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 ログインするといい天気だった。

 さすがに運営も雨にはしないか。


 ベッドの上で大きく伸びをして体の感覚を確かめる。

 今日はもう闘技大会なのか。


 装備を整え、昨日のうちに用意してあった荷物を持ち、師匠の家を出る。

 時間は午前6時か。

 昨日の獲物をレギアスの村で売って朝飯も済ませよう。


 召喚するのは残月、ヘリックス、黒曜の移動優先の布陣だ。

 早速移動しようか。



 レギアスの村の様子は明らかにおかしかった。

 プレイヤーの数は半減とまではいかないものの、明らかに少なくなっている。

 大会恐るべし。



「おはようございます」


「「「おはよう!」」」


 今日はフィーナさんの所はほぼフルメンバーが揃っているようだ。

 屋台裏では武具の手入れをしているリックとレン=レンの姿もある。


「あら?キースは今日から大会予選よね?」


「そうですね。朝飯を済ませたらレムトの町に向かいます」


 フィーナさんがオレの代わりにミオから朝飯を受けとってくれていた。

 恐縮するばかりである。

 朝のメニューは馬肉料理だった。

 明らかにヘヴィー級です。



【食料アイテム】香味馬肉サンド 満腹度+35% 品質C+ レア度2 重量0+

 スライスした馬肉を魚醤と酢とハーブ類で漬け、パンで挟んだ料理。

 非常に腹持ちがいい。



 以前も食べた事があるものだがパワーアップしてる気がする。

 野菜スープと合わせて満腹度は40%超になった。



《これまでの行動経験で【鑑定】がレベルアップしました!》



 うむ。

 美味な上に鑑定もレベルアップか。

 二度美味しいって事だな。


 食事を終えると昨日の獲物を机に並べていく。

 原木が多いがキノコも多い。

 それに少量だが石灰石といった所だ。


「今日からは私達も交替で森の奥に行く予定なの。サキは工房で引き篭りになるけど」


 計算しながらフィーナさんはオレに語りかける。


「遂にですか」


「ええ。謎解きのヒントは揃ったけど、暫くはレベル上げになりそうね」


「キノコとブランチゴーレム相手にですか」


「そうね。あれと連戦して恐らくはボス戦なんでしょ?先は長そうだわ」


「頑張って下さいね」


「勿論。そういえばこの石灰石、あの森の先に行けば拾えるアイテムよね?」


「はい」


「さすがにサモナーって強いのね」


 正確に言えば強いのは召喚モンスターですけどね。

 あそこは今でもジェリコがいないと苦戦必至だろう。


 精算して貰ったが大した金額にはならなかった。

 まあ原木にキノコだけじゃしょうがない。

 むしろ身軽になった事に意味がある。


「では大会に行ってきます」


「がんばってね」


「本選になったら応援するかも!」


 ミオはそう言うが苦笑ものだった。

 本選に進むには5戦連勝が必要なのだ。

 勝率見通し50%で確率どんだけなのかと。


 一礼を残してその場を辞去した。



 レムトの町に到着したのは午前8時少し前といった所だった。

 さすがに練兵場の周囲は混雑している。

 観客用の出入り口は混雑していて目も当てられない。

 NPC多すぎ。

 こんなに人っていたのか。


 運営インフォで貰っていたマップを見ながら出場選手の受付入口に行くと、そこは三々五々といった混み具合だ。

 互いに値踏みするような視線を投げかけている。

 この雰囲気もなんだか懐かしい。


「キースさんですね。まだ試合までには間があります。外へ出るのは自由ですが試合前には必ず控え室に居て下さい」


 冒険者ギルドで見たことのある職員さんに【識別】を受け、ついでに注意も受ける。

 やはり早く来すぎたようだ。


「予選の試合も見たい場合は観客席になりますか?」


「選手は試合会場に自由に出入りできます。隅で見ている分には問題ないでしょう」


「ありがとうございます」


 別の職員さんに控え室に通される。

 見たような部屋だと思ったら射撃場だった。

 オレがこないだまで椅子を作っていた場所だ。

 何故か少しだけ安心する。

 知っている場所というだけなんだけどな。


 控え室の片隅で装備をチェックする。

 メインはカヤのロッド。

 トンファーはサブとして使おう。

 護鬼の装備である盾で隠すように2本とも背負う事にした。

 隠し爪はベルトの小物入れに入れておく。



 試合会場となる練兵場は人で一杯になっていた。

 プレイヤーを示す緑のマーカーは勿論、NPCを示す黄色のマーカーで埋め尽くされる。

 目の前がハレーションを起こしそうになる。



 ん?

