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《フレンド登録者からメッセージがあります》
《運営インフォメーションがあります。確認しますか?》
朝ログインしたと同時に色々と来ていた。
メッセージはイリーナ、そしてアデルからだった。
そして運営インフォもある。
先に運営インフォの件名だけ見ておくか。
《統計更新のお知らせ:本サービス昨日終了時点データに更新しました!》
闘技大会関係かと思ったら全然違った。
プレイヤー人口の動向は気になるが、今日は仕事がある。
中身を見るのは後回しにしよう。
次だ。
イリーナのメッセージを見よう。
『召喚魔法がレベル4になって新たな仲間が増えました。馬のローテカイザーです』
添付されているスクショに写っているのは漆黒の毛並みの馬だった。
なかなか精悍な佇まいである。
イリーナの召喚モンスターの構成は、蛇、虎、鷹、馬になるのか。
様々な環境にも最低限対応はできるだろう。
それでいて馬の機動力も活かせる。
なかなかのチョイスだな。
では次にアデルのメッセージだ。
『新しい仲間は赤狐のきーちゃんです!モフモフなのはもちろん、とても可愛い!』
添付されているスクショに移っているのは狐だ。
赤茶色の毛並み、それにお腹側の真っ白な毛並みの対比が美しい。
それはいいとして、抱きかかえて自分撮りしているアデルの表情がヤバい。
狐に顔を寄せて蕩けるような顔になってる。
相変わらずだ。
アデルの召喚モンスターの構成は、虎、馬、狼、狐って事になる。
このままモフモフに偏っていくんじゃないだろうな?
本人がそれで幸せならいいけどさ。
さて、と。
準備を整えて師匠の家を出発する。
召喚したのは馬の残月、鷹のヘリックス、フクロウの黒曜で、昼間の移動優先の布陣だ。
時間は午前6時前。
レムトの町には7時頃に到着するだろう。
朝飯にするには丁度いいタイミングになるだろう。
でも思わぬ魔物に遭遇してしまった。
いや、ある意味嬉しいんだが。
アクティブ状態のはぐれ馬だった。
しかもいきなり奇襲を受けてしまい、結構なダメージを残月が受けてしまったのだ。
当然だが反撃して仕留めはした。
それはいいが、戦場をレギアスの村の方向へ駆けながら移動したので、レムトの町から遠ざかっている。
それで少々、レムトの町に到着するのは遅れてしまったようだ。
屋台で食事を済ませるにしても、どこも混み合っていて買い込むのにも時間がかかった。
そうでなくともプレイヤーが多くなっている。
しまったな。
明日はもう少し早く来るようにしよう。
それに明後日はもう闘技大会だ。
これでは更に混み合いそうな気がする。
広場の片隅で食事を手早く終えると、新しい練兵場を横目に見ながら作業場に行ってみる。
練兵場には何やら様々な資材が持ち込まれているようだ。
シートのようなものがかけられていて、中が何かは分からない。
「やあ、おはよう」
「おはようございます」
今日もニルスさんは元気だ。
でも作業場の様子はおかしい。
昨日はあれだけいた作業従事者が半減以下になっている。
そして作業場の中も部材が少なくなっていた。
「どうも木工職人が奮起したみたいでね。かなり片が付いてきているよ」
「へえ。良かったですね」
「うん。だからキースへの依頼は今日までって事になるかな」
「はい」
「椅子の組立の残りを任せるよ。私は机の残りを仕上げている」
「分かりました」
早速、作業に移ろうか。
どうやら今回の依頼も終わりが見えてきたようだ。
椅子の組立は好調に推移した。
3脚目で遂に品質C+が出来上がったのだ。
当然、フィジカルエンチャント・アクアで器用値に上乗せしてある。
ようやく品質C+か。
これは地味に嬉しい。
なかなか木工も難易度が高かったな。
気をよくして作業を続けていくと、望んでいたインフォが来た。
《これまでの行動経験で【木工】がレベルアップしました!》
《これまでの行動経験で【精密操作】がレベルアップしました!》
もう木工の作業も大して残っていない所でレベルアップとか遅すぎでしょ?
でもまあいいか。
フィジカルエンチャント・アクアも逐次投入して可能な限り高い品質を狙ってみよう。
品質C+だ。変わらない。
ちょっと悔しい。
そうやって熱中していたら部材がなくなっていたでござる。
結局、品質B-は届かなかった。
周囲の清掃を済ませ、工具も片付けておいた。
よし。
完璧である。
「作業は終わりました」
「え?もうかい?」
ニルスさんが作業の手を止めた瞬間を見越して声をかける。
一旦、作業をしていた場所に戻り、椅子の出来を確認して貰った。
整理整頓の様子にも感心している様子である。
「こう言っては何だけど、うちのガラス工房に来て欲しくなるね」
「すみません」
「いや、真面目な話さ、それが無理でも指名で助勢を頼みたくなるね」
「まあそれはご縁があったらって事で」
「うん。そうだね」
態度が改まるとニルスさんはその場所にいた職人に冒険者ギルドに行く旨、声をかけていく。
「じゃあ行こうか」
冒険者ギルドではいつもの中年職員さんが待ち構えていた。
いや、他の職員さん達の様子は大変なものだが。
何やら忙しそうなのにこの職員さんだけが泰然自若を体現していた。
いや、本当、この人って何者なんだろう?
