表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
613/1335

613

 試合会場は3箇所。

 同時に開始のようだ。


 まあそれは、いいのだ。

 今は対戦相手を観察する事に集中したい。


 先鋒は誰だ?

 馬上槍が出てきたらどうしよう?

 流儀で言えば双角猛蛇神の騎士槍か?

 騎乗もしていないのに?

 あんなの、オレだけで扱い切れる代物ではない。

 無いな。


 それに、気になる。

 馬上槍を持っていたプレイヤーはトルーパー。

 異彩を放っている。

 ドラゴントルーパーを狙っているのかな?

 雛壇にそのドラゴントルーパーがいるけどね。

 しかもドラゴンナイトだっている。

 目指すのは自然な流れであるのだろう。



 対角線上で礼をする。

 先鋒はどうやらトルーパー。

 いいぞ。

 オレの日頃の行いが良かったのだろう。

 そう信じたい。


 問題は、得物だ。

 何がいいかな?

 何にしよう?


 長柄であるのは間違いない。

 双角猛蛇神の騎士槍よりも間違いなく長い。

 あの間合いに対抗する方法はある。

 亜氷雪竜の投槍だ。

 それに天沼矛。

 ダメだ。

 楽しくなさそう。



 いっそ殴る蹴るでどうだ?

 相手は金属製の鎧兜ではなく、革製であるようだし。

 槍の間合いの中に飛び込めばどうにかなるかな?


 いや、待て。

 片手に馬上槍なのは、いい。

 盾まで持ち出している。

 益々、どんな戦闘スタイルであるのかが分からない。


 こうなったら最も身近な得物にしてみよう。

 神樹石の杖で行こう。



 互いに。

 礼。



「始め!」


 さあ、どんな戦い方を見せてくれるんだ?

 見せてくれ。

 何か工夫がある筈。

 きっとだ。



「真降魔闘法!」「エンチャントブレーカー!」


『シールド・ラッシュ!』


 ほう。

 武技で距離を詰める速攻スタイルかな?

 それはそれでオレ好みだ。



「メディテート!」「ブレス!」「インテリジェンス・アタック!」


『シールド・ラッシュ!』


 武技を継ぎ足して更に前へ。

 なんとなく、嫌な予感がします。

 確か、シールド・ラッシュは盾の武技であった筈。

 腰溜めに馬上槍を固定したまま、こっちに迫るトルーパー。


 まさか。

 いや、間違いなく馬上槍で突っ込んでくる気だ!

 盾武技なんて飾りだ。

 こんな手があったのか!



『シールド・ラッシュ!』


 咄嗟に前転して地面に転がる。

 オレがいた空間を何かが通り過ぎた。

 見切れるか、アレ?

 無理。

 無理だって!


 通り過ぎたトルーパーは試合場の隅でどうにか制動、こっちを向いている所の様だ。

 どうする?

 攻めるしかないですな。


 前へ。

 杖で、突くか?

 咄嗟に杖を蜻蛉の構え。

 立木打ち、だな。



「キィヤァァァァァァァァァァァァッーーーーー!」


 猿声。

 蜻蛉の構えと逆蜻蛉の構えを交互に繰り返しながら、撃つ。

 撃つ。

 撃ち込む!

 後退は無い。


 盾を前面に構えるトルーパー。

 構わん。

 受けたければ受けるがいい。

 当方は一向に構わん。


 馬上槍を再び腰溜めにしようとするけど構わない。

 撃つ。

 撃ち続ける。



「キィヤァァァァァァァァァァァァッーーーーー!」


 猿声も続く。

 立木打ちとはそういうものだ。


 気がつけばトルーパーが膝を折っている。

 こら、立ちなさいって。

 まだまだ試合は始まったばかりですよ?






《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 おかしい。

 オレの目の前にいるのはボコボコのトルーパー。

 こんな酷い目に遭わせたのは誰だ?


 オレだよな。

 自分でやっておきながら実感が無い。

 多分、インテリジェンス・アタックの影響だと思います。

 きっとそうに違いない。


 転がっている馬上槍は柄が曲がってしまっているし。

 ここまで威力、ありましたっけ?

 最近、どうも感触がおかしい事がある。

 

 今の感触、検証すべきか?

 出来ればそうしたいが。


 次の相手はスナイパーになるみたいだ。

 手にする弓は普通の代物ではない。

 弩、だよね?

 そして疑念も残る。

 何で、2つ持っているんだ?

