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 結局、他のプレイヤーがやっていた屋台で食事は済ませた。

 広場の噴水で水筒に水を満たして冒険者ギルドに向かう。

 盛況か、と思いきや結構閑散としていたのは謎だ。

 皆が依頼そっちのけでレベルアップにいそしんでいるのだろうか?

 まあ別にいいんだが。

 これから降りかかる(かもしれない)依頼の邪魔にならなければ問題は無い。



 窓口にもはや顔なじみの中年女性の職員さんがいたので、ギルド長の部屋にはすぐ通された。

 でもギルド長は部屋にいない。

 そのまま部屋の中で待たされること10分。

 ようやくギルド長のルグランさんが登場である。

 いつもの中年男性の職員さんも一緒だ。

 まるで監視役ですね。


「お、思ったよりも早かったの」


「おはようございます」


 なんとなくオレにも読めるようになってきたぞ。

 目が、泳いでいる。

 何かを企んでいるのだ。

 しかも、どちらかと言えば悪戯に近いものを感じる。


「実はな、レムトの町は拡張工事をしておる訳じゃが、冒険者ギルドも新しい区画に移転する予定になっておる」


「そうなんですか?」


「うむ。そこで頼みがあるのじゃが」


 きた。

 移転は以前に聞いたような覚えはあるのだが、とぼけてみせても無駄だったかもしれない。

 何が来る?

 あまり厄介な依頼でなければいいのだが。


「移転予定の建屋建築の手伝いじゃ」


「え?」


 予想外です。


「でも私に出来る事も大したものじゃないと思いますが」


「大丈夫じゃろ。力仕事ならばウッドゴーレムもおるし、運搬であれば馬を使えばいいのじゃ」


「ああ、なるほど」


 そうか。

 確かにオレ自身が働かなければいけない道理もないのか。


「手伝い、なんですね?」


「うむ。故に現場を仕切っておる奴の指示に従って欲しい」


「はあ」


「実際、困っておるのじゃよ。昨日までは依頼票を出して募集してたら人員も集まっておったんじゃが」


「集まってないのですか?」


「今日はまるで集まっておらん。不足しておっての」


 もしかして。

 皆、闘技大会に向けてレベルアップに走っているからじゃないのかな?

 いやはや、ポーション不足の次は人手不足ですか。


「闘技大会に向けて魔物を狩りたがる冒険者が多いようじゃな」


「そうでしょうね」


「おお、そうじゃ。闘技大会なのじゃがな、お前さんの分の出場枠は既にあるからそのつもりで」


「はあ?」


 え?

 聞いてないんですけど。


「わ、私が出るんですか?」


「出場者申し込みは早い者勝ちじゃがの。ワシの方で事前に登録しておいた」


「でもさっきの手伝いもあるんじゃないんですか?」


「大会期間中は作業も休みじゃから問題なかろう」


「いや、でもどうして私が?」


「オレニューの奴が推薦してきておる。何やら珍妙な戦い方をしておるとか」


 師匠の企てか。

 オレの中である疑念が生まれた。

 師匠、こうなる事を知ってて昨日の内に逃げたんじゃあるまいな?

 ちょっと問い詰めてみたい気分だ。


「召喚魔法は禁止と聞いてますが」


「それでもいい所まで行けそうな気がする、と言っておったんじゃがのう」


「まさか」


「大会そのものは練兵場で行う予定じゃ。新しい練兵場はもう出来ておるからそのお披露目も兼ねておる」


「はあ」


「で、その闘技大会がどの試合も似たようなものになっては面白くないのでな」


 もしかして、オレは色モノ枠ですか?

