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810

 ??? Lv.32

 サモンマスター 待機中


 試合場の角に立って試合開始を待つ。

 オレが手にした得物は左手の神樹石のトンファーだけだ。

 ヒョードルくんも対角線の試合場の角に立つ。

 【識別】も済ませておく。

 で、ヒョードルくんだけど落ち着かない様子を見せている。

 大丈夫だって。

 是非、楽しませてくれ。

 肝心なのはそこなのです。



 お互いに。

 礼。



「始め!」


 開始と同時に前へ。

 さあ、どう出る?



『グラビティ・メイル!』


 うん?

 呪文詠唱は無かった。

 だが、呪文名だけが聞こえた、という事は?

 【詠唱破棄】を取得したって事だろう。

 これは益々、油断出来ない。



(フィジカルエンチャント・ファイア!)

(フィジカルエンチャント・アース!)

(フィジカルエンチャント・ウィンド!)

(フィジカルエンチャント・アクア!)

(メンタルエンチャント・ライト!)

(メンタルエンチャント・ダーク!)

(クロスドミナンス!)

(グラビティ・メイル!)

(サイコ・ポッド!)

(アクティベイション!)

(リジェネレート!)

(ボイド・スフィア!)

(ダーク・シールド!)

(ファイア・ヒール!)

(ミラーリング!)


 呪文を使うならこっちもだ。

 倍返しなんてもんじゃないけどね!



『グラビティ・プリズン!』


 体が一気に重たく感じる。

 グラビティ・プリズンは重力の檻。

 喰らわせる事は多いけど、喰らう機会は少ない。

 でも皆無って訳でもない。

 その数少ない経験があったからこそ、慌てる事は無かった。


 矢が次々と放たれているけどボイド・スフィアの呪文が有効だ。

 当面の攻撃は闇の球体が無効化してくれるだろう。


 もっとだ。

 もっと、攻撃してくれていい。



『ホーリー・プリズン!』


 ほう。

 手を尽くしてオレの動きを止めようとしているのね?

 いい判断だ。


 ヒョードルくんは右手に刺突剣を逆手に持っている。

 例の手順、やるか?



『ボンナバン!』


 さあ、来た!

 そうでなくちゃいけない。

 足を止めずに距離を保ちつつ攻撃を継続する。

 それが基本であるのだろう。

 正しい。

 そう、それが正しい。


 封印術の呪文は使わない。

 その代わりに、別の手段を使うからね?



(ショート・ジャンプ!)


 跳んだ先でヒョードルくんと激突してしまう。

 いきなりで驚いたかな?



「やあ」


『え?』


 左の肘撃ちが側頭部に直撃。

 続けて左膝を腹に叩き込んだ。

 すぐに背後に回り込んで頭を抱える。

 裸絞めだ。

 そのまま跳び付いて両脚で胴体を挟み込んで地面に転がる。

 さあ、ここからどうする?


 ヒョードルくんは左手の弓も右手の刺突剣も手放してロックしたオレの両腕を外そうと動く。

 でもね。

 もう遅い。


 背筋に力を込める。

 それで終わりだった。

 ヒョードルくんは右手でタップしてます。


 あれ?

 もう降参なの?




《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 結果的にはアレだ。

 秒殺。

 それでいてヒョードルくんのHPバーは半分を大きく割り込んでしまっている。

 いや、もう残り1割?

 肘撃ちに膝蹴り、続けて裸絞めでそこまで減ってしまっているのか。

 重装甲のドワーフがタフであった事を考えると余りに呆気ない。


 これがエルフか。

 捕まえてしまえば簡単ですね。

 簡単過ぎる。

 もうちょっと、粘って欲しかった!



