62
増量してみました。
本日も晴天なり。
ログインしたら美しい朝日拝んでおこう。
お天道様。
昨日は色々とありましたがゴメンナサイ。
でもイビルアントを狩るのは許して下さい。
今日も普段どおりに召喚していく。
残月、ヘリックス、黒曜だ。
確かに今日は闘技大会の本選だが、平常心で行こう。
それには普段どおりの行動でいいのだ。
街道に出てレムトの町へと向かう。
なんとなくだがレムトの町へと近づくに従ってプレイヤーの姿もよく見かけるようになった。
大会を生で見てみたいプレイヤーも多いって事なんだろうか。
その一方で野犬狩りも多い。
それだけは変わらないようだ。
レムトの町の中は今までになく混み合っていた。
これでは試合会場の混み具合がどうなることやら。
屋台を探してみたらどこも凄い混雑ぶりであった。
これは堪らん。
手近な所の列に並んで朝食を確保しておく。
後で控え室ででも食っておくか。
会場の新練兵場へと向かう。
やはり町中は熱気を帯びているような感覚がある。
昨日までもあるにはあったが、今日は更に熱気が凄い。
馬留めに残月達を残して試合選手用入り口で受付を済ませて会場に入った。
そして職員さんに控え室に通された。
そこには既に先客が5人。
控え室に入ってきたオレを値踏みするプレイヤー達の視線が痛い。
そんなに【識別】してみた所で大したものは見えないと思うが。
壁を背にして座り込んで買い込んだ食事で腹を満たして水を飲む。
オレをジロジロ見る奴は既にいないようだが。
三々五々、出場選手であろうプレイヤー達が控え室に集まってきていた。
互いに【識別】しているであろうプレイヤーもいる。
泰然自若が如く、それでいて眼を開いてまんじりともしないプレイヤーもいる。
その逆で瞑想しているプレイヤーもいる。
装備をチェックしているプレイヤーもいる。
オレはそんなプレイヤー達の所作を観察していた。
人間観察。
それもまた楽しい。
それぞれがどのような戦闘スタイルであるのか、装備から見えてくる事だってある。
そして彼らは全てが予選を突破して来ているのだ。
厄介な相手ばかりなのは当然だろう。
今まで予選でみかけたプレイヤーが何人もいたりする。
見かけた覚えのあるドワーフやエルフも混じっていた。
得物も様々だ。
防具も軽装のような格好から重装備の者もいる。
今日の本選は予選と違ってプレイスタイルが異なる者同士が戦う事になるだろう。
面白い。
オレ自身が出場するのでなければ試合観戦だけで過ごしたい所だ。
オレの脳内では楽しい妄想が全開で駆け抜けていた。
いや。
ただのイメージトレーニングです。
いつの間にか控え室にはプレイヤーが揃っていたようである。
そして控え室の出入り口に見慣れた姿が見えた。
ゲルタ婆様だ。
相変わらずおっかない。
「時刻となりました。全員試合会場に集合して下さい」
若い職員さんに誘導されて出場選手が次々と控え室を出て行く。
オレは最後に控え室を出た。
数えたらオレで16人目。
ここにいたのは本選出場者の半分といった所か。
もう半分は恐らく別の控え室にいるのだろう。
試合会場の様相が変わっていた。
8面ある筈が4面しかない。
その分、観客が多く入るように席を工夫したようである。
石材を組んで段々を作って臨時の観客席を作ったのか。
一夜にして組んだのか?
不思議な事もあるものだ。
そして歓声と拍手。
面食らうじゃないの。
オレ達出場者が4面ある試合場に取り残された。
控え室のある方の反対側からも出場者が職員さんに誘導されてやってきているのが見えた。
これで32名だ。
試合会場に出場者が揃うまで、拍手は鳴り止まなかった。
その拍手が徐々に小さくなっていく。
いつのまにか一段高い位置にある貴賓席らしき場所でギルド長が立ち、周囲を見渡していた。
観客が静まると何やら開会宣言らしき事を喋っている様なのだが。
オレの耳には入ってこない。
オレの意識は貴賓席に固定されてしまっていた。
ギルド長の隣の席に座っているのは間違いなく師匠である。
【識別】もしたが間違いなく師匠である。
オレと視線が合った。
今、何故、どうして視線を外したんですか、師匠?
開会の宣言があったらしい。
周囲は拍手の渦であった。
若い見た覚えのある女性職員さんに誘導されるがまま付いていく。
どうやらオープニングの試合になるようだ。
他の3つの試合場でも同様である。
例の水晶に手を触れ、HPMPを全快させて貰う。
で、オレの対戦相手は?
