63
同時に開始した4試合だがオレ達の試合が最後だった。
当然か。
時間切れ判定になったのだから。
オレのHPバーは2割といった所か。
対戦相手は3割を切ったあたりだろうか。
結構な差がついたと言えばいいのか、健闘したと言えばいいのか。
判断に苦しむ所だな。
散乱した装備を拾い集める。
対戦相手のランバージャックがトンファーから鉈を外してオレにトンファーを手渡してくれた。
「失礼。私はランバージャックの与作です」
「ああ、拾って頂いてありがとうございます。サモナーのキースです」
互いに握手をする。
思いのほか好青年じゃないか。
名前の与作って所を除けば、だけど。
「こう言っては何ですが、いい勉強させて貰いました」
「いやいや。そちらこそ次の試合、がんばって下さい」
「ありがとうございます。あともう1つだけいいですか?」
「ええ」
「本当にサモナーですよね?」
「そうみたいですよ?」
どうして断言しないんだオレ。
それはさておいて。
試合場の中央に戻ると互いに礼。
最後の試合で注目されていたのだろう。
拍手が鳴り止まなかった。
さっきはブーイングしてたでしょ?
「オレニューの所の小僧じゃな。そこに立て」
こう言ってはなんですが。
試合場を出たらゲルタ婆様が目の前にいます。
直立不動です、サー、イエス、サー!
言われるがままに指定された場所に立つ。
絨毯みたいな敷物だ。
足元の絨毯のような物から淡い光が放たれてくる。
オレの装備に貼られている邪蟻の甲のいくつかが割れかけていたんだが、元に戻っていくようだ。
「折れた奴と傷だらけの奴も寄越してみよ」
「はい」
2つに折れたカヤのロッドと傷だらけになったトンファーを渡す。
別の机の上にある布地に乗せて手をかざした。
見る見るうちに修復されていく。
すげえな、婆様。
「本来は木製の武器には過ぎた処置じゃ。有難く思う事じゃ」
「はい、ありがとうございます」
「オレニューの弟子だけあって奇妙な戦い方じゃな」
「はあ」
いや。
ゲルタ婆様の視線は別の所に固定されているようだが。
視線の先に師匠がいた。
師匠に聞かせてたのか。
「どうじゃな?キースよ。楽しめたかのう」
「まあまあです」
「魔物相手はさておき、人相手ではそこそこいくとは思ったが。本選でここまでやるとはのう」
「はあ」
師匠の目は笑っていた。
但し、悪戯小僧のそれだ。
心の中で腹にグーパンを喰らわせておこう。
「まあ一緒に来るがいい。特等席で試合を見物せんかな?」
「行きます」
それは有難い。
ここの試合会場は観客席が拡充されているものの、どこも満席だ。
観戦できるのならば否はなかった。
「おお!中々の活躍じゃったな!」
「どうも。負けちゃいましたけど」
「何、本選進出でも大したもんじゃよ」
貴賓席にはギルド長もいた。
隣の席に師匠が座る。
オレはと言えば師匠の脇に立った。
「空いている席もあるぞ?」
「いえ、これでいいです」
貴賓席だけに手前に手すりなんてものがあるのだ。
座ったら確実に見え難い。
観客の拍手が大きく鳴り響いた。
準決勝に勝ち進んだ4人のプレイヤーがその姿を現したのだ。
1人はオレと戦ったランバージャックの与作。
例の斧と盾の戦闘スタイルだ。
対戦相手はどうやら弓矢持ちのエルフ戦士である。
別の試合場にはフィッシャーマンがいる。
例の投網を肩に担いで銛を持っていた。
対戦相手はスタンダードな格好の戦士だ。
よくよく考えてみると4名のうち2名が生産職じゃないか。
さあ、どうなるか。
「始め!」
試合が始まった。
試合結果はいずれも決着が早かった。
そのせいか会場はいささか不満気な気配が漂っている。
フィッシャーマンvsファイター。
決着は実に早かった。
開始直後に互いにダッシュして接近。
投網が投げかけられるかに見えた。
だがそれは果たされなかったのだ。
戦士が投げた投げナイフが投網ごと肩を貫いている。
そしてフィッシャーマンはそれに気が散ってしまったようだ。
銛の間合いの距離で攻撃機会を失ってしまった。
それが敗因だっただろう。
剣の間合いで散々に斬られてしまいそのまま終了である。
ランバージャックvsエルフ
これは長期戦になるか、と思わせたものだ。
エルフは開始早々、土壁を築き上げて自らも壁の上に位置する戦術を選択した。
オレの予選相手が使った奴だ。
相手の攻撃を受けずに一方的に弓矢で攻撃できれば勝利は確実であっただろう。
だがランバージャックは予想外の、そして規格外の男であった。
壁を斧で崩し始めたのだ。
矢の攻撃を受けつつも壁を崩す。
壁の端に即席の階段ができあがりつつあった。
あとは壁を登るだけだった。
「これであと一試合を残すのみか」
「名残惜しいのう」
《フレンド登録者からメッセージがあります》
ご老体同士の会話を聞き流していたらメッセージが来ていた。
フィーナさんからだ。
『下を見よ』
え?