「立てるか?」


『ええ、どうにか』


 ヒョードルくんは大丈夫みたいです。

 その右手にはナイフ。

 反撃するつもりではあったらしいな。

 その姿勢でいい。

 最後まで足掻くようでなければいけません。

 ナイフ一本あれば逆転だって狙えるのだから。


 お互いに対角線に戻る。

 再び、礼。



《本選第六回戦、準々決勝に進出しました!第六回戦は本日午前10時30分、新練兵場E面の予定となります》

《五回戦突破によりボーナスポイントに1ポイント加算されます。合計で51ポイントになりました》


 ノーダメージで勝ち上がってしまったか。

 ギルド職員さんによる装備の修復すら不要でした。

 結果は確かに秒殺なんだろうけど、対応が的確だった事もあったのだ。

 内容的にも悪くない。

 消化不良って程じゃない。

 もうちょっと粘って欲しかっただけだ。




『次の試合会場は新練兵場のE面ですね?』


「ああ」


『時間は午前10時30分。隣だし席の確保をするのにも助かります』


 テレパスで此花と連絡を取りつつ控え室に戻る事にした。

 次の試合まで間があるけど、レムトの町中を抜けるのは時間が要る。

 控え室でおとなしくしておこう。



『あ、別途ですけど動画もメッセージで送っておきます』


「ああ、それは有難いな」


 優勝するには残り三戦を勝ち抜かないといけません。

 対戦する可能性のあるプレイヤーの動画は見ておきたい。

 掲示板で情報収集するのは苦手なのです。

 感謝すべきだろう。


 控え室に案内される。

 一番奥の角に座り込むと早速動画をチェックしよう。

 第四回戦までの動画もあるのだ。

 次の試合を待つまで、暇を持て余す事もないだろう。






 無差別級個人戦、第五回戦を見ているんだが。

 全部、終わっていないみたいけど注目のカードは視聴出来ている。

 どれも興味深い。


 与作の相手はスタンダードな戦士。

 片手剣に盾持ちだったが、これがかなり見応えがあった。

 あの与作の攻撃を何度も凌ぐというのは尋常な技量ではない。

 もう一度、見返す事になるであろう激戦だ!

 現時点でベストバウトを投票するならこれだろうな。

 敗退したけど、相手の戦士には大いに拍手を送りたい。

 その職業はブレイバー。

 バトルメンターとは違う戦士系の職業みたいだ。


 リディアの試合もあった。

 相手は槍持ちの戦士。

 職業はアサルトパイカーとなってます。

 ヘビーランサーの上位職かな?

 対戦は例の刺突剣を逆手に持ちながらの高速移動を有効に使ってました。

 相手も長柄の槍を器用に用いて高速移動を阻害しようと動いていたけどね。

 ピットフォールに嵌まってしまい、そこからは完全に一方的になってしまった。

 惜しい。

 何度かリディアを捕捉する機会があったんだが。

 結果で見る程、大差があったと思えない。


 他には?

 団体戦も視聴してます。

 ゼータくんは無事に第六回戦に勝ち残ってます。

 但し、第五回戦は薄氷の勝利だっただろう。

 魔法職が前衛で戦うのだから、集中砲火を狙われるのは当然だ。

 でもね。

 オレがそこに突っ込む資格は無い。

 無いのでした。






「キースさん、そろそろいいですか?」


「あ、はい」


 自分の第五回戦を視聴していたらもう出番か。

 相手は誰になるんだろう?

 同じ控え室にいる個人戦出場者ではない事は確かだが。

 控え室の中に与作の姿は無い。

 それが大きな期待になってます。


 別に決勝じゃなくてもいい。

 期待しても、いいよね?





 ??? Lv.7

 ドラゴンナイト 待機中



 対角線上にいるのは与作じゃないです。

 ドラゴンナイト。

 ドラゴントルーパーの上位職であるのだろう。

 職業レベルが低く見えるけど、無差別級の個人戦を勝ち抜いているのだ。

 油断していい相手じゃない。


 得物は?

 手にしているのは長柄の槍。

 腰に佩くのは剣。

 肩ベルトに投げナイフらしき代物が見えていた。

 盾は持っていない。

 そして革鎧は金属製ではないみたいです。

 見覚えのある質感に色。

 大氷雪竜の革鎧と揃いの防具類だろう。


 重装備、というよりもバランスの取れた感じかな?

