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 N1E9マップのエリアポータル、港町サリナスに到着。

 その様子に変化は?

 ある。

 防壁の修復はより進んでいる、というのはいいとして。

 そんな防壁の上に見張りがいるようなのだが。

 黄色マーカー?

 どうもNPCもサリナスに来ているようだ。


 だが防壁の上にいるのは人間ではない。

 バードマン、それにドラゴニュートだ。

 いつの間にこういう展開になったのか?

 謎だ。


 防壁の門番もNPCです。

 これは人間だったけど防壁の修復に従事している中にもいる。

 ドワーフ、それにミュルミドンだ。

 それに防壁は修復しているのではない。

 強化だ。

 新たな防壁を重ねて構築しているようなのです。

 生産職の石工系プレイヤーも加わっており、防壁の強化は急ピッチで進んでいるようだ。


 ここまで手を加えているのであれば分かる。

 奪還した形になる港町サリナスを堅守する構えなのだ。

 間違いない。


 それはいいとして。

 状況の確認は要る。

 フィーナさんはいるかな?

 ついでに昼食も摂ってしまおう。

 無論、奢られる気でいたりしますけどね。






「ほう、久しいの」


「は、はい!」


 背伸びするかのように、気を付け!

 そして流れるかのように、礼!

 顔を上げると足をやや開いて腕を後ろに組む。

 休めの姿勢だ。


 ああ、緊張する!

 何でゲルタ婆様がいるのよ?

 しかも恐らくはゲルタ婆様の召喚モンスターもいる。

 間違いないだろう。



 オリハルコンドール ???

 召喚モンスター ???

 ??? ???



 ミスリルドール ???

 召喚モンスター ???

 ??? ???



 デウス・エクス・マキナ ???

 召喚モンスター ???

 ??? ???



 色々と見えてない。

 それがレベルの高さを表している。

 間違いなくゲルタ婆様の召喚モンスターであるのだろう。



「ど、どうしてここへ?」


「ただの様子見じゃよ。ルグランはそう簡単に動けんしの」


 いかん。

 見られてる。

 見られている、よね?

 オレの背後に回っていても分かる。

 観察されている。

 何て事だ!

 ここまでの緊張を強いられるとは思わなかった!



「ふむ。オレニューの弟子にしては精進しておるようじゃ」


「はあ」


「戦い方は変わっておらんのか?」


「まあ、そうです」


「奇特な奴じゃ」


 マズい。

 今度はオレの連れている召喚モンスターをジロジロと見ている。

 いや、観察している。

 皆の衆、粗相があってはいけません!


 蜂組は感情が無いも同然だから動じないと思うけどね。

 ヴォルフと折威は心配だ。



「ふむ。まあまあじゃな」


「はあ」


 ヴォルフの頭を撫でるゲルタ婆様。

 で、そのヴォルフは硬直しているんじゃないかな?

 折威もオレと同様に直立不動のままです。

 普段はシニカルな笑みも浮かべていたりするんだが、今は無表情だ。



「この周辺で魔人共の動きがあると聞く。お主も励む事じゃ」


「も、勿論です!」


「期待しておるぞ」


 うん。

 そう答えるしかないじゃないですか!

 それに言われるまでもなく、励みますとも!

 少々、腹黒かったりするだけです。




「そんなに緊張するような相手?」


「私にとっては、そうです」


「変ね。私にはそう思えないんだけど」


「そうなんですか?」


「ええ。それに紙の入手先は錬金術ギルドの総元締めの許しが無いと出来ないのよ?」


「えっ?」


「つまり、そういう事」 


 フィーナさんに言われるまでも無い。

 錬金術ギルドの総元締めはゲルタ婆様だ。

 つまりフィーナさんはあのゲルタ婆様と交渉して紙を入手している事になる。


 オレ配下の人形組で紙素材の生育は出来ると思うのだが。

 止めた方がいいな。

 独自に紙を量産するのは、止そう。

 ゲルタ婆様に目を付けられてしまいそうだ。



「何だか色々とNPCが増えてますね」


「ええ。対魔人の拠点になりつつあるわ」


 そんなオレの目はダークエルフの一団を追っている。

 サリナスの港町の中は半ば以上はNPCになりつつあるようだ。



「浮き島の様子が知りたかったんですが」


「そんなに大きく変わってないけど、聞く?」


「ええ」


 そんなオレの目の前にハンバーガー。

 それも4個あったりします。

 勿論、フライドポテトも添えてある。

 飲み物はコーヒー。

 パーフェクトだぞ、ミオ!

