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ログインしてみるとある異変に気がついた。
オレのMPバーだ。
全快になっていない。
僅かに足りない程度なのであるが。
ログアウト後、間隔が短いからなのか?
現時刻は午前5時前といった所だ。
そういえば昨夜はかなり遅かったからな。
全快している方がおかしいのかもしれない。
大体、そう簡単にMPがフル回復するのならログインとログアウトを短時間で繰り返す輩もいるだろう。
そういう話は聞いた事がない。
オレの拙い情報収集能力ではあるのだが。
で、新しい召喚を何にするかなのだが。
実は何も考えていない。
頭を悩ませながらもテントと毛布を片付けて行く。
次に昨夜出来なかったポーションの補充だ。
水はリキッドウォーターで調達。
器用値はフィジカルエンチャント・アクアで底上げ。
傷塞草1本でポーション2本分を丁寧に作って行く。
品質Bのポーションが次々と出来上がっていった。
回復丸も2個、品質B+を作り上げた。
当面、回復アイテムの心配はないだろう。
荷物を整理しながらポーションも品質C相当を選り分けていった。
古い物から使っておきたい。
在庫管理だって先入れ先出しは基本だ。
新しい召喚モンスターを何にするかも問題だが、どの方向に行くかというのもある。
選択肢は幾つか。
ここW2マップの北、アントマンの洞窟だが、下へと分岐している支窟はまだ探索していない。
アリの巣になっていると思われる場所だ。
あのアリ共との戦闘は不可避になる。
アントマンの洞窟を抜けた先、N1W2マップを探索するか。
あそこではブラウンベアと戦闘をしただけだ。
エリアポータルも見つけていないから探すのもいいか。
ここW2マップの南にも洞窟がある。
まだ未踏の地だが、S1W2マップに通じているものと期待できる。
様子を知っておくのも大事だ。
W3マップに移動して周辺の探索を行うのもいい。
だが順番を飛ばし過ぎるのは果たしていい事なのかどうか。
リスクは何かしらあるだろう。
悩ましい。
どうやって決めようか。
ここはもう、アレだ。
戦い甲斐のありそうな魔物がいる場所でいいか。
ブラウンベアに戦いを挑むとしよう。
先のマップに進むのだ。
そうなると陣容もいささか変わってくる。
移動と探索を優先となると。
ヴォルフ、残月、ヘリックス、黒曜で行こう。
4匹を同時に召喚できるとなると、組み合わせが格段に増えてくる。
これも悩ましいな。
10匹目も決めないといけないし。
《フレンド登録者からメッセージがあります》
《フレンド登録者からメッセージがあります》
出立しようか、といったタイミングでメッセージが来た。
時間差があるのは、リアルでつい先刻に受信したものなのだろう。
メッセージはイリーナ、そしてアデルからだった。
『召喚魔法がレベル6になりました。同時召喚も3匹になって戦力増強です。添付画像はコウモリのブラックウィングです』
添付されているスクショに移っているのはコウモリだ。
ジーンと見分けがつかない。
没個性だよな、コウモリって。
イリーナの召喚モンスターの構成は、蛇、虎、鷹、馬、ゴーレム、コウモリになる。
隙が少ないな。
探索に戦闘、昼と夜、それに地形に対して、万全の陣容を6匹でカバーできる訳ではないが。
では次にアデルのメッセージだ。
『新しい仲間は鷹のたーちゃんです!なかなか精悍!』
添付されているスクショに移っているのは鷹だ。
ヘリックスに比べるといささか小さい印象がある。
オレには見える。
イリーナがモフモフだらけは止せと説得している姿が見える。
まあそれはいいとして。
アデルの召喚モンスターの構成は、虎、馬、狼、狐、フクロウ、鷹って事になるのか。
被らせなければ自然と隙は少なくなるだろう。
返信、どうするか。
作成も面倒だな。
MP消費も少ないのだしテレパスを使おう。
呪文を実行するとウィスパー対象をイリーナに指定する。
『イリーナ、聞こえるかな?』
『え?ウィスパー?』
『ああ、すまない。キースだ』
『え?』
『時空魔法の呪文でテレパスだよ』
『え、ああ!ウィスパーと同じ扱いなんですか?』
『みたいだね』
まだレギアスの村を出ていないようだったので少しだけだが雑談をした。
『キースさんはどこのマップにいるんですか?』
『今いるのはW2。これからN1W2にでも行く予定』
『あ、ちょっと済みません』
こっちとの話を中断して、別の誰かと話をしているみたいだ。
何だ?