 革鎧である分、動きもそう大きく阻害されないだろう。


 本当は騎乗竜がいてこそのドラゴンナイトだと思うけどね。

 地上戦でどうなるのか?

 竜騎士達と対戦はしている。

 その経験が活かされるかどうか。

 得物に槍を使われたら台無しだろうな。


 オレは何を得物としようか?

 双角猛蛇神の長槍でどうだろう。

 闘技大会を前に確認はしてあるけど、そんなに使い込んでいる訳じゃない。

 まあいい。

 槍には槍で。

 剣には剣で。

 それでいいのだが。

 剣を使うとしたら金剛杵になってしまうだろう。

 そこは妥協しましょう。




 試合場の角に立って一歩前へ。

 お互いに。

 礼。



「始め!」


 開始と同時に駆け出す。

 相手は?

 体を捻って、投擲姿勢になってます。

 まさか。

 投槍だったのか!



『ヌンッ!』


 武技は使って来なかった。

 その槍先はオレの右肩を削るように通過して行く。

 衝撃はある。

 駆けていた所にこの衝撃、体勢を崩してしまった!


 相手は既に剣を抜き、こっちに迫っていた。

 まだ、距離があるのだが。

 どう迎撃する?

 槍の間合いを使って戦う事も出来るけどね。

 オレが望んでいるのは接近戦。

 もっと望ましいのは格闘戦。

 何故、槍を持ち続けるのか?

 意義を見出せない。


 手にしていた双角猛蛇神の長槍を放り出すと腰の金剛杵を手にする。

 刃を展開。

 セットしてあったのは光魔法だ。

 アンデッド系ドラゴンとの戦闘で使ったままだったけどこのままでいい。


 剣には剣で。

 それでいいのだ。





「ッ!」


『ッ?』


 お互いに剣。

 でも手数ではオレが勝っている。

 剣そのものが違うのだから仕方ない。

 金剛杵は軽い。

 そこに差が出ている。


 その反面、一撃の重さでは劣る。

 まともに受け続けたら金剛杵がいずれぶっ壊れるであろう事は明白だ。

 それだけに間合いをキープ、剣を捌きつつ思う。

 竜に騎乗して剣を使う機会は少ない筈だ。

 それでいてこの技量はお見事としか言いようが無い。

 恐らくだがプレイヤー自身の技量によるものだろうと思う。


 開戦当初から武技も呪文も使って来ない。

 そのパターンか。

 こっちも使うつもりは無い。

 楽しめてますか?

 オレは楽しめてます!



「シャッ!」


 オレの放った一撃をまともに受けたのは、いい。

 だがギリギリで見切って反撃に繋げるという面ではどうだろう?

 安全策に過ぎる、と思う。

 手数が違っているのだから、どこかで思いっきり踏み込んで攻撃に転じていい。

 だがこの攻防をいつまでも続けるのは面白くないな。

 変化をつけよう。


 離れ際で右膝裏を蹴る。

 再び接近、今度は左膝裏に蹴りを入れて剣の柄を押さえた。

 お互いの表情が見える距離は初めてだろう。

 パワー差は歴然、相手の方が上だ!

 でも想定していた程ではない。

 それが意外でした。



「ヌンッ!」


 体を反転しつつ側頭部へハイキックを放つ。

 屈んで避けられてしまう。

 視界の外からで見えなかった筈だが、避けた?

 さてはこの距離での攻防に慣れてますか?


 いかん。

 笑っちゃいけない。

 想像以上に楽しめそうな予感がする。


 なあ。

 剣を手放すつもりはないかな?

 オレも金剛杵を手放すから。

 なあ、いいだろ?

 格闘戦、出来ませんか?



『ッ!』


 近距離から柄頭をオレの側頭部に撃ち込んで来る。

 ギリギリで避けつつ、金剛杵を手放した。

 左肘に掌底を当てて背後を狙う。

 胴体を抱え込んで、後方へ反りつつ相手を持ち上げて投げた。

 裏投げ。

 プロレス技に見えるかもだが裏投げだ。

 裏投げなのです。

 誤解の無いように!