対角線にちゃんといた。
デカいな。
そしてその装備はフルプレートのように見える重厚なものだ。
基本は革鎧なのだろうが、表面の多くを金属製のプレートで補強してある。
盾もデカい。
地面から肩あたりの高さまであるじゃないの。
メインの得物はどうやらメイスだ。
重戦士って所か。
予選で見た覚えはないが、近いプレイヤーは何人も見ている。
想定から大きく外れてはいない。
一応【識別】もしておこう。
??? Lv.8
ファイター 待機中
Lv.8って。
格上じゃないの。
オレの装備は革鎧になって防御力は底上げとなった。
メイン武器はロッド。
サブにトンファーが2本。これは背負って盾で隠すように持っている。
ベルトに挟んである隠し爪。
まともに接近戦になったら結果は明白だ。
そう。
最初からまともに戦うつもりはないのだ。
「始め!」
ギルド長の声が奇妙に周囲に響き渡った。
さあ、戦いの始まりだ。
「メディテート!」「ブレス!」
いつもの武技を使うとすぐさま呪文を選択して実行する。
そしてその場所を動かない。
最初の呪文こそ鍵だ。
戦略を、戦術を定めてあったから迷いはない。
対戦相手は?
こっちに向かって歩いてきている。
ダッシュはしてこない。
対戦相手が試合場の中央に到達した。
「フィジカルエンチャント・ウィンド!」
すぐさま次の呪文を選択して実行する。
相手は何かを仕掛けてくる様子はない。
更に接近してくる。
腰を落として盾を前面に出す。
体を半身にして盾の後ろに隠れるように構えた。
何を仕掛けてくるのか、事前に知っていて良かった。
「メンタルエンチャント・ダーク!」
『フィジカルエンチャント・アース!』『シールド・ラッシュ!』
迫ってくる巨体の迫力は凄かった。
でもね。
もっと凄い魔物はいくつか見ていた。
体が強張る事はなかったのが有難い。
それでもさすがに武技だ。
回避しきったように見えてダメージを喰らっていたようだ。
掠っただけでHPバーが1割近く削れていた。
さすがに凄いな。
試合場の端を僅かに駆けながらロッドで足首を突いてみる。
直撃する。
だがビクともしない。
それもまあ想定内ではあるのだが、やはり凹むよな。
メイスの攻撃を下がって避けながら次の攻撃に備える。
来い。
オレならやる。
もう一発、突撃をする。
後ろに下がるだけの相手には追撃をかけるべきなのだ。
『シールド・ラッシュ!』
来た。
今度も距離が近かったから回避しきれていない。
肩口の痛みに耐えながら相手の側面のポジションを確保した。
そのまま体当たりを敢行する。
ダメージ狙いではない。
オレの狙いは別にあった。
対戦相手は体当たりにやや体勢を崩しながらも踏みとどまったが、試合場の外に飛び出してしまっていた。
計画通り。
「試合場の中に戻って!」
試合場のすぐ外で控えている審判役の職員さんが対戦相手に注意を与えた。
あと2回だ。
あと2回、対戦相手を外に出してしまえば勝ちだ。
同じ手で勝ちを拾った試合を予選で見ていたのが良かった。
こんな重量級の相手のHPバーを削りきって勝利?
そんな面倒な事、したくないです。
「フィジカルエンチャント・アース!」
これで防御を強化できた。
次の呪文もすぐに選択して実行に移す。
試合場の中央に陣取ると対戦相手も試合場の端に戻ってきていた。
まだ余裕がありそうだな。
さすがにすぐ突撃を仕掛ける様子はないようだ。
それはそれで有難い訳だが。
試合場の中央を制圧しにくる相手に場所を明け渡し、試合場の角の方向へ僅かに退く。
追ってこない。
こっちの意図に気がついたか?
「ダークネス・ステア!」
闇属性の攻撃呪文を放つ。
暗闇状態をもたらす可能性もあるのだがどうなる?
残念ながら状態異常は発生しなかった。残念。
次の呪文を選択して実行しながら相手の周囲を回りだす。
無論、距離を置いて間合いを外しながらだ。
相手がメイスを持つ右手側へと回り込む。
何故かって?
逆方向だと盾の影になってしまい、攻撃の兆候が見えなくなるからだ。
攻撃のための初動は必ず何かしらの所作となって現れる。
攻撃を如何に早く見切るか。
オレの選択した決断は敏捷性で相手を翻弄する事なのだから、これは必須なのだ。
相手はジリジリとメイスの攻撃範囲に追い詰めようと距離を詰めてくる。
まるで動く要塞だ。
だが恐れはない。
突撃、してくれませんかね?
してくれないならしょうがないな。
「コンフューズ・ブラスト!」
距離がやや詰まった所で呪文を放つ。
相手は避ける動きを見せたが間合いが近い。
まともに喰らったようだ。
オレは次の呪文を選択して実行。
同時に相手の右手側へと回り込む。
ロッドで攻撃できる隙があったので膝裏に突きを入れた。
さすがに関節の裏側にまでは金属補強は入っていないようだ。
やばい。
唇の端が笑う形になっているんじゃね?
マーカーは状態異常に陥っていることを示しているようだ。
目を凝らすと混乱状態、となっている。
だが動けない訳ではない。
滅茶苦茶にメイスを振り回しているだけだ。
「ストーン・バレット!」
比較的近い距離から呪文を放つ。
まともに喰らった相手が体勢を崩す。
その隙を逃すことはない。
再び体当たりを喰らわせて場外に弾き飛ばした。
踏ん張っていればビクともしないだろう。
だが呪文と組み合わせたらどうにかなったようだ。
『ッ!?』
場外に転がった相手はそのままに試合場の中央に戻った。
対戦相手は何をされたのか、理解できていない様子だった。
場外に出たせいなのか、混乱状態からは復帰したようだが。
相手のHPバーを確認してみる。
2割も減っていない。
いや、1割ちょっとしか減ってないし。
どんだけ生命力を強化してあるんだ。
「試合場の中に戻って!」
審判役の職員さんが再び対戦相手に注意を与えた。
この対戦相手はあともう一回、場外になったら負けだ。
さあ、どうする?