『あ、フィーナさんと話をしてました。キースさんはW2の何処にいるんですか?』
『エリアポータルにまだいるよ』
『拠点、なんですよね?』
『廃村みたいな場所だけどね』
『フィーナさんの所と私達で森の迷宮を抜ける予定です。多分、今日のうちにそちらへ行くと思います』
『なるほど』
『エリアポータルの位置はどの辺りですか?』
『スケルトンの洞窟を抜けたら広域マップで西へ真っ直ぐで大丈夫かな』
おっと。
呪文の効力が消えそうになっている。
『そろそろ呪文の効力が切れそうだ。じゃあまた』
『はい。了解です』
1つ気が付いた事がある。
イリーナとは面と向かって長話をする事は少なかったのだが。
長話になってるよな?
顔を合わせなければ話が弾むってどうなのよ?
まあそれよりもだ。
美味い飯を作れそうな面子が来るというのであれば大歓迎だ。
そこに最も大きな期待をしている自分がいる。
じゅる。
風霊の村を北へ向かう。
アントマンの洞窟へ。
急ぎたい所だったんだが、そういう時に限ってツルとラプターが襲ってくる。
今の陣容ではツル1匹はもう脅威にならない。
2匹でも圧倒できた。
ラプターにはやや苦戦はするものの、基本1匹ならば大丈夫だ。
オレと残月、ヴォルフは機動力でなんとでもできるし、空中のヘリックスと黒曜はより安心できる。
2匹以上ならどうだろうか。
リグがいたら楽なのは間違いないが、なんとか出来そうである。
森の中ではフォレスト・ウォークを残月に掛けておく。
それでも森の中ではヴォルフの行軍速度は速い。
残月もそこそこ速いんだけどな。
森の中はさっさと進んだのは、敢えて暴れキンケイ(メス)を避けて進んでいたからだ。
黒曜がパッシブの魔物を先に見つけてくれている。
道先案内、乙であります!
少し心配なのが洞窟の中だ。
さすがにここでは召喚モンスターを入れ替えた方がいい。
残月とヘリックスを帰還させる。
戦鬼とリグを召喚した。
アントマン相手なら十分対抗できるだろう。
そしてアントマン戦。
ポーンだけ相手だったが、3戦を無事に乗り切った。
戦闘の傾向が既に分かっていたから多少は楽だ。
戦列を崩して接近戦に持ち込めばなんとでもなる。
特にヴォルフにとっては地形も有利に働いた。
壁も、天井すらも利用してアリの死角を突いていた。
素早いと色んな事ができるものなんだな。
戦鬼とリグはペアで戦う事にかなり慣れてきたようだ。
リグは主に戦鬼の背後をカバーして防御を担当するのに専念しているようである。
楽をしている、といえばそれまでだが、戦鬼にはそれで十分なようだ。
背後を気にすることなく文字通り蹂躙していたし。
洞窟はあっさりクリアした。
アイテムは蜜蝋はもちろん、蜜も取れている。
解体スキルの恩恵はまだ感じない。
だがそれはまあいい。
中々のペースで切り抜けたと思う。
よく出来ました。
蜜を舐める権利をやろう。
黒曜はスルーだが、他の3匹には好評のようである。
リグの場合、蜜を1滴を垂らしただけで体中が震えていた。
これって喜んでいるんだよな?
そう思っておく事にしよう。
洞窟を抜けたら暫くは森の筈だ。
陣容を変えずにそのまま進んで行く。
さあ来い、ブラウンベア。
そう思ってたんですが。
変な魔物と先に遭遇していた。
スタブバタフライ Lv.3
魔物 討伐対象 アクティブ
蝶ですね。
まあ蝶なんですが。
奇妙な紋様の翅は綺麗というよりも気味が悪いという方がふさわしいだろう。
ロールシャッハ・テストをしている気分になる。
いや、色覚異常検査みたいだな。
直視するのも嫌になる。
いや。
おかしい。
あの紋様から視線が外せない?