 しかも背中には普通の弓まである。

 面倒な事になりそうな予感しかしません。



 ここは得物を切り替えよう。

 亜氷雪竜の投槍を持ち出してみるか。

 お願いだから、一発で沈まないでね?









《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 シェルヴィの所のチームだが、普段のパーティのままの出場であると思う。

 以前、見た時は防御を固めてからの反撃を基本としていた。

 堅実過ぎるように見えたものだ。


 それが勝ち抜き戦になると一転、全員が攻勢に出ている。

 後衛だけではない。

 壁役である筈のガーディアンもだ。


 どうもオレのHPバーを着実に削る事を狙っているようです。

 実際に現在、残り7割まで削られている。


 ここまで回復呪文は一切、使っていない。

 それでいて7割、か。

 今回の闘技大会、ここまでで最も減っていると思う。

 以前の防具だともっと減っていただろう。

 戦いそのものは楽しめる展開だったか?

 ある意味では、楽しめた。

 嫌がらせに近い戦い方の連続だけど、それでいいと思えるのです。


 次鋒のスナイパーは連装の弩を撃ち終えたら徹底的に逃げ回りながら矢を撃ち込み続けた。

 次のガーディアンは盾を前面に押し出して徹底的な体当たり。

 その次のエレメンタル・マグス『土』はマジック・フォートレスを築いての持久戦。

 今のスカウトリーダーもスナイパー以上の速度で逃げ回りながら矢を撃ち込んで来た。


 徹底して自らの土俵でしか戦っていない。

 きっと最後のガーディアンも同様だろう。

 そのガーディアンはシェルヴィ。

 対角線上で対戦を待つその姿は女性とは思えない体躯だ。

 その鎧兜も金属製であるらしく、コツい。

 もう1人のガーディアンの鎧兜とお揃いだ。

 そっちは神樹石の杖で殴り続け、どうにかしたけどね。

 シェルヴィの場合、盾が異なっている。

 方形の盾は異様に大きい。

 手にする得物はメイス。

 但し、オレの目が確かなら重棍に相当するであろう威容を誇っていた。


 半端ではない。

 体当たり一辺倒で終わる予感がしません。


 神樹石の杖で対抗するか?

 いっそ腐竜王のメイスを使うか?

 亜氷雪竜の投槍にしても一発で仕留められるような防御力ではあるまい。

 相手はまるで要塞なのだ。

 しかも武技を用いたら一気に移動してくるだろう。

 封印術で武技は封じる事は可能だが、問題は近距離でどう攻め切るか?


 オレが選択した得物は断鋼鳥のコラです。

 間合いは短いけど破壊力は高い。

 普段であれば呪文の強化無しで使わない武器だ。

 武技の真降魔闘法だけで使う機会は殆ど無い。


 それでもこっちでいい。

 力押しが可能な得物でないと、厳しい。

 それは先刻のガーディアンとの一戦で得た教訓でもある。



 対角線上にシェルヴィの姿がある。

 これが最後の試合だ。

 普段通りで。

 それでいい筈だ。


 互いに。

 礼。



「始め!」


 断鋼鳥のコラを肩に担ぐと前へと駆け出した。

 さあ。

 思いっ切り、楽しむとしよう。


「真降魔闘法!」「エンチャントブレーカー!」


『シールド・ラッシュ!』


 やはりか。

 シェルヴィもこっちに突っ込んで来た。

 鉄の塊のような有様の重装備の戦士が滑るようにこっちに迫る。

 異様だ。

 そして恐怖も感じる。


 だが。

 もっと強烈な相手と戦って来た経験がオレにはある。

 大丈夫だ。

 恐怖をも楽しめているうちであれば、きっと大丈夫だ!






「チェァァァァァァァァァァッーーーーー!」


『ッ!』


 断鋼鳥のコラとシェルヴィのメイスが激突している。

 いや、受けられている。

 恐ろしい選択だ。

 シェルヴィは盾でオレの斬撃を受けに来る様子が無い。

 メイスで受けている。

 盾は?

 殴打武器にして使っていた。

 面白い。

 役目を逆転させている理由は、何だ?

 恐らくはここまでの戦闘を見た上での選択なのだろう。


 盾で受けに回ったら、受け続ける事になりかねない。

 問題は視野が狭くなる事であるのだ。

 相手の動きを把握出来なくなるのは、怖いからな。

 オレが盾を使わない理由でもある。



「シッ!」


『フンッ!』


 メイスを撃ち落とした所で肩から体当たりを喰らわせている。

 それも盾で受けてくれない。

 やはり徹底している。

 自らの利点を活かしたまま、戦い続けるつもりだな?