場外覚悟で突撃をしてくるか。
地道に距離を詰めて近距離攻撃を仕掛けてくるか。
「アース・ヒール!」
呪文詠唱が終わっていた回復呪文でオレのHPバーは全快した。
うむ。
こっちは少し余裕が出来た。
無論、油断はできない。
近接戦闘で勝負となったら一気に逆転されかねないしな。
次の呪文を選択して実行しながら試合場の角へと下がりながら対戦相手の反応を待った。
重そうな装備を揺らして駆け出していた。
偉い!
そうでなくては面白くない。
『脳天砕き!』
さっきまでオレの頭があった空間をメイスが通過していた。
サイドステップで回避済みではあったが、おっかないな。
そして初めて逆方向に回り込む動きを相手に見せた。
盾側の方に回り込もうとしたのだ。
来い。
誘いに乗って来い!
『シールド・ラッシュ!』
やはり来た。
男ならそうでなきゃな。
横に構えた大盾が目の前に迫っていた。
同時にオレは相手の足元にスライディングしている。
左足で相手の左足首を刈る。
同時に右足で左足裏へ蹴りを入れた。
突撃してきた勢いそのままに転がっていく。
オレの体も一緒に持っていかれてしまった。
相手の左足をロックしてしまったのが裏目に出たようだ。
そしてオレの体重も軽すぎた。
気がつくと互いに転がって場外に出てしまっていた。
《試合終了!戦闘を停止して下さい!》
《只今の戦闘勝利で職業レベルがアップしました!》
《只今の戦闘勝利で種族レベルがアップしました!任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
このタイミングでレベルアップとかなんなの?
仮想ウィンドウを見つめながら暫し考え込んでしまった。
うむ。
ステータス値を4の倍数に揃えて見るか。
上から順に器用値から上げることにしよう。
基礎ステータス
器用値 16(↑1)
敏捷値 15
知力値 20
筋力値 15
生命力 15
精神力 20
《ボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で7ポイントになりました》
《本選第二回戦に進出しました!第二回戦は本日午前10時30分、新練兵場E面の予定となります》
《一回戦突破によりボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で9ポイントになりました》
対戦相手の戦士は場外で脱力しているようだ。
オレが先に立ち上がって試合場の中央付近に立つと急いで駆け寄ってきた。
互いに、礼。
対戦相手はオレに歩み寄ると握手を求めてきていた。
差し出された右手。
思わずオレも右手を差し出して握手する。
なんだろう。
違和感がある。
「完敗でした。私は戦士のシェルヴィ」
「え?」
シェルヴィって。
女性名、じゃないの?
そう言えば握手したあの感触は妙に柔らかいような。
「すみません。女性だったんですか?」
「やっぱり気付いてなかったみたいね」
そう言うと兜を脱いで見せた。
確かに女性のようだ。
オレより頭一つ以上、背が高いが女性である。
その長い髪の毛を刈り上げたら男役の役者ができそうなほど凛々しい顔つきをしている。
いかん。
凄い迫力があるぞ。
結構、失礼な事を言ってる、よね?
「失礼。サモナーのキースです」
「サモナー、なのよね?」
「ええ、まあ」
「それ、本当?」
やられた。
さっきの失礼な物言いへの意趣返しだろう。
ニヤニヤと笑われてしまっている。
恐縮するしかない。
やっぱりダメだ。
女性相手に口で敵う気がしない。
心の中で男らしいって思ってたことは口にしないでおこう。
練兵場の端で他の試合を観戦したかったんだが、許して貰えなかった。
他の3試合のうち2試合はまだ試合中だったのだ。
例の水晶でHPMPを全快すると、控え室に戻るように促されている。
いや、観戦するのが楽しみだったんだが。
練兵場を出る際にゲルタ婆様の姿も見かける。
敗北したオレの対戦相手、シェルヴィなんだが、ゲルタ婆様に何やら術をかけて貰っているようだ。
足元に敷いてある絨毯のようなものが淡く光った。
「武器に防具の修復はこれで良いじゃろう」
「はい。ありがとうございます」
へえ。
あれで武器防具の修復が出来るのか。
「キースさん、控え室へ」
「ああ、すみません」
ここはおとなしく控え室に戻るか。
控え室では他の出場者が一斉にこっちに視線を投げてくる。
そして視線を戻す。
怖いって。
壁を背にして腰を下ろす。
視野の右下に点滅するアイコンが現れているのが目に見えた。
さっきまでなかった、よな?
