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目の前でアサシンの死体が消えていった。
召喚モンスター達はまだ警戒を解いていない。
警戒しているのは当然ラムダと名乗った男にである。
まだグレーのマーカーのままだ。
彼には【看破】が効いていない。
いや、グレーと判定しているから全く効いていない訳ではないのだが。
《只今の戦闘勝利で【看破】がレベルアップしました!》
《取得が可能な補助スキルに【拷問】が追加されます》
拷問?
おっかない文字が目の前で躍っていた。
そんなスキルを日常的に使う理由がないんですが。
「えっと。申し訳ないんですが」
ラムダくんが随分と真剣な顔付きをしている。
まあ彼の後方に黒曜が、オレの肩にヘリックスが、オレの両脇に残月とヴォルフが控えているのだ。
いずれも警戒を解いていない。
「どうにかなりませんか?」
「話を聞いてから、じゃダメかな?」
「その話をし難いのですが」
後方にいる黒曜を左腕に呼んで止まらせる。
ヴォルフは伏せの状態のまま待機させた。
「この辺りで妥協できるかな?」
「はい」
「察するに君はPKKって奴なのかな?」
「ええ」
「だが私の目にはファイターに見えるが」
「いえ、グレーのマーカーで見えているのでは?」
何だ。
分かっているのかね?
【看破】は確かに持っているんだけどな。
「どうもPKへの対処があまりにも見事で見惚れてしまいました」
「お世辞はいいよ。君は何者?」
「周囲に他のプレイヤーはいませんよね?」
召喚モンスター達に周囲を警戒させてみる。
いないな。
「いないみたいだな」
「良かった。この状態ではボクの【危険察知】は怪しいものですから」
オレの目の前でマーカーがグレーから白に変化していった。
これは何?
マーカーに目を凝らして再度【識別】してみる。
オメガ Lv.7
ファイター 待機中
「失礼。間違えました」
「え?」
「すみません。ボクを【識別】し直してみていただけますか?」
オメガ Lv.7
アヴェンジャー 待機中
「これが本当の名前、そして職業になります」
「アヴェンジャー?復讐者、だったかな?」
「ええ」
「さっきまで名前も職業も変わっていたのは?」
「それは【偽装】スキルの効果です。レベル次第ですが【看破】も通じないことがあります」
「へえ」
「PK職、それにPKK職にクラスチェンジすると無条件で取得が可能になるスキルになります」
「ほう」
彼はオレの目の前で胡坐をかいて座り込んだ。
口の中から綿らしきものを取り出す。
変装もしてたようだ。
「実は真面目な話になりますが貴方にお願いがあるのです」
「お願いって」
「私を鍛えて頂きたい」
「はあ?」
「どうしても必要なのです」
彼の素はさっきの戦闘中に垣間見えた気がする。
軽薄に見えながら躊躇なくナイフで喉を切った手際は見事だった。
強烈な怒りや恨みがなければああはならないだろう。
「長くなりますが話を聞いていただけますか?」
「その前に。なんで私が?」
「闘技大会は見ました。これしかない、と思いました」
ええ?
あれだけで?
「納得いただけないかも知れません。でも他にすがるものがないのです」
「すがる?」
「全てをお話します。スキル構成も。ステータスも。ボクが復讐者になった経緯も」
どうやら長い話になりそうだ。
どうする?
興味は当然ある。
話、聞いてみようか?