 グレーのマーカーが一瞬見えた。

 その人物は観客の中にいた。

 目を凝らすのだが、距離がありすぎてマーカーがグレーである事しか分からない。

 遠目にも何か変装をしてるように見えるのは確かなのだが。


 NPCの衛兵が4人、観客席を移動しているのが見えた。

 そのグレーのマーカーがゆっくりと移動を始める。

 衛兵が一気に囲むように動く。

 彼等の輪が縮まった先は先刻までグレーのマーカーのキャラがいた場所だった。

 オレの目からは既にグレーのマーカーは消えてしまっていた。

 視線が途切れたか。


 どうやら変装しているような輩など、不審者を取り締まるNPCが巡回しているようだ。

 衛兵さん達も大変だな。

 あ、また別の場所にグレーのマーカーが観客席にいる。

 今度はNPCの衛兵に早い段階で気がついたらしく、早々に観客席から消えていった。


 なんだろうな。

 ただ見ているだけでも面白い。

 心の中でNPCの衛兵を応援しているオレがいる。

 開会式はいつの間にか始まっていた。

 ギルド長が雛壇で何やら開会宣言を読み上げる間にも観客席では静かに追いかけっこが展開されている。

 そっちの方が面白いってどうなのよ。


 おっといかんな。

 開会宣言が終わると早速試合が開始となった。

 他のプレイヤーの試合も観戦しておきたい。




 新しい練兵場は8面の試合場を設定していた。

 さすがに全ての試合を一度に見渡してみても意味がないし、そこまで見渡す場所もない。

 2つの試合場を見渡せる場所で壁を背にして観戦することにした。


 一方では戦士同士。

 もう一方では魔法使い同士の試合からだった。

 見取り稽古、というものがある。

 他人の戦い方の中からも実になるものを学ぶ術を一般的に表現するとそうなる。

 ぶっちゃけ、他人の技を盗む事を指す事にも通じるんだが。

 自分にはないもの、できないものを備えた人達の対戦でもそれは無意味ではない。

 仮想敵として、自分ならどう戦うのか。

 イメージ出来る事が大切なのだ。


 どんな試合が展開されるのか、実に楽しみであった。




「キースさんですね。試合開始が迫っていますのでこちらで待機していて下さい」


 運営をしているのであろう職員さんにそう声をかけられてオレの初戦の試合会場に移動になった。

 今見ていた試合も面白そうだったので最後まで見たかったのだが、ここはおとなしく従った。


 予選の試合にはいくつかの共通点がある。

 似た傾向のあるプレイヤー同士をわざとぶつけているのは間違いない。

 闘技大会の案内にもそんな一文があったが、これはこれで楽しく観戦できた。

 互いの長所を競う。

 そういう戦いの連続だ。

 殊に重武装にも見える戦士同士の戦いは10分の試合時間いっぱいを使った熱戦だった。

 互いの長所が同じであればそうなるだろう。

 見えて来るものも多い。

 力量が同等であるのならば、ミスをした方が負けるのは自明の理だ。

 ミスを全く無くすのは不可能に近い。

 より大きなミスをした方が負ける。

 この予選はそういった性格を帯びてきているように見えた。



 時間は9時20分で試合予定時刻の9時30分になっていなかったが、オレの出番が回ってきた。

 試合開始の直前に水晶に手を触れるように促される。

 その水晶を【鑑定】しようとしたが見抜けなかった。

 かなり上位の魔法のアイテムのようだ。

 触るとMPバーが全快になる。

 なんこれ、凄いな。


 おっと。

 驚いている暇はない。

 試合場の対角線側にオレの試合相手らしきプレイヤーがいた。

 典型的な魔法使いの格好をしている。

 予想通りの相手だった。

 先ほどまでの試合のいくつかも魔法使い同士で試合が組まれていた。

 オレの職業はサモナーである。

 魔法使いのカテゴリに入れている事は容易に想像できた。


 と言っても相手が魔法使い、という事が分かるだけでもある。

 どんな属性魔法を得意とするのか、分かる筈もない。

 実際、試合相手を【識別】してみるとこんな感じだ。



 ??? Lv.7

 ソーサラー 待機中



 プレイヤーの名前は分からない仕様のようだ。

 それはいい。

 名前と試合をする訳じゃない。

 さすがにレベル7と高いな。

 どんな相手なのかは分からない。

 どんな手段を使ってくるのか分からない。

 そんな相手は怖いものだ。


 だが向こうにだってそれは同じ事が言える。

 オレが考えていた事は一つ。

 いかに相手の想像を裏切って動くか。

 それだけにした。


