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「あの、控え室にお食事が用意してあるんですが」


「え?」


「それに次の試合もありますので」


 ありゃ。

 他の試合場の対戦を生で見たかったんだが。

 ダメ?

 先刻まで試合をしていた会場はどうも別階級の試合をする様子だ。

 どうもここにいると邪魔であるらしい。


 仕方ないな。

 仮想ウィンドウでの視聴で我慢しよう。

 控え室にはヴォルフ達もいる。

 長い時間、放置はいけないか。





 控え室には別の職員さんがいて軽食を用意してくれてました。

 まあちょっと豪華な携帯食みたいなものだ。

 見た目は、ですけど。

 だが食べてビックリ、かなり旨い。

 干した果物が複数種類、入っているみたいです。

 干葡萄は分かるが、他のは分からないな。

 どこで売っているんだろう?

 ちょっとだけヴォルフとナインテイルにも食べさせてみた。

 だが、マズい。

 あっという間に食べ終えて、オレが食っている所を見てる。


 見ている。

 凝視してます。

 ヴォルフもナインテイルも行儀良く座ったままだが、視線の先はオレの口元。

 むう。

 何というプレッシャーだ!



「あのー」


「はい?」


「食事が量的に足りないんです、おかわりってありますか?お金を出してでも欲しいです」


「足りなかったですか。持ってきますね」


 職員さんを見掛けたので追加を頼んでみた。

 あるようです。

 食いしん坊な奴、とか思われなかったかな?

 まあそれでもいいけどさ。



 おっと。

 試合、見ておかないと!





 追加の食事の半分をヴォルフとナインテイルにも与えながら試合の視聴だ。

 仮想ウィンドウを3つ使って第五回戦の残り3会場の様子を見るのだが。

 1つに絞ればもっと大きな画面になる。

 でも生じゃないと分からない点が多いし、概要を見たいだけだからこれで十分だ。


 見所は?

 与作の所と漁師兄弟の所だろう。

 先鋒の与作の試合は既に終わってしまっている。

 今はハンネスが試合場にいた。

 相手は二郎か譲二か?

 宗雄であるかもしれない。

 あの3人は装備がほぼ一緒であるし、体格も宗雄がやや小さい程度だ。

 顔が兜で隠れていると見分けられない。


 勝負はハンネスの勝利。

 それで与作の所のチームが勝ち抜けになったみたいだ。

 但し、今の対戦に限って言えば薄氷だったな。

 投網を最後まで使わせなかったのは見事だったけど、銛を何度も突き入れられていた。

 攻撃呪文をメインに相手にダメージを積み上げ、盾を前面にしてダメージを低減。

 ハンネスの戦闘スタイルは実に堅実だった。

 その動きは速いのだし、もっと攻勢に出ても良かったんだろうけどね。

 投網をかなり意識していたのかも?

 東雲が後ろに控えていたのだし、それで終始冷静でいられたのかもしれないな。



 他の試合場でも続々と決着しているみたいだ。

 勝ち残ったのは?

 1つはガヴィとリディアのチームだ。

 対戦相手の刀使いの戦い振りは結局見る事が出来なかったな。

 最初の方で出番があったのだろう。


 もう1つは?

 小さな画面だったけど、分かった。

 顔見知りがいたのです。

 試合終了時に全員が兜を外していたから、分かった。

 重装備の戦士はシェルヴィだ!


 ほう。

 どこのチームと当たるにしても間違いなく実力者になるな。

 構わん。

 どこが相手でも楽しめそうなのは間違いなさそうだ。




 控え室は閑散としている。

 オレと召喚モンスター達しかいないのだ。

 閑散としていて当然だな。


 それはいいとして、試合会場の様子は?

 中級、それに初級クラスの試合をしている。

 4つの試合場で、全部準決勝だ。

 これはこれで楽しめる。

 いや、改めて観戦していると面白い!


 対戦になると傾向が明確に見えてくる。

 確かに攻撃呪文は見た目は派手であるし、効果は高い。

 だが重武装で守りを固めた戦闘スタイルには弱いのだ。

 普段、魔物相手では地味に感じる前衛だが、基本的にタフな傾向が強い。

 守りも固い。

 支援系の呪文で嵌まれば脆い所もあるけど、タフであるが故に中々仕留めるには時間が掛かっている。

 反撃の機会は間違いなく、ある。

 見出せずに敗北する残念なプレイヤーもいるけど。


 無差別級でも基本は共通だ。

 オレの場合【呪文融合】で先制、封印術を使っているから楽に見えているだけだ。

 それに後衛系でも杖があれば対策がある事が明白になっている。

 杖武技、マジック・フォートレスだ。

 動かずに火力で迎撃、対抗するスタイルが出てくると思える。


 まあ、いいさ。

 動かないなら近寄って殴るだけです。


 どこが相手でも戦い方は変えない。

 それでいいのだ。





「時間です、いいですか?」


「あ、はい」


 ヴォルフ達、召喚モンスターを残して試合会場に出る。

 さあ。

 相手は、誰だ?