 オレにはもう一つ、狙いがある。

 接近戦。

 打撃も蹴りも重装備の前に通じそうも無い。

 だが、投げは?

 関節技は?

 相手は前衛の壁役、簡単ではないけど、そこは工夫次第。

 邪魔であるのはメイスと盾だ。

 大きなモーションで動く事が無い。

 それは隙が少ない事も意味している。


 シェルヴィの攻撃は?

 凌げている。

 動きを小さく、そして細かくしているから威力的には物足りない。

 オレにしてみたら痛し痒しだ。



 少し、仕掛けてみるか?

 対戦時間は短い。

 そしてダメージ量ではこっちがまだ不利。

 より積極的に攻めるべきなのは、オレの方なのだ。



「ッ!」


『!?』


 盾が頭上を通り過ぎる。

 回避しつつ、盾を持つ左脇を狙う。

 断鋼鳥のコラを押し当てて、引いた。

 だが、ダメだな。

 可動部も網鎖でガードしてあって、思っていたようなダメージになっていない。

 いい鎧だ。

 オレには間違いなく、重過ぎるけどね。



「キィヤァァァァァァァァァァァァッーーーーー!」


『ヌンッ!』


 再びメイスで受けられた。

 お互いの得物が大きく弾ける。

 予測の範囲。

 問題は、この後だ!



「ムンッ!」


『ッ!』


 盾がオレの腹を殴りに来た。

 避けたい一撃だが、腰を落として敢えて受ける。

 ダメージを喰らうのと引換えに得た攻撃機会!


 側頭部に断鋼鳥のコラが直撃。

 モーションを小さくしてたから、弾かれてしまっていた。

 だが、与えたダメージの収支ではオレの方にプラスか?

 そうでないと困る。



『ヤァッ!』


 盾そのものがオレを襲って来る!

 その盾を蹴るようにして、後方へ跳ぶ。

 間合いを取れるか?

 いや、その間合いを潰すように突進して来る。

 武技ではない。

 封印してあるからな!

 それでも恐ろしい勢いだ。


 だが、その攻撃ではこっちが見えていないだろう。

 僅かであるが、勝機?



「キィヤァァァァァァァァァァァァッーーーーー!」


 蜻蛉の構えから盾の上縁に向けて、撃ち降ろす。

 その感覚は軽い。

 だが戦果は十分だろう。

 シェルヴィの方形の盾が真っ二つになっていた。



『ッ!』


 この試合で始めて、メイスが攻撃に転じたか?

 必殺の威力を込めたであろう一撃が腰に撃ち込まれようとしていた。

 だが。

 モーションが、大きい。


 切っ先を跳ね上げる。

 メイスの柄頭に直撃。

 そのまま脇を抜けつつ、膝裏を蹴った。

 バランスを崩すシェルヴィ。

 更に追撃で肩から体当たりをすると、呆気なく地面に転がってしまった。


 狙ったのはメイスを持っている腕。

 腕挫十字固めだ。

 一気に腕が伸びるかに思えたが、直前に両手を組んでディフェンス。

 力勝負?

 そんな事はしません。

 そもそも体格でこっちに不利なのだ。


 シェルヴィの右腕は脚の間に挟んだままだ。

 膠着するか、と思ったんだが立ち上がろうとするシェルヴィ。

 ふむ。

 でも転がすけどね。


 右足だけを外してシェルヴィの右足を刈る。

 立ち上がろうとしていたシェルヴィだが、今度は前へと転んでしまう、

 いや、片膝でどうにか堪えたか?

 予想外です。


 片脚を外したのだ。

 腕挫十字固めは断念。

 お互いの肘を組んだ形のまま、折り畳んだ腕を左脚で決める。

 キーロック。

 単純な肘関節への痛め技だ。



『クッ!』


 立ち上がろうとしていた所でオレの全体重も加わっていたのだ。

 かなり厳しい入り方になっている。

 痛みに耐えられず、腰が落ちた。


 シェルヴィの左手が動く。

 オレの左脚をどうにかしたいのだろうけどね。

 この体勢からだとかなり厳しいよ?