これはいけない。
意識を。
確かに。
しなければ。
魔物の攻撃はオレに直撃したようだ。
細長く針のように尖った口先が見えていた、気がする。
オレの眉間に向かって飛んできていた、ようだ。
多分、なのだが。
それが死に戻る直前に見た最後の映像だったのだろう。
それは今までに味わったことがない感覚だった。
そうか。
これが死に戻りって奴か。
時刻は?
午前9時30分といった所だ。
召喚モンスター達は?
サモン・モンスターの呪文を選択して実行する。
召喚リストは確かに9行分ある。
試しにヴォルフを召喚したが、問題はなさそうだ。
だがオレのステータスはどうか?
死に戻りではステータス異常がある筈だが。
ステータス
器用値 16(-11)
敏捷値 16(-11)
知力値 20(-14)
筋力値 16(-11)
生命力 15(-11)
精神力 20(-14)
これは酷い。
暫く遠出は止めて置いた方がいいな。
かつて、スノーエイプに大ダメージを喰らった時の比ではないようだ。
これは凹む。
あの蝶め。
どうやら状態異常にさせられた挙句、眉間あたりに魔物の口先が突き刺さったものと思われる。
皮兜には傷跡は見当たらない。
この皮兜も完全に頭部をカバーしてはいないのだ。
隙間を突かれたのだろう。
他にペナルティはないのか?
身に着けている装備には問題はなさそうだが。
いや、所持していた金が減っているようだ。
どれだけ貯め込んでいたのか、覚えていなかったが明らかに減っている。
半分とまではいかないが、3割以上減っている気がするが。
これがデスペナルティか。
クソッ。
今すぐにでもリベンジしたい所だが、この有様では何も出来ない。
時間が余るとはいえ、生産活動もこれではやる気がしないし。
困った。
いっそ昼寝でもしようか。
ヴォルフを帰還させると適当な廃屋に入ってテントの準備をした。
ステータス値が低いせいか、思ったように作業が進まない。
なんとかテントの準備を終えると毛布を被って不貞寝した。
ついでにログアウトする。
大して時間を置かずにログインした。
現実に戻って見た所で何もする事もないしな。
ここの方がまだ居心地がいい。
不貞寝してたらステータス異常も直るだろうし、ログアウトせずに寝ていたらいいだけなのだが。
どうも時間を無駄に過ごしているように思えてならない。
習い性になってしまっているな。
ログアウトしていた時間はほんの30分といった所か。
ステータス値の一覧を仮想ウィンドウで確認しておく。
ステータス
器用値 16(-10)
敏捷値 16(-10)
知力値 20(-12)
筋力値 16(-10)
生命力 15(-10)
精神力 20(-12)
まだまだ全快するには程遠いようだ。
どうしようかね。
生産活動をしても碌な品質にならないだろうし。
新しい召喚モンスターを何にするか、悩む位しかないじゃないの。
召喚リストを眺めながら無為に時間を過ごしていった。
いかん。
まだ未召喚のモンスターを抽出してみる
ウッドパペット
赤狐
タイガー
バイパー
スケルトン
ミスト
これで少しだけ迷いが減るかな、とか思いながらも説明込みで眺めて行く。
つまらん。
悩むのがつまらない。
だからもう悩むのを止めよう。
新たな召喚モンスターをこいつに決めた。
「サモン・モンスター!」
そして召喚リストの10行目が埋まることになった。
名前もモンスターに相応しいであろう立派なものにしておく。
そんな経緯で召喚されたモンスターはこんな奴だ。
文楽 ウッドパペットLv1(New!)
器用値 24
敏捷値 8
知力値 18
筋力値 12
生命力 12
精神力 6
スキル
[ ] [ ] 魔法抵抗[微] 自己修復[微]
おっと。
スキル指定ができるみたいです。
これはこれで悩ましい。
とは言っても空欄に指定できるスキルのうち、1つは生産系を指定する選択肢しか出てこない。
確かに師匠が使っている人形系の召喚モンスターは戦闘では使われていなかった。
器用値が高いのも納得である。
検討する時間はあったのだが、ここはあまり悩まずに決めてしまった。
何しろ非常に魅力的な文字がそこにあったのだから。
結果、こういったスキル構成になった。
文楽 ウッドパペットLv1(New!)
器用値 24
敏捷値 8
知力値 18
筋力値 12
生命力 12
精神力 6
スキル
弓 料理 魔法抵抗[微] 自己修復[微]
料理!