 まあ否定はできませんけど。


「ご期待に応えられないかもしれませんが」


「はて、それはどうかの」


 いかん。

 ギルド長がニヤニヤしてます。

 どこの悪戯小僧ですか。



「さて、手伝いの方じゃが頼むぞ」



《ギルド指名依頼が入りました。依頼を受けますか?》



「はい」



《ギルド指名依頼を受けました!》



 またクリア条件がコールされない。

 しかし断るのも勇気がいる。

 でもまあ流れのままに受けておいていいだろう。

 後でいいから条件をハッキリさせておけば済む話だ。


「現場にはうちの職員に案内させよう」


「分かりました。依頼達成はどうすればいいのか分かりますか?」


「それは現場監督に一任じゃ。なに、悪くはせんじゃろ」


「はあ」


「では案内します」


 職員さんに促されてギルド長の部屋を出る。

 この職員さんが苦笑しているのが少しだけ気になった。



 レムトの町の新たな区画だが、町の外から新しい石塁が積まれている所だけは見ている。

 それを内側から眺めるのは初めてだった。

 そこは全く新しい町並みであった。まあ当たり前だが。

 広場は意外なほどに広く、そこから延びる3つの路地はどれも広い。

 両脇に屋台が並んでも十分に馬車が通れそうである。

 広場の中央には噴水まであった。

 水汲み場も3箇所あり、馬に水を飲ませる場所も馬留めの傍にある。

 至れり尽くせりだな。 


 そして冒険者ギルドの建物は一等地にあった。

 冒険者ギルドの建物は外見だけなら完成しているようにも見える。

 隣は町役場と商館。

 商館の隣は職人ギルドが共同で使う建物になるそうだ。


 これら町並みそのものを含めて設計したのが1人の大工らしい。

 その大工からは冒険者ギルドに人員派遣の要請は随分とあったそうだが、定数を揃えられた事がないのだとか。

 職員さんは苦笑するのみだが悩みは深そうであった。

 冒険者ギルドの建屋も内部はまだまだ使える状態にないほど工期は遅れているそうな。


「早く移転したければ人を寄越せ、というのがその棟梁の口癖でして」


「はあ」


「申し訳ないですが何とかお願いします」


 それって。

 人柱的な意味ですか?



 その棟梁さんは何やら他の職人さん達と立ち話をしていた。

 いや、職人さん達も熟練と思われる雰囲気を身に纏っている。

 そのうちの1人は見知った職人である。

 グラスワーカーのニルスさんだ。


 ちょっと申し訳ないが【識別】しておこう。



 棟梁ヨルゲン Lv.???

 カーペンター 折衝中


 石磨きのテオドル Lv.4

 ストーンカットメイソン 折衝中


 目利きのラウノ Lv.2

 ウッドワークマスター 折衝中


 ガラス屋のニルス Lv.???

 グラスワークマスター



 うおっと。

 一部NPCのレベルが見えるようになってきている。

 いや、レベルが見えないNPCの方が格上なんだろうけれども。


「ヨルゲン様。冒険者ギルドからの派遣ですが」


「うん?今は暫し待て」


 なにやら揉めているのか?