 ??? Lv.17

 ガーディアン 待機中



 ??? Lv.17

 バトルマスター 待機中



 ??? Lv.17

 ソードマスター 待機中



 ??? Lv.17

 メイズパイロット 待機中



 ??? Lv.18

 エレメンタル・マグス『光』 待機中



 ??? Lv.17

 ウォーロック 待機中



 名前は見えていない。

 でも全員が兜を外していたからな。

 間違えようも無い。

 ガヴィとリディア達、だな。


 彼女達に悪いけど、オレの目がソードマスターを追ってしまう。

 その男性プレイヤーの対戦は見ていない。

 どの対戦も先鋒か次鋒だと見逃しているのです。

 オレも試合中だったから当然だ。


 先鋒で、来い。

 先鋒の筈だ。

 手にしている刀は、間違いなく修羅刀。

 その柄には魔水晶が嵌められているのが分かる。

 これは堪らん。

 剣戟も大好きです、先生!



 対角線上に残ったのはウォーロック。

 男性の魔法使い、だな。

 手にしているのは杖であるのだが、その先端は奇妙な形状でまるで棍棒だ。

 でも殴打武器ではあるまい。

 先端に複数の宝石が埋め込まれているのが分かる。


 杖ですか。

 ならばこっちの選択は、杖で。

 神樹石の杖を手にする。


 さて、問題なのはマジック・フォートレス。

 使ってくるかな?

 接近するまでに攻撃呪文を喰らう事は覚悟すべきであるかもしれません。




 では。

 互いに。

 礼。



「始め!」


 ウォーロックが杖を掲げる。

 呪文詠唱?

 どうもそうではないらしい。


「真降魔闘法!」「エンチャントブレーカー!」


『マジック・フォートレス!』


 やっぱり、それか。

 だが。

 攻撃呪文を放つつもりなら対策はある。

 ディメンション・ミラー。

 だがその前に、より見え易くしておこう。



「メディテート!」「ブレス!」「インテリジェンス・アタック!」


(センス・マジック!)


 視界が少しだけ切り替わる。

 魔力が明確に、見えていた。



『ダークネス・フィールド!』


(ディメンション・ミラー!)


 周囲が闇に覆われる。

 ディメンション・ミラーは不発に終わったか。

 攻撃なら弾くのだが。

 周囲を暗闇にするだけの呪文だ。

 さすがに弾けるような種類の呪文では無い。

 ここは気にせず前へ。

 マジック・フォートレスの利を活かすつもりであるなら、動くとは思えないからだ。

 それに魔力の在り処がちゃんと見えている。

 対戦相手はどう見える?

 杖の先に魔力が収束していくように見えるが、1つではない。

 溜めている。

 何か別の呪文と併用するつもりか?



(ノクトビジョン!)


 闇魔法の呪文、ノクトビジョンで暗視が可能になる。

 暗闇の中だが微かに対戦相手の姿が浮かぶように見えていた。

 さあ、次は何を仕掛けて来るかな?

 何が、来る?



『ピットフォール!』


 足元の床面が、消える。

 ほう。

 こっちが本命か!



『ラーヴァ・フロー』


(フライ!)


 穴の底に落ちる前に呪文が間に合った。

 そして、危ないな!

 溶岩風呂に落ちる寸前だったよ!



(サンシャイン!)


 落とし穴の縁を出ると明かりを点す。

 それにしては派手だけどね。

 攻撃の機会をウォーロックに与えてしまったようだが、気にしない。



『ボールダー・トス!』


 今度は頭上から巨大な岩の塊。

 だが狙いは溶岩風呂に蓋をする事であったようだ。

 オレの後方の落とし穴に落ちてしまうだけに終わる。

 好機。

 まだフライの呪文は有効であるのだ。


 低空を飛ぶ。

 一瞬だけだ。

 サンシャインの光で浮かび上がるウォーロックに迫る。

 あっという間に距離が詰まっていた。

 ローブの奥の表情は?

 驚愕。

 そして恐怖。

 それでいて迎撃の意志。


 いい組み合わせの攻撃だ。

 でも反撃の時間にさせて貰おうか。



『インテリジェンス・アタック!』


 呪文は間に合わない。

 そういう判断かな?

