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「ふむ」


 ゲルタ婆様は満足そうに頷く。

 アデルとイリーナにはさっきまでとはまるで違う雰囲気で語りかけていた。

 一転して慈愛に満ちた表情をしている。


「今日この時からはこのゲルタを実のお婆とも思うて付いて来るがよい」


「はい」


「宜しくお願いします」


 互いに挨拶を済ませると、ゲルタ婆様はレプリカントを帰還させた。


「では工房に行こうか。2人とも召喚モンスターを連れて一緒においで」


「「はい」」


 そのまま練兵場を出て行きそうになった。

 おっと。

 彼女達にはあまり通貨を持たせずにオレが中心となって精算していたのだった。

 2人の取り分は渡しておかないといけない。


「少々お待ちを」


「うん?」


「彼女達の取り分を渡しておかないと」


「精算でしたら私のほうでやっておきますが」


 職員さんが申し出てくれたので任せよう。


「では3分割で」


 小袋4つに分けてあった貨幣を職員さんに渡しておく。


「お願いします」



 練兵場を出て行く際、2人は改めて一礼をしていた。

 そしてウィスパーでも挨拶を済ませておく。


『サキさんの所で革鎧を受け取るのも忘れずにな。またいずれどこかで逢おう』


『お世話になりました』


『またヴォルフちゃんも撫で撫でさせてね!』


『そうだな』


 いやもう苦笑するしかない。

 アデルらしいな。


『まあ何かあったらメッセージで連絡してくれたらいい』


『はい!』


『分かりました』


 まあなんだ。

 どっちかと言えばミオや優香あたりと色々と情報交換はしていそうなんだよな。

 あれでいてオレよりもこのゲームを上手に進めていける気がする。

 いや。

 オレの方に真面目にやる気がないのが問題なんだが。



 いつの間にか師匠はパイロキメラを帰還させていたようだ。

 あの巨体は今や影も形もない。


「キースよ、中々の成長振りのようじゃな」


「何を言うか。ワシに丸投げしおって」


 また師匠とギルド長が揉めそうだな、これは。

 しかも今は職員さんがいないから仲裁する人がいない。


「ここは堪えて下さい。それにしても師匠」


「うん?」


「いつ戻ったんですか?」


「昨日の夜じゃな。さっきの姉弟喧嘩の仲裁でな」


「仲裁になっておらんかったではないか」


 互いに髭を引っ張り合い始めたのは強引に止めさせる。

 いや、元気で何よりって見方もあるけどね。


「改めて。私の指導の方はどうなりますか?」


「うむ。悪いが明日にはまた旅立たねばならぬ。明日以降もルグランの指示に従って動くが良い」


「まだワシに投げっ放しか」


「かといって今起きておる事を考えると、な」


「むむ」


 何だろうか。

 急に2人とも渋い顔だ。


「まあ良い。明日の朝にでも改めて来て貰おうかの。今日はオレニューと話でもしておくんじゃな」


「はあ」


「ワシは他にも用件があるのでな。これで失礼させて貰おうかの」


「はい」


「では明日また会おう」


 ギルド長もそそくさと戻って行く。

 組織の長であるのなら忙しくて当たり前だよな。



「それにしても召喚モンスターはもう6匹か」


「はい」


「モンスターの選択はまあええじゃろ」


「ありがとうございます」


「で、お前さん自身の戦い方はどうなのじゃ?」


「変わってませんね」


「変わっておらんか?」


「変わってないです」


「変えてもええ頃じゃなかろうかな?」


「まだ変えません」


「頑固じゃのう」


 師匠には悪いがそうそう簡単に変えられるものでもない。

 そもそも、金属武器など持とうものなら呪文の効率が落ちると聞く。

 杖、ロッドか木製の弓が干渉しない武器として多用される所以だ。

 そしてオレの場合なんだが。

 昨今はカヤのロッドもまともに使わず格闘戦がやたら多くなっている。


「そうじゃな。話をするのも良いがお主自身がどう成長しているのか、見るのが先かのう」


「はい?」


「いつもの奴を相手に戦って見せてくれんかな?」


 もしかして。

 山に行くんですか?