 ところでシェイクってここで再現出来ませんかね?


 おっと、いかんな。

 戦況の確認をしないといけないのに。

 目的を見失いそうになっているぞ?





「大きな変化無し、ですか」


「魔物が減ったのは大きな変化よね?」


「誰かさんの戦果なんでしょうけどね!」


 フィーナさん、それにレイナだ。

 皮肉ですか?

 いや、獲物が目の前にいたのが全部悪い。

 ついでに同行していたのは単なる不運だ。

 いや幸運だとも言える。

 いい経験値稼ぎになったんじゃないかな?



「では、今日の所は静観するって事ですか」


「ええ」


「こっちに来るようなら対策を考えなきゃいけないけどね!」


「明らかに戦力が足りないわ。こっちから仕掛けるのも危険ね」


 チッ!

 先に釘を刺されたような気分だ。

 いや、本気で全プレイヤーに声を掛けてこっちからあのドラゴンの群れを駆逐しませんか?

 オレでは人望が無いから無理だ。

 でもフィーナさんなら出来ると思うのです。


 ねえ?

 苦戦どころか大苦戦必至、賭けみたいな有様になるだろうけど。

 皆で幸せになりませんか?


 まあ無理強いはいけないな。

 そういう行動に繋がるような動機が無いといけないのだ。

 天空マップに案内した時のように。


 何かそういうの、無いかな?

 でも今は全く思いつかないのでした。

 どうにかして見出したいけど心当たりは無い。

 仕方ないな。

 今日は出直すとしよう。





 さて。

 聞いた範囲によれば浮き島が魔物を召喚した様子は無い。

 移動も極めてゆっくりと南下、N1E11マップの中央付近にいるらしい。

 襲ってやろうか?

 だが夜ではないのだから潜入は極めて難しいだろう。

 自殺行為だ。


 ならば別の角度から魔人に嫌がらせをしてみようかな?

 護国谷に行ってみよう。

 王女殿下とジュナさんは王城に攻め込む事を企図している筈。

 そう、攻めだ!

 迎撃も悪くないけどやはり攻める方がいい。

 でも王城には王弟は不在である可能性もあるんですよね。

 浮き島にいるかも?


 うーむ。

 王弟は梱包して外に連れ出しておくべきだったか?

 今にして後悔してしまいそうだ。





 フィーナさんの所を辞去すると港を見つつ思案する。

 どうしたものか。

 突堤で釣りをしつつ考え込みたい所だが。

 生憎、釣り具は無い。


 ふと、クーチュリエを見る。

 呪文の強化はしていな筈なのにプラスの修正があるんだが。

 これ、以前に聞いた奴か?



 クーチュリエ 神魔蜂女王Lv30

 器用値 68

 敏捷値 93(+5)

 知力値 46

 筋力値 26

 生命力 46

 精神力 27


 スキル

 針撃 噛付き 飛翔 回避 採集 養蜂 建築

 広域探査 夜目 強襲 危険察知 空中機動

 追跡 誘引 自己回復[微] 物理抵抗[小]

 魔法抵抗[中] MP回復増加[微] 致死毒 麻痺

 暗闇 魅了 耐石化 耐混乱 隷従



 スパークとクラックのステータスを見る。

 やはり修正値がある。

 共に敏捷値にプラス5だ。


 召喚モンスターの場合、同一パーティ内に複数の蜂がいると修正があるという。

 ポータルガードでは見なかった現象だ。

 これ、増やすとより高い効果になるという事なのだが。

 更に2匹、蜂を増やすか?

 それもどうかと思うけど。


 配下が全部、蜂になるパーティってどうなのよ?

 空中を移動するには自前で飛ぶしかなくなる。

 地上で狩りをするのであれば問題ないけどさ。


 それに、気になる。

 誰かに尾行されている気がします。

 オレの気のせいではない。


 ヴォルフが先刻からオレの手首を甘噛みして注意喚起をしているのだ。

 傍目には単に甘えているだけに見えるだろう。



(シンクロセンス!)