マナーってこともあるけど、怖くて【識別】したくない。
「ども」
「おや、ニルスさん」
「彼の分の仕事はさっき完了したよ。でも鑑札に手持ちがなかったから直接ここに来たよ」
「ああ、気が回らず申し訳ない」
「いいって」
「ではこれを」
オレ達の目の前に並べられたのは以前にも持たされた事のある石だ。
依頼終了の証として持たされたっけ。
「じゃあこれで」
「はい」
あれ。
今、どんな石をニルスさんが持って職員さんに渡したのかが見えなかった。
「結構です。ではキースさんへの依頼はこれで完了となります」
「はい」
《ギルド指名依頼をクリアしました!》
《ボーナスポイントに5点、エクストラ評価で2点が加点され、ボーナスポイントは合計15点になりました!》
「では報酬もこちらに」
例の小袋を渡される。
中を手早く確認したが、意外に多かった。
「ギルド長はどちらに?私への次の課題も確認しませんと」
「いえ、それには及びません」
「え?」
「闘技大会期間中、ギルド長は色々とお忙しい身になります。本選のある最終日の翌日の朝にお越し下さい」
「はあ」
「あれで色々と優先してやって頂かないといけない仕事が山積みでして」
ダメだ。
この笑顔はダメな奴だ。
怒りの波動を感じる。
「キース、ここは仕事の邪魔しちゃいけない」
「へ?」
「じゃあまた。棟梁には私から伝えときます」
「お願いします」
ニルスさんに促されてその場を辞去する。
何があるんでしょ。
「彼はね、この町で逆らっちゃいけない人間の1人でね」
「何者なんです?」
「元々は冒険者。平凡な戦士だったって自分では言ってたけどね。彼の仕事はギルド長に仕事をさせる事だよ」
それって。
部下の仕事じゃないですから!
ニルスさんも苦笑するしかないようだ。
前々からそうじゃないかと思ってましたけどね。
師匠と類友みたいだし。
「まだ昼には早いけど工房の飯はできてると思うし食べてっていいよ」
「有難いですね、頂きます」
「まあ何か相談事があればウチのガラス工房に来るといいよ」
「助かります。というか早速お願いがあるんですが」
「何かな?」
「木工用の道具です。自分用のものを見繕いたいんですが助言も欲しいので」
「うん。時間もあるし一緒に行こうか」
「ありがとうございます」
売ってる場所を聞くだけで良かったんだけどな。
一緒に来てアドバイスが貰えるのなら助かる。
ニルスさんの後を付いていきながらそんな事を考えていた。
そこは色んな工房が立ち並ぶ街路の一番奥だった。
その様相は鍛冶屋だが、ちょっと古臭い印象がある。
だが並んでいる道具は品質Cがないのだ。
全部品質C+以上ある。
一番上では品質A-の包丁があった。
凄いな。
「ここはこの町に4件ある職人御用達の道具屋の中でも群を抜いていると思うね」
「褒めても値切りには応じんからな」
ニルスさんとカウンターを挟んで応じているのはドワーフだ。
上半身は裸同然、その筋肉の塊はまるで岩のように見える。
「キース、ここの道具屋の主でグドだよ」
「冒険者をやってます。キースです」
「グドじゃよ」
ぶっきらぼうな態度なのだが握手を求めてきたので思わず応じてしまっていた。
そしてすぐに後悔する。
すっげえ握力だ。痛いって。
だがすぐに力を抜いてくれたので助かった。
「冒険者?職人じゃないならここに用事はあるまい」
「職人に混じって色々と手伝って貰っているからね」
「ふむ。お前さんが言うのなら良いがな」
「ありがと。必要なのは木工用の道具を一揃えだね?」
「はい」
「何?ガラス工の道具じゃないのか?」
そう言いながらもこっちの予算を聞いてくるグドさん。
ずらりと揃えてカウンターに並べてくれたのはいいが、選択肢がない。
鋸が2種、ノミが3種、錐も2種、金槌に木槌。
厚刃のナイフ、彫刻刀が5種、ヤスリが2種、差金、墨壺に木綿糸。
手斧まで並べられた。
そして最後に布地で巻くタイプの道具入れである。
「手斧までいるかな?」
「鉈ならあるんですが」
「出して見せて貰えるかな」
《アイテム・ボックス》から鈍鉄の鉈を出して見せる。
グドさんは暫く手に持って何度か振り、刃部分を触ってみたりしていた。
「うむ。十分に代用になるな」
「手入れ道具はありますか?」
「砥石を持ち歩くのは感心せんぞ?」
「すみません。冒険者なので」
少しだけ嘆息すると店の奥にグドさんが消えていった。
戻ってきて持って来たのは2種類の石だ。
かなり使い込まれている。
「これならば売っても良い」
「使い古しを売り物にするのか?」
「馬鹿を言え。新品ならここに並べてある道具全部よりも遥かに高値になるぞ?」