最大化してみると戦闘ログである。
何だ、と思ったがさっきの試合の分だけではない。
現在進行形で他の試合の戦闘ログが流れているのだ。
どうやら全プレイヤーに公開しているものらしいな。
うむ。
これはこれで有用だ。
でも出来れば生の動きを見たい。
動画で配信してくれた方がありがたいんだが。
一応、オレ自身の戦闘ログも見返して反省会だ。
過去ログから行こう。
公開してあるログではオレの固有名までは表示されていない。
サモナー、とだけ表示されている。
ファイター対サモナーのログを眺めながら他の試合の戦闘ログにも目を向ける。
なるほど。
勝ったとはいえ、見せてしまった手の内は知られてしまう訳だ。
まあそこはお互い様だろう。
悩ましいのは誰と次に対戦するのか、分からない所だ。
でもさほど悩む事もない。
誰が相手であれ、厄介であることには変わりはない。
控え室に戻ってくるのは初戦で勝利したプレイヤーだけだ。
16人いたはずのプレイヤーだが、今ここにいるのは5人。
今の試合に出ているプレイヤーの試合は先刻始まったばかりだ。
予定より早く進行しているので、第二回戦の開始時刻が繰上げになる事を職員さんから知らされてはいた。
オレはと言えば他の試合の戦闘ログに目を通すのに精一杯だ。
厄介なのしかいないのは分かっていた。
相性的に最悪と思われるプレイヤーにも目星はついている。
前衛での純戦闘系、それも異常に試合時間の短いプレイヤー達だ。
今やっている4試合を除くと2人いる。
そのうちの1人はこの控え室にいた。
ランバージャック。
生産職の樵の筈なんだが、初戦は1分しか戦闘ログがない。
斧による攻撃のみで勝負がついている。
武技も使っていないのだからログを見た所でデーターらしきものがないのだ。
対戦相手も戦士なのに秒殺とか怖いな。
フィッシャーマン。
こいつも生産職の漁師の筈なんだが、勝ちあがってきている。
投網で対戦相手の動きを封じて銛で突く。
試合時間は3分ほどだった。
予選で見かけた連中、だよな?
思い出した。
斧持ちのランバージャックはドワーフ相手にガチでパワー勝負を挑んでた奴だ。
ここにいないフィッシャーマンも恐らく予選で見かけた奴だろう。
控え室にプレイヤーが2人戻ってきた。
試合は終わって第二回戦に残ったプレイヤー16名がこれで確定した事になる。
互いに微妙な距離を置いて不思議な緊張感が控え室の中を漂い始めていた。
視線を交わす者もいるが、多くのプレイヤーは無言で何かに集中している。
オレと一緒だ。
他の試合の戦闘ログを見ているのだろう。
暫時、緊張を伴う雰囲気が続いたが、それを打ち破るようにギルド職員さん達が現れた。
4人いる。
そのうちの1人がオレを呼んだ。
「ではキースさん、本選第二回戦になります。準備は宜しいですか?」
「はい」
立ち上がると促されるまま職員さんの後を付いていく。
そして試合場へ。
対戦相手はオレよりも先に対角線の向こう側にいた。
オレと同様に革鎧で身を固めている。
だが得物は弓矢だ。
さっき見た戦闘ログで見た中に勝ち上がってきた弓使いは2人いた。
どっちだ?
【識別】してみるとこうだ。
??? Lv.7
ソーサラー 待機中
確定した。
光魔法で幻影を使い、弓矢で戦闘を進めていたプレイヤーだ。
他に弓矢持ちのソーサラーはいない。
このプレイヤーは弓の武技も使っていたし、光魔法だけでなく水魔法も使っていた筈である。
本選第一回戦の相手はトレジャーハンターだったが、その攻撃をかなり回避していた事も分かっている。
恐らくはさっきのオレの試合の戦闘ログも見ているに違いない。
さて、どうするか。
試合場に立つ。
互いに。
礼。
「始め!」
4つの試合場で同時に戦いが始まった。
「メディテート!」「ブレス!」
『ツイン・シュート!』
いつもの武技を使う。
そして飛んできた矢は2本ともオレの肩に命中していた。
だがダメージはさほどない。
新しい革鎧に感謝だ。
用意してあった呪文を選択して実行。
そして相手に向かってダッシュする。
対戦相手は開始位置から動こうとしない。
いや、次の矢を番えようとしているのは見えていた。
恐らく相手も呪文を用意している筈だ。
イリュージョンを先に使うのだろうか?
それでも構わない。
こっちは対抗呪文で地道に抵抗するのみだ。
ダメージを先に喰らう覚悟はできている。
「レジスト・ライト!」
試合場の中央は既に過ぎていた。
次の呪文を選択して実行しながらロッドを下段に構える。
さあ、どう来る?
『イリュージョン!』
やはり使ってきた。
幻影は対戦相手の姿そのもののようだ。
予選で見かけたものと一緒か。
試合場の角から同じ姿の対戦相手が左右に分かれて駆け出した。
どちらかが本物。
どちらかは幻影。
だが構うものか。
オレの左側を駆けていく相手に迫る。
ロッドを跳ね上げて喉元に突きを入れた。
直撃。
そして手ごたえは全くない。
幻影の方だ。
『ツイン・シュート!』
背中で乾いた音がしていた。
どうやら飛んで来た矢は背負っている盾に当たってしまったようだ。
もう1本は腰の辺りに僅かな感触がある。
HPバーは大して減っていない。
距離を稼いだ相手に向かってダッシュする。
無論、本物の方だ。
次の一手は?