《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 シェルヴィは結局、時間切れになるまで粘った。

 惜しい。

 キーロックの外し方を知っていたらもっと接戦になっていただろう。


 HPバーの残量では大きな差になった。

 まあそんな差はどうでもいい。

 重装備、その上でメイスと盾を自在に使いこなす様子は動く要塞であるかのようだった。

 そんな相手に挑む機会は確かにある。

 だがシェルヴィはプレイヤーだ。

 一様な戦い方では無くなる。

 それが面白い。


 メイスで受け、盾で攻撃をするスタイルか。

 あると思います。

 実際に戦ってみると体格差もあったし、攻略の糸口を見出すのに時間が掛かってしまったように思う。

 いい勉強になった。




《本選第七回戦、決勝戦に勝利しました!おめでとうございます!》

《優勝によりボーナスポイントに5ポイント加算されます。合計で56ポイントになりました》


 何故だろう。

 最近は一気に5ポイントを貰える機会が無い。

 これは地味に嬉しいですな。



『粘ってはみたけど判定狙いじゃダメねえ』


「そうだったの?いい戦い方だと感心してたんだけど」


『盾で視界が遮られるのが怖かっただけよ、あれ』


「へえ」


 オレが痛めつけていた右腕を抱えるようにしてシェルヴィが立ち上がる。

 周囲は拍手の渦。

 オレに、ではなくシェルヴィへの喝采であるように思えます。


 右腕が使えないので左手で握手。

 その左手首を掴むと上に掲げた。

 そしてシェルヴィの周囲をぐるりと回る。

 拍手は鳴り止まない。


 最後に雛壇に向けて一礼。

 これで終わりか?

 今日は色々なタイプと戦えて面白かった。

 でも、もう少し楽しみたい気持ちがある。


 そう。

 まだまだ楽しめる。

 そしてオレ自身、まだ鍛錬が足りていないようにも思えた。

 実戦だ。

 体がもう新たな戦いを求めている。





「単独で勝ち抜けてくるとはの」


「はあ」


 師匠は呆れ顔だ。

 ギルド長もジュナさんも面白がっている様子だが。

 ゲルタ婆様は普段通りの鉄面皮。


 そこまでは、いい。

 オレを不安にさせる存在がいる。

 竜騎士プリムラだ。

 異様な視線が飛んで来る。

 戦いたがっているようにしか見えないのですが。



「褒美を、と思ったがお主ではな。後日、別の物を用意した方がええじゃろ」


「えー」


「そんな顔をするでない」


 ギルド長はそう言いますがね。

 以前に貰ったのはアレキサンドライトであった筈。

 今回はそれ以上の褒美を期待していたんですが。


 隣のシェルヴィ達にはサビーネ王女が何かを授与している様子が見えている。

 小さな袋だが、何だろうね?

 オレの気分は?

 お年玉を貰い損ねた心境です。



「明後日の朝、ワシの家に来るがいい」


「師匠?」


「それにジュナ様から話は聞いておるな?その件でも話があるのでな」


 師匠。

 意味深な発言ですが。

 名前持ちのドラゴンはスルーさせて下さい。

 明らかに力量不足です。

 出来れば名前持ちの魔人を掃討するとか、そっちでお願い! 




「さすがはオレニュー様の弟子ですね、お見事でした」


 サビーネ王女と握手しながら軽く一礼。

 熱視線が気になる。

 竜騎士プリムラはシェルヴィをも上回る体躯。

 隣の竜騎士ラーフェンも大きいのだが、霞んで見える。

 何だか遠近感がおかしい。

 間に入っているサビーネ王女が子供みたいだ。



「戦い方を拝見してますと、ジュナ様の弟子のようでもありますね」


「恐縮です」


 どう応じろと?

 差し障りの無い応答にするしかない。

 ジュナさんのニヤニヤ笑いも気になってしまうよ!




 闘技大会は終了、か。

 中々、面白かったが魔人の襲来は無かった。

 ちょっとだけ期待していたのは内緒だ。


 さて。

 時刻は午後1時50分だ。

 まだまだログアウトするには早過ぎる。

 これからどうしますかね?

 師匠の家に呼ばれたのは明後日の朝だ。

 余裕は十分にある。


 そうだな。

 フィーナさんの所に顔を出そう。

 色々と買い込んでおきたいし。





「あ!キースさん!」


「優勝、おめ!」


「ども」


 屋台裏は人で埋まっている。

 生産職の面々もは当然いるけど、アデル達やヒョードルくん達もいる。

 紅蓮の姿も見えた。

 それにこの匂い、肉が焼いているな?