 相手は投げられても尚、右手に剣を持っていた。

 だが、片手でだ。

 柄頭を蹴り飛ばして剣を奪う。

 さあ。

 ここからは格闘戦でいいよな?

 いいよね?


 さあ、殴り合いだ。

 楽しませて下さい!





《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 殴り合いは?

 そんなに長く楽しめませんでした。

 側頭部に右肘を叩き込んだ後、膝蹴りが顎に直撃したのがいけなかった。

 一気に勝負が、終わってしまった。

 どうも気絶しちゃったみたいです。


 ああ、何て事だ!

 もうちょっと、粘って欲しかった! 


 今回はオレだけが対角線に戻る。

 対戦相手のドラゴンナイトはギルド職員さんに運ばれていたけど、大丈夫かな?

 オレはどうする?

 礼を残して試合場を去る事にした。



《本選第七回戦、準決勝に進出しました!第七回戦は本日午後0時30分、新練兵場B面の予定となります》

《六回戦突破によりボーナスポイントに1ポイント加算されます。合計で52ポイントになりました》


 むう。

 勝ったけど加算したボーナスポイントは1か。

 足りない。

 足りませんよ?

 運営はオレの欲を満たすつもりはないらしい。






『次の試合会場は新練兵場のB面ですか?』


「そうなっているな」


『雛壇側ですね。一般の観客席は狭いから間違いなく混み合いますね』


「準決勝に進出したメンバーって分かるか?」


『個人戦無差別級で確定はキースさんだけです。分かるようならお知らせします』


「頼む」


 さあ。

 次は準決勝。

 期待しているのは与作が勝ち上がってくれる事です。

 先刻のドラゴンナイトとの殴り合いは少々、不完全燃焼で終わってしまった。


 ああ。

 無性に殴り合いがしたい。

 したくて堪らん!



「準決勝進出者には食事が用意してありますので。いつでも声を掛けて下さい」


「了解です。早速ですけど頂けますか?」


「え?」


 分かってる。

 昼食にするには早いってのは分かっている。

 でもね、食後すぐに激しい運動は避けるべきなのだ。

 次の対戦を前に早めに食事は済ませておくとしましょう。





 冒険者ギルドの用意した食事は中々の美味さの惣菜パンだったけど大きな問題があった。

 全然、足りないって。

 仕方ないので携帯食を齧りながら動画を見てます。

 つい先刻、アデルのメッセージで送られた分だ。

 個人戦無差別級の第六回戦の動画は全て揃っていたのです。


 オレの第六回戦の様子は後回しにして、他の3試合を見ていたんだが。

 期待していいのかどうか、少々悩む。

 与作は第六回戦を突破、準決勝に進んでいるのはいい。

 他の2名が、困る。

 リディア、それにガヴィです。

 これはちょっとどうなんだろう?


 リディアとの対戦は怖い。

 またしても事故が起きそうで怖い。

 ガヴィもちょっと遠慮したい。

 小さい女の子にしか見えないから対戦ではオレが悪人に見えてしまうだろう。

 ブーイング必至だ。


 やはり与作がいいな。

 そうであってくれ。

 オレに日頃の行いが良ければ、きっと叶う。


 対策は?

 各々についての基本方針は既にある。

 それに想定以上の、そして想定以外の事態もきっとあるだろう。

 そこも含めて、楽しんだらいい。

 ああ、早く。

 早く試合がしたい!

 そして対戦相手は誰だ?

 誰になるんだ?





「そろそろ準決勝戦です。準備はいいですか?」


「ええ」


 準備?

 とっくに済んでいる。

 先刻から猛る気持ちを抑えるのに必死なのだ。


 試合場は新練兵場B面。

 C面と共に雛壇の正面になる。

 その雛壇にいる面々も良く見えた。

 サビーネ女王と竜騎士達にジュナさん。

 目礼だけはしておいた。

 ギルド長とゲルタ婆様もいるけど、その隣には師匠もいる。

 あれ?