第一回戦ではコンフューズ・ブラストだった。
幻影、それに混乱状態に嵌めてから弓矢とウォーター・ニードルでHPを削りに来るのが戦闘スタイルだ。
弓矢によるダメージは捨てるべきだ。
「レジスト・アクア!」
矢が飛んでくるが武技ではなかった。
その1本の矢はオレの革兜を掠めただけである。
呪文を用意しているのだろう。
再び試合場の中央を越えて相手に迫る
『ウォーター・シールド!』
ビンゴ。
オレのレジスト・アクアの前から詠唱していた呪文は水魔法の壁呪文だ。
距離を稼ぐ狙いか。
当然、そのまま突っ込んで相手に迫る。
だがそこには2人の影だ。
さっきの幻影が傍に立っている。
やはり厄介だな、この呪文。
再び左右に分かれてダッシュしようとする様子を見せる。
やらせるか。
オレは手に持っていたロッドを右の方の相手に投げつけた。
ロッドは相手を通過してしまう。
即座に左の相手に向けてダッシュして迫る。
矢を番えて放ってくるが構うものか。
足元に蹴りを放った。
蹴りはまともに命中して相手は転んでしまう。
無防備になったその一瞬。
相手の右足首を掴む。
そのまま持ち上げるようにオレの左脇に抱えて爪先を脇で固定した。
左腕そのものを使って踵を内側へと捻る。
スタンディングでのヒールホールドだ。
『ッッッッッッ痛ッ!』
声になりそうでいて声にならない悲鳴が聞こえた。
捻られた痛みから逃れようと体を回転させないように右足で相手の左足を踏み付けた。
踏み付けた場所は膝の辺り。
ヒールホールドを続けながら股裂きも追加してやろう。
こっちの位置もいい。
サブウェポンにナイフを取り出すようなら容赦なく踵を捻ってやる。
『イヤアアアアアアアアアアアアッ!』
幻聴だろうか。
女の子の悲鳴が聞こえる。
え?
あれ?
『やめてやめてやめ痛い痛い!この格好何?もうヤダやめてヤダいや助けて犯されるうううう!』
あれ?
もしかしなくても女の子?
革兜に隠れていて分かりませんでした。
胸も目立たないし。
『やだもうこの強姦魔!誰かあああああああ助けてえええええ!』
相手はナイフを抜くような様子はない。
両手で必死に股間を隠そうとしているようだ。
必死になってもがいているようだが、暴れるともっと痛いですよ?
それに何なの、この気持ち。
オレが悪人みたいじゃないの。
釈然としない。
「あのー降参しますか?」
あまりの様子にヒールホールドを少し緩めて話しかけた。
途端にオレを睨み付けてくる。
呪文詠唱しているのが聞こえた。
ああ、そう。
踵をもう一度極めると詠唱は途切れて悲鳴に変わった。
『なによもうこれなんなの?痛い痛いって!それにこの格好なにやめてやめ痛いって!』
「降参、します?」
『なによこの強姦魔!女にこんな恥ずかしい目にあわせるなんて人でなし!死ね!』
なにい?
ちょっと血圧が上昇したぞ。
極めていたのをまた緩めていたんだがその必要もないんだろうか。
ヒールホールドを極めて話せなくしておかないとオレの心の傷がどこまでも深くなりそうな気がする。
ギブアップ、してくれませんかね?
話はそれからだ。
《試合終了!戦闘を停止して下さい!》
《本選準々決勝戦に進出しました!準々決勝戦は本日午前11時00分、新練兵場C面の予定となります》
《二回戦突破によりボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で11ポイントになりました》
結局、対戦相手の彼女が降参を認めたのはどれほど後の事であったのか。
あまり思い出したくない記憶になった。
口撃でオレの心がズタズタです。
確かに勝ちはしたんだが釈然としない。
第一回戦の相手も女性だったがここまで気分が凹む事はなかったのに。
この第二回戦は酷い目にあった。
彼女は降参した後、オレの目の前で泣き出してしまった。
そしてオレは会場全体からブーイングを受けたのだ。
え?
オレが悪者なの?
それに革兜を外して涙を拭く対戦相手の彼女を見て驚いた。
凄い美人、なのだろう。
泣いてさえいなければ、であるが。
それだけにオレの好感度は急降下な訳だ。
周囲のブーイングが更に高まっていた。
もう挨拶どころではない。
試合場に一礼すると控え室に逃げ帰りましたよ。
控え室にはこれから試合をする予定のプレイヤーが3人いるだけだ。
視線が痛い。
彼らは純粋にオレを値踏みしていたのかもしれないが、今のオレには酷く痛い。
犯罪者を見るような目、じゃないですよね?皆さん。
被害妄想なのだろうけどさ。
とてもじゃないが戦闘ログを見返す所ではなくなっていた。
次に控え室へ戻ってきたのは例の斧持ちだった。
恐らくはランバージャック。
そしてもう1人が戻ってきた。
こっちはスタンダードな格好の戦士だ。
剣に盾、それに金属プレートで強化してある革鎧である。
彼らが戻ってくるのと入れ替わりで控え室にいた3人のプレイヤーが試合場へ向かう。
広い控え室に3人。
互いに視線を合わせようとしない、不自然な雰囲気がそこにはあった。
戦闘ログを見て時間を潰す。
とは言っても冷静でいられなかった訳だが。
暫く経過するとプレイヤーが戻ってきた。
つまり勝ったってことだな。
槍持ちの戦士だ。
その戦闘ログもさっきまで見ていたから戦闘スタイルは概ね分かる。
この相手も1対1だと厄介だ。
そして少し経過するともう1人が戻ってくる。
こっちは典型的な魔法使いだ。
この控え室を一緒に出た3人のうち1人は戻ってこない。
そして公開戦闘ログを見ると、第二回戦が全て終わっているようである。
準々決勝に進出した8名のうち5名がここにいる訳か。
つまり、ここにいる8名のうち2名は確実に対戦する事になる訳だが。
雰囲気が凄い事になっている。
リラックスできない控え室とか控え室の意味が半減じゃね?
