでも間違いなく足りないのだと言う。
素材になる傷塞草は無論在庫が逼迫しそうな勢いで、町にいる薬師にも増産を促しているそうだ。
そして全ての冒険者にポーション空瓶の回収を指示しているのだとか。
瓶もガラス工に増産を求めているそうだが、元々職人が少ないので困っているそうで。
それだけでなく瓶の原料の石英にしてもガラス工職人の元の在庫がピンチになってるとか。
その影響で昨日まで30ディネだった販売価格が50ディネにまで値上げされていた。
商業ギルドが介入するとややこしい事になるので、なるべく早く事態の沈静化を図りたいそうだ。
既に闇マーケット価格は90ディネに届こうとしているそうだ。
品質B-のポーション価格が200ディネを超えているとか、なんか怖い情報も聞こえてくる。
オレも品質C+を1本持ってるけどさ。
不良に囲まれてブツ出せよヲイとか迫られたらどうしようか。
怖いよ。
問題なのはポーションだけではなかった。
他の所でも火種があるそうだ。
例えば矢。
消費に生産が追いつかず、木工職人が増産を始めて対応中。
その煽りを受けて、魔術師向けの杖の生産が止まっていて在庫のみで凌いでいる状態。
例えば携帯食。
冒険者ギルドお抱えの料理人だけでは対応できず、街中の主婦を臨時で雇用したのだとか。
ギルドも冒険者から買い取った素材でやや潤っているものの、固定費が増えていて嬉しいばかりではないようだ。
他にも既にギルドの建物は移築を進めているのだが、木工職人がいないので内部調度類の作業が進捗しないのだとか。
運営ってばこんな所に市場原理を導入してどうするんよ。
「確認しました。全部で8,600ディネになります」
中年の職員が師匠に買取金額を提示していた。
買取価格は1個あたり20ディネか。
師匠は何も言わずに頷くだけだった。
100ディネ銀貨がジャラジャラと目の前で数えられていき、師匠の前で小袋に仕分けられた。
年配の女性は空瓶を次々と机の上に持ち込んできていた。
あれはなんだ?
「言いにくいんじゃがな。明日までにもっと数がいるんじゃがな」
「無茶を言いよる」
「のうオレニュー、お前さんがその無茶が無茶でないのは知っておるんじゃ」
「他の薬師ではいかんのか?」
「それこそ無理じゃよ。頼む」
ギルド長が頭を下げる。
師匠は渋面のまま頷いた。
「仕方ないのう。まあ手伝いもおるしなんとかなるじゃろ」
「助かる、恩に着るぞ」
「ワシが生きているうちに返せよ」
つまり今日もまたあの薬草採集とポーション作成をやるって事だ。
今日の予定が決まりました。
「お前達が寄越したんじゃろ?もうポーションも作らせておる」
「ほう、それは上々ではないか。少しでも薬師の手が欲しいんで助かる」
すみません、僕は召喚魔法を生業にするサモナーですが何か?
「別枠でも依頼を受けてくれるかな?最初じゃからポーション15本を納品をして欲しいんじゃが」
《ギルド指名依頼が入りました。依頼を受けますか?》
え?
師匠を見てるとニヤニヤしてるし。
受けてもいいものなんだろうか。
「まだ駆け出しに過ぎませんが手助けになるなら否はありません」
《ギルド指名依頼を受けました!ポーション15本を納品して下さい》
YesとNoが表示された画面が目の前から消えていく。。
でもね。
そんなオレの背負い袋にはポーションが入っている訳ですが。
背負い袋に手を突っ込んでポーションを机の上に並べていく。
とりあえず全部並べて品質C-以下のものは背負い袋に戻した。
品質C+は《アイテム・ボックス》に別保管してある。
「とりあえずこの22本はどうでしょう?」
ギルド長の表情は驚きの表情からすぐに笑顔に変わった。
中年の職員が数を数えて確認している。
気がつかなかったが、これは1つ1つを【鑑定】しているのに違いない。
「長、全て問題ありません」
「しかもいきなり依頼数を超えて納品とはありがたいのう」
職員さんからは師匠と同様に報酬を小袋に入れて渡された。
100ディネ銀貨が4枚。
1ディネ銅貨が40枚。
師匠の場合と同様に買取価格は1個あたり20ディネか。
