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剥ぎ取り作業は大変でした。
2人がかりで20分近く、剥いでいたと思う。
それでいて重晶石は2つだけで、他は全部石ころである。
なんという当りの少なさなんだ。
グーディは恐縮したが、1個ずつ分ける事にしよう。
おっと。
肝心のグーディの話だ。
最初は普通にロックワームと戦っていたのだと言う。
ところがあまりに数が多くて全員で逃げることになったそうだが。
一番足が遅い彼は取り残されてしまったそうな。
なんという不運。
魔物を引き連れながら移動する行為はトレインとも呼ばれ、本来はPK行為と同様に悪質なものなのだそうだ。
これを意図的に行って、他のプレイヤーに魔物の群れを押し付ける行為はMPKと言うのだそうな。
それは知らなかった。
旅の恥はかき捨てという事でいいかな?
オレの過去のプレイを思い返すと気になる事がある。
相手はPK行為を働くような連中だったが、オレがイビルアントをけしかけたのもMPKみたいなものなのか?
やばいな。
コール・モンスターってヤバイ。
彼らのパーティも逃げる選択肢は当初なかったようなのだが。
ここのマップに他のプレイヤーがいるとしても少ないからいいだろう、という気持ちだったのかも知れない。
グーディの怒りは悲しみに取って代わられて行くようだ。
彼と組んでいた5名のパーティメンバーは、固定メンバーではないにせよ何度か組んでいた連中だったらしい。
それだけに見捨てられたのがショックだったようだ。
うむ。
どう声を掛ければ良いのやら。
だから敢えて今後の話を振る事にした。
「それでこれからどうするつもりだ?」
「戻ります。1人では南の鍾乳洞を抜けるのは厳しいですけど」
「折角助かったのに死んでしまっては勿体無いんじゃ?」
「もう受け入れるしかないですね」
そうか。
男の子だね。
「私もこのマップを探索中だけど暫く一緒に行動しないか?すぐに戻るには早いし」
「え?」
「大丈夫。当てはあるから」
そう。
同じパーティに組み込んでしまえばリターン・ホームでここから一気に師匠の家の前まで跳べる。
とはいっても時刻はまだ昼前だ。
このマップ方面には探索をしに来ているのに戻ってしまうなんて勿体無い。
グーディは時間をかけてポーションによる回復を図るつもりだったようだが迂遠に過ぎる。
ファイア・ヒールの継続効果も加わって5割近くまで回復していたが、それでも不安だ。
アース・ヒールとライト・ヒールを連続でかけて9割近くまで回復させておく。
彼も恐縮するばかりだ。
もうここまで面倒を見てしまったのだ。
とことん面倒を見るとしよう。
「で、仲間が逃げて行った方向はどっちかな?」
「ああ!ちょっと待って下さい!」
グーディが逃げていた方向へ歩き始めた。
早速、ヘリックスが飛び立つと高度をとる。
どこにいるのか。
追ってみるのも悪くはない。
グーディとの連携をどうするか。
彼はユニオンは恐縮しすぎて断ってきた。
「それでは恩人に仇で返すようなものですから」
とは彼の言葉である。
経験値で彼に有利になるからなのだろう。
かと言ってオレのパーティに入れると彼に悪いし。
実に悩ましい。
互いに連携がとり難いが、別パーティ扱いのままで同行する事になった。
彼らの仲間らしき5人を見付けるのにそう時間はかからなかった。
というか、エリアポータルと思われる怪しい場所にいるようだ。
擂り鉢のようになっている場所の中心に巨大な石が1つ、鎮座しているようだ。
地上からでは分かり難いが、確かにそれらしき場所が見えていた。
行ってみることにしよう。
擂り鉢状の場所に到着した。
巨石の辺りに目的の5人がいるようだ。
だがその様子はおかしい。
魔物と戦っているのだ。
既に3人が地面に倒れ伏したままになっている。
「グーディ、間違いなく君の仲間かな?」
「ええ」
戦況は間違いなく彼らに不利のようだ。
会話している間にも残った2人は炎に焼かれていた。
それで1人が動かなくなる。
残る1人に2匹の魔物が襲い掛かっている。
最後の1人は魔物を追い払おうと槍を振り回しているようだが効果は薄いようだ。
あっと言う間に緑のマーカーがなくなってしまっていた。
「全滅したみたいだな」
「そうですね」
「色々と文句を言いたかったんじゃないのかな?」
「はい。真意は何だったのか、聞いておきたかったんですが」
ですよね。
だが貴重な情報が得られた。
ここのエリアポータルのイベントモンスターだ。
遠目で見ても火属性を持つモンスターなのは間違えようがない。
距離は遠すぎて【識別】が効いてないが、それだけでも十分だ。
これまでのパターンと同様、恐らくは精霊なのだろう。
そして外観は鳥のようだ。
そうなるとスライムのリグは交代させるべきだろう。
火にはとことん相性が悪そうだ。
リグを帰還させると護鬼を召喚する。
こいつの弓矢には期待したい。
戦鬼はどうするか?