「いや、知ってるけどね」
「いいんですニルスさん」
【鑑定】してみると、荒砥石と仕上げ砥石共に品質Bだった。
磨耗が進んでいて、耐久度がかなり小さいように見える。
だが当面は使えそうである。
十分だ。
新品ならば稼いでいけば買えるだろうし。
「もう少々出せるならこれを付けていい」
「出します」
予算で提示したのは手持ち金の半分といった所だ。
それに売れるアイテムも少しだが手持ちにある。
提示された金額は小額とは言えないものだったが十分に出せる。
言い値で全て買い込んで《アイテム・ボックス》に仕舞い込んだ。
「因みに砥石の新品は買えますか?」
「普通の奴でも時価だな。良い物なら共同出資で囲い込む事もある。職人にとっては死命に関わるんでな」
「そういうものですか」
「まあな。砥石の原料になるような石を見つけたら持って来な。高額で買い取るぜ」
「はい」
あとは店内でいくつか、釘を3種類、それとロープ状の巻尺も購入した。
こんな所か。
そもそもなんで木工用の道具を買ったのか。
無論、カヤのロッドを折られた事が切っ掛けだ。
そして依頼内容に流されて木工技能を取得した事も重なって、一つの結論に達した。
自前でロッド作れたらいいじゃないの。
森の中で適当な木材を加工してロッドを作っちゃえばいい。
品質にせよ性能にせよ、木工職人が作成するものには及ばないかもしれない。
だが職人に作成依頼をして納期を待つより時間を短縮できるのならそれに越したことはない。
あとニルスさんには木工所の位置も教えて貰った。
さすがにいきなり森の中で木の枝を伐採するのは気がひける。
間伐材が安かったので予備も含めて3本購入した。
3本ともカヤだ。
師匠の家に戻ったら色々と弄ってみたい。
新しい冒険者ギルドの建物の中で食事を頂いた。
差し向かいでニルスさんも一緒の飯を食っているのだが。
ガテン系だ。
例のモツ煮込み料理で、完食したら満腹度は一気に満タンになる。
因みにニルスさんはおかわりを要求していた。
どんな胃袋なんだ。
他の作業員も三々五々、食事を摂りに集まってきていた。
彼らは闘技大会の会場設営に回るのだとか。
本業じゃないのに。
お疲れ様です。
「ではここでいいかな?」
「はい。お世話になりました」
「大会、がんばれよ」
食事を終えたらニルスさんとそこで別れた。
午後以降、そして明日一日は予定が入らない。
大会に向けてスキルのレベルアップを目指すのもいい。
攻略を少しでも進めるのもいい。
召喚モンスターに経験を積ませるのもいいな。
どうする?
普段通りでいいや。
昨日の手順ではぐれ馬でも狩るのがいい。
どの魔物が経験を積むのにいいのか、断じるのは難しい。
はぐれ馬は少なくとも必ず苦戦となる相手だ。
得られるアイテムもなかなかいいと思う。
もう一通りの装備を作成する依頼はしてあるが、売るとなればいい値段になるだろう。
では、狩るか。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv7
職業 サモナー(召喚術師)Lv6
ボーナスポイント残15
セットスキル
杖Lv6 打撃Lv3 蹴りLv4 関節技Lv4 投げ技Lv3
回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv7
光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv3 水魔法Lv4
火魔法Lv3 闇魔法Lv3 氷魔法Lv1
錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv3(↑1)
連携Lv6 鑑定Lv5 識別Lv6 看破Lv1 耐寒Lv3
掴みLv5 馬術Lv5 精密操作Lv6(↑1)跳躍Lv1
耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv2 精神強化Lv1
装備 カヤのバチ×2 雪豹の隠し爪×3 野兎の胸当て+シリーズ
雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋
アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv5 お休み
残月 ホースLv3
ヘリックス ホークLv3
黒曜 フクロウLv4
ジーン バットLv4 お休み
ジェリコ ウッドゴーレムLv3 お休み
護鬼 鬼Lv1 お休み