《ギルド指名依頼をクリアしました!》
《ボーナスポイントに3点、エクストラ評価で2点が加点され、ボーナスポイントは合計9点になりました!》
「では改めて依頼じゃ。次はなるべく早めにポーション30本を納品をして欲しいんじゃが良いかな?」
《ギルド指名依頼が入りました。依頼を受けますか?》
ああもう受けざるを得ない雰囲気だよコンチクショウ。
どうやら依頼を受けてクリアすることでボーナスポイントを稼げるようだ。
ある意味で望む所だろう。
「分かりました、受けます」
《ギルド指名依頼を受けました!ポーション30本を納品して下さい》
30本か。
すぐ明日に納品、というのは出来なくもないだろうけど、他の行動の自由度が極端になくなるのは痛いな。
年配の女性職員がオレの背負い袋に空瓶を入れようとする。
「ああ、それはこっちの鞄に一緒に入れておいてええぞ」
師匠が目聡く指摘してくれた。
鞄には余裕があるようだ。オレには知る術はないんだけどね。
金額は僅かだが自由に出来る手持ちはある。
薬草の採集に行く前に最低でも予備の服は買っておきたかった。
「キース、ワシはこの爺とまだ話さねばならん事がある。暫く町の中でも見て回って待っておれ」
「はい」
願ったり叶ったりです。
改めてギルド窓口で野兎の肉だけは全て売り飛ばして冒険者ギルドの建物を出た。
残月の手綱を引きながら町を歩く。
ヘリックスは相変わらずロッドの先に器用に止まっていた。
町の中はどこも昨日までと比較にならないほど冒険者の姿が少なかった。
緑のマーカーがNPCを示す黄色のマーカーに埋もれるかのようだ。
露店も覗いて回ってみる。
まだ昼飯には全然早い時間なのに食欲を直撃する匂いが漂っていた。
そんな露店の列の一角でオレは足を止める。
ちょっと興味を引く存在に目が向いてしまったからだ。
プレイヤーが露店で食べ物を売っていた。
イカ焼きみたいだ。
それに焼きそばみたいなものもある。
恐らくは兎肉をツクネ状にして串に刺したものまであった。
その隣は海産物を売っているようだ。
魚介類、それに塩らしきものが並んでいる。
露店にいるプレイヤーは3名、全員が女性であった。
纏っている雰囲気は異なるが面差しは和風女性風味な上に良く似ている。
「いらっしゃい!出来立てで美味しいよ!」
思いっきり営業スマイルだが今は良しとしようか。
3人の中では一番幼く、美人というよりも愛嬌を振り撒くような女の子だ。
イカ焼き1本を買い食いしながら立ち話を仕掛ける。
「昨日と比べてプレイヤーが少ないけど何かあったのかな?」
「なんか色々と物資が足りないとかで細かい依頼やらイベントやらが増えたみたいよ?」
「へえ」
オレと話している女性は料理人持ちなんだろうか?
やけに旨いな、このイカ焼き。
「もしかして、料理人?」
「もしかしなくても料理人持ちだよ、そっちはサモナーさんみたいだけど」
「ああ、苦労してるけどまあボチボチ進めてるよ」
「こっちもね。生産職の中では料理人って手堅いけど地味に稼がないといけない商売だからね」
そう言うと彼女は残月とヘリックスに目を向ける。
彼女にも残月とヘリックスの頭上にプレイヤーを示す緑のマーカーは見えている筈だ。
緑のマーカー付きの馬やら鷹やらを引き連れているのは確かにプレイヤーのサモナーしかいないよね。
「オレはキース」
「あたしはミオ。言っておくけどナンパはなしでね?」
「そうしたい所だけどね」
改めて彼女のマーカーを見て【識別】してみると確かに料理人だった。
ミオ Lv.2
コック 接客中
彼女に声を掛けたのはプレイヤーだからではない。
その装備故であった。
明らかにカスタムメイドされた革ジャケット。
ハートマークがあしらわれていて目立つデザインをしている。
明らかにNPCが作るような代物ではない。
「実はお目当ては君が装備してる革ジャケットの方。私も作って欲しくなってね」
「へえ」
ニコリと実に嬉しそうな顔を見せる。
これはあれかな?
情報が欲しけりゃ焼きそばも買えって事かね?