 東にある王城跡地周辺の用件は済んだのかな?

 その表情はすまし顔だ。


 問題なのはその隣にいる見慣れない老人と若い優男。

 1名は簡素だが純白で上品そうなローブを身に付けていた。

 短く刈り込んだ頭髪に髭。

 試合場を興味深そうに眺めている。

 もう1名の優男は豪奢なローブを羽織っているけどその顔を見たら分かるぞ?

 酔ってる。

 酔っ払っている。

 その赤ら顔に知性は僅かに感じ取れても品性は感じない。

 酔っていなければ結構な男前だと思うのだが。

 その後方に控えるのは数名の完全武装の戦士だ。



 法騎士 男爵 ジョバンニ Lv.6

 ホーリーナイト 警戒中

 ???



 法騎士 公爵夫人 ファラ Lv.13

 ホーリーガード 警戒中

 ???



 戦士は皆、ガーディアンだけかと思ったが、2名だけ別格なのがいる。

 圧力は感じない。

 だがオレを見る目に生じた感情は明らかなものであった。

 侮蔑。

 そうとしか言い様が無い。



 宮廷魔術師 シルビオ ???

 ポープ 観戦中

 ???



 王子 フレデリク Lv.8

 近衛儀杖兵 観戦中

 ???



 こいつ等全員、NPCか。

 何かを連想してしまう。

 あの王弟だ。

 タイプは違っているけど、いい感じがしないという点で共通する。


 おっと。

 今は対戦相手の確認だ。

 対角線に立っているのは誰だ?

 与作です。

 その手には巨大な斧。


 うむ。

 神様、有難う!

 日頃の行いが良かったからなのかもしれません。

 ああ、堪らん。

 でも今は得物の選択だ。


 斧には斧で。

 ダイダロスのペレクスを選択しました。

 問題は呪文の強化であるんだが。

 フィジカルエンチャント・ファイアを使おうか?

 無い場合は扱う事は出来るけど、心許ない。

 あのパワーと正面からまともに戦うなら、そうすべきだが。


 まあいい。

 流れるままに、流されるままに戦ってみよう。



 試合場の角に立ち真正面を見る。

 斧を右手に持つ与作の立ち姿だ。

 ああ、もうすぐだ。

 もうすぐ、全てをぶつけるような戦いが出来る。

 素晴らしい体験になるだろう。


 お互いに。

 礼。



「始め!」


 開始と同時にダイダロスのペレクスを肩に担いで前へと駆ける。

 さあ、どんな戦いになるんだ?

 きっとこれまでにない、酷く素敵な戦闘になってくれるだろう。




「チェァァァァァァァァァァッーーーーー!」


『ケェッ!』


 巨大な斧同士がぶつかる。

 互角?

 互角じゃない。


 どうにか互角の戦いに見えているのは体全体を使って思いっ切り撃ち込んでいるからだ。

 大きなリスクのある動きになっていると思う。

 きっと隙だらけだ。

 斧と斧の激突は凄まじい。

 体勢を立て直すのも大変だが、そこはお互い様だ。

 体格がいいだけに与作の方が体勢の立て直しが早い。

 そこを攻めさせない為に、崩れた体勢からでも斧の重さを利用した動きで次の攻撃を撃ち込んでいる。

 読まれ易い動きだが、そうする事でしかパワーと体格の差を埋められていません。

 

 それにダイダロスのペレクス。

 こいつの助けもあると思う。

 互角に撃ち合えるとは思わなかったな!



「シャァァァァァァァァァァッーーーーー!」


『チェェェェェェェェェェェッーーーーー!』


 体を一回転させて撃ち込んだ一撃はこれまでになく強烈な感触があった。

 マズい。

 手にしたダイダロスのペレクスは砕けてやがる!