 互いに。

 礼。


「始め!」


 中央に立った審判はそう宣言すると試合場から退場した。

 早速、相手は呪文詠唱を開始する。


「メディテート!」「ブレス!」

 大ダメージを受ける事を想定して杖武技を連続して使用する。

 呪文詠唱が必要ないので使わない手もあるまい。

 すぐに呪文を選択して実行。

 既にオレは相手に向けてダッシュしていた。


 40m四方の試合場で開始位置は対角線の端と端だ。

 どう急いでも呪文は一発、喰らうことは覚悟の上である。

 オレの出した結論は至極当然のものだ。

 召喚魔法こそレベル7と高いが、それは封じられている。

 そうなるとオレは使用できる呪文の数こそ多いが、最高でレベル4止まりなのだ。

 呪文の撃ち合いでは不利である。

 ならば呪文の撃ち合いにしなければいい。


「メンタルエンチャント・ライト!」

『ファイア・シュート!』


 相手の攻撃呪文が飛んでくる。

 その前に精神力の底上げにはどうにか成功していた。

 オレの上半身が炎に包まれる。

 熱いよオイ!

 よくも。

 よくもやってくれたな。

 怒りがオレの中で荒れ狂うがなんとか鎮める。

 次の一手だ。


『え?』


 相手は一気に距離を詰めて来たオレの行動を読んでいなかったようだ。

 先端が瘤状になっている杖を掲げて呪文を詠唱しているのだが、その目には狼狽の色が見て取れた。

 カヤのロッドを下段に構えて突撃する。

 間に合うか。

 ロッドの先端を跳ね上げて喉を狙った。


『ッ!』


 詠唱が終わる。

 呪文の詠唱はオレの一撃で中断されたようだ。


 続いてロッドで横殴りにしてやるが、その一撃は杖で受けられた。

 だがその攻撃も牽制。

 本命は次に放った蹴りだ。

 まともに入って相手は体勢を崩す。

 驚愕の顔を見せる相手。

 その視線は宙に浮いていた。

 好機だ。

 ロッドを手放してサイドに回る。

 胴に腕を回して投げた。

 裏投げだ。

 転がる相手に馬乗りになると、両手の拳で殴りつけていく、

 淡々と。

 一撃一撃を確実に顔に向けて放ち続ける。

 杖を手放してしまっていた相手は一旦はサブウェポンを使おうとする素振りも見せた。

 拳の連打に耐え切れず、両手で顔をガードしようとする。

 ガード?

 出来た所で何もさせない。

 顔をガードするなら耳の後ろあたりを殴るだけだ。

 テンプルに撃ち込むのもいいだろう。

 すると今度は頭を抱えるようにガードしてくる。

 ふむ。

 遠慮なく鼻に拳を撃ち込ませて貰おうか。


『ガァッ!』


 コツコツと拳を当て続けていく。

 相手の顔が絶望に彩られるまでそれは続けられた。

 呪文?

 唱えようとする度に顎に拳を当ててやる。

 比較的簡単に詠唱はファンブルとなるようだ。

 問題ない。


 この魔法使いはよく粘ったと思う。

 結局、HPバーが敗北判定になる90%を超えるまで一方的に殴り続けていた。

 試合終了はブザーのような音、そしてインフォの形で知らされる事になった。



《試合終了!戦闘を停止して下さい!》



 立ち上がって試合を開始した試合場の角に戻ると対角線に向けて礼をする。

 一応、対戦相手だった魔法使いは自力で歩いてもう一方の角に立っている。

 オレが礼をした後に礼を返してくれていた。

 うむ。

 武道家であればこうあるべきだな。



《予選第二回戦に進出しました!第二回戦は明日午前10時30分、新練兵場A面の予定となります》



 第二回戦は明日か。

 確かに予選第一回戦は試合数が多いからな。

 かなり次の試合まで間があくが致し方あるまい。



 職員さんに促されて試合会場から控え室に戻る途中、隣の試合場で興味深い試合をしていた。

 格闘家だ。

 明らかに格闘戦を意識した武装で戦っている戦士がいる。

 思わず足を止めて観戦してしまっていた。

 相手は両手に小振りの剣をそれぞれ持って戦っている。

 こっちは二刀流だ。

 実に興味深い。


「キースさん、すみませんが勝負がついた選手は試合会場からは一旦退場していただきませんと」


「あ?ああ、申し訳ない」


 おっと、いけね。

 職員さんに促されて水晶に触れるとオレのHPもMPも全快になった。

 やはり凄いな。

 オレの受けたダメージは2割を超え、3割近くまで削られていた筈だ。

 そこで恐ろしい事に気がついた。

 たった1発の呪文でそこまで削られていた、という事は。

 精神力を底上げしてなかったら、オレは3発喰らっていたら確実に沈んでいるのでは?