とりあえずはスルーで。
「いいでしょ。伝手があってね」
「紹介ってダメかな?」
「どうかな?」
彼女の目が露店の奥側にいる2人に目が向く。
「なにかお役立ち情報があるとうれしいなあ」
「ミオ!」
奥にいた女性が2人ともこっちにきた。
この二人は良く似ている。
いや、髪形と装備を除けば瓜二つだ。
双子か。
「客なら私はウェルカムなんだからそう邪険にしないで!」
「むう、サキ姉は甘い!」
この子の言い返す様はなんか可愛いな。
「ああ、気にしないで。私はこの露店とは無関係。ここでこの娘と待ち合わせなだけだから」
サキ姉と呼ばれた女性はやや大人びた物腰で人当たりもソフトなようだ。
地味な格好をしているくせに顔つきは豪華な美人ってとこか。
もう1人は顔つきが同じなのに美人というより愛嬌の方が前面に出ている。
双子でも印象がまるで違うな。
この女性は明らかにニヤニヤと他の2人のやり取りを楽しんでいた。
「私はサキ。レザーワーカー、つまり皮革職人よ」
「ついでに私も。マーチャント、商人で隣の露店主のフィーナ」
「今は手持ちの皮素材はないから、素材持込ならなんとかするわよ?」
「そうですか。なら見て貰った方が早いかな」
「今あるなら見せて貰いたいわね」
露店の裏に回ると座って食べるためのサイドテーブルがあったので、そこに素材を出していく。
野兎の皮には驚きの顔を見せなかったが、邪蟻の甲には興味を示したようだ。
そして雪猿の皮には食い付いた。
「これは初見だわ」
「うん。掲示板にもなかった、よね?」
6つの目が『どこで手に入れた』と言っている。
なんか見えない圧力が。
「邪蟻の甲だって情報掲示板では知ってたけど現物は初めてだわ」
「軽いよね。でもそれだけに加工するのは難しいかも」
やべえ。
オレを見る目は獲物を狩る大型肉食獣のそれだ。
「野兎の皮は15枚、か。ジャケットにするだけなら十分なんだけど、何か希望はある?」
「オープンフィンガーグローブを両手分、それに胸当て。肘パッドと膝パッドも作れたら助かる」
サキが何やらブツブツと呟き始めた。
材料を計算しているのだろう。
オレの体型を測らなくて大丈夫なんだろうか。
見るだけで分かってしまうのかもしれない。
「邪蟻の甲はグローブ、肘パッド、膝パッドに貼り付けて使いたいな」
「プロテクターみたいな感じ?つかサモナーなのに格闘戦でもやる気?」
「そう。あと雪猿の皮だけど、この鷹が止まる場所に使いたいね」
「鷹匠プレイ?」
「鷹匠プレイで。左腕のカバーか左肩のカバーが出来たらありがたいな」
どんなプレイだ鷹匠プレイ。
「いやサキ姉、それを言うなら鷹狩りプレイだって」
ミオのツッコミはともかく。
サキはまたブツブツと呟いている。
会話してると普通なんだが呟いてるとなんか怖い。
呪われてるみたいだし。
「うん、それは両方できるよ。大丈夫」
「デザインは?この娘みたいにも出来るけど」
「いや、そこまで凝らなくていいよ。つか今日ってプレイ3日目だよな?よく作れたね、そのジャケット」
「そこはそれ、素材を集めるのにも作るのにも色々と頑張ったからね」
サキの笑顔が何故か怖い。
「ね?ね?やっぱり当たりだって!いい宣伝になるじゃないの!」
「まああんたの言いたい事ってのは分かるけどさ、イカが焦げるわよ」
「おっといけない」
イカ焼きに戻るミオ。
料理人がんばれ。
「で、イカほどになるかな」
「それ、突っ込まれたいのかな?」
「ミオ、茶化さない。そうね、1,000ディネは欲しい所だけど」
わお。
手持ち分超えちゃったよ。
「ちょっと待って、サキ。キースさんに確認したいのだけど」
ずっと寡黙だった商人のフィーナが会話に割り込んだ。
「蟻のドロップ、他にあるんじゃない?」
「あ、そうか。レイナちゃん呼ぼうか?」
「放っておいても来るわよ」
なんで他にドロップ品があるって分かるんだ?
「ああ、確かに情報掲示板に書き込みあるね。スクショはまだないんだっけ?」
「うん。ウサギの角以外にも底上げになりそうなのは全部検証すべきだって」
「ですよねー」
もう誰が何を話しているんだか分からなくなった。
女三人寄れば姦しいとはこの事か。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv3
職業 サモナー(召喚術師)Lv2
ボーナスポイント残9
セットスキル
杖Lv2 打撃Lv1 蹴りLv2 召喚魔法Lv3
光魔法Lv1 風魔法Lv2 土魔法Lv1 水魔法Lv1
錬金術Lv1 薬師Lv1
連携Lv2 鑑定Lv3 識別Lv2 耐寒Lv1 掴みLv1
馬術Lv1
装備 初心者のロッド 簡素な服 布の靴 背負袋 アイテムボックス
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv3 帰還しててお休み
残月 ホースLv1
ヘリックス ホークLv1