 うん。

 間に合っていなかったと思うよ?



「ッ!」


 杖で、突く。

 まともに腹を直撃。

 そのまま、杖先にウォーロックの体を載せて持ち上げる。

 そして、後方へと投げ落とす。

 動きが止まった所で再び腹に杖先で突く。


 完全に動けなくなってしまったようだ。

 もしかして、気絶してます?



《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 うむ。

 中々、緊張感があったな。

 だが、まだ1人目。

 まだまだ、楽しめる要素があるだろう。


 次の相手は?

 どうやら、ソードマスター。

 修羅刀を持つ相手ですね?

 いいぞ。

 刀が相手であるなら、こっちも刀だ。


 断鋼鳥の刀を選択しました。

 間合いで言えば修羅刀に対して不利なのは承知している。

 でもね。

 呪文の強化を前提としないのであれば、間合いの長い修羅刀は負担が大きいのです。

 切っ先を思うがままにコントロール出来る得物、となると適度な重さも要る。

 断鋼鳥の刀でちょうどいいだろう。



 互いに。

 礼。



「始め!」


 修羅刀を抜き放つソードマスター。

 その刃身に雷撃が走っている。

 おお!

 これは剣呑な!

 だがそうでなくては面白くない。



「真降魔闘法!」「エンチャントブレーカー!」


 オレも断鋼鳥の刀を手にして前へ。

 さあ、オレを楽しませてくれ。

 きっと手強い。

 そうに違いないのだ。






『抜き胴!』


「ヌンッ!」


 横合いから鋭い一撃。

 だが柄頭を足裏で抑えて防ぐ。

 こらこら。

 武技を繰り出すにしても、タイミングがなってない!

 いや。

 普段から武技に頼ってませんか?

 確かに武技は便利だろう。

 でも通常の攻撃も織り込んで繰り出さないと単調になる。

 それではいけません。

 対策が容易なのだ。



『兜割り!』


 それも、ダメ。

 大上段からの一撃。

 だが軌道が分かっているからな。

 こっちも返し技で対抗し易いのだ。


 鎬で擦り上げて軌道を変える。

 そしてオレの方が大上段の構え。

 いや。

 逆蜻蛉の構えに。



「チィェァァァァァァァァァァッーーーーー!」


 思いっ切り撃ち降ろす。

 修羅刀の放つ雷撃の刃身が受けに回っているのが見えた。

 構わない。

 何があろうと、撃ち込む。

 それだけだ。


 断鋼鳥の刀の切っ先は修羅刀の刃身を両断していた。

 そして肩口に喰い込んでいる。


 いかんな。

 そこで何故、両断出来ないのか?

 オレもまだまだ、修練が足りていない。



《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 しかも今の一撃で試合終了とか。

 やり直しを要求する!

 修羅刀はぶっ壊してしまったが、安心していい。

 オレが提供してもいいのだが。


 ダメかな?

 この雰囲気はダメなのだろう。


 既にソードマスターが退場している。

 次の相手は?

 メイズパイロットであるようだ。

 要するに、ガヴィですね。


 肩ベルトに差し込まれているのは投げナイフ。

 腰ベルトに佩いているのは短剣だろうか?

 身の丈に合っていないように見えるローブを肩に掛けている。

 何か、仕掛けがあるのかな?


 面白そうだ。

 短剣同士で、というのもいいかもしれない。

 でも呪魔蛇の小剣はちょっと躊躇する代物なのだ。

 

 断鋼鳥の小刀にしよう。

 それに断鋼鳥のククリ刀だな。

 遠い間合いでは投擲で攻撃してくる事を想定しないといけないだろう。







 対戦の様相は?

 奇妙な展開になった。

 まるで鬼ごっこだ。

 それでも面白い。

 ガヴィの動きは間違いなく、速い。

 真降魔闘法で底上げした程度の敏捷値では追いつけるような速さではない。


 そしてメインで使うのは投げナイフ。

 徹底している。

 【呪文融合】で封印は効かせてあった。

 でもそれは必要無かったかもな。

 お互いに駆け回っている方に注力し過ぎだ!


 無論、呪文で足を止める手段はある。

 グラビティ・プリズンやホーリー・プリズン、ダーク・プリズン。

 アイアン・メイデンもいいだろう。

 ルート・スネアで足元を固定して転がすのは定番だな。

 でも使わない。

 興味があるのは投げナイフが無くなった時、ガヴィがどうするかだ。


 間を空けずに投げナイフが襲って来る。

 ガヴィは器用だな。

 右手でも左手でも正確に投げているのだ。

 オレは?