「申し訳ありませんが試合予定時刻を早めます!準々決勝の4試合は同時開始となります!」
「出場者は全員試合会場に職員がご案内します」
控え室に来た5人の職員さんがそれぞれ担当であろうプレイヤーに声をかけていく。
「キースさんですね。会場までご案内します。どうぞ」
「はい」
オレはわざとゆっくりと立ち上がる。
なんとなくだが試合会場に行きたくない。
ブーイング、あるんだろうなあ。
試合会場にオレを含めて5人のプレイヤーが立っていた。
少し遅れて3人のプレイヤーがオレ達がいた控え室の反対側から出てくる。
その数は3人。
銛を手に持って投網を背負っている漁師。
弓矢を背負ったエルフ。
岩石の塊のようなドワーフ。
これがベスト8か。
オレだけがなんか浮いているのは気のせいだろうか?
試合会場からのブーイングはなかった。
拍手で迎えられていた。
貴賓席を見るとギルド長と師匠が並んで観戦している。
天下泰平で結構な事で。
酒でも飲んでるようならオレは本気で怒っていい。
拍手が一段落するとそれぞれ、4面ある試合場へと向かう。
で、オレの相手は?
対角線の先にいたのは。
ランバージャックじゃないですか。
これはヤバい。
第一回戦、第二回戦の戦闘ログはいずれも実に短い。
それだけで打撃力特化、攻撃で押し切っている事が知れる訳だが。
使っている呪文も1つだけだ。
フィジカルエンチャント・ファイアのみ。
予選で見た対ドワーフ戦での戦いぶりも参考になるだろうか。
オレ、ドワーフみたいにタフでもないしパワーもないぞ。
絡め手を使うより他ない。
だが時間は待ってはくれない。
試合開始の瞬間はもうすぐそこに迫っているのだ。
互いに。
礼。
「始め!」
始まってしまった。
「メディテート!」「ブレス!」
相手がダッシュしてくる。
単純明快。
持っている斧は片手で持っているとは思えないほど凶悪なものだ。
改めて見るとデカ過ぎでしょ。
こっちも呪文を選択して実行。
そして相手に向かってダッシュした。
なぜか?
そこにしか活路がないのだ。
大きく斧を振りかぶる右手に向けてロッドで突きを放つ。
体重を、そしてダッシュした勢いも乗せた突きなのにこっちが吹き飛ばされそうなんですが。
だが戦果はあった。
斧の一撃はこない。
改めて構え直して振りかぶる。
恐れるな。
振り下ろされる前に相手の右脇をくぐり抜けるのだ。
斧に向かっていくように前へと走る。
頭を下げて脇をすり抜けた。
右膝裏に蹴りを叩き込んで、更に背中を押すように蹴飛ばした。
ビクともしない。
いや、少しだけ効いてはいるようだ。
HPバーが僅かだが減っている。
それだけかよ。
ダメージはいいから隙が欲しかった。
体勢が崩れてくれたら首を狙いたかったんだが、相手のほうが背が高い。
ついでにパワーが半端なく高いようだ。
スノーエイプ並み?
いや、それ以上かもしれない。
「フィジカルエンチャント・ウィンド!」
基本的な戦術は本選第一回戦と基本的に同じなのだが。
こっちの相手の方が厄介だ。
防御力そのものは低い。
革鎧は恐らくオレの方がいい物を装備している。
だが上回っているのはそこだけだ。
攻撃力は遥かにあっちが上だ。
敏捷度を底上げはしたが、相手はどんどんと距離を詰めて来るだけだ。
呪文詠唱をするだけの時間が果たして稼げるか。
しかも近距離で相手の攻撃を捌きながらである。
地獄のような時間が始まっていた。
『フィジカルエンチャント・ファイア!』
予想通りに筋力値を底上げしてきたか。
再び斧の一撃が迫る。
バックステップで回避。
勢いづいて前に出てくる相手に今度はこっちも突っ込んで脇をすり抜ける。
それが、2度繰り返された。
「フィジカルエンチャント・アース!」
相手は足を広げて腰を落とした。
脇を通さない。
そう語っているようなものだ。
ジリジリと距離を詰めて来た。
それもまた厄介だが。
「ダークネス・ステア!」
呪文は直撃。
だが状態異常は期待しない。
試合場の縁に平行してダッシュした。
相手は?