 クーチュリエの視界を借りてみた。

 だがこれは大失敗。

 複眼で見る景色は実に奇怪なものでした。

 細かく区切られた仮想ウィンドウが繋がっているようなものだ!

 ダメか。


 PK職?

 かと言って折威を空中に飛ばして警戒させるのも目立つ。

 こっちが気付いている事を知られたくない。

 どうする?


 例の半ソロバードのデッカーかもだが。

 いや、彼であればそんな行動をするとも思えない。

 いやいやいやいや!

 襲って欲しいけどね!


 何かの罠に誘い込むような様子もない。

 位置は恐らくだが倉庫街だろう。

 まだ瓦礫で埋まっているような有様で身を隠す場所に事欠かない。

 ああ。

 早く!

 襲うなら早く襲って!

 さもないとこっちから襲っちゃうぞ!



 胸を高鳴らせながら防壁側へ移動する。

 出来るだけ、自然に。

 出来るだけ、他のプレイヤーやNPCが少ない所を求めて。

 さあ。

 背中は見せている。

 襲って、来い。

 次の角を曲がったら、好機になるだろう。


 さあ。

 どうなる?



(インビジブル・ブラインド!)


 角を曲がると呪文を使う。

 ついでに瓦礫もあったからその陰に身を潜める。

 その路地に人影は皆無。

 絶好の位置だ!



 音も無く掛けて行くのは6つの人影。

 全員、申し合わせたかのようにローブで身を隠している。

 オレを探しているのか、周囲を見回す様子が見えていた。


 では、やるか。

 そう思ったんだが。


 その6つの人影が、いきなり襲われ始めた。

 オレの目の前で奇襲だと?




 インビジブル・ブラインドから飛び出たのはいいけどね。

 時既に遅し。

 全員、拘束済みであるようだ。



 ブラン 種族Lv.58 人間 男性

 アサシン/スティングファイターLv.25

 拘束済 反撃許可あり 戦闘位置:地上



 ミハエル 種族Lv.61 人間 男性

 アウトロー/ ガーディアンLv.28

 拘束済 反撃許可あり 戦闘位置:地上



 鬼塚 種族Lv.60 人間 男性

 シーフ/メイズパイロットLv.27

 拘束済 反撃許可あり 戦闘位置:地上



 ツキメ 種族Lv.62 人間 男性

 ブラックソーサラー/エレメンタル・マグス『闇』Lv.29

 拘束済 反撃許可あり 戦闘位置:地上



 奈々 種族Lv.59 人間 女性

 ハンターキラー/アマゾネスレディLv.26

 拘束済 反撃許可あり 戦闘位置:地上



 クラーク 種族Lv.50 人間 男性

 ハンターキラー/バーバリアンリーダーLv.17

 拘束済 反撃許可あり 戦闘位置:地上



 どこかで見たような名前もある。

 えっと。

 ああ、思い出した!

 魔神と一緒にいたPK職の連中だ!


 そしてこいつ等を取り押さえている面々は?

 どれもPK職。

 いや、PKK職もいるのか?

 それに見覚えがあるプレイヤーがいる。



 デッカー 種族Lv.72 人間 男性

 ブラックバード/バードメンターLv.10

 待機中 反撃許可あり 戦闘位置:地上



 ゼータ 種族Lv.80 エルフ 男性

 セインツLv.18

 待機中 戦闘位置:地上



 良く見たら召喚モンスターも混じっている。

 ホワイトファング、アークデーモン、メデューサ、ラーヴァキメラ、アラクネダッチェス。

 見事だ、ゼータくん!

 本気の布陣ですね?



「ども、お騒がせしました」


「いや、襲われたらどうしようかと思ってたよ」


 心の中では盛大に舌打ちしていたのは内緒だ。

 そう。

 PK職はPKK職の獲物。

 でもゼータくんは今でもPKK職のお手伝いをしているらしい。

 しかもこの場合はPK職との共同ですか。

 レムトの町で見ているから驚きは無いけどね。



「彼等が返り討ちになっていたのは確実ですね。そうなったら依頼が未達成になって泣いてましたよ」


「ほう、依頼なのか?」


「ええ。魔人側に寝返った連中ですが漏れなくターゲットですから」


 ゼータくんの視線が冷ややかに拘束された面々を見ている。

 だが。

 次々とその姿が消えて行くようだ。

 強制ログアウト。

 相手もまた判断が素早いな!