 与作を見る。

 その手にある両手斧は柄の部分が大きく曲がっていた。

 あれでは使えそうに無い。



「ッ!?」


『ッ!?』


 お互いに前へ。

 お互いにその手に得物は無い。

 考えているのは一緒だったみたいだ。

 サブウェポンを使わせてはいけない。


 与作の腰には手斧がある。

 オレの腰ベルトだが、後ろにククリ刀がある。

 お互いに得物を手にするのではなく、得物を使わせない為に前に動いていた。


 与作の低空タックルを半身で受ける。

 真正面じゃない。

 体を浮かせて衝突。

 与作の背中の上を回転して後方に回り込めた。


 振り返る所に顔面に左足で蹴り。

 ブロックされてるけど気にしない。

 体勢が崩れている所なのだ。

 攻め続けろ!


 蹴り足を着地すると同時に脇腹に頭突き。

 首を抱えられたが気にしない。

 右足で外掛けを仕掛けつつ、体を反転させる。

 与作がオレの首をロックしようかという寸前に裏投げ。

 どうにか転がしたが追撃は出来なかった。

 既に体勢を立て直して迎撃の構えをとっている。

 柔術立ちか。

 でも構うか!

 戦闘をいちいち区切っていては隙を見出せないだろう。



「ヌンッ!」


『シャッ!』


 顔面に向けて跳び膝蹴りが直撃。

 だが、直後に抱えられて後方に投げ落とされた。

 投げる、ではなく落とすだ。

 しかも体重も乗っている。

 危険だ!


 背中から地面に叩き付けられながらも足を払って右膝を狙う。

 右足で挟んでスパイラルガード。

 続けて足首を狙うか?

 僅かに逡巡してたら与作の右足に体重を乗せて来ていた。

 させるか!


 より深く潜り込んで、右足裏で与作の腹を蹴る。

 体重を乗せられて寝技で勝負とか、洒落にならんわ!!

 体を捻って今度は与作の右足に左足を絡めて脇の下で足首を固定する。

 ヒール・ホールド、行けるか?


 だが残念。

 体を起こした与作がオレを蹴り剥がしてます。

 おい。

 お前はあの筋肉バカの魔神か?

 無茶な事をする!


 転がった先で立ち上がった時にはもう与作が目の前に。

 今度は蹴りがオレの顔面に飛んで来る。

 伏せるように体を低くし、そのまま前転。

 軸足の右脚を抱え、体毎回転させた。

 プロレス技じゃない。

 腕返しだ。

 それを脚で応用しているだけだ。

 なんたらスクリューじゃない!


 転がった与作の上に覆い被さるとマウントポジションを狙う。

 だが。

 背中に衝撃、そのまま吹き飛ばされた?

 蹴りかな?

 だが確認する余裕なんて無い。

 もう与作は立ち上がっている。


 ああ、ダメだ。

 こんな感触は久々か?

 お互いに武技も呪文も使わず格闘戦。

 斧での攻防を通して体中に痺れる様な感触が残っている。

 その上、今の格闘戦。

 痛みの一つ一つが愛おしくなる。


 さあ。

 更なる痛みを分かち合おうか。

 あれ?

 与作、お前さん笑ってるぞ?


 いい笑顔だ。

 でもすぐに消してみせよう。



「チェィ!」


『ケェッ!』


 今度は殴り合いかな?

 それもいいな。

 最後までこのまま、付き合おう。

 いや、このままの時間がずっと続くといい。

 本気でそう思います。







《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 あ、このバカ!

 まだだ。

 まだ、続けられるだろ?

 時間切れ?

 時間切れなの?

 それは幻覚だ。

 あと3分!

 いや1分でいい!

 もっと時間を、くれ!



『時間切れで判定か!』


「惜しい、もっと続けて決着するまで続けさせてくれたらいいのに!」


『同感だ』


 オレはアップライトで構えていた両腕を降ろす。

 与作も腰溜めに構えていた腕を降ろす。

 ここで、終わりか。

 まさに無念。

 本当に時間切れ?