鳥が相手では苦戦するかも知れない。
オレのMPにはまだ余裕がある。
交代で召喚してもMPバーは7割を確保できるだろう。
戦鬼を帰還させて黒曜を召喚する。
巨石の上に例の人魂が見えていた。
「じゃあ行こうか」
「え?」
「一緒に行く?ここで待っていてもいいけど」
「あれと戦うんですか?」
「うん。なんなら近くで見てるのもいいけど」
さあ、どうする?
事前に相手の情報を少しではあるが入手している。
オレには勝算がある。
だがそこまでグーディに分かる筈もないか。
「大丈夫。勝てるよ」
そう言い残して巨石に向かって歩き出した。
ゆっくりと近寄りながら呪文を次々と掛けて行く。
全員にレジスト・ファイア。
全員にエンチャンテッド・ウェポン。
そのタイミングでイベントが始まったようだ。
《旅人よ》
《我らは道標》
《我等は傀儡》
《我等は道化》
《この大いなる岩の封印を解きたいのならば試練を受けよ》
《試練を勝ち抜くが良い》
《さすれば我らは大いなる岩の封印を解き放ち汝らを導くであろう》
当然《Yes》を選択してイベントを進める。
さあ来い!
岩の表面から鳥の形をした魔物が現れようとしていた。
その数は2匹。
いや、この場合は2羽だ。
近くで見ると実に美しい。
火を纏っている様に見える。
間違えようがない。
火属性を持つ精霊なのだろう。
【識別】してみるとこんな相手だった。
蘇りし火霊フェニックス・パピー Lv.4
イベントモンスター ???
えっと。
フェニックス?
もしかしなくても火の鳥じゃないの。
これはマズイかもしれない。
やれる事をやるしかない。
ヘリックスと黒曜がそれぞれ空に飛び上がり魔物へと殺到する。
オレと護鬼も地上を駆けて魔物に迫った。
魔物から炎の玉が撃ち出された。
オレの足元で炸裂する。
同時に周囲が炎に包まれた。
当然、オレは喰らってしまっている。
ダメージもあるがレジスト・ファイアが効いているのだろう。
どうと言う事はない。
とは言っても連続で喰らう訳にはいかない。
炎に包まれた場所を抜けて魔物に迫る。
「ゲヘヘッ!」
護鬼の叫び声も聞こえていた。
どうやら興奮していたようである。
目の前の魔物の胴体に矢が突き刺さっていた。
魔物のHPバーにもダメージが通っている。
だがそれ以上の戦果があった。
飛び上がろうとしていた魔物が一瞬、硬直した。
魔物は護鬼に視線を向けるように頭を向けていく。
オレへの注意が散漫になったようなのだ。
魔物に襲い掛かる。
飛び回られたら厄介だ。
最初に狙うのは単純。
飛ばせない事だ。
「ウォーター・ニードル!」
攻撃呪文を至近距離で叩き込んでおいて翼を掴む。
胴体に跨って空へ飛び上がるのを邪魔する算段である。
だが思わぬ出来事もあった。
こいつ、触るだけでダメージを喰らわせてきやがる。
熱い。
レジスト・ファイアがあるのだが、それでもジワジワとダメージを喰らっていた。
かまわず胴体を殴ってやる。
魔物のHPバーは?