「逃げたようだけど、いいの?」


「ええ。一種の制裁ですから。延々と続くものと覚悟はしてます」


「ほう」


 オレにも一枚、噛ませて貰えたら面白そうですけどね。

 PKK職の獲物を横取りするようで心苦しい。

 それに目の前にいるPK職の面々だけど、態度がおかしい。

 そう構えなくても君達を襲わないから!



「浮き島の件、聞きましたか?」


「ああ」


「僕も明日は追尾に行くんですが。アレって何を目的にしてると思います?」


「さて。内部に潜入した時に探っておけば良かったな」


 そうだ。

 説得してでも聞き出すのでした。

 あの王弟であればペラペラと喋ってくれそうだと今にして思う。


 ダメだな、オレって。

 PK職にもPKK職にもまるで向いていないように思える。



「じゃあ、これで。別のターゲットもいるので」


「別の?さっきの連中以外にもいるのか?」


「増えてます。だからこそヘルプなんですけど。では、ここで失礼します」


 ゼータくん達は本当に急いでいるみたいだ。

 全員、足音も残さず走り去って行く。

 実に見事だ。


 半ソロバードのデッカーは?

 目礼のみを残して去ってしまう。

 今の中身が誰であるのかは判別し難い。

 戦闘時の構えや動きを見ていたらある程度、分かるんですけどね。


 まあいい。

 今は無害と思っておこう。

 ゼータくんも他のPKK職の面々も普通に同行している。

 問題ないのだろう。

 何、PK職が襲って来るなら迎撃したらいいだけなのだ。

 お互いに喰うか喰われるか。

 そういう関係でいいと思うのです。


 現在、この町では呉越同舟な状態もアリなのだろう。

 これも一種の歪みという事なんだろうかね?

 オレには関係無さそうです。


 まあいい。

 今は流されるまま、行動してみよう。








 テレポートで護国谷に到着。

 頭上には翡翠竜の拠点の浮き島がある。

 こっち側も戦況に変化は無さそうな雰囲気だ。

 目の前には門番役のドラゴン達もいる。

 本日の担当は?

 フロストドラゴンとブラックドラゴンだ。

 シンプルに白と黒の対比が美しい。



「ども」


『おお、小さき者か』


『汝の師であれば上に行っている。行くのであれば送っても良いが』


「いえ、自前で飛びますので」


 申し出は有難いし興味もあったけどね。

 ここは断っておこう。

 ドラゴンに騎乗するのはある意味で夢ですけどね。

 無事に騎乗出来る自信は無いのだ。


 ヴォルフを帰還させて蒼月を召喚する。

 この距離ならすぐに辿り着くだろう。

 そうか。

 翡翠竜の拠点か。

 あの場所を訪問するのは久し振りな気がします。




 おかしい。

 浮き島が2つあるように見えるのだが。

 幻影じゃないよな?


 上空から見ると確かに片方は翡翠竜の拠点で間違いない。

 見た事のある構造である事が分かる。

 もう片方は?

 翡翠竜の拠点と比べてやや大きい。

 平地に幾つか、神殿のようなものがあるようだが。

 この神殿、どこかで見たような。

 思い出せない。

 まあ神殿みたいな構造物はあちこちで見ている。

 どこかで見た神殿と類似していだけかもしれない。


 さて。

 こっちは別のドラゴンの巣だったりするのかな?

 それは師匠か翡翠竜に聞けば分かる事だろう。


 周囲には様々な色のドラゴン達が飛び回っている。

 基本、3頭で1つの編隊を組んでいるようだ。

 その組み合わせは様々。

 実に見応えがある。


 あの魔人側が動かしている浮き島にもドラゴンの群れが護衛役となっているのだが。

 こうして見ると魔人側の浮き島の戦力は見劣りがする。

 こっちの戦力はもう格が違うな!