確かに話は長かった。
そして無残とも言える身の上話でもあった。
話半分なのだとしても、だ。
あまりに長かったので要約するとこんな感じだ。
彼は本サービス開始からずっと組んでいた固定メンバー全員に裏切られた。
その裏切った5名はわざと悪落ち(闇落ちとも言うらしい)するのに彼を生贄としたようだ。
フレンド登録はキャンセルされ、裏切り者との伝手は無くなった。
そればかりか死に戻りの直前、彼らに押さえられて装備や金の大部分を奪われてもいたそうだ。
彼自身、気がついたときはほぼ初期状態の装備で宿屋に死に戻ったらしい。
そして彼自身も闇に身を投じた、という事になるらしいが。
彼の元の職業はトレジャーハンターでナイフ使い。
PKされて暫くは事態を把握できなかったらしい。
アヴェンジャーという職業に転職可能になった理由もだ。
復讐者。
職業についての簡単な説明文を読んだ上でアヴェンジャーに転職したのだとか。
どうやら何か呪われているらしい。
うん。
何に呪われているのか、聞くのが怖いです。
ついでにスキル構成とステータスも見てくれ、と言うので、一時的にユニオンを組んでみた。
そして見せて貰ったのがこれだ。
プレイヤー名 オメガ
種族 人間 男 種族Lv7
職業 アヴェンジャーLv2
ボーナスポイント残18
セットスキル
小剣Lv6 剣Lv4 小盾Lv6 回避Lv7 受けLv6
光魔法Lv5 闇魔法Lv1 水魔法Lv5
連携Lv4 鑑定Lv6 識別Lv6 看破Lv5
精密操作Lv5 二刀流Lv3 解体Lv5 投擲Lv5
罠Lv3 保護Lv3
偽装Lv3 変装Lv3 隠蔽Lv3 追跡Lv2
無音詠唱Lv3 気配察知Lv3
[復讐の誓いにより取得]
カルマ識別Lv3 設定操作Lv3 ステータス操作Lv1
技能封印Lv2 呪詛Lv1
装備 鋳鉄のナイフ×2 旅人の服 革のブーツ
背負袋 アイテムボックス
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
称号 森守の証、秩序を望む者
復讐の誓い
ステータス
器用値 20(+6)
敏捷値 22(+7)
知力値 15(+5)
筋力値 16(+5)
生命力 16(+5)
精神力 15(+5)
カルマ 950 許容下限値350、許容上限値3,500
まあ最初に言いたいことはアレだ。
化け物かよ!
「これ、鍛える必要ってないんじゃ?」
「不足しているのは私自身のプレイヤーズスキルなんです」
「普通にステータスを活かして勝てそうなんだけど」
「ええ。簡単に勝てるのが問題なんです」
「というと?」
「復讐対象は5名います。1名を即死させたのですが、それでは不足します。単に死に戻りさせただけでした」
「不足?」
「呪いをクリアするにも即死させるだけでは不足らしいので。それ以上に私の気がどうしても晴れないのです」
「とは言ってもなあ」
困るなあ。
オレは好き勝手にゲームをしていたらいいだけで、時間も余りまくっているのだが。
付き合ってもいいけど、アデルとイリーナのように依頼じゃないし。
まあ話だけは聞いてみるか。
「プレイヤーズスキルが不足って言うのは?」
「戦闘で少しでもプレイヤー依存の行動をするともたつくんです」
「でも私じゃそう力になれそうもないけど」
「闘技大会の模様は見ました。ボクにはそれで十分です」
それだけ?
なんと言えばいいのかね?
「鍛えてくれ、というけど具体的には何をどうしたいのかな?」
「格闘戦です。近接距離で戦う術が欲しいんです」
「格闘?」
「先程、アサシンを取り押さえていたと思いますが、ボクにはああいった事ができないんです」
「え?」
「捕らえて思う存分、復讐を果たす。それにはプレイヤーズスキルがどうしても必要だと考えました」
おいおいおい。
おっかないな。
「話は変わるけど先刻の連中は?」
「貴方を狙っていたPK職のパーティですね」
「狙っていた?」
「ええ。私が知る限りですが、5つのパーティがこの周辺で暗躍してますね」
「5つもいたのか」
「エリアポータルの手前にはどこにでもいます。戻る寸前に出立した直後、隙を見せやすい所を狙うみたいです」
「そしてPKKもそこを狙う訳か」
「仰る通りです。でもPKKのパーティは数が少ないのでどこにでもいる訳じゃないですが」
「ほう」
成程ね。
一種の捕食関係みたいだな。
魔物を狩る一般のプレイヤー。
一般プレイヤーを食い物にするPK職達。
PK職を狙うPKK職達。
返り討ちもあるから食物連鎖とは違うようだが。
「アサシンを取り押さえた手腕は見ていて感動しました。お願いします!」
座り込んでいた彼は正座になると深々と礼をする。
いや、土下座までせんでも。
「しかしなあ」
「お礼ならば必ず致します」
《個人指名依頼が入りました。依頼を受けますか?》
え?
個人指名依頼って何よ?
そういう事ができるのかね?