 いや、下手すると2発で沈んでいたのかも知れない。


 いかんな。

 今になって背中に汗が滲むようだ。


 視界の端に小さめに仮想ウィンドウの枠が点滅している。

 拡大してみると、さっきの試合の戦闘ログだった。

 間違いなく使ってきた呪文はファイア・シュートだった。

 それでオレのHPバーは28%ほど減っている。

 メンタルエンチャント・ライトが効力を発揮したのは、ファイア・シュート直撃の直前だ。


 もしメディテートで大ダメージを喰らった際のペナルティ低減をかけてなかったら?

 メンタルエンチャント・ライトが間に合ってなかったら?


 おっと、いかんな。

 また相手を自分勝手に大きくしてしまっている。

 オレの悪いクセだ。


 控え室に戻って少し落ち着いた頃を見計らって再び観戦しに行こうとしたら職員さんに止められた。


「申し訳ないですが今日の試合予定がない方はご遠慮して下さい」


「え?」


「どうしても、となりますと観客席に回っていただきませんと」


 いやいやいや。

 観客席はどう見ても満席です。

 いや本当、どうしようか。




 新練兵場の外に出た。

 観客席入口前にも行ってみたが、入場を待つNPCが並んでいた。

 幾人かはプレイヤーもいるようだが。

 ここの施設のお披露目も兼ねているのだから混んでいるのも当然か。

 ああ、そういえばもう一つ、会場はあったよな。

 旧練兵場に行ってみるか。



 残月を引き馬しながら移動して、召喚モンスター達には旧練兵場の馬留めで待って貰おう。

 新練兵場の馬留めは満杯だったが、こっちは余裕がある。

 うん。

 こっちは比較的観客席に余裕があるようだ。

 待たずに中に入ることができた。

 中は4面、広さの割りにかなり余裕があるのも混んでいない理由なのだろう。

 但し俯瞰できるような観客席がない。

 まあそこは仕方がないか。

 視線を転じたら2面を見渡せる場所を確保して観戦しよう。



 試合はどれも面白かった。

 実に興味深い。

 適当な所で昼飯を食いに中座したが、最後の試合まで通して観戦した。

 いや、堪能したね。


 それぞれ色々と見るべきものがある。

 凡戦のように見えて奥が深い対戦もあったりするから侮れない。


 重装備同士の戦士のある試合はなかなか賢い戦い方だったな

 試合場の外に理由がどうあれ3回出たら負けになる、というルールを利用したのだ。

 恐らくは防御力が極めて高い相手にダメージを与えるのでなく、試合場の外に弾き出す戦術をとっていた。

 勝利した戦士の方が明らかに大きなダメージを喰らっていたが、勝者は彼の方だ。

 あれは観客の周囲から失笑が出ていたが、馬鹿に出来たものではない。

 仮に試合場の外が断崖絶壁だったらあれでお終いなのだから。


 弓矢の撃ち合いもあった。

 片方はエルフで、呪文で土の壁を築き上げてその影から弓矢を放つという姑息な手段を使っていた。

 いや、この場合は姑息というよりも上手い使い方だろう。

 もう片方が突入を仕掛けて壁に到達するまでに相当矢を喰らっていたようだ。

 その後は壁を挟んで追いかけっこである。

 最後はサブウェポン同士で接近戦になって、かろうじてエルフが勝った。

 互いに得手としている武器で競い合う場合、その他の手持ちカードでどうにかするしかないだろう。

 エルフの方は呪文をもっと上手く使いこなせたら楽に勝てたように見えた。


 他の対戦も似たような傾向のあるプレイヤー同士が多かった。

 そんな中でも毛色の異なるプレイヤーはいるものだ。


 例えば殴る蹴るを中心にした戦士もいた。

 対戦相手がメイスに盾持ちだったのだが、惜しくも敗戦となってしまったが、思わず応援してました。

 途中、相手の武器であるメイスを叩き落した所が最大の好機だったろう。

 そこで大きな隙を見せてしまったのが痛恨時だった。

 振り回された盾で頭部を殴られて、昏倒寸前になってしまったのだ。

 倒れ込んだ所に盾の縁で散々殴られてしまい、そのまま試合終了になった。

 うん、結果程には一方的な内容じゃないよな。


 そして吟遊詩人だ。

 吟遊詩人、即ちバードは初めて見た。

 しかもそのプレイヤーは女性だったのだ。

 観客の間からも興味の視線が飛び交っていた。

 それ位に目立つ美人さんだった。

 持っている楽器はギターよりやや小さく見え、ウクレレよりもかなり大きい。