 但し、アラバスタードラゴンだって弱くなど無い。

 ブロンズドラゴン級にはやや及ばないだろうが、そう隔絶している訳でもない。

 群れともなれば十分に対抗出来る戦力だと思う。


 では、オレの配下となるドラゴン組と比較するとどうかな?

 編隊1つどころか1頭にどうにか対抗出来るかどうかって所だろう。

 恐るべき戦力。

 これが敵になっていない事は幸運と言えるだろう。


 しかしこれ程の戦力でも結界は破れない。

 そういうものである、と言えばそれまでなんだが。

 そんな結界のある王城を相手にジュナさんと王女殿下はどう攻略するつもりなんだろう?

 興味がある。

 強敵を相手に戦う機会があるようなら是非とも参加したいですな!




『おお、小さき者か』


『ここで会うのは久しい』


『無事息災であったかな?』


「ども」


 翡翠竜の両脇には蒼玉竜と翠玉竜。

 それと翠玉竜は無事息災かって聞くけどさ。

 色々とありました。

 ここにこうしていられるのは普段の鍛錬の賜物と言いたい所ですけどね。

 褒められない様な事だってあったりしますから。



「ふむ。かなり鍛えておるようじゃな」


「まだまだ、力不足を感じる次第でして」


「ほう?難儀でもしておるのかな?」


「そんな所です」


 例え師匠であったとしても言えない事があります。

 魔神と殴り合っているとか。

 王弟を気絶させて殴っているとか。

 特に後者は怒られる確率は高いだろう。



「そう言えば、もう1つ浮き島がありましたが」


『あれは拾い物だよ。些か大きくはあるがな』


『我が拠点の上を漂っていた浮き島だ。接収したの我が眷族だったが』


「役に立ちそうなのでな。ここに来て貰っておる」


「何に使うので?」 


「お主が言っておったではないか。結界を破るのに浮き島を落とす事を企図していたとか」


「え?」


 師匠の答えは意外なものだった。

 浮き島を、落とす?

 どこに、というのは聞くまでも無い。

 王城にだろう。



「そんな乱暴な!」


「確かに乱暴じゃな。だが結界は破る事が出来そうなのでな。相克の力を利用する事になる」


「相克って」


 バカな。

 王城は確かに魔人の手に落ちている。

 でも普通の人間だって残っているのではないのかな?

 あんなのが落ちたら唯では済まないだろう。



「魔人以外に被害が出るのでは?」


「出るであろうな。だが生きていても魔人の虜であるならば死んでいるのとそう変わらん」


「もう少しどうにか出来ませんかね?」


「そうしたいがな。時間の経過と共に事態は悪化するだけじゃよ」


 師匠の表情は苦渋に満ちている。

 オレにはそう見える。

 どうしたものか?



「新たな浮き島が魔人側にもありました。王弟もそこにいたという話もあります」


「何?」


「王弟をどこまでも狙いたいのであれば吹き飛ばすのは避けた方が良くないですかね?」


「王女殿下の意向は分かるがの。悠長に時間を浪費してもおれんのじゃよ」


『弟子に打ち明けるのは心苦しいようだな』


『ならば我等が告げるが良いであろう』


『我等であればこそ言うべき事であるかもしれぬな』


 頭上から翡翠竜達の声。

 どうもいい感じがしない。

 何だろう。

 正直、気持ち悪いのだが。



『汝は魔人共が使役するドラゴンの正体を知っておるであろう』


「ええ」


『死したドラゴンを使役するだけではないのも承知であるかな?』


「ええ、まあ」


『魔人が同じような有様であるとしたら、どうかな?』


 言葉は出なかった。

 魔人が、同じような有様?



『魔人を、そして魔竜を使役せし存在がおる。魔を従え神を僭称せし者だ』


『魔神、であるな』


『奴等にとっては人も魔物も無い。ドラゴンすらも自らの虜として使役せし者』


「人も?魔物も?それにドラゴンも?」


『然り』


『琥珀竜、それに雲母竜とてかつては我等が同胞であったのだ!』


『それだけで済めば良いのだがな』


『太古には我等の如きドラゴンと同等以上の巨人をも使役したと聞く』


 どうもキナ臭い話だ。

 魔神、ですか?