手すりの上から下を覗き込んだ。
フィーナさん達4人のいつものメンバーがいる。
いや。
ミオと話し込んでいるのはアデルとイリーナだ。
増えてるじゃん。
フィーナさんが少し大きめな声で話しかけてきた。
「キース、この後の予定は?」
「決勝戦まで見ます。その後は未定です」
「じゃあ時間を頂戴。外の馬留めで待ち合わせでどう?」
「はい。それで大丈夫です」
何だろうか。
以前に相談を頼んでいたからその件かな。
「ほれ、そろそろ始まるぞ」
師匠の声に試合場を見る。
先に入場してきたのは戦士だ。
剣に盾。
だが先般の戦いでは投げナイフも使っていた。
見かけ通りとはいかないだろう。
そしてランバージャックの与作。
斧を片手にのっそりと試合場に現れた。
歓声が轟いていた。
盛大な撃ち合いを期待しているのだ。
果たしてそうなるかどうかは疑問なんだが。
「始め!」
開始早々、地響きのように歓声が響いた。
与作は一気に間合いを詰めて行く。
戦士は剣を抜かない。
投げナイフを何本も投擲して足を止めようとしているようだ。
だが止まらない。
止まっても益がないからだ。
ダメージ覚悟で突っ込む。
それで正解だろう。
戦士はようやく剣を抜いた。
壮絶な接近戦が始まった。
足を止めての壮絶な斬撃戦だ。
明らかに戦士は手数で圧倒する事で対抗しようとしていた。
HPバーでも優勢。
それがたった一発で逆転した。
斧の一撃を盾で受け損ねたのだ。
腹に直撃。
それで試合は終了になった。
凄いな。
まさにパワーの勝利だ。
観客の熱気も最高潮だろう。
「さて、閉会式といこうかの」
「キースよ、お前さんはどうする?」
「先約があるのでこれで失礼します」
「むう」
ギルド長が師匠の腕を掴んで凄んで来た。
「オレニューよ。会場の片付けにはお主の召喚モンスターの助力が要る。逃がさんぞ」
「逃げんわい」
「ならば良し。ではキースよ。暫く忙しいのでな。3日後あたりにでもワシの所にでも顔を見せに来るがいい」
「はい」
「これ、ワシの弟子じゃぞ!」
「今はワシの預かりじゃ」
相変わらずだな。
髭の引っ張り合いを始めてしまった。
例の中年の職員さんに目礼を残してその場を任せてしまおう。
特等席から試合を観戦できたのだし良かった。
フィーナさん達と待ち合わせをしているのだしさっさとここは去った方が良さそうだ。
馬留めに行くと残月の馬体を撫でている奴がいる。
まあ正体は知れているんだが。
フィーナさん達が勢ぞろいしているし、イリーナがオレの姿をすぐに見つけたようで目礼していた。
アデルは残月をまだ愛でている。
それ、オレの召喚モンスターだからな!
「お待たせしました」
「ごめんなさいね。急に呼び出すみたいな事をしちゃって」
「いえ」
フィーナさんの態度は普段と変わらないよう気がする。
だが他の面子の態度が微妙だ。
「ギルティ」
「有罪申し渡す!」
「どう考えてもギルティ」
「私は判断保留かな?」
「キースさん、女の子相手にアレは酷いです」
はい?
もしかして、第二回戦の一件ですか?
不可抗力です。
でもこの視線には耐え切れそうにない。
弁護士を呼んでくれ!