 思い出すのに苦労したが、多分リュートだと思うが。

 相手は両手に小剣とナイフを持ったトレジャーハンターらしきプレイヤーだ。

 楽器で何をどう戦うのかと思っていたら、演奏と共に歌い始めた。

 すると対戦相手の様子は徐々におかしくなったのだ。

 最初のうちは確かに戦う意思そのままにバードに迫っていたし、一撃も入れたのだが。

 徐々に動きは鈍くなっていって、終いには試合場の真ん中で倒れてしまっていた。

 判定でバードの勝利である。

 試合場から運ばれた対戦相手がオレの傍を通ったんだが、彼は眠らされていた。

 うん。

 戦闘不能だ。

 判定勝ちで間違いないです。


 でもやはり一番熱心に見てしまうのは魔法使い同士の呪文の撃ち合いだ。

 傍で見ていても派手なので観客にも受けがいい。

 概ねいくつかのパターンがある。

 先制して火力で押しまくるタイプ。

 先制して状態異常に期待するタイプ。

 距離を詰めて壁呪文を使い戦況を有利にしようとするタイプだ。


 火力に頼るのは正解であり間違いでもある気がする。

 ダメージそのものは火魔法有利だ。

 だが命中せずに失敗している事も見掛けている。

 命中率と効果範囲では水魔法と風魔法が有利になっている。

 土魔法は中庸といった所か。

 何しろ攻撃呪文が先制で入ると大ダメージ必至だ。

 呪文もファンブルする場面も多かった。

 どの属性が絶対有利というのは言い切れないように思える。


 状態異常を伴う呪文は賭けの部分が大きい。

 光魔法のコンフューズ・ブラスト。

 闇魔法のダークネス・ステア。

 決まればかなりの確率で勝利を得ているのだが、状態異常をレジストされたら勝率は逆になる。

 恐らく、杖技能持ちは武技のメディテートやブレスは使っていると見るべきだ。

 あまり確実な手段とは言い難いな。


 そして壁呪文。

 オレはどの属性も使えない。

 掲示板で検索すると、各属性のレベル6の呪文になるようだ。

 使えないのも当然か。

 オレの手持ち魔法技能は召喚魔法を除くとレベル4が最高レベルなのだ。

 掲示板の載っていたレベル6の呪文リストを見るとこんな感じである。



 ファイア・ウォール  火の壁

 ファイア・ストーム  ファイア・シュートの全体魔法版

 ウィンド・シールド  風の防壁

 ストーム・ウェーブ  ウィンド・カッターの全体魔法版

 ストーン・ウォール  土の壁

 グラベル・ブラスト  ストーン・バレットの全体魔法版

 ウォーター・シールド 水の防壁

 アクア・スラッシュ  ウォーター・ニードルの全体魔法版



 全体攻撃魔法はまあいいとして。

 オレは壁呪文が使えないから、どう応用できるかは実感できない。

 だが対戦でいくつか使われている様子を見ると事で想像はできる。

 これも警戒すべき要素だ。


 因みに光魔法と闇魔法のレベル6の呪文リストはこんな感じだ。



 イリュージョン  幻影を作る

 ライト・エクスプロージョン  コンフューズ・ブラストの全体魔法版

 ダークネス・フィールド  一定範囲を闇で覆う

 ダーク・エクスプロージョン  ダークネス・ステアの全体魔法版



 全体攻撃の呪文はともかく、なんか厄介そうな呪文もあるようだ。

 イリュージョンは知っていた。

 ギルド長がサボリに使う手段にしている、という事で雑談で聞いていた。

 例の中年のギルド職員さんには通じないので、その場合はより上位の呪文も使うのだとか。

 何してんのギルド長って思ったものだ。

 おっと。

 イリュージョンもダークネス・フィールドも完全に対抗するのは難しそうだ。

 こう見ると、どんな相手だろうと楽に勝てそうな気がしない。


 だが考えるべき事は一緒だ。

 対戦相手の実力をできるだけ発揮させない事だ。

 そこに尽きる。



 大会初日は午後6時前に終了した。

 片付けをしている職員さんに混じって見た事のある人物がいた。

 ゲルタ婆様だった。

 何やら職員さん達に指示を出しているようだ。

 相変わらずおっかないな。


 町に繰り出すとどこの店も満席になっている。

 これは仕方がないか。

 屋台も混み合っていたが、なんとか食事を確保して腹に収めた。

 さっきの練兵場でも見つけたグレーのマーカーが今も時々見掛ける。

 気になるんだよな。

 うっとおしい連中も集まっているようだ。


 さて、これからどうする?