 右投げだけです。

 左でも投げはするけど、自信は無い。



 だが鬼ごっこもそろそろ、終わりにしようか?

 投げナイフが品切れになった。

 ガヴィの駆ける速度が落ちる。

 封印術の効果が途切れているようで、呪文詠唱をしているのかな?


 でもね。

 そろそろ終わりにしようか。

 時間切れ判定にしたかったんだろうけどね。



「ッ!」


 無言でククリ刀を投げる。

 ローブを貫いて地面に縫い付けた。

 正直に言えば狙いが外れているんだけど、結果的には良かったかな?


 後方からガヴィの上半身を抱えて動きを止める。

 うむ。

 こりゃ小さいわ!


 そのまま頭を抱えて片羽絞めに。

 呪文詠唱はさすがに途切れたようだ。

 そのまま絞め上げて仕留める形に。

 さて。

 対角線に目を向ける。

 残り、3名だよね?






 対角線にいるのは6人目の対戦者。

 エレメンタル・マグス『光』のプレイヤー、リディアだ。

 その対戦の様子は見ていない。

 その前で決着がついていたからだ。


 4人目のガーディアン、5人目のバトルマスターも中々の相手だった。

 真正面から叩き潰しちゃったけどね。

 リディアの場合はどうだろう?

 きっとリディアも手強いに違いない。

 得物は以前と変わらず弓矢がメインのようだが。

 ローブが邪魔で腰に何を装備しているのかが見えない。

 他にもありそうな予感。

 いや、あるという前提で戦うべきだ。


 オレが選んだ得物は?

 神樹石の杖です。

 基本だ。

 遠距離での攻防はこっちに不利だろう。

 攻撃呪文を使うなら話は別だが、そんなつもりは無い。

 封印術は使うけどね。


 他に気を付けるべき事はあるかな?

 事故だ。

 色々と事故が起きて来た過去がある。

 そこは配慮すべきだろうか?


 オレのHPバーは残り9割といった所だ。

 十分だけど、このまま判定に持ち込まれたら敗北するのです。

 当然、勝ちに行かせて貰いましょう。


 試合場の対角線上にリディア。

 どうも緊張しているんだろうか?

 動きが固い。

 まあ向こうの事情を考慮する余裕はこっちには無い。

 仕留めに行くだけだ。



 互いに。

 礼。



「始め!」


 杖を手にして前に。

 牽制予定でククリ刀を右手に抜く。



「真降魔闘法!」「エンチャントブレーカー!」


『スナイプ・シュート!』


 矢は肩に直撃したが跳ね返っていた。

 でも衝撃が残っている。

 牽制?

 いや、クリティカル判定になるような箇所に直撃したら怖いぞ?

 特に目だ。


 リディアは真っ直ぐ、こっちに向かってくる様子を見せている。

 うん?

 ちょっとそれは予想外です。



「メディテート!」「ブレス!」「インテリジェンス・アタック!」


 武技を継ぎ足し、ククリ刀を投げる。

 牽制、のつもりだったんだが。



『ボンナバン!』


 リディアの姿が目の前から消える。

 正面、右、左、どこにもいない。

 いや、絶対にいる。

 後ろだ!


 振り向くとそこにリディア。

 杖を向けて構える。

 おかしい。

 右手にレイピアらしき得物を逆手にして持っている、だと?



『ボンナリエール!』


 一気にリディアの姿が遠のく。

 ほう。

 この戦闘スタイル、ヒョードルくんと一緒か?



((((((八部封印!))))))

((((((九曜封印!))))))


 その武技、禁止で。

 面倒だし。


 だがそれで動きが止まる筈もない。

 ガヴィ程ではないけど、速い!

 またしても鬼ごっこか?

 構わん。

 捕まえてしまえばこっちに有利だ。

 問題はその際に起きる事故かな?


 そこまで気を回す余裕なんて無いです。




 試合場の角でリディアの動きが緩んだ。

 迷ったかな?

 低空タックルで両足を抱えて、地面に倒す。

 リディアの手にはレイピア。

 だがこの距離では突く事は不可能だろう。

 このまま、攻めろ!


 マウントの位置をキープ。

 さて、どうするか?

 そう思っていたけど、リディアの手に短剣。

 オレの目の前に迫っていた!


 体を左に寄せながら短剣を避けた。

 そのまま肩固めに移行する。

 短剣を自在に動かせる筈は無いのだが。

 極め切れていない。

 リディアも必死だ。

 右肘を張って、どうにか凌ごうとしている。

 いや、必死過ぎる!