 まあ今更ですよね。


「どうじゃな?」


「分かりました」


 そんな訳で。

 どうやら雪猿と戦うことになりそうです。



 冒険者ギルドで職員さんから分配して貰ったお金を受け取る。

 ウッドゴーレムのジェリコを帰還させて残月を召喚し、レムトの町を出た。

 そうそう、師匠には借りていた古い鞍を返却している。

 師匠もバトルホースを召喚して返却したばかりの鞍を装着させていた。

 そして共に曇り空の下を駆けて行く。

 こんな感触も何故か久しぶりな気がした。



「サモン・モンスター!」


 残月を帰還させて師匠のロック鳥に乗る。

 これに乗るのも久しぶりであった。

 そして飛翔。

 容赦なく高度をとるものだからあっという間に寒くなった。

 そして空気も薄い。

 ジーンを懐に抱え込み、ヴォルフに抱きついてロック鳥の羽の中に潜り込んだ。

 そうやって寒さに耐えていると望んでいたインフォが脳内に流れていた。



《これまでの行動経験で【耐寒】がレベルアップしました!》



 助かった。

 ええ、上がってくれないと凍える所でした。

 つか師匠と付き合うのは毎回ハードです。



「さて、今日の相手じゃが」


「はい」


「いつもの奴じゃ」


「いつもの相手ですね」


「まあ、この周りで一番強い奴にしておこうかの」


 し、師匠おおおおおおおおおおお!

 脳内でツッコミを入れておきながら、元々こういう人だったって再確認した。

 そして現れたスノーエイプなんだが。

 石斧持ちでした。

 当然だが【識別】しておく。



 スノーエイプ Lv.6

 魔物 討伐対象 アクティブ・誘導



 うん。

 微妙だが確かに強くなってるよね?

 そして久々に雪猿と1対1の勝負だ。


 で、今日はどうするか。

 カヤのロッドを構えながら少し悩む。

 そう、このカヤのロッドを装備している間は呪文の効果にプラスがある。

 魔法攻撃を主体にするか。

 いつものように近接戦闘で仕留めに行くか。


 どっちにしても強化を優先する。

 あとは流れに任せよう。


 猿はじっと動かずにこちらを睥睨するかのようだ。

 動いてくれないならその方がありがたい。

 石斧が飛んでくるのを警戒しながら呪文の詠唱が終わるのを待った。

 詠唱が完成。

 即座に効果を発揮させる。



「フィジカルエンチャント・アース!」



 すぐに次の呪文を選択して実行する。

 猿はこっちに突進してくる。

 石斧をオレの脳天目掛けて打ち降ろして来た。

 明らかに全力で。

 しかも獣の膂力なのだ。

 直撃は即ち死に直結するだろう。

 革兜も気休めにしかなるまい。


 ロッドの先端が跳ね上がり、石斧を持つ猿の右手に直撃する。

 同時に体を左足を中心に回転して捌く。

 石斧がさっきまでオレの頭があった空間を通過した。

 空気を震わせる音は重低音のものである。

 おっかないな。



「メンタルエンチャント・ダーク!」



 知力値の底上げを行う。

 狙いは明白だ。

 呪文による能力の底上げをしなければ長期戦では不利なのは分かっている。

 ならば呪文の効果そのものを向上させる事ができたら戦況は少しでも有利になるのではなかろうか。

 そう思っただけである。

 最初に生命力強化で防御を固めたのは保険のようなものだ。


 猿は石斧を半ば地面にめり込ませてしまっていた。

 大きな隙がある。

 それを見てオレはロッドの持ち方を変えた。

 木刀の持ち方だ。

 