 互いに両手で握手をしてから試合場の角に戻る。

 改めて、礼。



《只今の戦闘勝利で【両手斧】がレベルアップしました!》

《本選第八回戦、決勝戦に進出しました!第八回戦は本日午後1時45分、新練兵場C面の予定となります》

《七回戦突破によりボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で54ポイントになりました》


 むう。

 判定の結果はオレの勝利か。

 でも薄氷の勝利だろう。


 体格とパワーに差があったのは確かだが、防具の差も明らかだ。

 オレの防具は斧頭武竜の革鎧、お揃いの素材で防具を全て固めている。

 与作の場合、大氷雪竜の革鎧と揃いの防具類だ。

 もし同じであったなら、判定は逆になっていておかしくない。



「無茶な戦い方をしよる」


「あ、ども」


 装備の修復をしてくれたのはゲルタ婆様だ。

 ついでに何か、言いたい事があるようだが。



「雛壇の上じゃ。気付いておるか?」


「どこかの王族ですか、あれ?サビーネ女王以外、王子王女は殺されたと思ってましたが」


「王子で間違っておらんよ。我等が王家の王子ではない故、な」


「では、外国って事ですか?」


「特使だ、と嘯いておる」


 ゲルタ婆様によれば、こうだ。

 雛壇にいる見慣れない連中は護国谷の東にある別の王家の所属らしい。

 周辺諸国もまた、自らが正当な王である事を強調する為に『王家』としか呼ばせようとしないみたいです。

 これはもう伝統なのだそうで。


 外交では互いの家格を示す名を使う事になるみたいだけどね。

 因みにサビーネ女王の場合、ベルジック家。

 正式名称になると長くなるから省かれるみたいです。

 外交ではベルジック女王、サビーネⅠ世となる訳だ。


 同様に雛壇にいる王子も外交上の名がある。

 コンティ家。

 あの王子の場合、コンティ王子フレデリク、となるそうで。

 まあこれは余談かな?


 問題は彼等が来た理由だ。

 彼等の領土に発生した魔物の中に魔人がいた事、それがこちら側から流入している事が問題であるようだ。

 国境沿いに戦力を張り付かせているのも師匠が確認しているそうです。


 王城があんな事になっているし、そもそも魔人に王城を占拠され続けて国力は大きく低下している。

 護国谷のドラゴン達がいるのは確かだが、侵略を旨として攻め込んで来ている訳じゃない。

 どこまでも魔人の討伐を旗頭にして来ている所が問題だ。

 そのまま戦力を常駐させ、既得権益の確保を目指すかもしれない。

 その懸念は高いそうなのだ。


 ケルタ婆様曰く、東のコンティ家との戦争は過去に数度、あったらしい。

 ここ50年程は停戦合意が遵守され、交易も結構盛んであるそうですけど。



「個人的に言えば、気に食わん連中じゃ」


「女王陛下はいいので?」


「ジュナ様がおる。そこは安心じゃがな」


 ゲルタ婆様の視線が雛壇を向く。

 普段から厳しい顔付きであるのだが、更に厳しく見える。



「滅多な事にならんとは思うが、あの宮廷魔術師は油断ならんぞ」


「知っているんですか?」


「うむ。弟弟子じゃよ。オレニューにとってもそうじゃが」


「はい?」


「そしてジュナ様の弟子という事になる」


 おいおい。

 まさか、師匠やゲルタ婆様級の化け物に追加ですか?

 今回は微妙な立ち位置ですけど。



「後ろにいる連中じゃがな。お主ならどう見る?」


「2名、戦ってみたいのがいますね。他はちょっと、戦っても楽しくなさそうです」


「ふむ」


 何故だろう。

 ゲルタ婆様の笑顔が怖いです。



「個人戦の決勝戦が終わったらオレニュー、それにジュナ様と逢っておくがいい」


「はあ」


 何だろう。

 含みがあるように思えます。

主人公 キース


種族 人間 男 種族Lv123

職業 サモンメンターLv12(召喚魔法導師)