そう料理だ。
今のオレに最も必要とされるスキル。
それが料理だ。
念願の料理スキルを手に入れたぞ!
正確にはオレが、ではないのだが。
で、このウッドパペットなのだが。
器用値が飛び抜けて高い。
知力値も高めである。
いかにも戦闘には向きそうもないスキル構成もあって、どう成長させるかが悩ましい所だ。
生産活動で助手でもやらせるか。
でも今は試したい事がある。
料理だ。
ただ今は持ち合わせの食材が貧しいのですよ。
それでもいい。
やらせてみようか。
素材は茶色熊の掌に苦悶草だけだ。
あとは水と携帯食。
しまった。
香辛料が何もない。
いや。
それでもなんとか作って見せてくれたようだ。
出来上がったものがこんな感じになっている。
【食料アイテム】茶色熊の掌の蒸し煮 満腹度+10% 品質D+ レア度2 重量1
茶色熊の掌と苦悶草を蒸し煮にした料理。
味付けに携帯食を流用している。
品質が低くてもいい。
十分です。
味付けがやや薄いがそれも大して気にならなかった。
余った携帯食と合わせて満腹度も帳尻が合ったようだしな。
食事の片づけが終わったらまた暇になった。
オレのステータス異常も戻りきっていないし、また毛布に潜り込んで休む事にする。
文楽には廃屋の内部を適当に片付けておくように指示しておいた。
終わったら待機で。
これでいいか。
時刻は午前11時といった所だ。
改めてステータスを確認しておく。
ステータス
器用値 16(-8)
敏捷値 16(-8)
知力値 20(-10)
筋力値 16(-8)
生命力 15(-8)
精神力 20(-10)
まるでダメだな。
昨日、チェックしてなかった雷魔法の呪文の説明も見ておく。
レジスト・サンダー(雷魔法)
マグネティック・フォース(雷魔法)
サンダー・アロー(雷魔法)
だが概ね予想通り過ぎてすぐに飽きてしまう。
レジスト系はほぼ全て同じ説明文なのは分かっていた。
あと2つの呪文も名前でどういう呪文なのかは想像できる。
そして想像通りであった。
磁力で鉄などの金属を引き寄せる呪文。
雷撃の単体攻撃呪文。
今は呪文を試してみるような状況にはない。
つまらん。
デスペナルティを喰らうのって本当につまらん!
仕方がないので暇な時間は掲示板を適当に見て回る事にした。
書き込む気力は最初からない。
外部リンクから現実世界のニュースも仕入れながら適当に時間を潰す。
なんと自堕落な。
だがたまにはこんなのもいいだろう。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv10
職業 サモナー(召喚術師)Lv9
ボーナスポイント残8
セットスキル
杖Lv8 打撃Lv5 蹴りLv5 関節技Lv5 投げ技Lv4
回避Lv5 受けLv4 召喚魔法Lv10 時空魔法Lv2
光魔法Lv5 風魔法Lv5 土魔法Lv5 水魔法Lv5
火魔法Lv4 闇魔法Lv5 氷魔法Lv3 雷魔法Lv3
木魔法Lv3 塵魔法Lv2 溶魔法Lv2 灼魔法Lv2
錬金術Lv5 薬師Lv4 ガラス工Lv3 木工Lv4
連携Lv7 鑑定Lv6 識別Lv7 看破Lv2 耐寒Lv3
掴みLv6 馬術Lv6 精密操作Lv7 跳躍Lv3
耐暑Lv4 登攀Lv3 二刀流Lv4 解体Lv1
身体強化Lv2 精神強化Lv4 高速詠唱Lv4
装備 カヤのロッド×1 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
ステータス
器用値 16(-8)
敏捷値 16(-8)
知力値 20(-10)
筋力値 16(-8)
生命力 15(-8)
精神力 20(-10)
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv7
残月 ホースLv5
ヘリックス ホークLv5
黒曜 フクロウLv5
ジーン バットLv5
ジェリコ ウッドゴーレムLv3
護鬼 鬼Lv4
戦鬼 ビーストエイプLv4
リグ スライムLv3
文楽 ウッドパペットLv1(New!)
器用値 24
敏捷値 8
知力値 18
筋力値 12
生命力 12
精神力 6
スキル
弓 料理 魔法抵抗[微] 自己修復[微]