減っている。
だが徐々にHPバーが回復し続けている。
これは?
ファイア・ヒールの継続回復効果、それに回復丸の効果と同じなのか?
なんて厄介な。
魔物は頭をオレに向けて嘴で攻撃を加えようとしてくる。
頭と首を掴んで攻撃をさせないようにするのが精一杯だ。
不意に魔物の動きが止んでいた。
首がスッパリと切断されている。
護鬼が鉈で魔物の首を切断してくれたようだ。
「ゲヘッ」
だが護鬼の動きは止まらない。
翼の根元を断つかのように攻撃を加え続ける。
え?
魔物のHPバーがまだ半分近く残っているのだ。
切り離された魔物の頭部が消えて行く。
それと同時に魔物の頭が復活しつつあった。
マジですか?
精霊ならこんなのもアリなんですか?
正直、気持ち悪い。
護鬼を見習ってオレも翼に攻撃を集中させた。
足で踏みつけて、思い切って引っ張った。
翼が引き千切れてかなりのダメージが通ったようだ。
意外に出来てしまえるものだ。
その翼も徐々に消えて行く。
千切れた箇所に翼が復活しようとしていた。
頭部が完全に復活してオレに嘴を向けていたのだが。
再び護鬼が首を両断してくれたようだ。
そこでようやく魔物のHPバーは復活する事がなくなった。
もう1匹は?
空中で互いに絡み合うように飛び回る物体があった。
赤と緑のマーカーが目まぐるしく動き回っている。
ヘリックスと黒曜はダメージを喰らいつつも善戦しているようだ。
魔物のHPバーは既に2割にまで減っている。
魔物が地面に落ちた。
黒曜が翼に脚爪をかけているのが見える。
ナイス。
オレがダッシュするが、その前に護鬼が魔物に突っ込んでいた。
またも魔物の首が飛ぶ。
それでも仕留め切れない。
ヘリックスが背中に嘴で攻撃を加えた所で仕留め切ったようだ。
ふむ。
いい連携だった。
一番活躍しなかったのはオレでした。
《旅人よ》
《我らは道標》
《我等は傀儡》
《我等は道化》
《この大いなる岩の封印は解かれるであろう》
《よくぞ試練を勝ち抜いた》
《汝らに祝福を》
《更なる試練を望むが良い》
岩の様子は変化がないように見える。
そりゃそうだ。
センス・マジックの呪文を使っていないしな。
それでもこの擂り鉢状の場所が一気に活性化したような気配がある。
どこが、と言われても困るが、確かにそう感じるのだ。
《S1W1のエリアポータルを開放しました!》
《ボーナスポイント3点が加算されます。合計で9ポイントになりました》
《只今の戦闘勝利で【打撃】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【耐暑】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【精神強化】がレベルアップしました!》
色々とレベルアップしました。
これは目出度い。
魔物はこれまでの例と同じく、何も残さないが、十分報われている気がする。
「お見事でした」
グーディがなんか呆れたような表情をしているけど何かあったのか?
「闘技大会も見ましたけど、魔法使い系の戦い方じゃないですよね?」
「そうかな?」
もうこのスタイルが定着しているから気にもしませんが何か?