 いや、会話をそれとなく聞いていると、工期と人員の調整のようだ。

 石工の領分はもう仕上げ段階。

 但し雨の影響もあって目地部分の補修が必要になってしまっているようだ。

 木工は一番遅れているようである。

 階段の工事を優先させている事で細々とした備品の納品が遅れているのだとか。

 そして最後にガラス工。

 建物窓も窓飾りも終わり、細々とした備品も出来ているのだが、食器棚の類がまだないのだとか。


 話を総合すると、木工の作業は建物の各部屋の仕上げを優先させるため、何回か組み換えを繰り返したらしい。

 その影響で納期が延びた。

 なんとなく力関係で分かるような気がする。

 ウッドワーカーのラウドさんはこの面子の中で一番若く見えるし、レベルも低い。

 それだけに何かが上手くいかなかった、って事だろうな。


「事情は承知している。人員は優先して回したいが」


「とは言っても難しい所は概ね終わってはいます」


「だが納期に間に合いそうも無いが」


「納得できない物を納品する訳には」


「そう主張し続けて納期が伸びてしまっているではないか」


「分かっていますって」


「だからこそだ。周囲の助勢を断ってまで品質に拘るのであれば最初から請けるべきではあるまい」


「途中で欠員が出ることまで読めませんよ!」


「使える人材を早めに確保して教育もしておくのも仕事のうちだ。どこの工房でもやっておる」


「それはそうですが」


「では助勢を受け入れる事だ。気に入らない仕事が残っているのであれば納品後でも手を入れるといい」


「そんな!」


「いいから各所からの助勢は受け入れてくれ。石切とガラス工からも人を回す」


 若いんだな。

 ラウノさんは明らかに不承不承なまま指示に従うようだ。

 果たしてこれでいい仕事が出来るんだろうか。



「あれ?」


「ども」


「もしかして冒険者ギルドからの助っ人かな?」


「そんな所です」


 ニルスさんがオレに気がついて言葉をかけてきた。

 いい笑顔してます。


「私が言うのもなんだけど頼むよ」


「はい」



 そんなオレ達の横で職員さんの声が普段通りの声音で響いていた。

 ただ、オレには少し低い音程のように感じられる。

 この人、地味に怖いよ。


「ヨルゲン様。改めて宜しいですか?」


「ん?お、おう」


「冒険者ギルドからの派遣ですが」


「う、うむ。ラウノよ!木工への助勢じゃぞ!」


「備品作成の手伝いでお願いしたいですな」


「お、そうか?ではニルスよ、お主に預けて良いかな?」


「任されました」


「ではお願いします」


 にこやかに笑うニルスさんに向けて一礼を残すと職員さんはさっさと行ってしまった。

 いや。

 オレとニルスさんを残して誰も彼もがあっという間に散ってしまう。

 あっさり風味すぎ。


「じゃあ行きますか」


 そう言うニルスさんについて行った先は練兵場だった。



 練兵場の外の馬留めに残月を繋ぎ、鞍の上にヘリックスと黒曜を留守番にして中に入った。

 広い。

 冒険者ギルドに併設されていた従来の練兵場よりも一回り以上は広い。倍はあるだろう。

 その片隅にはまだ資材が山積みになっていた。

 あれって石、だよな?

 そして完全に雨避けがされている弓専用の射撃場がある。

 だがそこは未完成のように見えた。

 いや。

 良く見たら完成してるようだ。

 そこは臨時の作業場になっていた。

 数人のNPCが作業に従事している。

 NPCであることを示す黄色のマーカーがいくつも独楽鼠のように動き回っている。

 何をしてるんだ?



「ここだよ。冒険者ギルドの建屋に入れる椅子や机、それに収納棚を作ってる」


「町中の木工所で作業した方がいいんじゃないですか?」


「あっちは他の仕事でもう手が出せない。で、ここが臨時で作業場になってるのさ」


「へえ」


「私も最初は無茶するもんだって思ったさ。それにここの練兵場は闘技大会に使うとも聞いてる」


「そうなんですか?」


「そう聞いてるけどね。この有様で大会は大丈夫かなあ」


「はあ」


 いやはや。

 色々とバタバタしてるんだな。

 人・物・金、そして時間は管理が滞ると色んな物が崩壊します。

 これまで幾つか目の当たりにしたが、アレはいい気分がしない。

 何故ならば事前に対策がとれる事が殆どだからだ。

 オレも何度か対策を講じるよう上申したっけ。

 無意味だったけど。

 無論、それらは現実で体験した事になる訳だが。



 おっと。

 依頼だ依頼。


「まずは一緒に椅子から作ってみようか」


「え?ニルスさんは木工も経験があるんですか?」


「木工のほうは大した腕じゃないけどな。窓枠の修繕もあるから一通りは使えるよ」


「なるほど」


「木工所だと木材加工前の原木管理からやらされるものだけど」


 そう言うとニルスさんは角材を手にするとにこやかに笑った。


「まあ習うより慣れろでいこうか」


 何気にニルスさんとは波長が合いそうな気がした。

 そしてその予感は外れることがない気もする。



 おっと。

 作業開始だ。

 何をやるかと言えば、面取りである。

 材木の面取り。

 それだけ。


 最初はニルスさんとペアを組んでの作業だった。

 他のNPCが切り出した部材の面取りを流れ作業的にこなすだけだ。

 但し、道具は幾種類かのナイフだけ。

 カンナがあれば楽でいいのだろうが、そんな便利なものがないのだ。

 ヤスリはあるがこれは仕上げ段階で使う工具になる。

 おおまかな所はナイフで削り、ヤスリで仕上げる。

 工程としては単純なものだった。

 材料となる木材はナラとタモが多い。

 意外に高級?

