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ログインした時刻は午前5時半といつもよりも早めになった。
色々とやれる事は多い。
いや、やりたい事が多い。
しかし熱中しすぎなのは問題だ。
昔から集中して何かをやり遂げるのは得意だった。
その表裏でいくつもの案件を平行して進めるのが苦手なのだ。
困ったものである。
装備を身につけ荷物も整理しておく。
折れてしまっているカヤのロッドは机上に置いた。
そこには品質Xの邪蟻の甲と針もある。
これもまだ課題なんだよな。
やれる事、やりたい事もあるのだが、やり残している事もあるのだった。
まあ仕事じゃないんだし、気ままに行こう。
まだ何も加工していないカヤの木材は《アイテム・ボックス》に入れておいた。
時間が余ったら予備のロッドの作成でもやっておこう。
今日のお題は何か。
連泊ができるよう装備を買い込む事、だな。
レムトの町にテントを買いに行こう。
ついでに冒険者ギルドに顔を出しておくか。
本当は逆じゃなきゃいけない気もするけどね。
召喚するモンスターは移動優先の布陣だ。
馬の残月に鷹のヘリックス、フクロウの黒曜である。
試してみたい呪文もあった。
木魔法の呪文でフォレスト・ウォークだ。
師匠の家から街道に出るまで、森の中には獣道程度のものならばある。
そんな道であるが、普段の残月では人が歩く程度の速度でしか移動できない。
フォレスト・ウォークの呪文の効果を確かめるにはちょうどいい。
試してみたら劇的な効果があった。
さすがに平原を全力疾走するようなスピードは出ないが、巡航速度に匹敵するだろう。
速い。
乗っているオレに木の枝が軽く当たるというおまけはあったが。
これ、なかなかいいぞ。
オレでも残月ほどではないにせよ、効果が期待できそうだ。
街道に出ると当然だがフォレスト・ウォークの恩恵はない。
呪文の確認だけだった訳でいいんだけどね。
損をしたような気分はどうしても拭えなかった。
レムトへと向かう街道沿いからは他のパーティが狩りをしている様子がヘリックスを通して伝わってくる。
朝も早くから活発なことだ。
パーティの数は多い。
プレイヤー全体の人数が増えてきてるせいかも知れないな。
レムトの町まで、魔物には全く遭遇せずに到着できた。
適当に屋台を探して食事を確保する。
座る場所は見付からず、食事は路地の端で済ませておいた。
忙しないが仕方がない。
冒険者ギルドの古いほうの建屋はまだ健在であった。
どうやら中身まで移転は仕切れていないらしい。
窓口も壁一面にある依頼票も変わっていないようだ。
但し職員さんの数は少なめ。
移転作業で暫くは色々と手が足りないのかな?
窓口にいた馴染みの中年女性の職員さんにギルド長の所在を聞いてみる。
ギルド長は新しい建物の方に行ったままで、こっちには殆ど顔を見せないのだとか。
行くしかない、よな?
勝手知ったる新ギルドの建物だが。
中は冒険者よりも職人の方がまだ多いといった有様だった。
まだ内装は終わっていない。
うん。
これで移転が終わったというのは詐欺になるな。
弓矢の射撃場は正に資材置き場になっている。
闘技大会の会場になっていた練兵場は半分以上は片付いていた。
その練兵場に見慣れた人影がいる。
師匠だ。
そしてギルド長もいる。
後姿だがすぐに分かった。
臨時の観客席として積み上げていた石盤を搬出しているのはレッドオーガだ。
実にパワフル。
かなりの大きさの石盤だと思うのだが、まるで唯の畳を運んでいるようにも見える。
対比がおかしいって。
師匠とギルド長は静かに何やら話しているように見えた。
だがオレには分かる。
アレは話し合っているのではない。
髭を引っ張り合っているだけなのだと。
「おはようございます」
声をかけるのはそれだけにしておいた。
こっちを振り向く姿は滑稽そのもの。
予想を裏切って、髭を引っ張り合っていませんでした。
互いの口元にクロー攻撃をしていたのだ。
何やってんの、お爺ちゃん達。
「もご、じぎずべばばぎが」
「がぁぐがごごぎ」
ヒヤリングテストですか?
むしろクイズです。
さあ、何を言っているのか、考えよう!