ヘリックスと黒曜はポーションだけで全快にならなかった。
回復呪文のファイア・ヒールで全快近くまで回復させておく。
ほら。
ちゃんと呪文も使っているじゃないの。
魔法使い系のサモナーってこれでいいと思います。
護鬼はポーションだけで全快になった。
オレはダメージを喰らい過ぎている。
ポーションと回復呪文のファイア・ヒールで8割程度にまで回復させた。
当面はこれで十分だろう。
広域マップでこの場所は炎精の岩、となっている。
さもありなん。
ちょうど昼飯時だったので食事にする事にした。
オレは朝に屋台で買い込んだものである。
2食分あるのでグーディと分けて食事を摂った。
彼は携帯食しか持っていなかったのだ。
携帯食って味気ないからな。
出来るだけ食事は美味しく楽しく摂りたいものだ。
暫し休憩をしながら雑談にも興じる。
主にグーディの話をオレが聞き役になる形だった。
護鬼はどこを登ったのか、岩の上にいるようだ。
ヘリックスは頭上を旋回している。
黒曜はオレの左肩に止まったままだ。
まあ半分は愚痴だった訳だが。
そんな話の中でも色々と収穫はあった。
レムトの南側にキャンプを作り上げたのはなんとプレイヤーらしい。
しかもたった1人のストーンカッターが、である。
場所は石切場の近くだそうな。
オレはまだ石切場にすら行ってないので、広域マップでは確認できないのだが。
キャンプまで辿り着くのはさほど問題ではないらしい。
問題なのは鍾乳洞で形成されたダンジョンだ。
攻略掲示板にも載ってないそうだが、隠しダンジョンがあるそうだ。
但し罠に嵌まる必要があるらしい。
そしてそこからまともに戻ったパーティはいないようだ。
全部、死に戻りである。
中はゾンビとスケルトンの巣窟だとか。
鍾乳洞そのものはコウモリとスライムと水妖虫、それにブエルスレイブという魔物もいるそうだ。
正直、女性プレイヤーが嫌がるような構成らしい。
そしてボスがブエルガード。
こいつは周囲に魔物を呼び寄せて吸収融合するそうな。
全体攻撃呪文がないと厳しい、とはグーディの見解だ。
今のオレに全体攻撃呪文がまだない。
ちょっと食指が動かなくなっちゃったよ。
雑談もキリのいい所で切り上げた。
グーディの当初の予定では、エリアポータルをクリアして、そのままログアウトする筈だったそうだ。
そうでなければ死に戻り。
グーディはちゃんとテントを持って来ていた。
携帯食も3日分ほど携行しているそうである。
オレよっか準備がしっかりしているな。
「時間は大丈夫かな?」
「あと3時間といった所です」
いや、そこまで恐縮することはないんだけどね。
攻略にしても別に急いでないし。
あと3時間、となるとゲーム内の時刻で午後3時。
現実では深夜過ぎの午前3時だ。
一般的な人ならば就寝している時間になる。
そう考えるとこのゲームっていかに廃人が多いのか、分かろうというものだ。
オレが言うのもおかしいけどな。
おっと。
「ついでだしもう2時間ほど探索に付き合ってくれないかな?」
「え?戻るんじゃないんですか?」
「大丈夫。リターン・ホームがある」
グーディの時間が止まったようだ。
まあそれを半ば以上放置して西へと向かう。
森を時間が許す限り踏破してみたい。
目的は主にオーク狩りである。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv9
職業 サモナー(召喚術師)Lv8
ボーナスポイント残9
セットスキル
杖Lv7 打撃Lv5(↑1)蹴りLv5 関節技Lv4 投げ技Lv4
回避Lv5 受けLv4 召喚魔法Lv9 時空魔法Lv2
光魔法Lv4 風魔法Lv5 土魔法Lv5 水魔法Lv4
火魔法Lv4 闇魔法Lv4 氷魔法Lv3 雷魔法Lv2
木魔法Lv3 塵魔法Lv2 溶魔法Lv2 灼魔法Lv2
錬金術Lv5 薬師Lv4 ガラス工Lv3 木工Lv4
連携Lv6 鑑定Lv6 識別Lv6 看破Lv2 耐寒Lv3
掴みLv6 馬術Lv6 精密操作Lv6 跳躍Lv3
耐暑Lv4(↑1)登攀Lv3 二刀流Lv4
身体強化Lv2 精神強化Lv4(↑1)高速詠唱Lv4
装備 カヤのロッド×1 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv7
残月 ホースLv5
ヘリックス ホークLv5
黒曜 フクロウLv4
ジーン バットLv4
ジェリコ ウッドゴーレムLv3
護鬼 鬼Lv3
戦鬼 ビーストエイプLv3
リグ スライムLv3