 オレは4名を知っている。

 あの筋肉バカは外すとしてだ。

 首魁はあの老人姿の魔神だろうか?

 確かに恐るべき存在だと思う。

 でも同じようにジュナさんだって怖い。

 もっと言えばゲルタ婆様は尚怖い。

 ちょっと意味が違うかもだが。



「奴等の狙いが奈辺にあるのか、未だに分からぬ」


『知らない、というのは恐ろしいものだ』


『然り。我等でも見通せぬ』


『未だに琥珀竜と雲母竜も我等の問いに無言を貫いておるしな』


『分からぬ。どこで我等と道を違えたものやら』


 今度は考え込むドラゴンの重鎮達。

 嘆いているのかな?

 その巨躯がちょっとだけ小さく見えてしまう。



『魔人も、そして恐らくは奴等が従えるアンデッドも元々は人間であった者達』


「え?」


『魔人も、魔竜もまた無限ではない』


『手段は分からぬ。だが魔神を僭称する者達が根源であろう事は明白だ』


『人の中には自ら望んで魔人となる者もいるようであるがな』


 ああ、そうか。

 王弟も侍従長も魔人の指輪を自ら嵌めて魔人となったんだっけ。


 あれ?

 オレも何度か使っているけど大丈夫なのかな?



「魔人の指輪は嵌め続けると魔人となりかねん。魔の素養無き者には無意味じゃがな」


「はあ」


 師匠の解説にも茫洋と答える事しか出来ませんでした。

 それに、だ。

 魔人の供給先は人なのですか?

 オレって結構な数の魔人を屠っているんですけど。



「王城に残っておる者達も魔人かアンデッドに次々と変貌しておるであろうな」


「では王女殿下がやっている事は?」


「反抗軍の編成、というのは言わば名目じゃよ。犠牲者を増やさぬ為の苦肉の策でな」


「ジュナさんは承知なので?」


「無論じゃ」


 そういう仕組みか。

 消極的、と言えばいいのか。

 その一方で大雑把と言おうか。

 浮き島を王城に落とすのも魔人を生んでいる根源を断つ目論見なのだろう。

 事情が事情だけに理解を示したい所だが。

 やっぱり乱暴に見えます、師匠!



「それに、な。ここに至っては傀儡に過ぎぬ王弟を倒しても意味は無い」


「魔神、ですか」


「そうじゃ。奴等を全て排除せねば終わらぬであろう」


『奴等の護りは堅い』


『琥珀竜に雲母竜もいる』


『簡単に神を僭称する者共を屠れないのもまた事実』


「悔しいが、な。これが現実であるからには尋常な手は通じぬであろう」


「それで浮き島を落とすので?」


「そうじゃ」


 豪快な手段は嫌いじゃないけどね。

 やっぱり乱暴過ぎませんか?





 翡翠竜の拠点にいてもオレに出来る事は無い。

 師匠を手伝える事も無いので辞去する事にした。

 では、今からどうする?

 魔神を狙うか?

 そもそも遭遇する確実な手段なんて分かっていない。

 師匠が浮き島を王城に落とすまで、相応の準備が要るようなのだが。

 そんなに遠い先の事ではないだろう。

 短い期間で魔神を全て屠れるだろうか?

 オレが見知っている魔神は4名もいる。

 それに魔神が4名だけという確信すらない。


 どうする?

 出来る事を、する。

 それしかない。


 魔神のうち、あの筋肉バカだけは言われずともオレは仕留めるつもりでいる。

 いや。

 単に仕留めるのではない。

 格闘戦で勝つ。

 そこが重要なのです。


 では今現在、必要なのは何だ?

 魔神を仕留める実力だろう。

 ならば己を鍛える事だ。


 召魔の森に戻ろう。

 闘技場で対戦でもいい。

 地下洞窟でもいい。

 場所はどこでも構わない。

 今、オレが奮励すべきなのはそこだ!

 言ってしまえば普段通りとも言えるんだけど。

 そこは気にせず、経験値稼ぎをしよう。

 いや、経験値稼ぎはついでだ。

 オレが望む苦戦をするのです。

 しかも大苦戦だ。


 あれ?

 やっぱり普段通りじゃないか!

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