分かる訳がない。
互いにクロー攻撃を止めると暫くゼイゼイと息を荒げていた。
深呼吸を何回か繰り返してようやく落ち着いたかな?
窒息死体が出来る寸前だったのかね?
「お、おお、よう、来たな、キース」
「わ、我が、で、弟子よ、久し、ぶりじゃ、な」
落ち着けてないし。
どうにか落ち着くのを待ってみる。
無茶しちゃダメじゃないの。
「後で決着はつけるぞ」
「こっちの台詞じゃ」
「何をいつまでもやってますか」
来た。
あの中年の職員さんだ。
彼の仕事はギルド長に仕事をさせる事、とはニルスさんの言葉だったっけ。
「そろそろ口喧嘩はお開きにして頂きます」
「じゃがな」
「お開きで、お願い、します」
区切るあたりにプレッシャーを感じる。
怖いよ。
慇懃無礼とも言えるが。
「大会の後始末も目処がつきました。キースさんにはどのような依頼を?」
「う、うむ。そうじゃな。オレニューよ、お主はどう思うかな?」
「お主に預けたのじゃし」
「む」
「じゃがそろそろ自分で目的を見つける事も必要かもしれんぞ?」
師匠がそう言うとオレを見る。
ギルド長もオレを見る。
オレの後ろに立っている職員さんの表情は分からないが、視線を感じる。
「どうじゃな?何か自分でやってみたい事は出来たかな?」
師匠はそう言う。
まあこのゲームでやれる事の選択肢は多い。
やれる、やりたい、では大きな差があるんだよな。
でもオレの出せる答えはこんなものだ。
「そうですね。当面は見た事のない風景を見に行きたいですね」
その答えにギルド長は満足そうな顔をしていた。
師匠の表情は変わらない。
「まあ、ええじゃろ」
「はあ」
「この耄碌爺も困ることもあるじゃろうしな。遠出した後はギルドにも顔を出すことじゃな」
「はい」
「これ、ワシが預かっておるのではなかったのか?」
またも取っ組み合いをする勢いだったが、直ぐにその動きが止まった。
振り返るのが怖い。
後ろにいる中年男性の職員さんはどんな顔をしているのだろうか?
怖くて確認できません。
きっとオーガのような顔になっているに違いない。
少なくともオレの脳内イメージではそうなっている。
「お、おお、そうじゃな。それでいいかもしれん。のう、オレニュー?」
「う、うむ。ルグランよ、ここの片付けが終わったら出立するでな。後は頼むぞ」
ご老人達の挙動はおかしいままだったが、それぞれ別の方向に散ってしまった。
弱い。
いや、この場合は職員さんが強すぎるのか?
ようやく職員さんの方を振り向く事が出来た。
いつもの様子である。
少しホッとした。
「冒険者ギルドとしては依頼斡旋をしたい所ですが、今の所は危急の物はないのですよ」
「はあ」
「掲示してある依頼でしたらどれでも受けてくれると嬉しいのですが」
「なるほど。見ておきますよ」
うむ。
ここは退散しておこう。
ギルドの依頼を受けようとしない冒険者はどうか、とも思うが、遠出をしてみたいからな。
納期を守れそうもない依頼はやめておきたい。
装備を整えて探索に挑むとしよう。
残月の手綱を引きながらレムトの町を行く。
一番大きな雑貨店に入ってテントを探してみる。
大勢が使える天幕もあるが、そこまでのサイズは必要がない。
オレだけでいいんだし。
一番小さいのを愛想のやたらいい女性店員に出して貰う。
それでも3人で使えそうな代物だった。
支柱は組んで紐で縛るタイプだ。
固定用のロープも付いている。
予備のロープは別売りらしい。
値段も手頃そうだ。
少し交渉して毛布を3つ、値切って付けて貰った。
マルグリッドに作成依頼をした関係で手持ち金額が大きく減っていたが、なんとか想定予算内で収まった。
但し、重量は全部で6単位を使う事に。
微妙に《アイテム・ボックス》の容量を圧迫しそうだ。
だがこれも必要な装備、納得である。
続いて露店で携帯食を買い込む。
3日分として9食、それに予備に1食を追加して10食分だ。
実態は1食分をサービスで付けてくれただけです。
泊まり込みの間は食事が貧しい事になるかもしれない。
それはそれで仕方がないだろう。
レムトの町を出ると西の森に向けて駆け出した。
残月って有難い。
そう。