 しかも金耀猪の肉であるようだ。



「おいで、おいで」


 マルグリッドさんが手招きしている。

 無論、オレではない。

 ヴォルフ、それにナインテイルがマルグリッドさんの両脇に飛んで行く。

 お前達、釣られ過ぎ!



「サモナー系プレイヤーの交流会はあるんだっけ?」


「前夜祭の分は終わってます!で、これから、後夜祭、というか会場の片付け?」


「それにキースさんには別のお願いもあります」


 イリーナの表情が硬い。

 何だ?



「色々と悩んだんですけど、召喚モンスター関係についてデータをまとめているんです」


「ほう」


「キースさんにも協力して欲しいんですが」


「あー」


 そうか。

 協力するのはいいんですけどね。

 今、全ての召喚モンスターが手元にいない。

 ポータルガードを召魔の森に残しているのです。

 それに海方面が困る。



「それはいいけど。時間は大丈夫か?」


「平気です」


 ふむ。

 まあ、いいか。

 召魔の森の存在は何となく、知れ渡っている。

 その詳細もゼータくんも知っているのであるし、アデルやイリーナに知られても問題なかろう。

 ポータルガードで配備している面々も一気に見せる事が出来るし。



「じゃあ海からにしようか」


「海、ですか?」


 イリーナと春菜、それに此花の視線が交錯する。

 その先にいたのは?

 駿河と野々村だ。

 周囲には人魚系の召喚モンスター達。

 うん。

 何を言いたいのか、分かる気がします。



「同行していいですか?」


「あ、こっちも行きたい!」


 いかんな。

 大所帯になりそうな予感がする。

 まあいいけどさ。




「フィーナさん達はこれから拠点に?」


「そうは行かないみたい。指名で依頼があるのよね」


「指名、ですか?」


「冒険者ギルドと商人ギルドの連名。断る手はないわ」


「何を、でしょう?」


「それをこれから聞く事になるのよね」


 連名での依頼、というのが少し気になったけど、生産職の面々とはここで分かれる事にした。

 同行するのは?

 サモナー系プレイヤーのいつもの面々だ。

 アデル、イリーナ、春菜、此花。

 ヒョードルくん、ヘラクレイオスくん、ゼータくんに駿河と野々村。

 そしてサモナー系ではないプレイヤーもいる。

 紅蓮だ。

 召魔の森の存在を知られても大丈夫か?

 今更だな。

 フィーナさんみたいに既に察している可能性だってあるのだ。



「じゃあ海からだな」


「海!」


「海はいいぞ!」


「それ、意味が違っていると思います」


 駿河と野々村がイリーナに突っ込まれている。

 相変わらずだ。

 海でどんな様相になるのか、容易に予想出来てしまいます。





《条件を満たしていないプレイヤーがいます!呪文は失敗となりました》


 ユニオンを組んでテレポートで跳ぼうとした先は空魔監視所の中継ポータルだ。

 これが失敗。

 天空マップに行くには条件があるようだ。


 心当たりは、ある。

 N9マップで登った巨木だ。

 アレを省略するのは許さない、という事だろうか?