 あまり詳しくは無いが【鑑定】すると品質Cにレア度2のもので統一されていた。



 作業を淡々と進めて、昼飯を挟んで地道に作業を続けていたら例のインフォが来た。



《これまでの行動経験で取得が可能なスキルに【木工】が追加されます》



 必要なボーナスポイントは3だ。

 どうするか暫し悩んだが結局取得した。


 ただ作業の結果が上手くなっているかは分からない。

 角材を【鑑定】してみたが、品質Cはどう見ても品質Cのままで変わり映えがしなかったのだ。

 他の生産系技能でも同じだったから気にしなくていいか。


 ニルスさんが見ていない所では錬金術を使って短縮再現も試してみた。

 出来ることは出来る。

 但し、品質C-になってしまったので少し手を入れて修正しなければならなかった。

 それでも作業時間の短縮に十分に繋がるようだ。

 ニルスさんほどではないにせよ、併用したらいい感じで量産できそうだった。


「うん。なかなか筋がいいんじゃないかな?」


「ありがとうございます」


 ニルスさんは相変わらずだ。

 褒めて伸ばす指導で徹底している。

 他のNPCにも時折声を掛けている時もそうだったし。


「じゃあここの面取り作業だけど任せちゃっていいかな?」


「勿論です」


「うん。私はあそこの組み立て工程を手伝っているから何かあったらそこに来て欲しい」


「分かりました」


 1日目から工程1つを任されるって。

 これは余程納期に追い回されているんだろうか?

 だがこれはチャンスだ。

 錬金術の短縮再現で時間を稼いでいった。

 当然、その甲斐もあったりする訳で。



《これまでの行動経験で【錬金術】がレベルアップしました!》



 まあ結構MPもつぎ込んだ甲斐はあっただろう。


 そして時間はもう午後5時。

 そこで1日の作業は終了になった。

 夕刻も迫り、作業環境が暗くなってきている。

 一部のNPCは残業をするそうである。

 NPCの誰かが光魔法のフラッシュ・ライトを使えるようで、作業場所の一部を照らし始めた。


「じゃあキースはここまででいいよ」


「いや、私も残って作業を続けてもいいんですけど」


「いやいや。キースへの報酬計算が面倒になるからね。逆に困っちゃうよ」


 むう。

 少しいい感じで経験が積めると思ったのだが。

 残業なしですか。


「では別口で相談なんですが」


「何かな?」


「これです」


 オレが取り出したのはカヤのロッドだ。

 真ん中で折れてしまってはいるが、何かに使えないか、加工してみたくなったのだ。

 とりあえず折れた所を切って面取りをしておきたい。


「工具をお借りできますか?」


「好きに使っていいよ」


「ありがとうございます」


「いいって。あ、そろそろ暗くなるから手早く済ませた方がいいよ?」


「はい」


 うん。

 その点は心配していない。

 ノクトビジョンでもフラッシュ・ライトでも対応は十分にできる。



 借りたノコギリで折れた箇所を切りとる。

 そして面取り。

 それだけで作業は終了だった。

 さてその出来上がりだが【鑑定】してみたらこんな感じになった。



【武器アイテム:杖】カヤのバチ 品質C+ レア度2

 AP+1 M・AP+2 破壊力2 重量0+ 耐久値70

 殴ることも魔法発動もできる武器。

 適度に弾力があり手に持っても滑り難いので扱いやすい。

 風合いが美しい一品である。

 打楽器に使うのにも良い。



 カヤのバチって。

 太鼓でも叩けって意味?

 さすがに長さを切り詰めた形になっているので性能はそれなりに低下しているようだ。

 でも破壊力は落ちていない。

 殴打武器として考えるなら、扱いやすさが増したと前向きに受け止めることもできるだろう。


 そしてそのカヤのバチが2本。

 そう、2本あるのだ。

 両手にそれぞれ1本ずつを持って、太鼓を叩くイメージでリズムをとりながら振ってみる。

 ロッドの時とは当然感覚は違うのだが、それにもすぐ慣れた。


 どうする?

 どうしようか?


 何を悩んでいるかといえば補助スキルの【二刀流】だ。

 仮想ウィンドウでスキル取得画面が浮かんでおり、そこには必要となるボーナスポイントが5と表示されている。

 意外に多いな。

 いや、意外に少ない?