森の迷宮をフォレスト・ウォークで抜けられないか、試してみたい。
召喚と帰還を繰り返してしまうのはいかにも勿体無い。
スケルトンの出てくる洞窟はまあどうにかなるだろう。
街道でパラレルラクーン、森の中で暴れギンケイ(メス)を簡単に蹴散らして森の迷宮へ向かう。
フォレスト・ウォークで移動が楽になっているから速いったらない。
感覚的には、レギアスの村に到着していてもおかしくない時刻だろう。
森の迷宮はいくつかのパーティが既に攻略を進めているようだ。
魔物が出る広間では留まったままで待機するパーティもいくつか見掛ける。
あれは経験値稼ぎだな。
がんばって頂きたい。
魔物を露払いしてくれているようなもので、迷宮を通過する間に遭遇したのはキノコ3匹だけだった。
剥いだシイタケは貴重な食料になる。
ちょっとだけ嬉しい。
洞窟にいるスケルトンは苦戦するか、とも思ってたが間違っていた。
残月ってば強い。
スケルトンとは攻撃の重みが違う。
スケルトンの核とも言える人魂は骨ごと踏み砕かれていた。
あっさりと排除する様子は正に蹂躙。
オレの出番は殆どなかった。
W2マップに出ると、黒曜を帰還させてリグを召喚した。
このマップで出てくる魔物は2種類、確認済みである。
ツルにラプターだ。
恐らく、他にもいるのだろうが、この2種には物理攻撃しかない。
ならばリグは無敵、ではなかろうか?
少なくとも倒されてしまうリスクは小さい。
リグはオレの後ろ側に這っていって自分の居場所を確保した。
よし。
移動するか。
以前は風霊の村に到達するまで魔物に遭遇しなかったものだが。
目の前にはラプターがいた。
どうやらエリア全体で普通に魔物が出るようになっているみたいだ。
ラプター相手にどう戦うか?
1匹だけだったのが良かった。
呪文の支援なしでも機動力で残月の方が上回っていたからだ。
何度か魔物の攻撃を凌ぐ間にヘリックスが空から奇襲を仕掛けた。
その攻撃に気を取られて足を止めた所に残月で迫った。
残月の体当たりで魔物が吹っ飛んだ。
そこにリグが残月から跳び掛かっていた。
え?
跳んだ?
そう、確かに跳んだのだ。
葛饅頭が震えているように見える。
そのリグは魔物に取り付くと、一気に拡がっていった。
さっきまでの葛饅頭状態ではない。
まるで動く液体のような様相だった。
リグは魔物の頭を包み込むように移動していく。
魔物が首を振り払うような動きをするがまるで効果はない。
遂には転がり出したが当然効果がない。
どうにか魔物は立ち上がった。
だが今度は残月の体当たりが待っている。
これが何度か繰り返された。
魔物のHPバーが残り3割になった辺りで大きな変化が訪れていた。
一気にHPバーがなくなってしまう。
何が起きた?
魔物の死体を見ると、リグの体が魔物の口の中から這い出してきた。
おい。
中で何をしていた?
何を。
想像してみましょう。
中から内臓を溶かされるのです。
逆に胃酸で溶けなかったんですかね?
無事なんだしいいか。
それにしても恐ろしい奴。
ステータスは低いし機動力もないが、使いようによっては実に頼りになるな。
何しろこの戦闘では呪文を全く使っていない。
僥倖である。
さて。
魔物に剥ぎ取りナイフを突き立ててみたがどうだろう。
前に剥いだ時には何も得られなかったが。
今回も何もなし。
運営さん、そりゃないよ。
更に西へと向かう。
風霊の町に至るまでにアンガークレイン2匹、ラプター3匹を撃退していた。
リグがいるおかげでラプター相手にはノーダメージで屠っている。
ツルの方が手強い相手になってしまった。
ツルはちゃんと怒鶴の嘴を残してくれている。
どうなっているんですか?
そう時間もかからず風霊の村に到達した。
ヘリックスの探索する限り、村の周囲に魔物がいる様子はない。
村の中も魔物の気配はなかった。
いくつかの建物の中ででも宿泊はできそうだが、今はまだ早い時間だ。
このマップの探索を進めておこう。
さて。
北へ向かうか、南へ向かうか。
S1W2のマップは昨日に少しだけ見ている。
同じ風景になっているのか、確かめておくのもいいだろう。
風霊の村を出て最初の獲物はラプターになった。
楽勝?