ボーナスポイント残 54


セットスキル

小剣Lv92 剣Lv92 両手剣Lv92 両手槍Lv100

馬上槍Lv99 棍棒Lv91 重棍Lv92 小刀Lv93

刀Lv96 大刀Lv95 手斧Lv61 両手斧Lv55(↑1)

刺突剣Lv92 捕縄術Lv96 投槍Lv99

ポールウェポンLv100

杖Lv107 打撃Lv111 蹴りLv112 関節技Lv111

投げ技Lv111 回避Lv121 受けLv121

召喚魔法Lv123 時空魔法Lv110 封印術Lv109

光魔法Lv106 風魔法Lv106 土魔法Lv106

水魔法Lv106 火魔法Lv106 闇魔法Lv107

氷魔法Lv106 雷魔法Lv106 木魔法Lv106

塵魔法Lv106 溶魔法Lv106 灼魔法Lv106

英霊召喚Lv6 禁呪Lv109

錬金術Lv93 薬師Lv24 ガラス工Lv27 木工Lv55

連携Lv100e 鑑定Lv91 識別Lv102 看破Lv93

耐寒Lv80e

掴みLv80e 馬術Lv102 精密操作Lv80e

ロープワークLv96 跳躍Lv50e 軽業Lv50e

耐暑Lv80e 登攀Lv60e 平衡Lv100e

二刀流Lv93 解体Lv91 水泳Lv60 潜水Lv80e

投擲Lv50e

ダッシュLv60e 耐久走Lv60e 追跡Lv94 隠蔽Lv93

気配察知Lv95 気配遮断Lv93 暗殺術Lv60e

身体強化Lv60e 精神強化Lv60e 高速詠唱Lv50e

無音詠唱Lv60e 詠唱破棄Lv60e 武技強化Lv98

魔法効果拡大Lv97 魔法範囲拡大Lv97

呪文融合Lv97

耐石化Lv80e 耐睡眠Lv80e 耐麻痺Lv80e 耐混乱Lv80e

耐暗闇Lv80e 耐気絶Lv80e 耐魅了Lv80e 耐毒Lv80e

耐沈黙Lv80e 耐即死Lv80e

獣魔化Lv21


装備

金剛杵×11 降魔秘剣×7 天羽々斬×7

倶利伽羅剣×4 迦楼羅剣×8 布都御魂×12

胎蔵秘刀×1 火焔光輪刀×4 羅喉刀×10

護霊樹の杖×1 神樹石の杖+×1 裁きの杖×1

如意輪錫杖×6 神樹石のトンファー+×2

双角猛蛇神の投槍+×2 亜氷雪竜の投槍+×2

双角猛蛇神の長槍+×1

亜氷飛竜の騎士槍+×1 双角猛蛇神の騎士槍+×1

亜氷飛竜のパイク+×1 天沼矛×9

腐竜王のメイス+×1

転生獅子のレイピア+×1 亜氷飛竜のエストック+×1

断鋼鳥の小刀+×1 断鋼鳥の刀+×1

断鋼鳥の斬馬刀+×1 断鋼鳥のコラ+×1

断鋼鳥のククリ刀+×4 断鋼鳥のデスサイズ+×1

呪魔蛇の小剣+×1 腐竜王の双杵+×1

妙見秘鎚×7 腐竜王の戟+×1 星天弓×10

ダイダロスのペレクス×7(↓1)ダイダロスのラブランデス×6

冥府の槌×3 天魔の琵琶×5

怒りのツルハシ+×2 ミスリル銀の首飾り+×1

従魔蠍の隠し爪×2 雪豹のバグナグ×2

斧頭武竜の革鎧ほか

呵責の腕輪+×2 呵責の足輪+×2 風天羂索×3

蘇芳羂索×3 グレイプニル×1

斧頭武竜のベルト 背負袋 アイテムボックス


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― 新着の感想 ―
相変わらずプロレス扱いが嫌い…昔から散々やってるのにw 大会では試合に合わせたパワーで戦ってるから楽しめてるけど 魔神相手みたいなフルパワーで折る砕く潰すのルール無用になったら凄惨な現場になりそう…
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