 今あるボーナスポイントは16だ。

 うむ。









 気がついたら取得して有効化してました。

 まさに節操なし。



 ついでに雪豹の爪を使って隠し武器をでっち上げた。

 仕込み鉤爪だ。

 但し、爪の数は1本だけでバグ・ナクのようにはいかないが。

 構造は簡単、爪の根元に木製の台をくっつけるだけだ。

 3cm角のナラの木材の欠片の真ん中に穴を開けて、雪豹の爪を通す。

 嵌め込んで固定させ、木材部分を丁寧に面取りしたら完成である。

 出来上がった物を【鑑定】するとこうなった。



【武器アイテム:打撃】雪豹の隠し爪 品質C レア度4

 AP+1 破壊力+0 重量0+ 耐久値50

 敏捷度阻害微 氷属性

 暗器。引っ掻いて使う武器であり鎧兜などにはほぼ無力である。

 ダメージを与えると敏捷度を下げる追加効果が低確率で発生する。



 暗器、ね。

 持ち方はといえば木製の台を拳の中に握りこむ形になる。

 拳の指と指の間から爪部分が2cmほど飛び出していた。

 大したダメージが与えられるような武器ではない。

 でもこれで十分だ。


 それにこの武器、氷属性って。

 敏捷度阻害、というのも中々エグいな。



 さらにもう2つ、同様に隠し爪を作る。

 3つを同時に握り込めないのは残念だが、実際に使うとなれば1本で十分だろう。



 仕事場を辞去して、早めの夕食を屋台で終わらせると早速草原に出た。

 街道をひた走って西の森へと向かう。

 今日の狩りでは色々と試したい事がある。

 新たに得た火魔法と闇魔法の攻撃呪文。

 隠し爪。

 そしてカヤのバチの二刀流スタイルだ。


 刀じゃないけど。


 それに昼間は錬金術でMPを使ってはいるが、それでもMPバーは7割も残っている。

 色々と余裕はあった。

 そして西の森を監視する櫓を過ぎたあたりで夜の帳が下りてきた。

 馬の残月と鷹のヘリックスを帰還させて狼のヴォルフとコウモリのジーンを召喚した。

 残月とヘリックスの活躍の機会が殆ど無かったな。

 すまぬ。

 だが召喚しているだけでも経験になるのだと自分を誤魔化した。



 夜の陣容に移行すると、森の中へと突入する。

 同時にノクトビジョンで視界を確保し、ダウジングも併用して黒曜石拾いも狙う。

 無論、森の中に自生する傷塞草も見つけたら採集する構えだ。


 狩りの時間だ。

 色んな意味で。



 最初にロックオンしたのは大きな群れを成す前の数匹の暴れギンケイだった。

 オス1匹にメス5匹だ。

 

 早速、使っていない呪文を選択して実行する。

 火魔法の攻撃呪文、ファイア・シュートだ。


 両手でそれぞれにバチを持ってギンケイのメスに迫る。

 飛び上がって襲ってくる所を迎撃。

 バチの先で暴れギンケイ(メス)の横っ面を叩く。

 直撃だ。

 だが与えたダメージは小さい。

 左右に持つバチで連続攻撃を当ててどうにか仕留める。


 やはり間合いが短い。

 ちょっとだけ驚くが気にはならない。既に格闘戦ではおなじみの間合いの距離だ。

 問題は攻撃力の方だ。

 そして一撃一撃によるHPバーの減りは半分もない。

 攻撃の回転力を考慮しても挽回できていないだろう。

 むむ、ちょっとこれは痛いか。


「ファイア・シュート!」


 手近にいた暴れギンケイ(メス)に呪文を放つ。

 その一撃で魔物の全身が炎で包まれた。

 おお、派手に燃えるんだな。


 ヴォルフを襲おうとしていた暴れギンケイ(オス)を横合いから蹴ってやる。

 地面に落ちた瞬間、ジーンの奇襲で更に追加ダメージが与えられる。

 更に追撃。

 蹴りを放ったが避けられた。

 それどころか跳び上がってオレの顔めがけて連続で攻撃を仕掛けてくる。

 左右に持つバチではたいて攻撃を凌ぐ。

 そして地面に降り立った。

 隙あり。

 思いっきり蹴り上げる、

 態勢が崩れた所を左右のバチを連続で叩き込んだ。

 どうにか大きくHPバーを減らせることができたのだが。

 やはり今ひとつ、物足りない。


 他の暴れギンケイ(メス)を駆逐し終えたヴォルフ達と囲んでオスの方は仕留めておいた。



 さて、このカヤのバチを左右に持って戦ってみた訳だが。

 取り回しはいい。攻撃回数はかなり稼げる。

 与えるダメージは増えていない感じがする。むしろ減ってる?