「その件でも盛り上がっちゃってるのよね。残念ながら」
「男共はこれだから困る!」
「でもそれ以上にマズいのは魔法の方だわ」
ああ、やっぱり。
《プレイヤー名フィーナさんからユニオン申請があります。受諾しますか?》
《プレイヤー名イリーナさんからユニオン申請があります。受諾しますか?》
2人からユニオン申請が来ていた。
その2人の目を見る。
どうやら内緒話のようだな。
無論、受諾する。
『ここでは都合が悪いわ。レギアスの村に移動しながら話をしましょう』
『分かりました』
まあ元々はオレも相談したかったのだしいい機会だ、
そう。
新しい魔法系統を得た件である。
フィーナさん達は馬車で移動してきたそうだ。
幌馬車だ。
中身は半分弱といった所だ。
行商人としてはもう少し物資を運びたかったそうだが、早めにレギアスに行きたいから今しかないそうだ。
食事も移動しながら携帯食である。
馬車の移動速度は当然ながら徒歩に比べると倍以上は速い。
だが残月に騎乗して移動するのは更に速いのだ。
ゴメンな、残月。
思いっきり走らせてやりたいんだが。
アデルはミオ、イリーナはレイナを召喚した馬の後ろに乗せて狩りをしながら付いてきている。
ヘリックスと黒曜は狩りの手伝いをさせていた。
まあ遊ばせておく事はない。
重要なのは携帯食を平らげた後のウィスパーの内容の方だ。
オレが試合で見せた呪文。
フィーナさんの言葉で言うならば「炎上」しているそうな。
どこが?
掲示板が、である。
普段は大して見ちゃいない掲示板だがそんな事になっているのか。
掲示板が炎上するだけならいいのだろう。
問い合わせがフィーナさんの所にまで既に来ているらしい。
どうも本サービス開始段階からプレイしているサモナーって事で色々と目立ってたようだ。
そして今日の試合である。
あの呪文は何だ?
雷魔法、木魔法、氷魔法をどうやって取得した?
何で今まで情報公開がなかったんだ?
そういう事らしい。
いや、意図的に情報を隠蔽した訳じゃないですが。
そもそもどうして取得できたのかも分からない訳だし。
他にもネタ的にトンファー関係でも盛り上がっているらしい。
そこに言及した時のフィーナさんの表情は苦笑いといった所だ。
そしてベストバウト投票である。
オレが戦った第二回戦に投票しようという動きがあるらしい。
なんだってアレを、と思うのだが、オレが使った関節技が掲示板で『恥ずかし固め』と呼ばれているそうな。
この件を話す時のフィーナさんの表情は険しかった。
いや、それってオレのせいなんですか?
「私の勘も鈍ったってことかしら?」
フィーナさんは新しい魔法の一件でそう言うのだが、遅かれ速かれ一緒だったと思うのだ。
あの時点で公表した所で検証もできてない情報に右往左往するだけでしょうに。
街道を進みながらこっちの事情を色々と話した。
最初に氷魔法を取得した時の状況。
次に雷魔法と木魔法を取得した時の状況。
取得可能となる条件に関しての条件の考察。
各属性の呪文構成とその効果。
呪文目録の称号を得た事、それに高速詠唱の補助スキル。
これらは記録があるから話はし易かった。
「おかしいわね」
「え?」
「他のプレイヤーでも少数ながら属性魔法を複数取得してる人はいるわ。私は光魔法と土魔法だけなんだけど」
視線をサキさんに向ける。
「実際、私は光魔法に火魔法と水魔法、土魔法を持ってる。こないだ土魔法がレベル4になったばかりだけどね」
「魔法使い系なら何名か持ってる筈。彼らが取得しているなら何かしら報告がありそうなものだわ」
「何か他にトリガーがあるっていうキースの推測は当たってると思うけど」
「検証がないと。いい加減な事を掲示板に書けないでしょ?」
サキさんが唸る。
何かを懸念しているようだが。
「現在、分かっている事だけでも公開するのは悪くないと思うけど」
「それよ。悩ましいわね」
「取得条件はまだ未確定、各魔法の呪文リスト公開、それだけでもガス抜きになるでしょ?」
フィーナさんが唸りだした。
サキさんが説得する構図だ。
援護射撃をしておくか。
「なんでしたら私も協力しますけど」
「ね?フィーナ。キースも協力してくれるならやっておくべきじゃない?」
フィーナさんがまだ唸ってる。
「本当に、いいの?」
「はい」
念押しか。
でも今更なんですけどね。
ゲーム内部で楽しめたらそれでいいのですよ。
「分かったわ」
そう言うとサキさんに向けて指示を飛ばした。