ダークネス・ステアの状態異常には掛かっていないようだ。残念。
そしてやや遅れながらもこっちに付いてきている。
試合場の中央付近に陣取っているのだからこっちを追い詰めるのも楽だろうね。
こっちの劣勢は変わらない。
だがダッシュしてくれているお陰で脇を抜けることができた。
これも繰り返す事3度。
まるでジェットコースターのような勢いで事態は進んでいく。
「フィジカルエンチャント・ファイア!」
よし。
筋力値を底上げできた。
これでようやくまともに戦えるか?
『樹根断!』
武技だ。
相手は脇を通さない構えで横殴りに斧を振って来た。
第二回戦の相手はこの一撃だけで沈んでいる。
足元へとスライディングしてなんとか回避。
そのまま脇をロッドで突こうとする。
だが次の刹那。
斧を持った右手が戻ってくる。
柄の先がオレの頭に迫っていた。
ロッドを突くのをやめて反射的に受けに回った。
たった一撃でロッドが叩き折られた。
それだけで済まず、頭にも少し喰らったようだ。
クソッ。
呪文で与えたダメージを超えて喰らってしまった。
折られたロッドを手放すと背中のトンファーを手にする。
さて、これでどうにかできるか?
自信など最初からない。
『薪割り!』
今度は大上段から斧が振り下ろされてきた。
これも武技か。
サイドステップで回避するが、やはり斧の柄が襲ってくる。
トンファーを交差して受ける。
蹴りで反撃を加えて前に出た。
戦うべき距離は斧が振れる距離ではない。
もっと近くだ。
戦況は膠着した。
互いに有効打が出ない。
地道にダメージが積み重ねられていく。
呪文?
この殴り合いでは片っ端からファンブルになってしまう。
劣勢かといえばそうでもない。
斧の攻撃をトンファーで防ぎつつ、手数でダメージを積み上げていた。
相手の厄介な所は盾だ。
斧よりも盾でぶん殴られて喰らってるダメージが大きい。
初めて相手の方から距離を置くように引いて行った。
オレも同時に距離を置く。
斧と盾を持ち直すと呪文詠唱を始めたようだ。
ならばこっちも呪文だ。
呪文を選択して実行。
さあ、どう来る?
『ファイア・ヒール!』
ほう。
回復呪文ですか。
「ルート・スネア!」
さて。
オレの狙いは明確だ。
斧で戦っている土俵から降りて貰おうか。
相手はいきなり転がってしまっていた。
そりゃ見えていない上に警戒していないのではそうなる。
転がった相手に襲い掛かる。
斧を持つ右腕に膝を落とす。
手首にトンファーで殴りつけた。
何度も。
何度もだ。
左肘で頭を直撃させたら斧を手放した。
斧の柄を踏むと相手の後頭部にトンファーごと肘打ちを叩き込んだ。
相手は堪らず転がって距離を置いたようだ。
オレは右手のトンファーを左脇に挟むと斧を持ってみた。
片手ではまともに持ち上げる事が出来ない。
なんて物を振り回してたんですか。
それでもなんとか持つと体を回転させて勢いをつける。
そのまま試合場の外へ放り投げた。
これでよし。
相手はサブウェポンを抜いて構えている。
その得物は鉈だ。
樵らしい選択だろう。
今度はこっちから攻勢に出る番だ。
斧を奪った時点で大きな脅威は取り除かれただろう。
そんな風に思っていたのはほんの一瞬でした。
鉈、怖いです。
いや、武器が軽くなった分、向こうも手数が増えているのだ。
それに加えて互いに攻撃の有効距離が噛み合っている。
蹴りは相変わらず当たるのだが、転がる気配がない。
どうにか呪文詠唱を交えて対抗する。
氷魔法の呪文、ディレイは効いた。
おかげで相手の攻撃を捌くのが楽にはなったが、パワーはそのままである。
雷魔法の呪文、パラライズは抵抗されたようだ。
再度トライしてみたが、またも無効である。
何気に魔法に対して抵抗力が強いのか?
光魔法の呪文コンフューズ・ブラストも至近距離から当てたのだが、混乱に陥る様子はない。
そして相手は回復呪文の効果があってかHPバーはさほど減っているように見えない。
持久戦模様だ。
見ればトンファーも結構傷だらけだ。
かなり無理をさせている。
どこまで持久戦に耐えられるか、分かったものではない。
「ファイア・ヒール!」
オレのHPバーもこれで9割を越えた。
持久戦、いいじゃないの。
付き合おうか。
殴り合いは続いた。
鉈の攻撃も受けてみると殴るって表現のほうがふさわしい。
鈍刃とはいえ直撃はさけていても衝撃が響いてくる。
こういっちゃなんだが、鉈の攻撃も何度か喰らっていた。
回復呪文をつぎ込んでいるから収支は合わせているが、油断ならない。
筋力値、どんだけあるんだこの人?