 左足をやや前に出してロッドを持つ両手を右頬に寄せていく。

 八双の構えだ。

 いや、さらにロッドを高く持ち上げる。

 蜻蛉の構え。

 そして脳天を突き抜けるように声を出す。

 男が出す声とは思えぬほどに甲高い声だ。

 猿声一閃である。


「キャーーーーー!」


 まるで女性が出す金切り声、そして山々の合間に響くような大声だ。

 そしてロッドを振り下ろす。

 まさに立木打ち。

 猿の右手を直撃したんだが石斧を放す気配はない。


 ダメか。


「キィヤァーーーーー!」


 再度逆蜻蛉の構えから撃ち降ろして右手を直撃する。

 指を狙った一撃だ。

 さすがに猿も手を放したようだ。


 示現流の発声法で知られる猿声。

 うちの爺様曰く。

 恐怖を狂気とし、獣性と併せて狂乱ともなる力を生むための儀式、その一端が猿声だという。


 タイ捨流創始者である北面の武士、丸目蔵人佐。

 その真価は活殺剣法と説くのをうちの爺様は嘲笑っていたっけ。

 何を言うのか、と。

 あれこそがあらゆる手段を用いて敵を駆逐する兵法であるのだと。

 戦場における戦いを前提にすればこそ、剣にすらこだわらない技が伝わっているのだと。


 そしてタイ捨流を学び、示現流の祖となった東郷重位。

 示現流もまたタイ捨流と同じく戦場の剣であるのだと。

 そうでなければ薩摩にあって好まれるような剣ではあるまい、と。


 ある意味納得。

 薩摩隼人の戦闘民族気質は筋金入りだ。



 おっと。

 猿との戦いの最中なのだ。物思いに耽るのは控えよう。


 次の呪文を選択して実行しておき、地面に転がった石斧の柄を踏みつける。

 吠え掛かる猿の顎の下に蹴りを放って爪先をめり込ませておいて手に持ったロッドを叩き付けた。

 木刀で言えば柄打ちだ。

 多少は堪えたようで、HPバーもちょっとだけ減ったようである。

 当てた場所がちょうど鼻面だったのが良かったのかもしれない。


 猿の方から距離を置いてくれた時間を使って石斧を拾い上げる。

 そのまま《アイテム・ボックス》に放り込んでおく。



「フィジカルエンチャント・ウィンド!」



 即座に次の呪文を選択して実行する。

 機先は制したし、ダメージもそこそこ与えていた。

 上々の戦果ではある。

 だがまだ油断ならない。


「グラゥ!」


 短く威嚇してくる猿。

 一瞬、体が硬直してしまった。

 そして呪文の自動詠唱が中断になる。


 ファンブルしたのか。

 だがあきらめてはなるまい。

 改めて呪文を選択して実行する。


 突撃をしてくる猿に向かってこっちも踏み込んでいく。

 逃げた所でフィジカルでもスピードでも負けているのでは意味はない。

 突っ込んだ方がマシだ。

 かなりマシだ。


 ロッドを蜻蛉の構えから振り下ろして同時に足払いを仕掛ける。

 そのどちらも不発。

 だが猿は大きく避けてくれたようだ。

 これなら呪文詠唱の時間を稼げる。



「フィジカルエンチャント・ファイア!」



 すぐに次の呪文を用意する。

 またも突撃してくる猿。

 迎撃をしようと構えなおす。

 次の一瞬、猿の姿が消えていた。


 どこへ?

 上だ。

 猿は宙に大きく飛び上がっていた。

 頭上から襲ってくる相手ってのは迎撃が難しい。

 その上、こいつは魔物だ。

 常人ではない動きもしてくる。


 心が冷え込むような猿の一撃はなんとかロッドで受け切った。

 だがその代償もまた大きい。

 カヤのロッドは真ん中から折れてしまっていた。


 瞬間、どうすればいいのか、頭の中では何も考えてなかった。

 理論的な思考など構築できる時間はない。

 体がどうすればいいのか、反射的に動く。

 折れたロッドはどうする?

 道具があるなら、有効に使え。


 刹那の間に次の動きを起こしていた。

 オレの口からは呪文詠唱がまだ続いている。

 そしてオレは両手に持っていた折れたロッドを放り投げた。

 左手のロッドは猿に投げ渡すように。

 右手のロッドは少し遅れて猿に放り投げる。

 但し、こっちは勢い良く投げた。


 そしてオレ自身も距離を詰めて行く。


 猿は最初に放り込まれたロッドに気をとられ、次に投げつけられたロッドをまともに喰らっていた。

 無論、大したダメージなどない。

 隙が出来ればいいのだ。


 だが猿の方も反応が早い。

 横殴りに左手が振り回されてきていた。


 ただ、その攻撃は力任せでしかないものだった。

 オレを威嚇するためだけのもの。

 だからこそ次の隙を生んだ。


 猿の脇の下を潜って猿のバックをとった。

 同時に呪文も完成している。

 至近距離から叩き込んだ。



「コンフューズ・ブラスト!」



 光魔法の単体攻撃呪文だ。初めて使うのだが効果はどうか。

 猿の全身が光で包まれたように見えた。

 HPバーは?