 攻撃範囲は当然ながらロッドよりも短くなった。

 その一方で防御はやり易くなっていると思う。



 大体はそんな所だ。

 二刀流の恩恵はこの際無視するとして、戦力アップになっているのかどうかは微妙だろう。

 やはり二刀流なら片手剣や片手刀あたりじゃないとダメか。


 まあいい。

 さっきの魔物の連続攻撃だが、ロッドのままだったら喰らっていたのは間違いない。

 防御面では明らかに使い勝手がいいのだから、それだけでもプラスと考えておこうか。


 ただ、素手で戦うのとあまり間合いが変わらないってのは何ともならないな。


 それもまあ今はいい。

 次の検証に進もう。

 アイテムを剥ぎ取って、次の獲物を探しに更に森の奥へと入っていった。



 傷塞草を2つ採集して、黒曜石を3つ拾った所で次の獲物を見つけた。

 暴れギンケイの小さな群れでオス1匹にメス4匹だ。


 左手に握りこんだのは雪豹の隠し爪だ。

 右手にはカヤのバチを持ったままだ。

 そして魔物達がこっちに気がついていないうちに呪文を選択して実行しておく。

 闇魔法の攻撃呪文のダークネス・ステアだ。


 一番手前にいた暴れギンケイ(メス)に向け呪文を放つ。

 直撃。

 だがHPバーの減りはさっきのファイア・シュートに比べたら少ないようだ。

 魔物達がこっちに気がついてこちらに向かって襲ってきた。

 ダークネス・ステアを喰らった魔物だけが襲ってこない。


 襲ってくるメス2匹はヴォルフ達に任せてオレはオスの相手を受け持った。

 早速、跳び上がってオレに襲ってくる魔物だが。

 右手のバチで払いのけて左手の隠し爪を突き立てる。

 爪が喰い込んだ所で裂くように左手を跳ね上げた。

 どうだ?

 結構、いい感じでHPバーが削れたようだ。


 地面に落ちた所に蹴りを入れて追撃に移る。

 同じパターンで攻撃を続ける魔物を同様に迎撃しては隠し爪でダメージを重ねてやる。

 何度目かの攻撃で魔物の動きが目に見えて鈍った。

 マーカーを見てみると、赤色のマーカーの上に小さなマーカーが重なって表示されている。

 意識を凝らしてみると、スロウ状態(微)と出た。

 敏捷度阻害の効果がこれか。

 氷属性の追加効果としては、凍えているってこと?

 それとも凍傷なのか。

 まあそこはいい。

 とりあえず、戦闘能力が低下した暴れギンケイ(オス)を滅多撃ちである。

 かなり楽になった。

 一気に攻勢に出て仕留めきった。


 ダークネス・ステアを喰らった暴れギンケイ(メス)はまだこっちを襲おうとしてこない。

 赤いマーカーに重なっている小さなマーカーがある。

 確認してみると、ブラインドネス状態(中)となっていた。

 どうやらこっちが見えてないようだ。


 ふむ。

 確かに呪文で与えたダメージで言えば、ファイア・シュートに比べたら少なかった。

 だがダークネス・ステアの場合、この状態異常を伴うというのであればかなり有効だろう。

 それは光魔法における攻撃呪文、コンフューズ・ブラストにも同じ事が言える。


 こっちを認識できずに無意味な暴れ方をしている暴れギンケイ(メス)の首根っこを足の裏で押さえる。

 そのままの状態でヴォルフ達に仕留めさせた。

 いや、楽でいいな、これ。



《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ジーン』がレベルアップしました!》

《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》



 そしてジーンがレベルアップした。

 先輩である残月やヘリックス、黒曜よりも先にレベルアップしてしまった。

 まあ森の迷宮で長く活躍してたしな。


 ジーンのステータス値で既に上昇しているのは知力値だ。

 任意ステータスアップは生命力を指定しておく。



 召喚モンスター ジーン バットLv3→Lv4(↑1)

 器用値 15

 敏捷値 18

 知力値 12(↑1)

 筋力値  9

 生命力 10(↑1)