呪文でもダメージを与えたい所だったんだが使えなかった。
呪文詠唱が始まると同時に相手が突っ込んでくるのだ。
それは隙を生む事に他ならない訳で。
ダメージ覚悟で突っ込んでくるとか素敵展開だ。
ヤバいな。
劣勢になりそうな所を支えるだけで精一杯なのに。
笑いそうになっている。
そしてミスが生まれた。
お互いにとって大きなミスだ。
鉈の一撃をトンファーを交差して受けたんだが、鉈の刃がトンファーに食い込んで抜けなくなったのだ。
これはどっちにとって不幸なのか。
迷うことはない。
トンファーから手を離す。
対戦相手は?
彼も手を離したようだ。
そればかりか盾を投げ捨てていた。
これは。
完全に格闘戦の予感です。
確かにオレの拳は顎を捉えた筈だ。
続いて放った膝の一撃も腹に直撃していた。
だがその直後、オレの体は地面に叩きつけられていたのだ。
投げられた。
恐らくは大外刈り。
そのまま袈裟固めに来る。
腕を取られる前に頭の耳の辺りに肘を当てて押す。
左腕を取りにいったら体を反転してきた。
いや。
足が飛んで来たのだ。
オレの頭を両足で抱えようとしているのか。
これは三角絞めか?
ロックされる前に腕を抜いて離れようとする。
そんなオレの懐に入ってくる。
今度の投げ技は内股だ。
こいつ、間違いない。
柔道をやってるな?
打撃戦は続いた。
隠し爪も使っては見たが途中であきらめた。
拳を握ったままだと相手の仕掛ける技に対応するのが難しいからだ。
隠し爪を手放し顔面にパンチを放つ。
同時に右足へタックル。
踏ん張る所へ肩車で投げ飛ばした。
その一瞬。
相手が背中を見せた。
後ろから首に腕を回して裸絞めを仕掛ける。
いける。
ロックが極まる瞬間、オレの腕が止まった。
後頭部に回そうとしていったオレの左手が剥がされそうだ。
完全に極まりきっていない。
クソッ、惜しい。
呪文を選択して実行。
だがその呪文詠唱はファンブルになった。
ロックしていた腕が力で剥がされ、オレの顔面に頭突きが直撃していた。
「ッッテ!」
互いに立ち上がる。
右の直突きを放つ。
交わされた挙句、そのまま体落としが来る。
刈り足を飛び越えてオレも体を反転させた。
両手で相手の腰を抱える。
裏投げ。
だが相手もまたオレを掴んだ手を放そうとしない。
互いに転がった。
先に優位な体勢を築いたのはオレの方だ。
マウントポジションを確保して殴ることができてたんだが。
これが力だけでポジションを失ってしまったのだ。
どんだけパワーに差があったらそんな事ができるのか。
足関節技も仕掛けた。
だがこれも力だけで引き剥がされた。
ダメージを喰らうのも構わずにである。
これでもダメか。
残り時間は?
もはや分からない。
さっきから殴り合い、投げ合い、極め合いの繰り返しだ。
既にフィジカルエンチャントの効果が全て切れている。
つまり15分以上は経過している訳か。
さすがにこれはキツイ。
MPバーには余裕があるのに呪文が使えない。
いや、ようやく呪文詠唱が成功していた。
逆転の一手になればいいんだが。
「ブランチ・バインド!」
オレの右手から枝葉が伸びて相手を拘束しようと蠢く。
どうだ?
枝葉が相手の全身を覆う様子を確認すると、次の呪文を選択して実行する。
動けなくなった相手に蹴りをいれようとしたんだが。
絡み付く枝に構わずこっちに迫ってきていた。
そんな無茶な。
枝葉が絡みながらの寝技に移行する。
もうね。
どうしたら決着がつくんだよ。
相手の袈裟固めをなんとか逃れて再び立ち上がる。
また殴り合い、投げ合い、極め合いだ。
互いの防具のせいでHPバーの減りは思ったほどない。
ギリギリの攻防が続いていった。
《試合終了!戦闘を停止して下さい!》
《試合時間終了、判定により敗北となりました》
いつのまにか決着は判定になったようだ。
オレの脳内で敗北を告げるインフォが鳴り響いていた。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv8(↑1)
職業 サモナー(召喚術師)Lv7(↑1)
ボーナスポイント残11
セットスキル
杖Lv6 打撃Lv4 蹴りLv4 関節技Lv4 投げ技Lv4
回避Lv4 受けLv4 召喚魔法Lv7
光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv4 水魔法Lv4
火魔法Lv3 闇魔法Lv3 氷魔法Lv1 雷魔法Lv1
木魔法Lv1
錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv3
連携Lv6 鑑定Lv6 識別Lv6 看破Lv2 耐寒Lv3
掴みLv5 馬術Lv5 精密操作Lv6 跳躍Lv2
耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv3 精神強化Lv3
高速詠唱Lv2
装備 カヤのロッド×2 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
ステータス
器用値 16(↑1)
敏捷値 15
知力値 20
筋力値 15
生命力 15
精神力 20
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv6 お休み
残月 ホースLv4 留守番
ヘリックス ホークLv4 留守番
黒曜 フクロウLv4 留守番
ジーン バットLv4 お休み
ジェリコ ウッドゴーレムLv3 お休み
護鬼 鬼Lv2 お休み