むしろそっちに興味が沸いてきた。
どういう結末になるのか、興味がある。
ギルド指名依頼と同様、何かしら報酬があるのかもしれないな。
まあそれだってどうでもいい。
今までに知らない展開があるのならば体験してみたいだけなんだが。
「但し教わったからといってすぐ会得できるものじゃないけど」
「構いません」
どうするか。
迷う時はどうする?
オレの場合は大体において決まっている。
「まあ受けてもいいけどね」
「ありがとうございます!」
《個人指名依頼を受けました!》
インフォにはやはり納期がない。
またか。
でも受けちゃったしな。
「では最初に確認からかな?」
「確認、ですか?」
「うん。その前に時間は大丈夫かな?」
「平気です」
「うん。では装備からだな」
彼は食料は携帯食ばかりで3日分を持っていた。
テントも毛布もある。
つか普通に革鎧があるじゃないの。
「では次かな?人が少ない場所に移動しよう」
「え?」
「ああ、それと普段は『ラムダ』って呼べばいいのかね?」
「ええ」
「了解。遅れたが私はキース。見ての通りサモナーだ」
「はい。でもグラップラーと言った方が相応しいように見えます」
「そんな職業はあるの?」
「ファイターの上位職であるという予測なら掲示板で昔からありますけど」
「ほう」
あるんだ。
それに上位職か。
でも師匠の職業はサモナーのままだったからな。
サモナーの場合はないのかもしれない。
ラムダが革鎧を装備して変装をするのを待つ。
ほんの少しの間で全くの別人になってしまった。
何気に凄いな。
「森の迷宮の先は大丈夫かな?」
「ええ。クリアしましたから。裏切られたのは森の迷宮でイベントをクリアした直後だったんです」
ありゃ。
クリアしたら用無しか。
確かに酷いよな。
「では行こうか」
「はい」
向かう先は決めてあった。
S1W1マップにしよう。
あそこなら多分、まだ人が少ないだろう。
おっと。
その前にPK職の連中の置き土産を確認しておこう。
死体は消えていた。
残されていたのはお金が少々。
正直、割が合わないな。
パーティを組むか、ユニオンに留めるか、いささか迷ったのだが。
最初のうちは別パーティ扱いで行動する事にした。
経験値的にどっちもバランスが悪すぎる。
互いに支援が難しくなるのだが、そこはどうとでもなるだろう。
彼は十分すぎるほど強い。
念のためにフレンド登録はしておいた。
移動しながらも確かめておきたい事は済ませておく。
彼の普段の戦いぶりだ。
キノコ相手の場合はまるで問題はない。
ただ与えているダメージはステータスほど多いように見えなかった。
やはり武器がナイフに留まっているのが響いているようだ。
手数でなんとかカバーしているだけだ。
ブランチゴーレムの場合はその傾向はより顕著になる。
ダメージなしで倒しきるのだが、時間がかかりすぎていた。
これはいかんな。
でも彼の場合、復讐相手はプレイヤーだからいいのかもしれないが。
経験値稼ぎで支障が出るよね?
ゴブリンの洞窟の手前で召喚モンスターを交替させる。
残月を帰還させ、戦鬼を召喚した。
ゴブリンの洞窟では色々と質問しながら進んでいった。
主に見たこともない技能についてだ。
まあ読んで分かる技能はいいとして、興味のあるものから聞いていく。
まずは無音詠唱。
PK職、PKK職で取得可能になるらしい。
無音で呪文詠唱ができるそうだが、詠唱時間は倍以上になるそうだ。
レベルアップで徐々に詠唱時間は短くなるようだ。
但し本来の呪文詠唱時間に到達するのは無理ではないか、と予測されているらしい。
カルマ識別。
まさに謎のスキルだ。
アヴェンジャーの場合、許容下限値を割り込むとペナルティを喰らうらしい。
許容上限値を超えるのも同様にペナルティ。
これもアヴェンジャーの呪いらしく、定期的にPK職を狩らないと許容幅が狭くなっていくのだとか。
放置できないって事か。
彼の場合、許容下限値350、許容上限値3,500、となっていた。
最初、許容下限値100、許容上限値1,000、となっていたらしい。
随分と伸びたものだ。
因みにオレを始めとした一般的なプレイヤーには許容上限値しかないそうだ。
突破するとどうなるのか。
悪落ちである。