 精神力 11

 スキル

 噛付き 飛翔 反響定位 回避 奇襲 吸血



 少しだけだが美しい数字並びに近づいたが、まだ先は長そうだな、これ。

 ジーンの場合はちょっと難しいかもしれない。

 筋力値が10になったら敏捷値を中心に伸ばして行こうか。



 では次だ。

 今度は相手を変えるのだ。

 イビルアントで試してみよう。



 結論から言えば、戦い方も工夫次第って事なんだろうな。

 確かにアリは大きさの割りに軽い。

 単に一撃を食らわせても吹き飛ぶだけで大きなダメージを与え難い。

 だが両手のバチに蹴りも加えて連続攻撃をうまく当ててやると、思った以上にダメージを加える事ができていた。

 特にバチで地面に叩き落してからの踵落としはいい組み合わせだ。

 アリを木の幹に蹴り飛ばしてバチの連続攻撃で潰す手も有効だった。

 いや、ロッドでも出来なくはないのだろうが、バチの長さは短い分、取り回しが手早くできるのだ。

 リズムにも乗れる。


 いや、乗った。

 本当はアリに仲間を呼び寄せさせるつもりだったのが、いつの間にか全滅させていた。

 数が減ったら呪文を試す予定だったんだが。

 やり直しだ。


 改めてアリと遭遇すると1匹まで撃ち減らして呪文を試してみる。

 ファイア・シュートはどうか。

 イビルアントに対してはあまり有効とは言えないようであった。

 少なくともストーン・バレットよりは効きが良くない。


 次だ。

 再度アリと遭遇し、1匹まで撃ち減らす。

 ダークネス・ステアを試してみる。

 一応、状態異常が効く事は効いたんだが、復帰するのが早かった。

 複眼だからかね。

 まあイビルアントなら普通に戦っても苦戦はしない。

 首を捻じ切るのが普通になってしまっているけど、そこを気にしたら負けだ。


 当然、隠し爪も試してみた。

 そこそこ通用するが、状態異常は発生し難いようである。

 やはりか。

 魔法にしても状態異常にしても、魔物によって効きやすかったり効き難かったりするようだ。

 面倒な事だ。

 だがそういった所でも魔物に個性を与えているとも考えられる。

 今後もそういった傾向もあるのだろう。



 時間は夜8時か。

 現実の世界はもう朝になっている。

 もうちょっと粘ってみよう。


 今度は樹上のギンケイの巣を襲ってみる。

 巣に収まっている暴れギンケイ(メス)を地面に落とすのはバチだとさすがに不便でした。

 《アイテム・ボックス》から初心者のロッドを引っ張り出して持ち換える。

 やはり長物武器が何かしら欲しいな。

 当面は初心者のロッドを使うしかない。



 卵を10個ほど確保した所で夜9時を過ぎた。

 頃合だな。

 狩りを終えて師匠の家に戻った頃には月が低い位置に昇り始めていた。

 時計のムーンフェイズで示されている月の表示と同じ月の形だ。

 今日は全くポーションを消費しなかったので、ヴォルフ達を帰還させるとそのままベッドに潜り込んだ。

 そしてログアウトする。

 中々の収穫もあったが、魔物の相手をする時間は不足気味である。

 明日も夜はなるべく狩りをしておこう。

 そんな事を思いながら瞼を閉じた。

主人公 キース

種族 人間 男 種族Lv6

職業 サモナー(召喚術師)Lv5

ボーナスポイント残11


セットスキル

杖Lv5 打撃Lv3 蹴りLv3 関節技Lv3 投げ技Lv3

回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv6

光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv3 水魔法Lv3

火魔法Lv3 闇魔法Lv3

錬金術Lv3 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv1(New!)

連携Lv5 鑑定Lv5 識別Lv5 看破Lv1 耐寒Lv3

掴みLv5 馬術Lv4 精密操作Lv5 跳躍Lv1

耐暑Lv3 登攀Lv2 二刀流Lv1(New!)


装備 カヤのバチ×2(New!)雪豹の隠し爪×3(New!)

   野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー

   野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋

   アイテムボックス×2


所持アイテム 剥ぎ取りナイフ


称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者


召喚モンスター

ヴォルフ ウルフLv5

残月 ホースLv3 お休み

ヘリックス ホークLv3 お休み

黒曜 フクロウLv3

ジーン バットLv3→Lv4(↑1)

 器用値 15

 敏捷値 18

 知力値 12(↑1)

 筋力値  9

 生命力 10(↑1)

 精神力 11

 スキル

 噛付き 飛翔 反響定位 回避 奇襲 吸血

ジェリコ ウッドゴーレムLv3 お休み

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