 現在のオレのスキル構成からして、上乗せできる技能など高が知れている。

 どうする?

 ジタバタしても仕方がない。

 普段どおりでいいだろう。




 レムトの町を出てレギアスの村へと向かう街道を駆けていく。

 今日はMPに余裕がありすぎる。

 夕刻で暗くなり始めていたが、ステップホークを見つけてはヘリックスをけしかけて狩っていく。

 無論、エンチャント系統の呪文は使いまくった。

 いい感じで森の物見櫓まで狩りを続けた。


 森の中に突入する前に残月とヘリックスを帰還させて、護鬼とジーンを召喚する。

 今日は色んな意味で昂っている。

 いい狩りにしたい。



 そうは言ってもやる事は一緒だ。

 但し、昨日までは大人しかったハンターバットがやたら多いようだ。

 奇襲対策は黒曜とジーンに任せて樹上にあるギンケイの卵を狙っていく。

 ギンケイはメス中心に狩ったが、今日はオスも多い。

 護鬼は弓矢中心で戦わせた。

 今日は弓矢で戦うのに不満な気配を見せない。

 それどころか一方的に嬲る様に矢を当てていく事に味を占めたようだ。


「ガヘッ」


 仕留めた後だからいいけど、大きい音を立てちゃダメだから。

 嬉しそうな様子なのが逆に怖いってどうなのよ?



 イビルアントも当然狩っていく。

 護鬼はこっちでも鉈を振り回して楽しそうだ。

 ついでに盾も振り回している。

 いや、確かに盾で殴ってもいいんだけどさ。


 中々いいペースで狩り続けていたらそのインフォが来た。



《只今の戦闘勝利で【高速詠唱】がレベルアップしました!》



 魔法は普通に使っていたが、詠唱が短くなっているのかは不分明だったな。

 本当に早くなってるのだろうか。

 イビルアントともう一回戦ってみたのだが実感は湧かない。

 速くなっているような気もするし、さほど変わらない気もする。





 いつの間にか時間は午後9時を回っていた。

 久しぶりにそこそこの数の蝙蝠の牙も確保している。

 黒曜石も少し、傷塞草、それに極少量だが苦悶草も採集できた。

 明日に備えて少し早めに寝ておくか。

 師匠の家に戻ると召喚モンスターを帰還させ、少し荷物を整理する。

 さすがに夕刻まで狩りらしい狩りをしてなかったので獲物は少なかった。

 ベッドに潜り込んでログアウトする。

 明日の対戦はどのようなものになるのか、怖くもあり楽しみでもあった。

主人公 キース

種族 人間 男 種族Lv7

職業 サモナー(召喚術師)Lv6

ボーナスポイント残3


セットスキル

杖Lv6 打撃Lv4 蹴りLv4 関節技Lv4 投げ技Lv4

回避Lv4 受けLv4 召喚魔法Lv7

光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv4 水魔法Lv4

火魔法Lv3 闇魔法Lv3 氷魔法Lv1 雷魔法Lv1

木魔法Lv1

錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv3

連携Lv6 鑑定Lv6(↑1)識別Lv6 看破Lv1 耐寒Lv3

掴みLv5 馬術Lv5 精密操作Lv6 跳躍Lv2

耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv3 精神強化Lv2

高速詠唱Lv2(↑1)


装備 カヤのロッド×2 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3 

   野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+

   雪猿の革兜 背負袋 アイテムボックス×2


所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式


称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者

   呪文目録


召喚モンスター

ヴォルフ ウルフLv6 お休み

残月 ホースLv4 お休み

ヘリックス ホークLv4 お休み

黒曜 フクロウLv4

ジーン バットLv4

ジェリコ ウッドゴーレムLv3 お休み

護鬼 鬼Lv2

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