 減っている事は減っているが、期待したほどではない。

 だが副次効果が絶大であった。


 完全にオレの姿を見失っているようであった。

 後ろに回ったオレの気配にも気が付いていない。

 今だ。

 喉元に腕を回してロックし、気道を圧迫するように絞め上げる。

 両足で胴体をロックして地面に転がった。

 背筋を使って更に絞める。

 気道の奥から空気を吸い込もうとする断末魔の呻き声が漏れていた。

 だが許すつもりはない。


 猿はより激しく暴れようとするが、それも喉元をより絞め上げる結果にしかならない。

 笛を吹くようにか細い声が響く。

 そして一気に猿のHPバーが途切れた。

 ふむ。

 呪文の効果なのだろうが、かなり短い時間で倒せただろう。

 前回は石斧持ちに散々な目に逢わされたからな。

 ようやくリベンジといった所か。



《只今の戦闘勝利で【杖】がレベルアップしました!》

《只今の戦闘勝利で【精密操作】がレベルアップしました!》

《技能リンクが確立しました!取得が可能な補助スキルに【二刀流】が追加されます》



 インフォが脳内に響く。

 これまでと違ったインフォだったような。

 技能リンク?

 今までと異なるパターンでスキル取得条件があったってことなのか?

 だがその疑念を調べたくとも先に師匠から話しかけられてしまった。

 これは後回しだな。



「相変わらず戦い方が珍妙じゃの」


「はあ」


「まあ最初の頃に比べたら呪文も良く使いこなしておるようじゃな」


「はい」


 うん、

 これは褒められたと思っていいのだろう。



 とりあえず猿からアイテムを剥いで置く。

 雪猿の骨と雪猿の皮だ。

 これはちょっとだけ嬉しい。

 真ん中から折れてしまったロッドも回収しておく。

 かなり気に入っていたんだが。

 作ってくれたレイナにも申し訳ない気持ちがしてくる。



「しかしこれでは物足りないのではないかな?お前さんも殆どダメージを負っておらんし」


「え?」


「うむ、物足りんな。もう1匹、スノーエイプとは別の魔物と戦ってみせてくれるかな?」


「え?え?」


 ちょ。

 待って下さいよ。

 別の魔物ってブリッツですか?

 あのヤギ、雷撃を使うから厄介なんですが。

 雷撃が相手ではレジスト系の呪文も持っていない。


 師匠がブツブツと小声で何やら呟いている様に見えた。

 コール・モンスターの呪文だろう。

 問答無用ですかそうですか。

 戦闘を見物したいだけじゃないですよね?


 呪文を選択して実行しておきながら魔物の襲来に備える。

 さて、どの位強そうなのが来るのか。


 そしてそいつは来た。



 ユキヒョウ Lv.5

 魔物 討伐対象 アクティブ・誘導


 え?

 ヤギじゃないんですか?

主人公 キース

種族 人間 男 種族Lv6

職業 サモナー(召喚術師)Lv5

ボーナスポイント残19


セットスキル

杖Lv5(↑1)打撃Lv3 蹴りLv3 関節技Lv3 投げ技Lv3

回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv6

光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv3 水魔法Lv3

火魔法Lv2 闇魔法Lv2

錬金術Lv3 薬師Lv3 ガラス工Lv3

連携Lv5 鑑定Lv5 識別Lv5 看破Lv1 耐寒Lv3(↑1)

掴みLv4 馬術Lv4 精密操作Lv5(↑1)跳躍Lv1

耐暑Lv3 登攀Lv1


装備 カヤのロッド(折) 野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー 

   野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋

   アイテムボックス×2


所持アイテム 剥ぎ取りナイフ


称号 老召喚術師の弟子(仮)、森守の証、中庸を望む者


召喚モンスター

ヴォルフ ウルフLv5

残月 ホースLv3 お休み

ヘリックス ホークLv3 お休み

黒曜 フクロウLv3 お休み

ジーン バットLv3

ジェリコ ウッドゴーレムLv2 お休み

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― 新着の感想 ―
[良い点] キースさん、薩摩ホグワ○ツに入学出来そうですねww
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