 まあ、いい。

 海は他にもある。

 海魔監視所の中継ポータルに跳ぼう。

 あそこであればプレイヤーの耳目はまだ少ない筈だ。



『キースさん?』


「うん?ああ、問題ない。跳ぶぞ」


 春菜の問いかけを適当に流しつつ、テレポートの呪文を使う。

 さて。

 海対応の召喚モンスター、か。

 ちょっとだけ頭が痛いけど、まあどうにかなるだろう。




 海魔監視所の中継ポータルに到着。

 かつてあった頭上の積乱雲はない。

 快晴だ。


『もしかして、海中になりますか?』


「そのままでいいよ。手はある」


 そう。

 海中に行く必要は無いのだ。

 プリプレグがいる。

 この人数でも余裕ですな。


 ヴォルフ、護鬼、ナインテイル、モジュラス、清姫は帰還だ。

 まずはプリプレグを召喚しましょう。



『え?』


『デカッ!』


『なんじゃこりゃぁぁぁッ!』


 反応は様々。

 でもね。

 海中ではこのプリプレグも真っ青な大きさを誇る魔物がいるのです。



『アスピドケロンって。アーマードシェルのクラスチェンジ先ですか?』


「まあね」


 ゼータくんはアーマードシェルが配下にいた筈だ。

 そう遠くない時期にアスピドケロンも増えるかもしれませんな。



「上陸したら沖に出るから。戦闘は心配ないよ」


『へ?』


『周囲を泳がせるのは大丈夫ですか?』


「大丈夫。離れ過ぎじゃなければね」


 駿河と野々村は侍らせている人魚系召喚モンスターをそのまま海に行かせてしまった。

 やっぱりか。

 そうなると思ってましたよ。




 全員、プリプレグの甲羅に上陸したようだ。

 沖に出よう。

 その間に召喚モンスターを加えて行く。

 アプネアとアウターリーフは外せない。

 そしてハイアムスにナイアスを加えました。


 プリプレグの周囲は凄い事になっている。

 人魚系召喚モンスターが隊列を組んでいた。

 ゼータくんのアーマードシェルがプリプレグの右側に並んでいる。

 大きさの差は明白だ。


 左側にはアプネアとアウターリーフ。

 それにハイアムス。

 速度をプリプレグに合わせているから派手な事にはなっていない。

 派手なのは人魚達だ。

 海面を跳ねてます。

 ナイアスはおとなしくしているようだけど、ウズウズしているような様子が伝わっている。

 アウターリーフもだ。

 アプネアはそんな様子は見せていない。

 まあアプネアも海面を跳ねる事は出来るけど、周囲に影響があるからな。

 おとなしくしてくれよ?



「ユニオンは解いていい。戦闘は無いからな」


『無い?』


「まあすぐに分かる」


 それにプリプレグに関しては気になっている事もある。

 オレ自身がログアウト出来るのは確かだ。

 他のプレイヤーも利用出来るのかな?

 出来るとしたら、それはそれで困った事が起きそうですけど。

 まあ、それはすぐに分かるだろう。





「本当に魔物が襲って来ませんね」


「そうだな」


 頭上を軍艦鳥が群れを成して通り過ぎて行く。

 こっちは完全に無視だ。

 まあそれは、いい。


 プリプレグの甲羅上ではオレ以外のプレイヤーのログアウトは不可能でした。

 まあ、そうか。

 黄色マーカーのアスピドケロンとは仕様が異なって当然だ。

 プレイヤーがログアウトしたまま、プリプレグを帰還させたら酷い事になりそうだし。



「それにしても」


「イカにタコのクラスチェンジ先はまだ謎ですね」


「イカで確認出来るのはテンタクルスまでか」


「タコは蛸入道まで、ね」


「キースさん、クラスチェンジ先で心当たりはあります?」


「デスクラーケンかな?イカの姿をしていたし」


 息を呑む一同。

 ああ、そいつは別マップにいるから遭遇はしていないのだろう。

 大丈夫。

 いずれ逢えるよ!



「駿河も野々村も育てているんじゃなかったかな?」


「ええ、まあ」


「全然、育ってませんけど」


「貴方達は人魚系ばかり育て過ぎなのよ」


 春菜の意見には大いに同意する。

 そして駿河と野々村に反省の色は無い。

 徹底してやがる。



「亀はマーシュタートル系が確認終了、よね?」


「フォレストトータス系は?」


「獣亀と霊亀まで、よね?その先は未確認、と」


「マーメイド系はサイレンガードの上がまだかー」


「サイレンクイーンで決定でいいと思うよ?」


「ビッグクラブ系、シースネーク系は簡単に埋まったなあ」


 皆が額を寄せ集めて意見交換をしている。

 こうして整理してみると、オレとしても助かるな。

 何が足りていないのか、再確認になっている。


 まあ今の所、追加したくなる召喚モンスターはいない。

 海関係に関しては、ですけどね。



「じゃあ海から場所を変えよう」


「先刻の中継ポータルですか?」


「ああ。そこからテレポートで跳ぼう」


「え?」」


 得心の表情はゼータくんだけ。

 皆、中継ポータルで確認するものだと思っていたようだ。

 うん。

 オレが拠点としている召魔の森に招待しましょう。

 ポータルガードの面々がいるからな。

 口で説明する手間は出来るだけ省きたいのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やっとネタばらしですね 反応が楽しみ
示現流の剣士が残した抉れた樹木という異様な立木打ちの跡はいつ見ても怖いですね… そんな流派の一太刀を奇声と共に打ち込んでくるサモナーさんに立ち向かうプレイヤーの恐怖はいかばかりか…同情しちゃいますw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