『ま、まさか嗅いでないでしょうね!』


「え?」


 不謹慎だな。

 まだ試合中だ。

 話し掛けてくるとか、どうしたんだ?



『わ、脇の下よっ!か、嗅いじゃダメよ、この変態!』


「いや、好きで嗅ぐ訳じゃないし」


『それに何なの、この技!さっきもガヴィに抱きついたりしているし!』


「いや、そういう技なんだけど」


 そして少しだけ攻防。

 リディアは何を思うのかね?



『本当に、嗅いでない?』


「いや。臭くないし」


『嗅いでいるじゃないの、もーっ!』


 リディアに言いたい。

 それでは寝技アリの格闘技は何も出来ませんよ?

 三角絞めを喰らってみたらもっと酷い事になりますから!


 この体勢から何を仕掛けたら変態呼ばわりを回避出来るのだろう?

 もう今更であるかもしれない。


 パスガードしてリディアの背中側に回り込む。

 肩固めから片羽絞めに移行する。

 これなら、大丈夫?



『い、息は止めて!耳に息が!』


「あ、悪い」


 長引くと危険だ。

 事故案件になるかもしれない。

 いや、もうなっている。

 絞めをちょっとだけ、厳しくしてみましょう。

 何、絞め技で落ちる時って気持ち良いかもしれませんよ?






《試合終了!戦闘を停止して下さい!》


 うむ。

 これで勝ち抜いたんだよな?

 でもリディアに言われて、気が付いた。

 ガヴィとの一戦だ。

 アレはアレで、傍目から見たら酷い様相だったんじゃなかろうか?


 時、既にお寿司。

 違う。

 時、既に遅し。

 時間は戻る事はないのでいた。




《本選決勝戦に進出しました!決勝戦は本日午後1時00分、新練兵場C面の予定となります》

《六回戦突破によりボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で51ポイントになりました》


 うん。

 ちゃんと勝ってるみたいです。


 雛壇を見るとやはりジュナさんが手を振っていた。

 師匠もギルド長も普段通り。

 サビーネ王女に竜騎士もいる。


 いかんな。

 どう見えていたんだ?

 気になる。

 気になります。



 隣の試合場ではまだ対戦が続いている。

 戦っているのは東雲。

 えっと。

 与作のチームの大将が東雲だったと思うが。

 かなり対戦が進んでいるみたいです。


 相手はガーディアン。

 その姿に心当たりがある。

 シェルヴィだろう。

 相変わらずの重装備だ。

 手にしているメイスは女性が持っていていい大きさではない。


 だが、東雲は生産職と言えど、ドワーフだ。

 所持している槌はまさに鈍器。


 お互いが持つ盾はどっちもボロボロになっている。

 激戦だな。


 だがHPバーの差は明らかだ。

 東雲にはもう余裕は無い。

 対してシェルヴィは8割近くを維持している。

 攻勢に出ているのは東雲だ。

 このままでは敗北必至、当然であるのだが。

 シェルヴィに細かくカウンターを合わせられている。

 いい傾向ではないな。



 試合はそう長く観戦出来なかった。

 そんなに時間を待たずに決着したようだ。

 決勝の相手はシェルヴィの所か。

 そのメンバーはどんな感じなんだろう?



 ??? Lv.18

 ガーディアン 待機中



 ??? Lv.17

 ガーディアン 待機中



 ??? Lv.13

 トルーパー 待機中



 ??? Lv.17

 スカウトリーダー 待機中



 ??? Lv.18

 エレメンタル・マグス『土』 待機中



 ??? Lv.17

 スナイパー 待機中



 前衛3名、後衛3名なのは分かるのだが。

 トルーパーだけが異様だ。

 装備はシェルヴィと同様に重装備。

 しかも手にしているのは馬上槍?

 盾は持っていません。


 これは一体?

 そう言えば別のチームにもいたな、馬上槍を持っていたのが。

 一種の流行?

 まあそれは実際に対戦してみたら分かるのだろう。



 ところで。

 試合時間はもうすぐ?

 控え室に戻らなくていいのだろうか?

 他の試合場の周囲でも初級、中級の決勝戦に出ると思われるチームがいるんだが。



「修復が終了したらそのまま決勝戦になります。こちらへ」


「あ、はい」


 やっぱりこのまま決勝戦に突入か。

 3階級全部、一斉に行う形になるらしい。


 決勝戦の試合場はC面。

 雛壇の前だ。

 恥ずかしい試合内容は見せられないな。

 ジュナさんはいいとして、師匠も見ているのだ。


 でも、戦い方は変えません。

 傍目から見たらつまらないかもしれないけど、オレが楽しめる事が優先だ。


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