そんな事はなかった。
2匹いましたから。
それでもかなり楽な展開で戦えたのはリグのお陰であっただろう。
1匹はリグに任せ、もう1匹はフィジカルエンチャント・アースで強化して戦った。
多少、喰らいはしたが問題ない。
ポーションで全快する範囲である。
そしてラプターからは初めてアイテムを剥いでいた。
【素材アイテム】古代石 品質C レア度3 重量2
古き時代から伝わる石。中に何かが封じられている。
封じられている?
何やら奇妙な物が入手できたな。
外観はただの石なんだけど。
これは今すぐに弄るのも憚られる。
《アイテム・ボックス》に放り込んでおく。
ここは先に進もう。
目の前には幅の狭い川があった。
その対岸は崖だ。
目で見える範囲でもそんな地形が拡がってる。
これは踏破できそうにない。
崖を登攀できるか?
さすがにそこまでの自信はなかった。
それに分かり易いヒントもある。
穴だ。
但し、いくつも穴が空いている。
崖のあちこちにあるのだった。
どれかが南へ通じる洞窟なのだとしても、全てを探索する気にはなれない。
川の上流方向へ少し戻る。
方向は東だ。
すると今度はゴツゴツとした岩山がある。
これまた踏破するには厳しそうだ。
今度は下流を目指す。
途中でラプターを何匹か狩りながら進んだ。
1匹ずつなので問題はなかった。
但し、アイテムはいずれも得られない。
《只今の戦闘勝利で【識別】がレベルアップしました!》
戦闘前にこまめに魔物を【識別】してきた積み重ねなのだろう。
レベルアップしてました。
昨日のようにたくさんのロックワームが相手だと【識別】する気も失せる。
今日はそういった事がない。
小さい事でも積み重ねが大事だよな。
更に下流に進んでみる。
川幅がやや広くなった所で変化があった。
やや大きな洞窟が対岸にある。
分かり易いな。
だが探索に向かうのはやめておこう。
W2マップの南側は概略見て回ったからだ。
もう少し西へ進んだらW3マップになる位置まで駆けてきていたようだ。
ここまで見て回ったのであれば北側もざっと見ておきたい。
北へと進路を変えるとヘリックスが何かを見つけたようだ。
進路上に魔物がいる。
というか、低空を飛んでいるようだ。
何かと思って待ち受けてみる。
その魔物は奇妙と言う他ない外見をしていた。
目玉だ。
目玉にコウモリのような翼が生えている。
こう言っては何だが、魔物とか怪物ってこういう造形だと納得である。
普通の動植物とは異なる、圧倒的な違和感があった。
おっと。
【識別】しておこう。
フロートアイ Lv.1
魔物 討伐対象 アクティブ
浮いている目玉、らしい。
果たしてどんな魔物なのか、外観から判断するのは難しいな。
さて、どうなる?
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv9
職業 サモナー(召喚術師)Lv8
ボーナスポイント残9
セットスキル
杖Lv7 打撃Lv5 蹴りLv5 関節技Lv4 投げ技Lv4
回避Lv5 受けLv4 召喚魔法Lv9 時空魔法Lv2
光魔法Lv4 風魔法Lv5 土魔法Lv5 水魔法Lv5
火魔法Lv4 闇魔法Lv4 氷魔法Lv3 雷魔法Lv2
木魔法Lv3 塵魔法Lv2 溶魔法Lv2 灼魔法Lv2
錬金術Lv5 薬師Lv4 ガラス工Lv3 木工Lv4
連携Lv6 鑑定Lv6 識別Lv7(↑1)看破Lv2 耐寒Lv3
掴みLv6 馬術Lv6 精密操作Lv6 跳躍Lv3
耐暑Lv4 登攀Lv3 二刀流Lv4
身体強化Lv2 精神強化Lv4 高速詠唱Lv4
装備 カヤのロッド×2 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv7
残月 ホースLv5
ヘリックス ホークLv5
黒曜 フクロウLv4
ジーン バットLv4
ジェリコ ウッドゴーレムLv3
護鬼 鬼Lv3
戦鬼 ビーストエイプLv3
リグ スライムLv3