「うちのプレイヤーズギルドで条件に当て嵌まりそうな人なんだけど」
「掛け合ってみるわ。今日の夕方から?それとも明日?」
「キースの予定次第」
「私の予定なら問題ないです」
「おっけ。とりあえず条件に当て嵌まりそうな人はレギアスの村に集合って事でいい?」
「お願い。悪いけどキースにも掲示板への書き込みを手伝って欲しいけどいい?」
「大丈夫ですよ」
そこからは書き込む内容を作成して相互に添削した。
書き込むのは呪文関連スレである。
森の見張り櫓を過ぎたあたりで書き込んでおいた。
反応はどうなるのだろうか。
まあ気にしなくて良いさ。
これまでと変わらずマイペースで行こう。
フィーナさんの馬車はオレの感覚で言えばゆっくりと進んで行く。
つまり狩りをする余裕があるって事だ。
コール・モンスターを選択して実行する。
呼び寄せる事ができるはぐれ馬が別方向に2頭いるようだ。
とりあえず1頭呼んでおくか。
『アデル、それにイリーナ。はぐれ馬の相手は平気か?』
『え?』
『私達だけではまだやったことがないです』
『1頭こっちに来る。狩ってみるといい』
『ええ?』
『私達だけでですか?』
『無理そうに見えたら介入するから。それに後ろに助っ人もいる』
このウィスパーはミオとレイナにも聞こえてる筈だ。
まあそうそう遅れを取るとは思えないが。
『私達もはぐれ馬相手に勝ってないよ!』
『いっつも逃げられちゃうんだけど』
フィーナさんとサキさんを見る。
援護頼む。
『野生馬の皮、もう少し余裕が出来たら新しい革鎧が作れそうなんだけど』
『いいじゃないの。稼いで来てね』
援護になってる?
アデルとイリーナの後ろで揃って渋い顔をしているが否はないようだ。
よし。
そろそろ来る頃だ。
森の中から躍り出たはぐれ馬は【識別】してみるとレベル5とやや強めの相手だった。
それでも問題はなさそうである。
アデルとイリーナは騎乗に集中、その後ろでミオが槍で、レイナが弓矢ではぐれ馬を追う。
それに虎のみーちゃんと鷹のスカイアイの攻撃が加わるのだ。
十分、対抗できる。
基本、足を止めて転がしてしまえば後が楽なのだ。
そして立ち上がらせてはいけない。
特にミオが馬上から槍を突き入れる攻撃が非常に有効なようだ。
はぐれ馬のHPバーが目に見えて減っている。
どうやら仕留め切るのは時間の問題だろう。
もう1頭、いっとくか?
レギアスの村に着くまでの間に4頭のはぐれ馬を狩った。
無論、オレも途中で参加している訳だが。
交互に相手をしたから、慣らし戦闘としては上々だろう。
はぐれ馬の頭を捻って止めを刺したのにはフィーナさん達が一瞬引いていたが。
アデルとイリーナは慣れたものだ。
流石である。
それに4頭目を倒した時にはレベルアップもあった。
《只今の戦闘勝利で【召喚魔法】がレベルアップしました!》
おお。
8匹目の新たな召喚モンスターを選べる訳か。
これは実に喜ばしい。
夜の狩りに行く前に召喚しよう。
問題は何を召喚するのか、心に決めていないことだ。
実に悩ましい事だ。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv8
職業 サモナー(召喚術師)Lv7
ボーナスポイント残11
セットスキル
杖Lv6 打撃Lv4 蹴りLv4 関節技Lv4 投げ技Lv4
回避Lv4 受けLv4 召喚魔法Lv8(↑1)
光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv4 水魔法Lv4
火魔法Lv3 闇魔法Lv3 氷魔法Lv1 雷魔法Lv1
木魔法Lv1
錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv3
連携Lv6 鑑定Lv6 識別Lv6 看破Lv2 耐寒Lv3
掴みLv5 馬術Lv5 精密操作Lv6 跳躍Lv2
耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv3 精神強化Lv3
高速詠唱Lv2
装備 カヤのロッド×2 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv6 お休み
残月 ホースLv4
ヘリックス ホークLv4
黒曜 フクロウLv4
ジーン バットLv4 お休み
ジェリコ ウッドゴーレムLv3 お休み
護鬼 鬼Lv2 お休み