より酷い行動の結果が悪落ちとはね。
まさに因業と言う事か。
オレのカルマだが、ハードコピーをメッセージで送って貰う。
カルマ 275 許容上限値4,500
ラムダ曰く、カルマ自体は普通、上限値は非常に高いらしい。
何故そうなのかは不明だ。
彼の言によると、依頼を積極的にこなすプレイヤーは高い傾向にある。
そして交渉事の多い生産職になるほど高い傾向にあるそうだ。
一番高かった例が商人で、許容上限値8,500を見た事もあるらしい。
無論、NPCにもある。
たまにだがNPCにも悪落ちしているのがいるみたいだ。
設定操作。
これも謎だった奴だ。
なんとプレイヤーの設定に介入する技能だった。
あのアサシンの痛覚設定を100%にしたのもこの技能だ。
レベルアップする事で効果の継続時間も長くなるらしい。
なんと恐ろしい。
ステータス操作。
名称でなんとなく分かるのだが、どう利用するのかが謎だ。
自らのステータスを上限値を限度にして下限値の1まで、自由に設定できるらしい。
低くするほど、カルマ幅が大きく改善される、とあるそうなのだが、彼は使った事がないそうだ。
技能封印。
これまた説明を聞いたら酷い技能だった。
死に戻りさせたPK職の技能を封印してしまうスキルだ。
レベル2であれば、2つの技能を2日間、全く使えなくしてしまうらしい。
恐ろしいなんてもんじゃねえ。
冒険に支障が出まくるって。
最後に呪詛。
これは復讐相手限定らしい。
彼の場合はかつての仲間5名だ。
死に戻りを強いる度に効果は増えるらしい。
彼の場合、復讐相手を死に戻りさせたのはまだ1回だけで、全ての効果はまだ未確認らしいが。
レベル1の段階では復讐対象者の【偽装】や【変装】を【看破】するのにボーナスが付く程度だ。
しかし技能名称が恐ろしすぎる。
先々、どうなるか知れたものではない。
救いがあるとしたら、設定操作、技能封印といった技能は、対象がPK職限定である事だろう。
呪詛に至っては復讐相手にしか使えない仕様だし。
それらを抜きにしても、ステータスが基本の3割増しにまで強化されているのだ。
チート、という言葉が脳裏に浮かぶ。
だがペナルティも既にいくつかあるようだ。
アヴェンジャーの痛覚設定は100%のまま固定である事もその1つ。
そして復讐を果たせぬまま、カルマの許容値を外れたら何が起きるのか。
最悪、ゲームから除外となる。
ペナルティが厳しい気もするが。
「だからこそステータスもスキルも凶悪なのでしょう」
自分で凶悪って。
確かに凶悪なのだが。
実際、ゴブリンごときではまるで相手になっていない。
10匹ほどの群れでもまるで問題なく1人で狩ってしまっていた。
本当に鍛える必要があるのか、不思議な位だ。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv10
職業 サモナー(召喚術師)Lv9
ボーナスポイント残8
セットスキル
杖Lv8 打撃Lv5 蹴りLv5 関節技Lv5 投げ技Lv4
回避Lv5 受けLv4 召喚魔法Lv10 時空魔法Lv2
光魔法Lv5 風魔法Lv5 土魔法Lv5 水魔法Lv5
火魔法Lv4 闇魔法Lv5 氷魔法Lv3 雷魔法Lv3
木魔法Lv3 塵魔法Lv2 溶魔法Lv2 灼魔法Lv2
錬金術Lv5 薬師Lv4 ガラス工Lv3 木工Lv4
連携Lv7 鑑定Lv6 識別Lv7 看破Lv3(↑1)耐寒Lv3
掴みLv6 馬術Lv6 精密操作Lv7 跳躍Lv3
耐暑Lv4 登攀Lv3 二刀流Lv4 解体Lv2
身体強化Lv2 精神強化Lv4 高速詠唱Lv4
装備 カヤのロッド×1 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3
カヤのロッド(壊)×1 白銀の首飾り+
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv7
残月 ホースLv5
ヘリックス ホークLv5
黒曜 フクロウLv5
ジーン バットLv5
ジェリコ ウッドゴーレムLv3
護鬼 鬼Lv4
戦鬼 ビーストエイプLv4
リグ スライムLv3
文楽 ウッドパペットLv2
同行者 ラムダ(本名オメガ)




